インタビュー
正式サービス開始「ネオスチーム」 HUEのCEOに聞く,同作の現在と未来
日本でのサービス展開発表から2年弱が経った2006年10月19日,ハンビットユビキタスエンターテインメント(以下,HUE)は,MMORPG「ネオスチーム」の正式サービスを開始した。
その翌日,来日していたHUE代表取締役CEO キム・ヨンマン氏にインタビューを行った。「With Your Destiny II」「グラナド・エスパダ」に続く,同社3タイトルめとなる本作について,キム氏はどう感じ,何を考えているのか。正式サービス開始にあたっての心境から,今後の展開までを聞いた。
■10月19日,ついに正式サービス開始
4Gamer:
本日はわざわざお越しいただき,ありがとうございます。ついに10月19日に「ネオスチーム」の正式サービスが開始されましたね。おめでとうございます。
キム・ヨンマン氏:
ありがとうございます。とくにネオスチームの場合,日本での発表からずいぶん時間が経ってしまったので,ようやくこの日を迎えることができて,ホッとしています。
4Gamer:
確かネオスチームの国内サービスが発表されたのは,HUEの設立発表会の場でしたよね。つまり,もう2年近く前となります。なぜこれほど時間がかかったのでしょうか。
キム・ヨンマン氏:
それにはいくつか理由があります。一つは,韓国でサービスが始まったときに,多くのバグが発見されたことです。その状態のまま日本でサービスしても,不満がつのるだけでしょう。
そのほかの理由としては,PvP(対人戦)やRvR(団体戦)のシステムが日本においては時期尚早だと判断したこと,そしてもちろん,すでにテスト/サービスを行っていた「With Your Destiny II」「グラナド・エスパダ」に注力するために,時期をずらしたというのもあります。
4Gamer:
しかし,もう正式サービスが開始されたということは,それらの状況が変わったということですよね。バグについてはあらかた修正されたのでしょうか?
キム・ヨンマン氏:
はい,かなりの部分のバグを潰せたと思っています。実際,今では中国でもサービスを行っているのですが,こちらでは順調にローンチできました。
また,コンテンツも充実してきており,日本でのサービスを開始するのに十分なクオリティになったと自負しています。
4Gamer:
満を持して,ということですね。この日を迎えた,今の心境を聞かせてください。
キム・ヨンマン氏:
私はこれまで,いろいろなゲームタイトルで正式サービスの開始日を迎えてきましたが,それでもやはり緊張はしますね。とくにネオスチームは,時間をかけた分,感慨深いものがあります。
また本作の場合,韓国の開発チームも日本のアニメーションなどを目標にして世界観の作り込みを行うなどしており,日本に対しての思い入れはとても深いのです。その分,非常に緊張もしていますし,期待もしています。
4Gamer:
開発の当初から日本市場を意識していたという本作ですが,実際のところ,日本での評判はいかがでしょうか。
キム・ヨンマン氏:
まずは独特の世界観を楽しんでいただいているようですね。
これまで私どもは,スチームパンクとファンタジーを融合した世界をどうやってプレイヤーの皆さんに伝えるかを常に考えてきました。グラフィックスや音楽はもちろんのことですが,従来のMMORPGでは弱いとされていたストーリー性をクエストを通じて,じっくり楽しんでもらいたい。また,RvRにしても,なぜ国家間で争う必要があるのかなどを練りこんでいます。そのあたりをきちんと評価していただいているようで,嬉しく思っています。
4Gamer:
世界観が受けているということですが,「スチームパンクだから」「RvRに必然性があるから」という理由でネオスチームを遊ぶというよりは,ほかの魅力,例えばキャラクターの可愛さや,乗り物のバリエーションの豊富さが評判になっている印象があります。
キム・ヨンマン氏:
ええ,もちろんそういった面でも好評です。ポムやエルフといった可愛いキャラクターが人気となっていますし,乗り物に関しては,ほかのMMOと差別化できた部分ではないでしょうか。
ネオスチームでは,空からフィールドを眺めることができる気球のほか,地下鉄,潜水艦,飛空艇など,独特の乗り物をたくさん用意しています。とくに,自分で作って乗れるスチームライダーは,ミニ四駆世代のプレイヤーさんにも楽しい要素の一つではないでしょうか。ちなみに,今のところとくにレース場などを設けていないのですが,プレイヤー側でそういったイベントも行われているようです。今回,新しく追加する「ロフアイル」でも,新たな交通手段が採用されます。
