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[TGS 2009]ゲーム業界の明日はどっち? スクエニ和田氏,カプコン辻本氏ら業界のリーダー達によるパネルディスカッション
[TGS 2009]「モーションコントローラーは2010年春発売」などSCEの今後が次々と明らかに
平井氏の基調講演のあとで行われたのが,
カプコン代表取締役・辻本春弘氏
スクウェア・エニックス代表取締役・和田洋一氏
コナミデジタルエンタテインメント取締役副社長・北上一三氏
バンダイナムコゲームス代表取締役・鵜之澤 伸氏
SCEワールドワイドスタジオ プレジデント・吉田修平氏
という,文字どおり日本のゲーム業界のリーダー達によるパネルディスカッションだ。日本のコンシューマゲーム業界のこの一年の総括,そして将来についてが,日経BP電子機械局局長・浅見直樹氏による司会の下で議論された。
ゲーム業界のこの一年を振り返る
最初に掲げられたテーマは,この一年はゲーム業界にとってどうであったか,といういわば総括的なもの。浅見氏は2008年の金融危機がゲーム業界に与えた影響など,経営レイヤーからの視点でゲーム業界がどうであったかという話を振る。
それについて最初に発言をしたのは,カプコンの辻本氏だ。氏は,この一年のゲーム産業を振り返ったうえで「市場に大きな変化があったと認識している」とコメント。続いて「というのも,数年前から日本でも携帯機が普及してきましたが,街角で“集まってプレイしている”という風景を,よく見掛けるようになりました。もちろん,弊社の『モンスターハンター』などの影響もあると思いますが,直近では,『ドラゴンクエスト IX』などの影響も大きいかもしれません」としながら,「こういった変化は,ここ1年くらいで急激に広まったような感触はある」と,ゲームのプレイスタイルそのものが大きく変化している現状を指摘。
一方でスクウェア・エニックスの和田氏などは,「今回の金融危機で苦しんでいるのは,主に不動産や自動車など,借金をしないと買えない商材を扱っている分野だと思う」と発言し,「ゲームを借金して買う人はいませんよね(笑)」と冗談めかしながら,世界的な金融危機とはいえ,ゲーム業界にとってはそれほど大きな影響がないことを強調した。
ちなみに,金融危機のゲーム業界への影響については,各社共に「大きな影響は出ていない」という認識で共通しているようで,バンダイナムコゲームスの鵜之澤氏などは,「決算が悪かった時の言い訳には使わせてもらってますけど,やっぱり言い訳でしかない。どちらかというと,良質なソフトを出せなかったという部分を反省している」と言い,辻本氏は「魅力的なソフトを出せば売上が上がるし,出せなければ落ちる」「エンターテイメント産業はそうしたものだと思う」とコメントするなど,ゲーム産業の特性がうかえるコメントも散見されたのは印象的であった。
とはいえ,和田氏などは,小売り業者の仕入れ(大きな金額が動く)に関しては「手堅くなった」と指摘し,「もちろん,まったく影響がないわけではない」とも付け加えていた。
日経BP電子機械局局長・浅見直樹氏 |
スクウェア・エニックス代表取締役・和田洋一氏 |
ディスクメディアからオンラインにはいつ切り替わる?
