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[SIGGRAPH]秀逸な映像作品が集まる「Electronic Theater」レポート(後編)。今年の最優秀作品は日本人監督による「Reflexion」
秀逸な映像作品が集まる「Electronic Theater」レポート(前編)。ゲームからは「DiRT」シリーズのオープニングが入選
SIGGRAPH 2012事務局の発表によれば,今年のCAFでは,43か国から601作品の投稿があり,そのなかから94作品をCAF入選作品として選定したとのこと。そこからさらに絞り込まれた22作品が,Electronic Theater入選作として上映されることになっていたが,実際には,この22作品に加えて,10作品ほどが選定外作品として上映されていた。
選定外作品として上映されたのは,Industrial Light & Magic(ILM),Sony Pictures Imageworks,Weta Digital,Tippett Studioといった一流スタジオから寄稿された,商業映画作品のVFXメイキング映像。なかでも,1番人気があったのは,Walt Disney Animation StudiosによるCG映画「塔の上のラプンツェル」(原題「Tangled」)の“その後”が描かれたショートフィルム「Tangled Ever After: The Rings」だ。
Tangled Ever After: The Ringsの全編は,10月24日発売予定の「シンデレラ・ダイアモンドコレクション」に収録されるとのことなので,気になる人はチェックしておくといいだろう。
それでは,SIGGRAPH 2012のElectronic Theaterで上映された優秀作品を順番に紹介していきたい。
Reflexion
by 田村義道氏ほか,PLANKTOON,フランス
SIGGRAPH 2012のElectronic Theater最優秀作品は,日本人のアニメーター田村義道氏が監督を務めるPLANKTOONスタジオのReflexionだ。今日は楽しみにしていた彼氏とのデートの日。おめかしを決め込もうとする彼女は,雑誌モデルの化粧を参考に気合いを入れてメイクを始めるが,どうしてもうまくいかない。化粧がうまくいかないのは自分のせいではなく,鏡の中に映る自分が原因だと思い込み,鏡の中の自分とケンカを始めるのだった。
約束の時間になってお迎えに上がった彼氏は,出かける準備どころか,顔に落書きのような大失敗メイクをしている彼女を目の当たりにする。そして彼氏は……。というのが本作の大まかなストーリーだ。
グローバルイルミネーションによる豊かな環境光を与えながら,拡散反射を支配的にした油彩のようなテイストのシェーディングが印象的な作品となっている。
ところで,この作品,女性の表情やアクションがDisney風に見えなかっただろうか。それもそのはず,本作の監督である田村氏は「Hercules」「Tarzan」「Atlantis: The Lost Empire」「The Jungle Book 2」といったDisney映画のアニメーターを務めていた経歴の持ち主なのだ。
Estefan
by Jeff Call氏ほか,Brigham Young University,アメリカ
Estefanは,SIGGRAPH 2012のCAFで最優秀学生作品賞を受賞した作品となる。
キザでイケメンな美容師Estefanは,どんな女性でも美しい髪に仕上げてしまうことから,市内の女性全員が憧れているという人物。今日もキザな準備運動を終えて,腕を見せようと気合いを入れるが,本日のお客さま第1号はなんとツルッパゲで髪のない女性だった。はたしてEstefanはこの女性の髪(?)をどう仕上げるのだろうか。
本作は,Brigham Young Universityの学生による作品だ。制作チームの中心的人物となるJeff Call氏は,2011年にSony Pictures Animationでのインターンシップを体験し,「Men in Black 3」の制作に参加したという経歴を持つ,将来有望な人物。Estefanでは,ストーリー構成と監督を務めている。Call氏の公式サイトでは,彼が携わった過去のプロジェクトを参照することができるので,気になった人はチェックしてみるといいかもしれない。
Estefanは,Pixar Animation Studios風のタッチやシェーディング,そして極度にデフォルメされたキャラクター達のアニメーションに目を奪われがちだが,音楽とのシンクロニシティも秀逸な作品となっている。
残念ながら本編はインターネット上に掲載されていないのだが,プロジェクトに携わったアニメーション担当の学生が制作途中の様子を公開している。下に掲載したムービーがそれだ。
Estefan Walk from Aaron Ludwig on Vimeo.
How To Eat Your Apple
by Erick Oh,Pixar Animation Studios,アメリカ/韓国
審査員特別賞を受賞したHow To Eat Your Appleは,韓国のソウル大学で学士を取得後,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で修士を取得し,現在Pixar Animation Studiosに籍を置くErick Oh氏による作品だ。
独特のシュールレアリズム調で描かれるOh氏の世界観は,学生時代の作品からも多くの支持者を集めていたという。
さて,How To Eat Your Appleは,リンゴの果肉が独自の超現実的な生態系を生み出して,リンゴの果肉を奪い合い,最終的には芯だけになって倒れてしまうという内容になっている。映像だけを見ると,ただのメタモルフォーゼ・アニメーションのように見えるかもしれないが,地球を食いつぶす人類に対してのシニカルな視点を描いているのかも……という深読みができてしまうあたりに独特な魅力があるといえそうだ。
How To Eat Your Appleの本編はインターネットで公開されていないが,予告編を下に掲載したので,見てみてほしい。また,Oh氏の公式サイトには,氏の作品が多数掲載されているので,興味がある人はそちらもチェックしてみよう。
How to eat your Apple (teaser) from Erick Oh on Vimeo.