4Gamer:
そうですね,乗り物に関しては,ネオスチームの大きなセールスポイントになっていると思います。
あと,クエストのストーリー性の高さも日本人に向いているようで,受けていますよ。
4Gamer:
具体的には,どういった部分が日本人向きなんでしょうか。
キム・ヨンマン氏:
もちろん,よくあるお使い系のクエストもありますが,それ以外に,本作のメインストーリーと密接に関連するものも多く用意しています。
4Gamer:
いわゆるストーリークエストですね。
キム・ヨンマン氏:
ええ,そうです。本作の場合,キャラクターは国に所属するわけですが,クエストをこなすうちに,徐々に重要な仕事が与えられるようになっていきます。そのため,クエストを通じて,本作の世界をより深く理解でき,また「国のために働いている」という意識が芽生えてくるのです。クエストそのものも,単純なものばかりでなく,例えば仲間と共に,敵国へ侵入するようなものもあり,ドキドキワクワクを味わえるのではないでしょうか。
4Gamer:
単にモンスターがいるところに行くのと,敵対するプレイヤーキャラクターが大勢いる敵国に潜入するのとでは,同じ自国のためでも,モチベーションも緊張感も違うでしょうね。確かに面白そうです。
では逆に,現時点で問題点だと思っている部分について聞かせてください。
キム・ヨンマン氏:
多くのプレイヤーの皆さんから不満の声が上がっていたラグの問題は,最優先で改善しなければならない部分だと思っています。
4Gamer:
改善のめどは立っているのでしょうか?
キム・ヨンマン氏:
ラグの発生には,プレイヤー側の通信環境,PCのスペックなど,さまざまな理由が考えられます。そのため,すべてのプレイヤーさんを満足させるのはなかなか難しいでしょうが,少しでも多くの人を満足させられるよう,今後もチューニングは続けていきます。
実際,今韓国で使っている最新クライアントはずいぶん軽くなっており,日本でも確認ができ次第,そちらを採用する予定です。
4Gamer:
それはパッチという形でアップデートされるのでしょうか?
キム・ヨンマン氏:
パッチでアップデートすることもできるようにしますが,クライアント自体の再配布を行いますので,一からインストールしても大丈夫ですよ。
ちなみに,昨日(編注:10月19日)にも,少し軽くなっています。またサーバー側のチューニングも継続して行っていきます。
4Gamer:
では今後,ラグに関する不満は減っていくかもしれませんね。
キム・ヨンマン氏:
そうなることを願っていますし,努力も続けています。
■日本人に向けた施策について
本作は今,中国でも人気となっていますよね。ただ,日本と中国とでは,ゲーマーが求めるものは違うのではないでしょうか。中国では,ネオスチームのどういった点が評価されているのでしょうか。
キム・ヨンマン氏:
中国では元々,PvPやRvRに人気があります。また一方で,日本のアニメやコミックがブームとなっています。ネオスチームにはその両方の要素があり,「可愛いWorld of Warcraft」という評価を得て,人気が急上昇しています。
4Gamer:
なるほど,可愛いものに興味があるのは,日本も中国も同じなんですね。しかし現状ではまだ,多くの日本人にとって,PvPやRvRはウリにならないでしょう。何か,日本で展開するにあたって,工夫したことはありますか?
キム・ヨンマン氏:
まず,アイテムの選別です。実は,ゲーム内やコミュニティサイト,ブログなどを通じて,どういうアイテムに興味があるのかを細かく調査してきました。その結果を基に,アイテムを選別しました。
もちろん価格に関しても細心の注意を払って設定していますし,また,独自のセットアイテムや,限定アイテムも販売します。具体的には,日本専用のアイテム「シルフィード」「オーディーン」といったものを用意していますよ。
今後も,防具/武器や乗り物など,日本のプレイヤーさんの要望の多いアイテムを準備していく予定です。
ヨンマンさんからそう聞けると,心強いです。ぜひお願いします。それ以外にはどういうものがありますか?
キム・ヨンマン氏:
最近だと,エンターチャットの導入が挙げられますね。これも要望が多く,導入することを決めました。
4Gamer:
要望にすぐ応えてくれるというのは,プレイヤーにとっては嬉しいですね。それで思い出したのですが,「あなたのつまんないを教えて!」というキャンペーン(関連記事)をやられていますよね。どのくらいの意見が集まりました?
