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フランスのアナログゲームの祭典,実は大規模。日本の「ナナ」が大賞で話題にもなった「FIJ 2024」はこんなイベントだ
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印刷2024/03/01 09:00

イベント

フランスのアナログゲームの祭典,実は大規模。日本の「ナナ」が大賞で話題にもなった「FIJ 2024」はこんなイベントだ

 フランス時間の2024年2月23日から2月25日までの3日間,フランスのカンヌにて大規模なアナログゲーム見本市「Festival International des Jeux 2024」(以下,FIJ)が開催された。

会場外観。黄色と黒を基調としたFIJのキービジュアルが大きく目立っていた
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 世界のアナログゲームイベントで,日本人からも知られているものと言えば,やはりドイツのエッセンで行われる,約19万人が来場する世界最大規模のイベント「SPIEL」が有名だろう。アメリカ系のゲームが好きなら,北米最大の「Gen Con」も聞いたことがある人は多いと思う。
 一方,FIJは日本ではそれほど知られていないものの,実は世界で行われるアナログゲームイベントでも,指折りの大規模なイベントだ。公式発表によると,毎年の来場者数は一般参加者8万人,業界関係者5000人。日本国内で最大の「ゲームマーケット」がおよそ2万人であることに比べると,実に4倍の規模を持つのだ。そもそも,「ディクシット」「宝石の煌き」など,日本版が楽しまれているフランス産ゲームは多く,日本のアナログゲーマーにとっても見逃せない国だったりする。
 今回は,そんな日本からなかなか見えてこないFIJの,現地の様子を紹介していきたい。


世界的にもきわめて大きなイベント


 FIJは,フランス国内のパブリッシャが最新の作品を発表する場であり,実際に試遊・購入できる。また,国際的なアナログゲームの賞である「As d'Or-Jeu de l'Année」(アスドール・ジュー・ド・ラネー 以下,アスドール)の発表・表彰も行われ,世界中のアナログゲーム関係者が集まる場でもある。さらに,ビジネスマッチングのための施設・サービスも多く提供されるため,海外から多くの業界関係者がゲームの取り扱いや買い付けを求めて来場する。

会場風景。新作ゲームを求める人々でにぎわっていた
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 今年のFIJの出展ブース数は300にものぼり,その多くは企業ブースとなっていた。1000を超えるブースが出展するゲームマーケットに比べると少なく見えるが,多くは複数社の共同出展や,複数クリエイターの作品を扱っているブースだ。また,各ブースともに十分な試遊テーブルや説明スタッフを配置しており,試遊を待つ行列などは見られなかった。

 会場は「Palais des Festival et des Congrès」(パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ)。カンヌ国際映画祭,広告祭「カンヌライオンズ」と同じ会場が使われており,多くの出展者・参加者を受け入れられるよう全館が余すことなく使われていた。その広さは実に4万5000㎡。東京ビッグサイトで言えば4ホール分超に相当するスペースに,ブースが所狭しと広がっていた。
 大部分はゲームを購入・試遊できる一般向けブースだが,業界関係者向けのブースも別に設けられている。業界関係者向けの入場券を購入することで,アスドールの表彰やクリエイターのトークイベントが行われるステージやビジネスマッチングのための商談ブース等を利用可能だ。

入場列。開場前の10:00から長蛇の列ができていた。入場時には持ち物検査が必須
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 ここで開催地のカンヌという街についても軽く触れておきたい。カンヌはフランスの南東に位置する,イタリア国境に近い港町だ。日本では先述の通り映画祭や広告祭の会場として触れられることが多いが,実際は多くの展示会・見本市が行われるコンベンション都市となっている。また,海岸沿いには有名ホテルやブランド品店,レストランが立ち並び,リゾート地としての顔も持っている。FIJが国内外から多くの来場者を受け入れ,快適に過ごすことができるのはカンヌの街としての機能によるものも大きいと言ってよいだろう。

