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ブロックチェーンでゲームはどう変わるのか。業界の先駆者が意見を交わしたパネルディスカッションをレポート[TGS2024]
金友 健氏
コロプラ 取締役
原井義昭氏
スクウェア・エニックス インキュベーションセンター ブロックチェーン・エンタテインメントディビジョン ディレクター
畑 圭輔氏
ゲーム会社がWeb3やブロックチェーンに取り組む理由
ディスカッションの最初のテーマは,「ゲーム会社がWeb3やブロックチェーンに取り組む理由」。まず金友氏は,2017年に登場したブロックチェーンゲーム「CryptoKitties」のNFTを売買できる仕組みに衝撃を受けたことを明かした。というのも,それまで日本のゲーム業界では,ユーザー間のトラブルや不正なデータの生成などにつながりかねないことを理由に,ゲーム内アイテムを個人間で売買することを禁止していたからである。
しかし「CryptoKitties」はブロックチェーン技術を用いているため,データのコピーや改ざんはできず,データの送信と代金の送信が1つのトランザクションで行われる。ユーザー間のトラブルが起きる恐れがないため,もはやゲーム内アイテムの個人間売買を規制する理由がないと,金友氏は考えたという。
またゲーム開発の規模が大きくなり,人気IPのゲームを毎年リリースすることが困難となり,さらに成功の再現性も難しくなっていく中,そうした新しい技術を使ったゲームの開発ができるようになったことで,ゲームクリエイターが新しいアイデアを出せるようにでなるのではないかとも考えたそうだ。
原井氏は,コロプラがブロックチェーンの登場から着目していたものの,具体的に事業として取り組むきっかけとなったのは「STEPN」の台頭だったという。そもそもブロックチェーンゲームを始めるためには専門用語を理解する必要があったり,ウォレットを作らなければならなかったりと,結構ハードルは高い。それにもかかわらず多くの人が「STEPN」をプレイし,口コミでほかの人達に広げていく姿を目の当たりにして,人を引きつける魅力があり,非常に可能性があると考えたとのこと。
しかし「STEPN」には,最初は稼げるけれども,それが続かないという,持続可能性の部分に課題があった。そこで課題を解決するアイデアを模索していた中で出てきたのが,コロプラの「Brilliantcrypto」である。このタイトルは「Proof of Gaming」をコンセプトに掲げており,ユーザー個人のゲームプレイが社会的な付加価値を生み出す仕組みを設け,その生み出された付加価値を原資として配分することで持続可能な経済の循環を構成できるよう設計されたという。
畑氏はブロックチェーンゲームについてリサーチしていく中で,中小のスタートアップ企業がリスク込みで取り組んでいる状況を踏まえ,自分達で作ってみたほうがいいと考えたことを明かした。しかし実際に作り始めてみると,そもそもどうやって作るのかよく分からなかったり,何かと法や規制に引っかかったりしたとのこと。とはいえ,事例を作らないことには後続がついてこないため,とにかくブロックチェーンゲームを作って世に出すことを考えたそうだ。
「資産性ミリオンアーサー」の開発工程の半分程度は,弁護士との相談であったことも明かされた。また,法律は国によって異なるため,どこの国でリリースしたいかも考える必要があるという。原井氏も,ブロックチェーンゲームの開発費はモバイルゲームのそれと比較すると低くなるものの,コンプライアンスを守らなければならないためバックオフィスの工数がかかり,法的なフィードバックを受けて変更を加えなければならない可能性もあると語った。
一方,金友氏は,KONAMIのNFTマーケットプレイス「リセラ」が暗号資産を可能な限り使わないというコンセプトで設計されているとし,畑氏や原井氏の述べる論点はできるだけ避けたと説明。そうはいっても,今後のサービス展開を考えるうえでは法整備が進んでいない部分もまだまだあり,現在はそこに多くの工数が割かれているとのこと。
従来のゲームとは何が違うのか?