キム・ヨンマン氏:
おかげさまで,予想を上回る多くの意見が寄せられていて,驚いているほどです。具体的には,応募者数で,1万7809人との報告をもらっています。
4Gamer:
約1万8000人ですか,それは凄いですね。
キム・ヨンマン氏:
細かな話はいずれ発表させていただきますが,愛のある意見を多数いただきました。中には,ゲームバランスの細かな部分や,アイテム課金に対する提言,新しいゲームシステムの提案など,価値のある,また厳しい意見を多数いただきました。もちろんこれらの意見は極力反映させていまして,サーバー構成やゲームバランスの調整は,数度にわたり実施しています。
4Gamer:
意見を集めるだけで終わってしまっては,意味がないですからね。その意見が反映されていると聞いて,安心しました。しかしHUE,および開発するHanbit Softとしては大変な部分もあるんじゃないでしょうか。
キム・ヨンマン氏:
実をいいますと,このキャンペーンの内容について聞いたとき,私はあまり良いアイデアだとは思えませんでした。というのも,「つまんない」という言葉が,非常にネガティブに感じたからです。そういう部分を集めてどうするんだ,と思っていたのですが……皆さんの意見を見て考え直しました。かなり有益な意見ばかりだったのです。
4Gamer:
ネガティブだと思っていたわけですが,結果として,ポジティブな意見が多かった,と。
キム・ヨンマン氏:
そのとおりです。まだβテスト中だったわけですが,本来の意味での「品質改善のためのテスト」に回帰できたのではないかと考えています。最近,オンラインゲームではβテスト=無料プレイ期間という風潮がありますが,それではいいコンテンツは作れません。今後もこういったプレイヤーさんの意見を反映する機会を定期的に設けて,よりよいネオスチームに成長させていきたいと考えています。
4Gamer:
具体的には,どんな意見がありましたか?
キム・ヨンマン氏:
とくに多かったのが,キャラクターの性別に関してです(編注:ネオスチームでは,ポム以外の種族は選べる性別が固定されている)。ネオスチームの公式サイト内のブログ「すちぃまぁず☆かふぇ」で,イラストレーターの李(すもも)さんが,「李版 NEO STEAMキャラクター」として,存在しない種族/性別の組み合わせのイラストを描いているのですが,それを実現してほしいという意見が,もう本当にたくさん来ていますね。
4Gamer:
お,それはいいですね。実現する可能性はどれくらいあるものなんでしょうか。
キム・ヨンマン氏:
実現するかどうかは韓国の開発チーム次第ですが,もちろん打診はしてありますよ。
ヒューマンの女性やエルフの男性の実装は,いつとは言えませんが,前向きに検討していますので,いつかは皆さんの前にお見せできるのではないでしょうか。
4Gamer:
分かりました,期待しています。ほかには,どんな意見がありましたか?
キム・ヨンマン氏:
そうですね,例えばバルーンに乗りながら戦闘できるようにしてほしい,というアイデアもたくさんありましたね。
4Gamer:
確かに,これまたキャンペーン名とは裏腹な,ポジティブな意見ですね。このキャンペーンは,ゲームを面白くする方向に働いたといって良さそうですね。
キム・ヨンマン氏:
はい,そのとおりだと思います。皆さん,熱の入った意見が多く,運営および開発チームの一員としてネオスチームに参加していただいていると考えています。
4Gamer:
この「あなたのつまんないを教えて!」は,「ユーザー参加型運営制度」の第一弾として発表されていましたよね。第一弾が成功したとすると,第二弾,第三弾についても気になるところです。どういったことを考えられていますか?
キム・ヨンマン氏:
具体的な内容/日程は未定ですが,オフラインでプレイヤーさんの意見を直接聞ける場を設けたいと考えています。今度は直接話し合って,意見を汲み上げたいと思います。
4Gamer:
その場にはキムさんも?
キム・ヨンマン氏:
開発者達も韓国から呼んで,にぎやかにやりたいですね。
4Gamer:
それはいいですね。期待しています。
キム・ヨンマン氏:
もちろん,第一弾である「あなたのつまんないを教えて!」もまだ終わったわけじゃないですよ。少なくとも私どもには,いただいた意見を反映させるという仕事が,まだまだ残っています。ネオスチームは,毎週毎週アップデートで少しずつ変化しています。現状にまだ不満があるという人も,ぜひ長い目で見てほしいですね。
■ネオスチームの今後
不満の話が出たところで,単刀直入に伺います。翻訳の質がまだまだ低いと言われていますが,これは改善されるのでしょうか?