この一年を存分に振り返ったところで,今度は現在の業界の課題について話が移っていく。簡単に言えば,ゲーム業界の新たな革新性はどこにあるのか,それがうまく進まないのはなぜか? という話だ。
話を振られたコナミデジタルエンタテインメント北村氏は,「これまではプラットフォーマーの努力もあり,ハードウェアの性能向上によって進化してきた流れがある」と説明しながら,「しかし,今度は我々ソフトメーカーの側が,新しい遊び,新しい楽しさといった方向で進化させていかなければ」と警鐘を鳴らす。
和田氏なども,「これから5年前後は,ハードウェアの処理能力が上がってリニアに進化していくというものではなく,どう遊んでもらうか,どうお金を払ってもらうかというゲームの新しいビジネスモデル,ライフスタイルを提案する部分でのイノベーションだと思う」と発言するなど,各社共にゲーム業界の次のポイントがもはや「ハードウェアのスペックなど技術的な革新性にはない」という見解を示したのも,近年のゲーム業界の変化を表す端的な例だったかもしれない。
また,今後の革新性の一つは「ネットワーク」にあると各社認識はしながらも,ビジネスとしてはなかなか本格化しない現状についてにも話が及び,鵜之澤氏は,「iPhoneは,パックマンが20万ダウンロードだけれど,一個5ドルだから末端売上規模で1億程度。これだとちょっと会社はまわせない」「少なくとも今までのような,50人,100人で作るものは回収できない。オンラインコンテンツに関しては,作り方そのものを変える必要がある」と,その難しさを語った。
ただ,和田氏などは,ネットワークを使ったビジネスについては将来性を感じているようで,「ネットワークだと,一物一価じゃない価格設定ができるのが大きい。これまでのような30時間で遊ぶものを6800円で売るだけではなく,30分しか遊ばないけど500円とか,カスタマイズできるものを5万円とか。いろいろなやり方が可能」だと指摘。現状,いわゆるオンラインコンテンツが無料ないし低価格帯である点に対しても,「例えば百科事典には,ただの紙切れでも数万円払う。これは純粋に慣れとか意識の問題でしかない」として,課金インフラなどをだけではなく,消費者の意識のレベルから変革していく必要性を訴えていたのは,とても興味深い点ではあったかもしれない。
カプコン代表取締役・辻本春弘氏 |
バンダイナムコゲームス代表取締役・鵜之澤 伸氏 |
グローバル化する市場,グローバル化する競争
ゲーム産業,とくに日本のゲーム産業が今後さらに発展していくために欠かせない要素となっているのが,海外市場に対しての取り組みだろう。
世界のゲーム市場が拡大する一方で,日本のシェアが相対的に落ちてきていることももちろんだが,国内だけを見ても,少子化や競合する他の産業の急成長などもあり,なかなか厳しいのは読者の皆さんもお分かりのとおりだ。
とはいえ,海外市場と国内市場の違いについては,過去アメリカの開発スタジオでマネジメント経験がある吉田氏も,「北米で100万本売れるようなタイトルも,日本に持ってくると2万本とか(苦笑)。非常に厳しい」と,まったく違う文化でヒットさせることの難しさを語る。
北上氏も,「やはり北米のデベロッパは,ハリウッド映画的なゲームを作るのが上手」「ハリウッド的な面白さ/万人受けする方法論というのは,多様な人種/文化が混じり合う環境で進化してきた,北米特有の強さかもしれない」と語るなど,安易に日本人が模倣して追いつき追い越せるものではないことを指摘する。
それでは,日本人はどういった形で世界を相手に戦っていくべきなのか?
頼もしいことに,これについては「日本には日本の良さがあるハズだ」として,それぞれが「自分達の良さを発揮できれば勝てるはず。あるいは差別化できるはずだ」という趣旨の発言をしていたのが興味深かった。SCEの開発スタジオをワールドワイドで統括する吉田氏なども,「遊んで楽しいかどうかという部分は,日本にまだ一日の長がある」「(日本の開発スタジオに限っていえば)自分達で何ができるか,何が得意かを見極めながらやっていくのが良いと思っている」として,日本には日本の強さがあるとコメント。ただ一方で,北米における人材の豊富さ,流動性の高さなどについても触れ,そうした環境的な面での不利さは拭えない部分も示唆していた。
ともあれ,ビジネスモデルから開発体制,組織,そして文化/思想を超えてどう売り込んでいくかなど,多岐に渡る議論が交わされた今回のパネルディスカッション。指摘された課題は,どれも一朝一夕で解決するものではないものの,こういった議論の積み重ねは,今後の発展を促す意味では有意義だろう。
現世代機のゲーム機戦争も,次のステージに移りつつある今。ゲームメーカー各社が打ち出す新たな戦略に期待したいところだ。
コナミデジタルエンタテインメント取締役副社長・北上一三氏 |
SCEワールドワイドスタジオ プレジデント・吉田修平氏 |
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