連載
【切込隊長】「天下統一 -相剋の果て-」プレイレポート――ああ,やんぬるかな姉小路家
切込隊長 / アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家
切込隊長:茹で蛙たちの最後の晩餐 |
天よりもっとも近しい峰々に住む山の民よ,森の子らよ
汝ら京より遥か遠く,都の喧騒よりついぞ追い隔てられり
哀れなるかな山の民よ,人として生まれ落ちつも栄華叶わず
やんぬるかな姉小路家,存続の願いを山鳥の翼に託し峰々を超え行き給え
というわけで,身も蓋もない記事を書いてしまった第一回めとは打って変わり,連載二回めとなる今回は,After Action Report……いわゆるAAR(簡単に言うとプレイレポートである)を寄稿してみたい。
栄光あるAAR連載(?)一回目は,かの名作,システムソフト・アルファー
の「天下統一」シリーズから,姉小路家(あねがこうじけ)の奮闘をお伝えしたいと思う。伝統の姉小路家の有り様の嘆かわしさは,「天下統一しないV」を併読されたい。
もし未プレイの読者がおられるのなら,私のこんなプレイレポートなど捨て置いて,いますぐお近くの家電量販店などで現品をゲットののち,速やかにインストールされたい。一部店舗では超安く売ってるのでお得だよ。はっきりいって,このゲームを体験していないことは人生の損失と言える。いやマジで。
卓越したゲームバランスを支えているのは,プレイヤー大名の規模拡大のスピードと同じぐらいのライバルを次々と生成するコンピュータ大名の絶妙なAIと,シンプルだが単なる戦術ジャンケンに終わらない合理的な合戦システム,そして国勢が大きくなるにしたがって累乗的に増える維持費によって,敗勢に陥ったら転がり落ちるように身動きが取れなくなるという国力に関するデザインにある。
これは,近年の洋ゲーにも見られない非常に独特なモチーフであり,'91年発売の本作品の先見性,独自性を示していると言えるだろう。ゲームシステムに関する考察は後述することにする。
で,姉小路家なんだが
戦国時代を題材にしたタイトルはたくさんあるが,飛騨の姉小路家といえば,弱小国の代名詞であり,すべての時代を通して日本の中央に位置しながら,その国力の圧倒的な弱さゆえにもっとも最初に蹂躙される国として,多くの歴史ゲー愛好者のマニア根性の中核を占めてきた。
ある程度ゲームに慣れてくると,弱い大名でどこまで生き残ることができるのか,試したくなるのが人情だ。登山家が国内の山を極めたら世界の難攻不落の山々を目指したくなるのと同様,好事家の腕試しの終着点に燦然と輝く大名家,それが姉小路家なのである。
さて,腕試しとは言うが,本作品での姉小路家は極めて厳しい。シャレにならないぐらい。普通にプレイしていたのでは,勢力拡大どころか即死すら免れ得ない。つーかヤバイ。1565年夏ターンから始まるシナリオでは,開始ターン早々,独立勢力から攻め込まれ,篭城に追い込まれ,兵糧がなくなって死ぬ。頑張って生き延びても,美濃を制圧した織田家が踏み潰しにやってくる。それ以外の結論は見当たらない。絶望しかプレイヤーに与えられない,難攻不落中の難攻不落。想像以上に終わっている冬山が,姉小路家なのだ。
そんな中,歴戦のSLGプレイヤーを自認するこの私が,敢えて最高難易度の「上級」を選び,この悲惨の代名詞である姉小路家を立派な戦国大名へ,そして日の本を支える名家のひとつへと成長させてみようと思う。どうですか,この時間の無駄遣い。ロマンだ。ロマン過ぎる。
ちなみに,なんで上級を選んだかというと,初級でも中級でも独立勢力に攻め込まれて,どうせ滅ぶから。どうしようもないんだな,これが。初級でも滅ぶよ。ちゃんと。ならば,どうせやるなら上級だろ。そういう意味です。
姉小路家が誇る優秀な家臣。何と一人もいる。能力値は当然20がマックス。絶望的です。大名はクズだが部下もクズ。ここから頑張って参ります! |
なお,今回リプレイではゲーム開始早々に大雨がやってきて洪水が発生し飛騨の我が領地を押し流しました。といっても,当初は所得がほとんどないから天災が来てもへっちゃらだぜ! |
人材は力,弱小勢力こそベンチャースピリッツですよ奥さん
と力んでみても,ゲームのシステム上,最小勢力である姉小路家は「国人」階級であるため,外交コマンドを試すことすら機能的に許されていない。軍隊も増やすことはできず,せいぜい城をいじるだけだ。これではどうしようもない。
しかし,しかしだ。絶対に何かできることはある。姉小路家にも,夢は,あるのだ。ということで,唯一の希望は……そう,隠居。
隠居コマンドとは何か? これは,45歳以上の高齢の部下に,隠居を命じて,その子らをランダムで登用することができるという,夢のようなコマンドなのだ。この駄目な部下の典型とでも言うべき悲哀溢れる中年男・三木嗣頼(みつぎつぐより)さんのご子息が有能マンだったら… 獅子奮迅の武勇と冴え渡る智謀の持ち主であったら,姉小路家の大いなる支柱となってくれるのではないだろうか?
