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[GDC2008#33]ファイナルファンタジーのために作られたスクエニオリジナルエンジン「Crystal Tools」とは
スクウェア・エニックスの村田琢氏 |
さて,ゲーム会社ではさまざまな社内ツールを使用することがあるのだが,村田氏はそのような社内用ツールの制作を行っていたという。
当時のスクウェア・エニックスでは,多くのチームが並行してゲーム開発を行っており,制作環境として見れば非効率的な状況。とはいえ,当時の家庭用ゲーム機はメモリ容量が少なく,無駄なメモリ消費を1バイトでも減らしたいと思うなら,データ構造は独自にならざるを得ないのであろう。「当時としては間違ってなかったと胸を張って言える」と村田氏は語っていた。
1997年発売の「ファイナルファンタジータクティクス」用に作成されたツールは,デザイナーの「とにかく早くプレビューを確認したい」という要望を受けて開発されたもの。PCでの制作画面とテレビに出力した画面とでは色味が変わることを嫌って,即時プレビューと即時修正ファイルの更新が求められていた。このとき作ったプレビュー機能は非常に効果的で,作品のクオリティ向上に大きく貢献したという。デザイン重視の会社だけに,このようなプレビュー機能が最も求められるものとなっていたようだ。
その後,VAGRANT STORYやPlayOnlineの開発などで,全社共通の技術基盤を作成する機運が高まり,仕様の策定に進んだという。データフォーマットの統一に関しては,既存のフォーマットに準拠するか,独自仕様でいくかで議論が重ねられたが,拡張性などが重視された結果,独自仕様が採用されたそうだ。
今回作成されたものは,かつて「White Engine(仮)」として発表されていた,ファイナルファンタジー用のエンジンである。もう少し広範なゲームエンジンかと思っていたのだが,現状では全社的なデータ統一基盤と統一ツールなどの集合体というのが正解のようだ。
同社が作るツールだけあって,その特徴は「ファイナルファンタジーの作成に特化」した内容になっている。すなわち,なによりもビジュアルのカッコよさ,動作の気持ちよさを重視して,そのあたりのチューニング作業の効率化を第一に作成されているわけだ。
いくつかツールの画面が示されていたが,デザイナーが主に使うツールであるためGUIにも気が配られ,機能のプレビュー画面と修正機能を中心に,拡張性と自由度を重視した構成になっていた。本格的な作業は市販CGツールなどで行うことが前提だが,このツール上でもかなりの部分の修正が可能になっているようだ。
社内ツールをいくつか開発してきた経験から,ツール類は機能特化型の専用ツールの集合体としたという。大規模なゲームでは制作スタッフの分業が進んでいるので,一つのツールで対応するより,個別対応のほうが効率がよいのだろう。ただし,専業化が進みすぎて全体のフレームワーク作成作業は難しくなってしまったことと,ドキュメント化の遅れが反省点として挙げられていた。
研究開発部門が独立し,作業から1年でver.1が完成するなど,統一開発基盤の製作としてはかなりの成果を挙げているといえる。名称も「White Engine(仮)」から「Crystal Tools」へと変更され,正式名となった。
なおCrystal Toolsは,オーサリングツールとライブラリで構成されているのだが,PS3やXbox 360などのほかに,しっかりとPCにも対応している。現在作成中の「ファイナルファンタジーXIII」と「ファイナルファンタジー Versus XIII」,および新作オンラインゲームの開発で,すでに使用されているそうだ。
せっかくPCに対応しているのだから,今後はPCゲームでの展開にも期待したいものだ。
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