カンヌの街並み。海沿いのリゾート地といった趣だ
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会期中,カンヌの街中にはFIJの看板が多く出ており,街全体を挙げての盛り上がりを感じた
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見たことのない作品に囲まれ,ゲーム三昧の3日間


 それでは具体的に会場内の様子をお伝えしていきたい。

アスモデグループの物販ブース
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 まず,入場するとアスモデ(Asmodee)やギガミック(Gigamic),イェロ(IELLO)といった大手企業グループの運営する広いブースが目に入ってくる。これらの企業は複数のパブリッシャからなるグループ企業となっており,1社で数十種類のゲームを出展していた。タイトルごとに広い試遊スペースが用意され,実際に遊んで買うゲームを決められる。

 もちろん大手企業だけでなく,中小パブリッシャのブースやクリエイターが独自に出しているブースも数多く並んでいた。こうしたブースでは試遊・販売はもちろん,クラウドファンディングサイト「Kickstarter」でプロジェクトを公開しているゲームを試遊したり,クリエイターと直接話したりといった,まさにリアルイベントならではの交流を楽しめる。

会場限定バージョンの「ディクシット」。筒状にゲームを積み上げる陳列が印象的だ
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 大手・中小ブースに共通して言えることとして,日本国内で見たことのないゲームが多かった点がある。もちろん日本でもアスモデの作品をはじめとして多くの海外アナログゲームが輸入・翻訳され,日本語で遊べる。それでもFIJにはまだまだ知らないゲームがたくさん並び,日本に未上陸のゲームの多さを実感した。

 幅広いジャンルのゲームが揃っていたことも,FIJの特徴と言えそうだ。ボードゲームだけでなく,トレーディングカードゲームやTRPG,ミニチュアゲーム,ウォーゲームに至るまで,広いジャンルがまんべんなく出展されていた。プレイ時間も10分で終わるものから数時間級の重量級ゲームまで揃っており,いかにフランスのアナログゲームプレイヤーの層が厚いかが感じられる。

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ミニチュアを使ったゲームは会場でも多く見られた。写真は「Wonderland's War」
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ウォーゲームの出展。写真は第二次世界大戦の西部戦線を題材にした「Keep'em Rolling」


真夜中に始まるテストプレイイベント「オフナイト」


 FIJの開催時間は,10:00から19:00までなのだが,実は別の顔も持っている。開催時間が終了し,閉館後しばらくすると会場の様子が変わるのだ。そして会場には,街中から人々が集まり敷地を取り巻くように行列を作る異様な光景が展開される。これは,深夜に開催されるイベント「オフナイト」を待つ人の行列だ(フランス語では「Nuits du Off」)。

オフナイトの入場列の模様。深夜の真っ暗な会場に長蛇の入場列ができる異様な光景だ
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 オフナイトはFIJの会場の一部を使って開催される,大規模テストプレイイベントだ。会場内では数百人にも上るクリエイターが主に制作中のゲームのプロトタイプを持参し,テストプレイを開催していた。参加者は日中のFIJ参加有無を問わず無料で入場でき,実際にそうしたゲームで遊ぶことができる。イベントは22:00から翌日の朝まで夜通し開催され,とても長丁場のイベントとなっていた。

 見本市であるFIJと併設して,このようなテストプレイイベントを公式開催することは世界でも類を見ない特徴と言ってよいだろう。参加者が楽しめる催しというだけでなく,プロトタイプを提供するクリエイターらはFIJに来る膨大な参加者をテストプレイヤーとすることができ,自分のゲームを磨き上げることができる。また,業界関係者も多く来場しているため,新作ゲームに関するビジネスマッチングの場ともなっている。こうした文化が豊富なフランスの作品基盤を支えているのではないか,と感じられた。

 そして,深夜の開催というだけあって,会場内ではお酒がふるまわれた。ビールやワインを片手にテストプレイに興じる参加者も多く,日中とは異なるお祭り気分を楽しめるイベントだった。