ここから先は,かの名作ウィザードリィのキャラクター作りもかくやと思えるほどの作業が発生する。三木嗣頼さん隠居→馬鹿が後を継ぐ→新規ゲームやり直しを繰り返すこと40分ほど。ついに来た! 姉小路家の未来を拓く,有能なる部下がいまここに現れたのである!!
三木嗣隆27歳。姉小路家のゴールデンルーキーである。武力は日本屈指の16,ただし知能は日本最低級の1。うーん,ちと脳筋なのが玉に瑕だが… だが贅沢は言っていられない。彼の活躍に姉小路家の未来がかかっているのだ!
夢の強力武将登場。ああ,お待ち申し上げておりました……知力1だけど |
このようにして,合戦でちょっとずつ独立勢力に戦勝を重ねながら,飛騨統一を夢見ていきます。最初は独立勢力の武将3名6000人を撃退,さらに1名どっかから来て+2000人。泣きそう |
三木嗣隆さんの大活躍により,数が頼みの独立勢力を蹴散らし,ちぎっては投げ,豪快に叩きのめして戦死者続出させ,4名いる武将の実に2名を戦場で討ち取るという大戦果を挙げるにいたった。その間,当主の姉小路自綱(あねがこうじこれつな)さんは後ろのほうにおりましたが。
勇躍,勢力拡大だとばかりに隣城へ攻め込み,内応で城レベルを7も下げるという大健闘,さあ国力拡大だという矢先に…。
なんと,当家の三木嗣隆が,織田家に引き抜かれました
……は? 嘘だろ? なぜ。どうして。なんで私がこんな目に。自綱,悲しい。うちの秘蔵っ子が。ゴールデンルーキーが。ああ,何と言うことだ。贅沢な暮らしがしたいってか。金に目がくらんだってか。それとも都会風の女か。待ってくれ。少しは私の話を聞いてくれ。私は飛騨の未来を信じてるんだ。いかないでくれ。頼む。この通りだ。曲げて,曲げて姉小路家に残ってくれ…!!
なんだろう,このベンチャー企業的な実社会の縮図は。ムック一冊丸ごと任せられるし,かなりデキるよねと編プロで評判になった編集者が評判あがったとたんに,大手の出版社に転職するようなものだ。
そう,この天下統一では,ランダムシード(※編注)はひとつしかない。泣いても怒っても,引き抜かれるときは引き抜かれるのだ。運命には逆らえない。この人生のように。ああ,このゲームはどうしてこうも私に人生の機微を教えてくれるのだろう。溢れ出る涙で大河を作っても,去った三木嗣隆は帰ってこない。悲しみに暮れている暇はない。前を向いて,現実と戦わなければ。いつか,かの織田家で燦々(さんさん)と輝く宿将として出世街道を驀進してくれることを祈る。笑顔で,涙の乾いた頬のある笑顔で,織田家に送り出してやろうじゃないか。
※編注:本作では,イベントの発生などに使う乱数テーブルがゲーム開始時に固定されており,いわゆるセーブ&ロードでやり直しなどが行えない
と,現実にかえったところで,本作品には「威信」というけったいなものがあり,弱小とはいえ姉小路家はささやかながら官位を頂戴していて多少は救われている面もある。だが,圧倒的な人材を誇る他国にとって,我が国が抱える優秀な人材は文字通り引き抜き放題食べ放題の状態。つまり,姉小路家は優秀な人材を抱えてはいけないのだ……。
そんなハンデを抱えながらも,大名一人が1000人率いて,ちくちくと独立勢力と小競り合いをしながら城を落とし拡大していく。一門の三木顕綱(みつきあきつな)さんが登場,独立勢力から降伏した小島時氏(こじまときうじ)さんも加入して,少しは見られる陣容になってきた。びっくりするほどみんな無能だけど。涙が止まらないぐらい。でもうっかり有能だからって兵持たせて頼ると容赦なく引き抜かれるのはゴールデンルーキーで経験済みだからなあ……。
念願の飛騨統一は,ゲーム開始から実に8年が経過していた。とはいえ,美濃経由での鉄砲の伝来が早く,総動員を諦めて兵農分離と行動力6で鉄砲が30丁も取れるという天佑があって,こんなにスピーディに飛騨統一できたのは奇跡と言っていい。何にせよ,姉小路家もついに小大名だ,やったぜ!