キム・ヨンマン氏:
はい,確かにそういう指摘が多いことは認識しております。そのため,今,重点的に取り組んでいます。ネオスチームは今,毎週火曜日にアップデートを行っているのですが,毎週毎週,できる限りの修正を施していますので,もうしばらくお待ちください。
ちなみに,順番としては,低いレベルのキャラクターに関連する部分のテキストから順に直しています。
4Gamer:
まだ誰も到達していないようなレベルのメッセージばかり直しても意味ないですものね(笑)。では続いて,3国目「タクシャン」の実装時期についても教えてください。
キム・ヨンマン氏:
今ある二つの国家の競争,対立構造を安定させてから,3国目を実装したいと思っています。そのため,今の時点ではいつとは言いづらいんですよ。
4Gamer:
3国にするまえに,2国でのRvRがきちんと整備される必要がある,ということでしょうか。ネオスチームはRvRも特徴の一つだということですが,実際のところ,まだそういう部分はあまり前面に押し出されていないですよね。
キム・ヨンマン氏:
ええ,そうですね。RvRにも改善の余地がまだまだあると思っており,実は現在,より高度なRvRシステムの開発を進めています。今回追加した「ロフアイル」にも,その一部――攻城戦を実装する予定ですよ。
ただ敵対国家と争うだけではなく,その意義にも注目してコンテンツ開発を行っています。
4Gamer:
こちらの本格実装も,いつとは言いづらいですか?
キム・ヨンマン氏:
まだどこにも話していないのですが,せっかくですのでお話ししましょう。12月頃には,日本でRvRの全貌をお見せできます。ぜひご期待ください。
4Gamer:
お,意外とすぐですね。ではもう開発の追い込みという段階ですか?
キム・ヨンマン氏:
ロフアイルでの攻城戦のシステムは,韓国で最終調整段階です。ここは,本作におけるエネルギー“ネオスチーム”が埋蔵されている土地。領土を獲得していくことで,より多くの“ネオスチーム”が手に入るようになるんです。
4Gamer:
なるほど,それは確かに,RvRに対する強いモチベーションになりそうですね。
ほかに何か,今後の予定で教えていただけるものはありますか?
キム・ヨンマン氏:
日本のプレイヤーさんからは,コミュニティに関する要望も多く来ていますので,そのあたりの発表も近いうちにできればと思っています。
4Gamer:
分かりました。こちらも期待しています。
さて,ゲームの内側ではなく,外側についても聞かせてください。今大きな問題となりつつある,RMTやチート,BOTに関して,いかがお考えでしょうか?
キム・ヨンマン氏:
非常に深刻な問題だと考えています。RMTにおける一番の問題は,BOTやチートといった,ゲームバランスに影響する不正行為につながることです。また個人間での取引では,詐欺といった問題にも発展していきます。こういった悪影響を及ぼす行為に対して,厳しく取り締まっていくつもりです。
とくに日本では,韓国と違って「匿名会員登録」によるゲームプレイが可能となるため,より一層の注意を払っています。
4Gamer:
具体的には,どういった対策を考えていますか?
キム・ヨンマン氏:
プレイヤーからの報告によるトラッキングを行っています。そのほか,ゲーム内通貨の急激な増加や,多額のゲームマネー取引の追跡調査なども行っています。もちろん,ID凍結をはじめ,IP制限や不正ツール利用防止ツールの適用なども行っていますよ。
4Gamer:
分かりました。大変だとは思いますが,非常に重要な部分ですので,ぜひがんばってください。では最後に,4Gamer読者に向けて,コメントをお願いします。
キム・ヨンマン氏:
長らくお待たせいたしましたネオスチームですが,ようやく船出を迎えることとなりました。これもテストに参加していただいた皆さん,協力していただいたパートナーの皆さんのおかげだと思っています。本来ならば多くの皆さんと直接お会いしたいと思っているのですが,この場をお借りして感謝の気持ちを伝えたいと思います。本当にありがとうございます。そして,これからも成長するネオスチームをどうぞよろしくお願いいたします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
今回,その忙しい合間を縫って,こちらの質問に真摯に答えてくれた。いかに日本でのネオスチームの展開に,熱意を持っているかが分かるというものだ。
なお,せっかくキム氏が来ているということで,簡単にグラナド・エスパダ,With Your Destiny IIの今後についても聞いてみた。グラナド・エスパダのほうは,11月,12月に,かなりのボリュームのあるアップデートを予定しているとのこと。With Your Destiny IIでも,すでにプレイをやめてしまった人を呼び戻したり,新規加入を増やしたりするための施策を準備しているそうだ。
運営会社として新参者だったHUEも,ふと気づけば3作目。ここからが正念場だ。巨大な韓国本家のプレッシャーに負けずに,確実に運営会社としての実績を積み上げていくことに期待したい。
(10月20日収録)
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