企画記事
あれから9年。元EQプレイヤーが読む「エバークエスト 連合帝国の興亡」
もちろん,発売されるやいなや飛びつくように読ませてもらったが,かつて自分がEQにかけた想いなども甦ってきて,実に楽しく読み進めることができた。EQ経験者はもちろんのこと,ファンタジー小説が好きな人にもじっくりと読んでもらいたい一冊なので,当時のEQ小話やスクリーンショットなどを交えつつ,本書を紹介しよう。
かつて栄華を誇った“連合帝国”の
興亡にまつわるエピソード
この小説のタイトルにある“連合帝国”(Combine Empire)とは,EQ1の時代よりも遥か昔に,ノーラス上に存在した勢力である。この帝国は“カッタ皇帝”と“セル将軍”という二人のヒューマンにより政治と軍事が分担されているのが特徴で,彼ら一代によるものとは思えないほどのハイペースで,その版図を拡大していった。
連合帝国の最大の強みは,種族や思想の垣根を越えた,いわば“共同体”であること。この物語が始まる時点で,すでにテュナリア(のちのアントニカ)やフェイドワーといった大陸を支配下に収めており,ゆくゆくはノーラス全土をも覆い尽くすかに見えた。
しかしそんな中,連合帝国はとある事件をきっかけに,崩壊の一途をたどる。
発端となったのは,連合帝国にイビル系種族のダークエルフを迎えるべきかどうか,という議論であった。カッタ皇帝はあらゆる種族を受け入れる準備を整えているが,一方のセル将軍には何らかの思惑があり,どうしてもカッタ皇帝に反対したいようだ。そして二人の意見が平行線のまま迎えた“大連合首脳会議”の席上において,取り返しのつかない事件が起こってしまうのである……。
物語の重要人物であるカッタ皇帝とセル将軍について,もしかするとピンと来ないという人もいるかもしれないが,実はEQのゲームに深く関わっている。EQプレイヤーであれば,EQの3番目の拡張パック「Shadows of Luclin」(以下,SoL)において,“Katta”と“Seru”の名が冠された複数の派閥(Faction)があったのを覚えていると思う。彼ら二人は,まさしくアレの親分なのである。
SoLにおいて両派閥が激しく対立し合っていたという点から,何が起こったのか薄々想像がつくかもしれないが,当時の因縁は数百年が経過したのちも,月(Luclin)に場所を移しなおも続いているのだ。
これまでEQプレイヤーにとっては,かつて連合帝国という強大な勢力があったという伝説を除き,多くの情報が不明のままとされてきた。このあたりの顛末がついに明らかにされたというのが,本書「エバークエスト 連合帝国の興亡」における,最大の見どころの一つといってよいだろう。
本書の重要人物であるセル将軍は,物語の数百年後である拡張パックSoLにて,なんとRaid対象として登場する。そして一方のカッタ皇帝はというと…… |
SoLにて細々と活動するカッタ派のゾーン“Katta Castellum”。Luclinではカッタ/セルの両派閥が対立しながら,それぞれ独自の文化を築き上げていった |
ノーラス各地で暗躍する主人公アータルタール。その思惑とは?