山岳兵,日本海方面へ下る
飛騨は山岳地帯でありながら兵質はたったの70,総石高も5万石というクソ地域である。戦国大名になるには100万石を超えなければならない。いやあ,これマジどうにもなんねえんだよね。美濃を統一した織田家が兵を飛騨に繰り出してきたのを見て,鬼神の如く外交使者を送りつけて関係改善に努めていたら,織田家から「おう,弱小の犬コロ。俺様の靴でも舐めろや,従属認めたら麦飯でも喰わしてやるぞ,あーん?」というありがたいお申し出が。
飲みますよ。ええ,飲みますとも。織田信長さま,貴殿を主人と崇め,貴方と共にあり続けます。降伏降伏。生きてるだけで精一杯の私たちに,そんな暖かいお言葉を下さるなんて。ありがとうございます,今後ともよろしくお願い申し上げます。
つまり,爺をスカウト→引退を強要→跡取りいなかったら兵力分配で丸儲けor優秀な跡取りが出て戦力アップという黄金律が存在する。これだけは覚えて帰って奥さん。従来は,いじめて追放が主流だったかもしれないけど,ランダムシード固定の中で毎季節隠居させたり俸禄上げてからもう一回チャレンジしたりすると,あら不思議,姉小路家のクソ軍隊も少しは見られる陣容になってくるじゃないですか。
越中の領有権を巡って独立勢力との対峙を進めているころ,本来ならライバルになるはずの上杉謙信さんがちっともお顔をお見せにならない。なぜだろう。と思ったら,織田家,今川家,北条家と同盟を結んでしまい,攻め込める先が越後しかなくなった武田家が,出羽に攻め込んで留守になった上杉家の各城を襲いまくってるじゃありませんか。
いまだチャーンス越中は俺様のものだ。あちこちに姉小路のしょぼい旗が翻る越中。やったやった,これで石高10倍増だ見たか母ちゃん私はやったぞー。僥倖(ぎょうこう)は続く。戦地で負傷した世継ぎが寿命で早々に亡くなり,その跡取りが武力17と万夫不当の激烈に強い人物だったのだ!(ただし,やはり知力は1)
彼の活躍もあって,スパム風に越中にやってくる上杉謙信さんの軍団を素敵な笑顔で破り,北陸は武田家と姉小路家の二分となるのはもはや時間の問題であった。
そのままの勢いで,畠山家が治める能登に雪崩れ込んで,クソ武将の波状攻撃を見舞わせ畠山家を歴史の闇へと葬り去る。越後はすっかり武田家が占領してしまったので,攻め込めるラストリゾートは一向一揆の皆さんが陣取る加賀のみ。びっくりするほど本願寺。1軍団あたり5000人とか容赦ない規模でひしめいている困惑地域だ。
本作品最大の団結力(?)誇る一向一揆衆の皆さん。何だよ兵士数6万ってのは |
武力1の2万5000人が迫り来る合戦画面。どっちかっていうとバイオハザードとかハウス・オブ・ザ・デッドとかをイメージする |
死闘を繰り返し,ついに加賀本願寺を屈服させることに成功する。総石高も140万石を突破,軍隊は織田家が同盟を切った武田家の所領へと迫った。ついに,ついに姉小路家は,念願の戦国大名となったのだ!
ついに押しも押されぬ戦国大名として,天下に名を轟かせるにいたった姉小路家。織田家の従属大名のままになっているのは歴史上の秘密だ |
その姉小路家の存在の大きさを朝廷も認め,当主をして奥州探題に任命した! ……お,奥州探題? |
そして……フィナーレは唐突にやってくる。極貧の飛騨の山奥から出で,弱小の姉小路家を率いて激動の戦国時代を生き抜き,日の本が認める戦国大名の雄として飛躍的な発展を遂げさせる手腕を発揮した当主の姉小路自綱が……突然,なんの前触れもなくぽっくりと永眠してしまったのだ。わずか20年の在任期間で,微妙武将の束を統率して百万石を優に超える屈指の名家に育て上げた姉小路自綱さんの偉業はここにある。
一代の英傑が記した波乱に満ちた生涯はここに閉じ,盛大なる葬儀と共に歴史の1ページとなった。
ここから先は,おそらく武田家を潰してる間に織田家との関係が悪化して従属切られて一回目の天下分け目の戦いがあって,圧勝して,織田家蹂躙して,北条家蹂躙して,毛利家蹂躙して姉小路家が天下人になって終わりという展開になるのは必定なので,作業感が拭えぬ状況はレポートしてもしょうがないかと思い,ここに筆を置く。
ともあれ,天下統一シリーズを総括してみるならば,完成度は格段に初代と今作品である「2」が抜群のクオリティであり,これをシステム的に発展させる続編というのは相当にしんどいんだろうな,と思う。今風のグラフィックや,ゲームデータ上のギミックの数々は誰もが思いつくけれども,システムとバランスの調和という意味で,本作品以上の品質で実現できたゲームというのは洋ゲーを含めてもなかなか思い当たらない,というのが見解である。
武将の俸禄管理をしっかりしておけば,ゲーム中盤からお金が余りだす現象や,城が複雑に込み入った地域では,敵軍団を容易に分断できるなどのAIの至らなさはあるが,これはプレイヤーが対AIで熟練しているからであって,初見のプレイヤーが解決の糸口を掴むまでには相当の時間を要する。
惜しむべきは,完成度という純粋な意味において,本作品を超える作品がなかなか現れないことだろう。最後までお読みいただき,ありがとうございました。
■■切込隊長■■ 言わずと知れたアルファブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。そういえば,一時期ハマっていた様子だった「三国志大戦」は,最近も遊んでいるのでしょうか? |
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