オフナイト会場。来場者はビール片手にプロトタイプのテストプレイに参加していた
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アスドールにて日本のボードゲーム「TRIO」が大賞作に


 今年のFIJの大きなトピックは,宮野華也氏の「TRIO」(日本版タイトルは「ナナ」)がアスドールで大賞を受賞したことだろう。
 アスドールは,フランス年間ゲーム大賞選考委員会が開催している世界的なアナログゲームの大賞だ。授賞式は毎年2月,FIJの開催前日に行われる。惜しくも筆者らは授賞式には参加できなかったが,その模様はYouTube等で配信されている。興味のある方はぜひご覧いただきたい。


 会期中,アスドールへは大きな注目が集まる。FIJ会場内では受賞作を紹介するコーナーが大きく設置され,クリエイターへのインタビューやサイン会といった催しも行われていた。また受賞作の販売・試遊ブースは,テストプレイを求める参加者や作品へのサインを求めるファンで大混雑。「TRIO」ブースも例に漏れず大盛況となった。

TRIOブースは試遊やサインを求める人々で大盛況
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 アスドールは,「TRIO」が受賞したアスドール部門をはじめ4部門で大賞が発表される。キッズゲーム部門では「My Puzzle Adventure」,中級ゲーム部門では「FARAWAY」,エキスパートゲーム部門では「La Famiglia: The Great Mafia War」がそれぞれ受賞した。


日本からの出展・参加は?


 ほかにも日本のゲームとしては,「ポケモンカードゲーム」がブースを出展していた。また,囲碁・将棋・麻雀のブースがあり,将棋ブースではねこまど代表の北尾まどか氏が,対局や「どうぶつしょうぎ」の販売を行っていた。

北尾まどか氏が参加していた将棋ブース
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 また,アスドール候補にのぼった「CAT IN THE BOX」をはじめ,フランス国内のパブリッシャブースで数点ほど日本のゲームを見かけたが,全体に占める割合としてはそこまで多くない印象だ。また,出展や作品関連以外では,日本からの参加者はほとんど見られなかった。

会場で見かけた日本の作品たち。写真はitten「Crash Octopus」とGOTTA2「Where am I? Alice in a Mad Tea Party」
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 出展・参加こそ少ないものの,日本の文化や歴史に対する強い興味は会場の随所で見られた。「BONSAI」「The White Castle」といった,日本をモチーフにしたゲームは多く見かけることができたし,大賞こそ今年が初めてだが,過去アスドールの候補作に日本の作品が選ばれたことは何度もある。
 少し脱線すると,来場者向けのキッチンカーで日本風の食べ物が提供されていたりもする。ラーメンや餃子といった定番はもちろん,とりわけ目を引いたのはクリームの入った大福風の餅スイーツ「mochi」だ。日本食キッチンカーでは必ずと言っていいほど提供されており,お祭りフードとしての根強い人気があるのだろうか?

大福風スイーツ「mochi」の出店。看板には日本語も
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フランスのアナログゲーム事情


 フランスのアナログゲーム事情についても触れておきたい。
 フランスのアナログゲームシーンにおける存在感は世界でも大きく,有名作品をいくつも送り出している。日本語版も出ている「ドブル」「ディクシット」「世界の七不思議」「宝石の煌き」などは,すべてフランスで生まれたゲームだ。

 さらに,世界的に有名なアナログゲーム企業の存在も大きい。なかでも知られているフランス企業が,世界最大のアナログゲーム企業グループであるアスモデだろう。近年では「テラフォーミングマーズ」のデジタル版を制作したり,「ボードゲームアリーナ」を買収・運営したりしている会社と言えば,ピンとくる人も多いのではないだろうか。
 それ以外ではギガミックやイェロも,世界中にアナログゲームを送り出している。フランス国外のクリエイターの作品を扱っているケースも多いが,フランス企業が大きくアナログゲームシーンに影響を与えているのは間違いない。

