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「蓬萊学園の揺動!」Episode05:主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされ(中略)史上最大の危機をしりぞけた!(その4)
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印刷2025/12/20 10:00

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「蓬萊学園の揺動!」Episode05:主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされ(中略)史上最大の危機をしりぞけた!(その4)

蓬萊学園の揺動!

新城カズマ
イラスト:中村博文
「蓬萊学園」とは 東京から南に1800kmに浮かぶ南洋の孤島・宇津帆島。私立蓬萊学園高等学校は,その中心部そびえる全寮制の巨大学園だ。生徒総数は20万人。教職員そのほかを加えれば人口30万人にも届こうというこの学園ではすべて過剰であり,自主自律の名のもと,あらゆる部活・同好会・委員会・非公認団体・非合法組織が暗躍し,生徒達は一風変わったスクールライフを謳歌していた――。PBM(プレイバイメール)に端を発し,その後さまざまなメディアで展開された伝説のシリーズがここに復活。2020年代の蓬萊学園を舞台に,とある新入生が新たな騒動を巻き起こす。

Episode05
主人公は意外なキャラの意外な正体を知らされたために最後の大冒険に巻き込まれたんだか自ら飛び込んだんだかした末に、作者さえも気づいていなかった深淵なテーマに肉薄することで、真に驚くべき方法(ただしここの余白は狭すぎるので書ききれない)で学園を揺り動かし、史上最大の危機をしりぞけた!
(その4)


 というわけで九月の新学期。
 熾烈な生徒会長選挙、容赦なき反撃、親衛隊の行進と銃口、怒涛の勝利。〈講堂の魔女〉じゃなくて〈氷の大審問官〉、というのが新しいニックネームになりました。でもわたしは怒りと羞恥の感情がないので動じません。粛々と計画を進めてゆきます。

 まずは選挙期間中から実施していたイメージ誘導戦略。兼任した図書委員会・永世委員長の権限をフル活用です。ほんとうは報道・メディア委員会を支配したかったんですが、あそこはガードが固くて、京太くんも潜入したっきり帰ってきませんでした。なので次善の策なんです。

 推薦図書制度、それから図書貸し出しの際に反対派には厳しく規則を適用させ、わたしを支持する生徒や団体には規則の許すギリギリの範囲まで便宜を図ります。そうすると、そのうちクラブや同好会単位で味方についてくれるところが出てきます。何事も現場の運用が大事。
 こうして最初の数週間で、準備は整いました。

 次は〈敵〉をつくることです。敵といっても、ほんとうに強いところではダメです。あくまでもスケープゴート。みんなの不安をかき集め、流し込み、こちらで制御できるようにしておくのが肝心。
 そこでわたしが選んだのは、クラス代表会議でした。図書委員会がキャンペーンを始めます。

――クラス代表会議は利権の巣窟だ!
――クラ代は試験でゲタを履かせてもらっている!
――大食堂のトンカツはクラ代だけ分厚い!

 もちろん全部ウソです。
 ここで肝心なのは、ウソはできるだけ繰り返して発言し、しかも大きくて無茶苦茶なほうがよい、という点です。すると、それを耳にした生徒は賢ければ賢いほど、心根が素直であればあるほど、

 ……はは、まさか、そんなバカな! でも、なんでこんなバカな話が広まっているんだろう? もしかして――いやもちろん馬鹿げた話だとはわかってるけど、でもほんの一片の真実くらいは含まれてるんじゃなかろうか?
 ……そうだよね、まさか完全なデタラメを吹聴するような邪悪な生徒がいるわけないし!
 ……確率的には、そりゃあ一回くらいクラ代が大きめのトンカツを食べてたこともあるだろうしサ! 何事も、絶対にありえないとは断言できないよ!
 ……頭から全否定するんじゃなくて、まずは相手の言い分に耳を傾けて、それから堂々と論理的に反論すれば、きっとみんな分かってくれるから!

 などと考えがちです。
 でもその頃にはもう手遅れなんです。
 なぜって、こっちは本腰入れて完璧な丸ごとデマカセを大量生産してるんですから。
 質より量です。
 しかも最近は生成AIという便利なシステムもあります(「知能」とは全く無関係で電力ばっかり食うカラクリですが、人工的にデマを生成してくれるのはホントなんです)。デマを検証し反論するためには膨大な時間と労力が必要ですが、広めてるほうは楽なもんです。デマなんですから。
 もちろん、こちらの算出したデマの中でも、うまく広まらなかったものはたくさんありました。例えば、

――クラ代の大半はゴム人間で、深宇宙からの〈ゆんゆん電波〉で操られているんだ!

