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[SIGGRAPH]恒例の「Electronic Theater」2011年版レポート(前編)。世界最高峰のCG映像作品に感動せよ
SIGGRAPHは,「CGやそのインタラクティブ技術の学会」だが,映像を取り扱うイベントということから,毎年,映画祭的なイベントも併催されている。
SIGGRAPH自体は,現在のようにCGが市民権を得るはるか昔,1974年から開催されているのだが,CAFのように映画祭的なイベントが併催されるようになったのは1982年から。その当時は,「Film & Videotape Shows」(フィルムとビデオテープのお披露目会)という名前だったそうだ。
Film & Videotape Shows時代の作品は,今でいう「GPUのテクノロジーデモ」の原始版といったような作品ばかりだった。しかし,昨今のCAFでは,CG研究者だけが投稿するわけでなく,広く公募もされている。そのため,大学生からフリーランス・アーティスト,ILM(Industrial Light & Magic)やPixar Animation Studiosといった最大手のハリウッドスタジオまでもが投稿してくるため,クオリティの高い作品も数多く集まるのである。
公募で集まった作品群は,CAF審査委員会が内容や技術,芸術面などの各視点で評価し,その中で選ばれた入選作がSIGGRAPH会場の特設シアターで上映される。ちなみにCAFは,権威あるCGコンペティションとして認知されており,CG業界に従事する技術者,作家にとって,入選するということは大変名誉なことだとされる。
SIGGRAPH事務局の発表によれば,2011年の応募数は891作品。このうち77作品(44か国)を入選作としたとのこと。
これら入選作の中でも,CAF審査委員会によってさらに選りすぐられた作品が「Electronic Theater」(エレクトロニックシアター,以下 ET)で上映される。ET入選作ともなると,CAF入選よりもさらに名誉なことになるのだ。
どのプロジェクタで上映されるのかを毎年楽しみにしている映像機器好きの筆者なのだが,今年のET上映に用いられたプロジェクタは,Christie Digital Systems製「CP2230」。3板式DLPプロジェクタで,解像度は“フルHD+”とされる2048×1080ドット,ランプ出力6600W,輝度32000ルーメン,コントラスト比2000:1といった高いスペックを誇る。
左のプロジェクタがCP2230。右は,PCの映像を表示するため用いていたBarco製プロジェクタ(型番不明) |
2011年のET上映会スポンサーはWalt Disneyだった |
というわけで今回は,上映された作品の中から,とくに印象的だったものをピックアップして前後編でお届けしたい。
Cdak
〜Bent Stamnes/Scene.org
公式サイトから実行ファイルを入手することもできるが,自己書き換えなどのありとあらゆる怪しい技法が駆使されていると思われるため,ダウンロードするときは注意しておこう。
Chernokids
〜Annabel Sebag/Premium Films
フランスのCG関連名門大学「Supinfocom Arles」出身アーティストによって制作された本作は,テーマそのものが重いこともあるが,暗いトーンが,固く閉ざされた子供達の心の闇を表している。原発大国であるフランスが,原発をどう考えているのかを窺い知れる(?)作品でもある。
DreamGiver
〜Tyler Carter/Brigham Young University
今夜も夢を運ぶ妖精が子供達の枕元にやってきた。宇宙飛行士,バレリーナなど,子供達の将来の夢を次々と夢の中で叶える妖精だが,ちょっとした不注意で少年を悪夢の世界に送ってしまう……というストーリーだ。
セルシェーダ的なアニメタッチと,Pixar Animation Studiosの作品でよく見られるようなラジオシティ系の淡いタッチとをうまく織り交ぜて幻想的な世界を表現。下に掲載したムービーは,本作品のメイキング映像だ。
Halo Reach
〜Natasha Tatarchuk/Bungie Studios
Hezarfen
〜Annabel Sebag/Premium Films Distribution
人類初の飛行を試みる発明家の男は,自前の飛行装置を身に付けて飛び立とうとするものの,高所恐怖症のために飛び立つことができない。そんな彼の臆病で情けない行動がきっかけとなって,街全体で大騒乱が勃発してしまうという内容のムービー。発明家の男よりも鶏の行方が気になってしまうストーリーテリングもお見事だ。
IMAX Hubble 3D Visualization Excerpt: Journey into the Orion Nebula
Frank Summers/Space Telescope Science Institute
ハッブル宇宙望遠鏡から取得した解析情報や,世界各国の天文学者達の最新研究を基に,「オリオン座三連星の位置に見えるオリオン大星雲へと一人称視点で飛び込んでいく仮想的な宇宙旅行」を描いたCG映像になっている。
オリオン大星雲の中に確認されているという原始惑星系円盤に急接近し,恒星系の形成初期段階を間近で観察できるので,宇宙に興味がある人ならば先端研究を一人称視点で体験でき,宇宙に興味がない人でも幻想的な映像体験ができる貴重な作品だ。
La Luna
Chris Wiggum/Pixar Animation Studios
2010年の作品では,昼と夜のコミカルな能力自慢が描かれていたが,今年の作品は月がテーマだ。
主人公の少年は,父親とおじいさんに連れられ,小舟で地平線の果てに辿り着く。この世界で,一人前の男になるには,「月の掃除」ができるようにならなければならないようだ。父親が地平線から昇った満月にハシゴを掛け,少年は,勇気を振り絞ってハシゴを登る。心配そうなおじいさんに見守られつつ月に辿り着いた少年は,月面上で無数に散らばっている星屑を目の当たりにして思わず息を飲む。月の掃除とは,この星屑を掃除することなのだ。
アイディア満点の着想と,驚きと感動に満ちたラストのまとめ方は,「さすがPixar Animation Studios」といった感じ。
今年も,例年どおり,ほぼ無声映画になっており,言語の壁を超越して感動できる作品になっていた。導入部のみ公開されているので下に掲載しよう。
公式サイト→
http://www.pixartalk.com/2011/05/new-pixar-short-la-luna/
Portal 2: Turrets
Lars Jensvold/Valve Corporation
ET入選作品であるPortal 2: Turretsは,Portal 2に登場する架空の軍需産業企業Aperture Scienceが,同じくPortal 2に登場するTurret(機銃装置)を民生向けに改良して発売するというCM映像だ。通販番組チックに,Aperture Science CEOのCave Johnsonが声高らかに機銃装置の性能と外観バリエーションの豊富さを「物騒なこの世の中,大事な赤ちゃんのゆりかごの隣に置いてみては?」とアピールする内容になっている。
惜しくもETには選ばれなかった「Portal 2: Bot Trust」という作品も紹介しておきたい。CAFのみに入選した作品もPortal 2に登場するロボットにスポットをあてた,架空CMスタイルの作品になっている。「人間は裏切るけど,ロボットは機械だから裏切らない」と力説するCave Johnson。「高度なロボットならなおさらだよ」とアピールするが,お決まりともいえるラストシーンは,笑わずにいられない。
後編では,SIGGRAPHのCAF審査委員会が選んだ優秀作品を中心に紹介していく。
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