 もちろん,プレイヤーの層が厚いことも忘れてはならない。フランスは,ヨーロッパではドイツに次いで大きなアナログゲーム市場と言われている。海外版のボードゲームを購入した場合,必ずと言ってよいほどフランス語版ルールブックが入っているのはそのためだ。また,フランスではボードゲームは「Jue de societe」(社会的ゲーム,という意味)と呼ばれ,娯楽としてだけではなく,社会的・教育的な意味合いでも生活に浸透している。


会場で見かけた注目作品


 FIJでは紹介しきれないほどの作品が出展されていたが,最後にそのうちいくつかを紹介していこう。

 まず,日本のゲームではあるものの,今年のFIJの話題作として触れておきたいのが,やはりアスドールを受賞した「TRIO」だ。場に並べられたカードをめくったり,相手の手札を公開させたりしながら,同じ数字の組み合わせを作るゲームとなっている。トランプゲームの神経衰弱のようでありながら,相手の出方から相手が揃えようとしている数字を推測するといったインタラクション要素もある。ルールも簡単なため,子供から大人まで幅広く楽しめる。

TRIO販売の模様。コンパクトな箱とキャラクターがかわいい
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 ほかのアスドール受賞作では「FARAWAY」「La Famiglia: The Great Mafia War」を紹介したい。
 「FARAWAY」は,裏向きにカードを出していって,8枚出したら1枚ずつ表にして得点を獲得していくゲームだ。プレイ順と逆に表にしていくメカニクスが特徴的で,最初のほうに出したカードで高得点を得るために,後に出す(先に表になる)カードを考えなければならない。

「FARAWAY」ブース
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 「La Famiglia: The Great Mafia War」は,プレイヤー同士がチームを組んで2対2で対戦するゲームで,マフィアとなって抗争に勝つことを目指す。舞台となるシチリアの地図が大きく描かれたゲームボードが印象的。プレイ時間は90〜180分ほどとなっており,遊びごたえがありそうだ。

「La Famiglia」試遊の様子
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 個人的に会場で目を引いたのが「Belgian Beer Race Dice」だ。旅行者となってベルギービールの醸造所を回っていくゲームなのだが,ゲーム内では実在する醸造所が登場する。ブースには題材となった醸造所のビール瓶が並べられ,旅情あふれる展示が行われていた。また,制作者のBYR Gamesは,作品だけでなくビールも作っているという。FIJ開催中は会場内での飲酒が禁じられているため飲むことはできないが,ぜひビールと一緒に楽しんでみたくなる。

「Belgian Beer Race Dice」。作中に登場した醸造所のビール瓶も展示された
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 また,名作のコラボ作品も見かけた。壁とコマを使って相手の陣地を目指すフランス産の有名ゲーム「コリドール」だが,会場では「パックマン」とのコラボ作品が展示されていたのだ。壁を使って相手のコマを防ぎつつ,相手の陣地を目指してコマを進めるコリドールのルールは,パックマンのモチーフともぴったりだ。

「Quoridor Pac-Man」ブース。試遊ブースには会場限定の大型版も展示
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著者紹介:Im Karton
 海外アナログゲームイベントを訪ねて旅する3人組。読み方は「イム・カートン」。これまでに世界最大のアナログゲームイベントであるドイツ「SPIEL」をはじめ,アメリカ「Gen Con」などを訪問している。昨年はSPIELに行きたい旅行者向けのガイド「Essen Spiel Guidebook 2023」を同人誌として刊行。

Omochicard
 Im Kartonメンバー。訪問時は旅行の計画や日本へボードゲームを送る宅配便の発送などを担当。海外ボードゲームが大好き。好きなボードゲームは「アーク・ノヴァ 新たなる方舟」や「Kemet: Blood And Sand」。

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