2つめのテーマは,「従来のゲームと何が違うのか?」だ。畑氏は,たとえばFree to Playのゲームなら,ゲーム内のガチャでアイテムを入手し,ゲーム内のコンテンツでそれを使用するといったように,従来のゲームはゲーム内ですべてが完結する。しかし,ブロックチェーンゲームは,ゲーム内で得たアイテムを,ゲーム外のマーケットプレイスで売買できるため,賭博性に注意する必要があると指摘する。
たとえば「100円で購入したアイテムが,何百倍もの価格で売れた」といったことが起きると,「2人以上の者が,偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為」として,賭博と見なされる可能性が出てくるわけである。
そこで「資産性ミリオンアーサー」では,デジタルシールの絵柄をすべて公開し,ユーザー自身が欲しいものを購入させるという形式でサービスを運用し,賭博と見なされることがないよう配慮したという。
またマーケットプレイスに出品されたデジタルシールの価格が,どのように推移するかについても,「このくらいの価格なら」という納得感が出るように,綿密にサービスを設計していたそうだ。
具体的には,投機目的のユーザーは価格の変動に敏感で,無料でゲームを楽しむようないわゆるライト層がマーケットプレイスにデジタルシールを出品すると瞬時に買っていく。そのためライト層は,毎日出品しているだけで1日あたり100円くらい利益が出るので,それで飲み物などを買える。そのくらいのバランスでサービスを設計し,マーケットを回していたと畑氏は説明した。
原井氏は「Brilliantcrypto」のマーケティングをプランニングするにあたり,ゲームが好きなユーザー層と,Web3が好きな投資家層の双方を念頭に置いて考えるという。Web3はすべてが可視化されるからこそ,ユーザーコミュニティを盛り上げるためには何でも開示することや,ユーザー自身が工夫して遊びを作って楽しんでいくところが,従来のゲームとは異なると語った。
また原井氏は「Brilliantcrypto」に取り組んでいる中で,ブロックチェーンゲームがゲームと経済を融合させただけでなく,アートやファッションとも融合しているのではないかとも考えるようになったとのこと。
2024年2月にフランスで開催されたイベント「NFTパリ2024」に出展したときは,ルイ・ヴィトンのようなファッションブランドや,イギリスのスポーツカーメーカー・マクラーレンのブースと,ゲーム会社のブースが軒を並べており,業界のボーダーが薄れていると感じたそうだ。
コロプラとしても「Brilliantcrypto」でNFTとして売買される宝石の価値を高めるために,ファッション業界にアプローチしていく必要があると考えているという。
金友氏は,投機目的のユーザーがいることで,ブロックチェーンゲームには怪しいイメージを抱く人もいるが,それはゲームに対する関わり方が増えていることにつながるとの見解を示した。
従来のゲームに受け手として関わる人は,そのゲームをプレイする人だけだったが,ブロックチェーンゲームは,たとえば「Brilliantcrypto」なら宝石をコレクションするためにマーケットプレイスで売買するだけで,ゲーム自体はプレイしない人がいてもいいというわけである。
そうした中には,「これは高く売れる」と転売を目的として入ってくる人も当然いるだろうが,それはそれで従来のゲームになかった関わり方であり,ひいては原井氏が指摘したように,いろいろな業界とつながるきっかけになり得ると金友氏は語る。
また「Brilliantcrypto」は海外ユーザーの比率が高いことも特徴となっているが,ブロックチェーンゲームだからこそ海外を狙えるのかという問いかけに対して,原井氏は同タイトルがシンプルなゲーム性であるため,ユーザーテストでも各国の評価に大きな差がなかったことを明かした。「採掘して宝石を獲得するという,人間のプリミティブな部分に訴えかけるところが海外展開しやすかったのではないか」と分析していた。
海外展開に関しては,畑氏も金友氏も注力したいとする一方で,金友氏が指摘したとおりユーザーの関わり方が多様なため,ユーザーの獲得にコストがかかったり,あるいは畑氏が指摘したように国ごとに法規制が異なったりしているため,そう簡単にできるものではないという見解が示された。
Web3の世界には,パブリッシャやデベロッパがチェックボタンを入れるだけで配信ができるような簡便なプラットフォームがまだないため,現時点で一気に海外展開するようなことは難しいが,徐々に環境が整っていくのではないかという展望も述べられた。
見えてきた課題は?