アータルタールの強さには「マルチクラスかよ!」と突っ込みたくなるが,その謎も最後に氷解する。ちなみに彼は,神への信仰を失いつつあることからクレリック系魔法だけは苦手だ(画面はただのShadow Knightです) |
フェイドワー大陸の出身者にとって,Clan Crushboneは初めて挑戦する本格的なダンジョンであった。それにしてもまさかあのNPCに,このようなストーリーが秘められていたとは…… |
冒険者は神の使徒を手に掛け,やがては本拠地であるPlaneへも乗り込んでいく。ここまで強大な力を持った冒険者を,神はどのように見ているのか? |
“神と戦う”というのは,少なくともEQ経験者にとって特別な想いが込められたテーマだろう。かつてLady VoxやLord Nagafenというドラゴンを皮切りに始まったRaidは,次第にInnoruukやCazic-Thuleなどといった,ノーラスの神々へとシフトしていった。EQの4番目の拡張パック「The Planes of Power」(以下,PoP)では,まさにそれがメインコンセプトに据えられていた。
日夜Raidに明け暮れる冒険者にとって,神とは単に信仰するだけの相手ではなく,いずれ倒すべき敵でもあった。そして神にとっては,自らが産み出したはずの種族が,次第に自分を脅かす存在になりつつあるわけで,この両者の激しい攻防も本書の見逃せないテーマの一つだ。
Lady VoxとLord Nagafenの登場により,MMORPGの本格的なRaid史は幕を開けたといっても過言ではない。彼らと初めて戦ったときのことを,今でもはっきり覚えているという人は多いはずだ |
このあたりの,勧善懲悪に終わらない複雑かつ魅力に富んだキャラクター描写は,「これぞ欧米ファンタジー」といったところ。筆者個人としては,EQでのメインキャラがダークエルフだったこともあり,アータルタールにはたっぷりと感情移入してしまった。
細かい描写一つ一つが「EQしている」
ファンには迷わずオススメの一冊
ネタばれになるので詳しくはいえないが,本書にはEQファンにとって懐かしい種族が複数登場する。そのどれもが,当時のイメージから外れておらず,プレイヤーでも安心して読める |
それにしても,物語に登場する数多くの単語が,EQと結びつけられているのは凄い。本書の執筆者であるスチュアート・ウィーク氏は,相当なEQマニアなのではないだろうか。また,「フォーゴットン・レルム」系のD&D小説でお馴染みのR.A.サルバトーレ氏が本書の監修を行っており,小説としてのクオリティについても申し分ない。邦訳を担当したのがあの荒俣宏氏だというのも,大きなポイントだ。
英語版のEQしかプレイしていない人にとっては,もしかすると各固有名詞が翻訳されているのに若干懸念があるかもしれないが,実際にはカタカナでルビが振ってあるので違和感はさほどない。
EQ初期の名ダンジョン“Lower Guk”の通称“Bedroom”。プレイヤー達が名付けたこういった些細な名称ですら,思わずその背景をあれこれ想像したくなるような世界観であった |
個人的にSoL当時は,カッタ/セルの対立よりもRaidのことで頭が一杯だった気がする。これを機にノーラス史をちゃんと調べてみることにしよう |
EQに登場する種族などは,「指輪物語」をはじめとした従来のファンタジー作品から流用されているものが多い。しかし,そのままの形で寄せ集められたわけではなく,Brad McQuaidらのスタッフによる独自解釈がふんだんに盛り込まれ,ノーラスという類い希な仮想世界を形成していた。
個人的には,そのようにして丁寧に作り上げられた世界観は,年単位の継続的なプレイが前提となるMMORPGに,必要不可欠な要素だと思う。さらに個人的な意見を言わせてもらうなら,EQの世界観は誰が何と言おうと100点満点であり,そのことを改めて強く感じさせてくれた一冊であった。少なくともEQファンならば,メインキャラの種族や職業に関係なく,きっと満足できるので,安心して手に取ってみてほしい。
最後に,欧米では本シリーズがすでに4冊出版されている。これらの邦訳版の発売日は今のところ未定だが,最初のリリースに「邦訳第1弾」と書かれているので,今後の展開についても大いに期待できそうだ。元EQプレイヤーとして,そして同書のファンとして,まずは邦訳第2弾の発売を楽しみに待ちたい。
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●書誌情報
・書名:エバークエスト 連合帝国(コンバイン・エンパイア)の興亡(原題EverQuest The Ocean of Tears)
・R.A.サルバトーレ 監修/スチュアート・ウィーク 著/荒俣宏 訳
・定価:1,869円 (本体1,780円)
・発売日:2008/04/25
・形態:四六判・ハードカバー(432ページ)
・ISBN:978-4-04-870017-7
・株式会社アスキー・メディアワークス
カバー画像などの詳細情報は以下のサイトをご覧下さい。
アスキー ファンタジー小説サイト
http://www.asciibook.com/dd/
http://www.asciibook.com/dd/other_fantasy.asp
アスキーブックスのEQ小説情報
http://www.ascii.co.jp/books/books/detail/978-4-04-870017-7.shtml
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