 というやつは二日くらいで消えてしまいました。
 そこで、わたしの配下の特定情報考案班スタッフ(その中には例の図書館返還旅団長さんも含まれていました)が色々いじくり直した結果、

――クラ代の二割はゴム人間らしいぞ! どこから指令を受けているんだと思う?

が無事に広まりました。
 ちなみに、この「二割」というのが鍵なんだそうで。これなら「まだなんとかなる→なんとかしなくちゃ!→自分にできることは何だろう?」という行動誘因が生み出されます。
 そして最後の「〜と思う?」も大事。こうやって参加可能性をあげておくと、「ぼくのかんがえたさいきょうのしんそう」を思いつく生徒が必ず数パーセントはいて、勝手に噂を広めてくれるんです。
 特定情報監察班は、のちに委員会に格上げされて「監察委員会」となるのですが、それはまた別のお話。

 いずれにせよ、怒りも羞恥も感じないわたしは、すっくと両脚で生徒会役員室の窓際に仁王立ちして、両のまなこで学園全土を睥睨します。ホントはここで、

「ははは、生徒たちがゴミのようだ!」

と哄笑したいところですが、あいにく外には生徒がいません。みんな授業正常化計画のおかげで、おとなしく教室の中にいるのです。
 しょうがないので、お気に入りの軍服コスプレをして、胸をはって、腰に手を当てて、独りで哄笑します。羞恥心がないので、こういうのも平気なんです。

 さて、これで邪魔な立法組織・クラ代を完全に支配下に置きました。いよいよ念願の上級制度撤廃です。
 と、そこへ、どこからともなく一発の弾丸が――


「……ってだからそーゆーことじゃなくて! わたしの願いはそーゆーんでもなくて!」

 わたしは(もう何度目になるのか思い出せませんが)美少年の足元にすがりつきます。

「しつっこいなあ。もう二十万回は超えたよ、リロール」
「もっぺん! もっぺんだけサイコロ振らせて!」

 わたしの震える手が、美少年の握る100面体ダイスに伸びます。が、届きません。なぜって床にひざまづいてるから。そんでもって体は震えて、視界がグルグルしてて、膝に力が入らないから。
 完全に中毒状態です。

「ダイス〜〜〜、ダイスうううぅ……竜〜〜〜〜っ、おまえのダイスをわしにくれや〜〜〜〜っ!」
「誰が竜だい」

 と美少年。

「でもまぁ、二十万回以上も人生やり直しに耐えたのはおまえが最初だから、特別にあと一回だけやらせてやろう。でも一回だけだよ。僕もそろそろ飽きてきたしね」

 あと一回!
 わたしの体は揺れました。いいえ、震えたんです。
 一回だけ。ラストチャンス。今度こそ。今度こそわたしは――あれ、ちょっと待って?
 わたしが、ほんとうに、心から、願っていることって何なんでしたっけ?
 なにしろ二十万回以上(ということは一回あたり平均が半年としましても、けっこうな歳月を経ているはず)も新学期をやり直したんで、記憶が曖昧になってるんです。

 学園の完全支配?
 違います。

 生徒会役員室での哄笑?
 もっと違います。

 反対勢力の粛清?
 ぜんぜん違います。あれはあれで楽しかったけど。

 じゃあ上級学生制度の撤廃?
 実はそれも違います――ということに、私はその時……年月に換算すると十万年の試行錯誤を経て、ようやく気づいたんです。
 わたしは、紫苑さまに、幸せになってほしいんです。

「ねえアプちゃん、今から願い事をちょっとだけ変えてもいい?」
「アプちゃん言うな。で、何にしたいんだい?」

 わたしはそれを口にしました。
 紫苑さまに、ほんとうに、心の底から、幸せになってほしい。

「じゃあ――そのためなら、僕が何を奪ってもいい?お前は、なんでも、どんな大事なものでも――たとえばお前のいちばん大切なものでも、大切な感情でも、記憶でも、過去でも、差し出すかい?」

 ええもちろん!
 なんでも!

「ようし」美少年の紅い舌先が、下唇を嬉しそうに舐めました。「それじゃあ最後だ――おまえが今一番大切にしているもの・・・・・・・・・・・・・・・・を、もらおう。そして……」


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※次回掲載は12月27日の予定です。

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