3つめのテーマは,「見えてきた課題は?」というもの。原井氏は,日本政府がWeb3を成長戦略の柱に据えたことにより環境が整備されてきてはいるが,コンプライアンスの部分でさらなる整備が必要であることを指摘。モバイルゲームでは,いわゆるコンプガチャなどの問題があったが,業界団体がしっかりルールを定めて自主規制し,業界全体の成長につながったように,Web3業界も自らルールを提言していく必要があると語った。
また原井氏は,アメリカが現在,Web3に対して厳しい姿勢を取っていることにも言及し,それが転換すればグローバル市場が開けると語る。
一般的な事業であれば,コンプライアンスの初期調査こそするものの,細かな課題は展開しながら解決していく手法を採るケース卯が多い中,Web3事業は徹底した法令調査をしてからでないと展開できない状態となっており,そこが一番厳しいそうだ。
実際,「Brilliantcrypto」は66か国でIEO(トークンの上場)をしているものの,法令調査が済んでゲーム内でトークンを獲得できるのは日本とブラジルのみに留まっているとのこと。
金友氏は,ブロックチェーンゲームの成功事例が少ない中,ヒットするコンテンツを作れるかどうかが課題であるとする。ただ遅かれ早かれ,ヒットするコンテンツは必ず現れると展望を語った。
またブロックチェーンやNFTに対する世間の理解度や信用度が低いことから,ユーザーとのコミュニケーション手法や体験のさせ方,あるいはUI/UXをしっかり作り込んでいく必要があるとも指摘する。法律面は政府が環境を整えているので,Web3業界全体でコミュニケーションに関する部分をしっかり打ち出して行かなければならないとのこと。
畑氏は,ブロックチェーンゲームが従来のゲームと異なるため,どこから手を付ければいいのか分からないことにあらためて言及しつつ,その半面,カジュアルにNFTを売買できるようにすると今度は法に引っかかることになることを指摘。そのため,開発の基盤や下地を作ることが課題であるとした。
また「資産性ミリオンアーサー」は,グローバルマーケットプレイス「DOSI」におけるNFT取引を除き,2024年10月15日にすべてのサービスを終了するが,発行したNFTの価値を維持することが大きな課題となっていることも示された。
Web3への取り組み 注意点,ポイントは?
最後のテーマは,「Web3への取り組み 注意点,ポイントは?」。畑氏は「最初は,日本国内でサービス展開したほうがいい」とし,海外展開するとコンプライアンス調査などに相当のコストがかかることをあらためて指摘した。また「資産性ミリオンアーサー」は,LINEのプラットフォーム上で展開したが,そのようにある程度環境が整ったところと組むのが手軽であり,ノウハウも得やすいと語った。
原井氏は,「社内の上層部の説得」と語る。コロプラの場合は,代表取締役会長の馬場功淳氏が先陣を切って「Brilliantcrypto」に取り組んでいるため,すべてがスムーズに進んだが,一般的な企業では法務面や会計面から懸念を示され,「リスクが高いから止めておこう」となりかねないというわけである。そのため,まずは上層部に「こういった可能性がある」とメリットを示して説得し,味方につけることが必要であると原井氏は話していた。
金友氏は,ブロックチェーンゲームは今,海外と比較して国内で展開しやすいため,早々に国内での成功事例を作ってしまうことが先決であると語った。またその過程では,社内で孤立しないようにすることも重要だとする。
それ以外の部分では,企画が何かの問題解決につながったり,何かのチャンスを掴んだりするものになっていることが重要だという。その具体例として,従来のゲームであればトラブルが発生する恐れがあるために禁止されていたRMTが,ブロックチェーン技術によってユーザー間の個人売買が可能となったことなどが挙げられた。そうした軸がないと,「これはブロックチェーンである必要はない」となってしまうケースに陥ってしまいかねないと,金友氏はまとめていた。
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