Release Your Imagination
by RealtimeUK,イギリス
Electronic Theaterレポート前編で「DiRT 3」のオープニング映像が入選したとお伝えしたが,このRelease Your Imaginationも,同じCGプロダクションRealtimeUKによるショートムービーだ。本作の舞台は,規律正しく寸分違わずに同じリズムで人々や物が動くモノクロな世界。そのなかで,唯一,リズムに従わない少年は,規律正しく動く人々にドラゴンの模型を衝突させて落としてしまう。落ちたドラゴンの模型はロケットに変身し……というのが本作のプロローグ。
主人公の行動によって,モノクロな世界の街や人々が色彩を取り戻していく様は,THQのアクションゲーム「ブロブ:カラフルなきぼう」を彷彿とさせる。
モノクロ世界の描写は,単にテクスチャが適用されていない“素”ポリゴン世界なのかと思いきや,新聞の誌面のような文字テクスチャページがきめ細かく適用されていたり,塗り壁のような細かい凹凸がある表面になっていたりと,実は「入念に作り込まれた単調世界」なのだ。RealtimeUKのプロモーション映像的な位置付け作品のためなのか,短い作品ながら,練り抜いた世界観に対する主張が見え隠れする。
RISING
by Groupe Mikros Image,フランス
RISINGは,フランスのCGプロダクションスタジオGroupe Mikros Imageによる作品で,ドバイ国際映画祭のオープニング映像向けに制作されたものだ。
光り輝く体毛を有した毛虫が光を追い求め,のちにさなぎとなり,妖艶な蝶に変態して飛び立つというシーケンスで構成されている。
映画祭のオープニング映像に向けて作られたということもあって,ストーリー性はほぼ皆無。映像美だけを楽しませる作品となる。神秘的な電気信号だけが支配している仮想空間のような世界で,実在しそうなほどリアルに描かれた毛虫が蝶に変身していく様は,実際に美しいと感じられた。
なお,Groupe Mikros Imageは,撮影後の映像に対するポストプロセスを得意としているため,作中に過剰なまでの被写界深度表現やボリューメトリックライトの表現が散見される。もしかすると,さりげなく自社の実力を誇示しているのかもしれない。
“Little Talks” - Of Monsters and Men
by WeWereMonkeys,カナダ
Electronic Theaterでは,ミュージックビデオが入選を果たすことがしばしばある。この“Little Talks” - Of Monsters and Menもそういった作品。アイスランドの6人組バンドOf Monsters and Menの「Little Talks」という曲のミュージックビデオだ。Of Monsters and Menは,2010年度に行われたアイスランドの音楽コンペで優勝したことがある実力派の新興バンドで,2011年には,全米デビューを果たしている。
彼らの代表曲となるLittle Talksのミュージックビデオを手がけたのは,カナダのCGプロダクションスタジオWeWereMonkeysだ。
“Little Talks” - Of Monsters and Menでは,モノクロの世界に突如,空から降ってきた隕石が降ってきて,たまたまそれを見かけた空飛ぶ海賊船の乗組員達5人が,そのなかから現れた美しい妖精と対面し,魔物達から妖精を守りつつ,「妖精が帰るべき場所」を目指す,というストーリーが描かれている。
5人の船員と妖精は,メイクアップしたOf Monsters and Menのメンバー達で,彼らの顔の演技だけを取り込み,CGで描いた身体を合成したもの。CGで作り出した幻想的な世界で,それらを演技をさせているのだ。
そのため,本作はCGアニメーション作品であると共に,CGポストプロダクション作品でもあるのだ。メイキングの様子が公開されているので興味がある人は確認してみるといいだろう。
ちなみに,WeWereMonkeyは,ミュージックビデオ制作を得意としており,Of Monsters and Men以外のミュージックビデオも公式サイトで公開している。
WeWereMonkeys : Of Monsters and Men - Little Talks from WeWereMonkeys on Vimeo.
Herr Hoppe und der Atommull
by Jan Lachauer & Thorsten Loffler(共同監督),Filmakademie Baden-Wurttemberg,ドイツ
最優秀学生作品賞次点を受賞したHerr Hoppe und der Atommullは,ドイツの名門映画学院Filmakademie Baden-Wurttemberg出身となるJan Lachauer氏とThorsten Loffler氏の共同監督作。Herr Hoppe und der Atommullを日本語に訳すと「ホッペおじさんと核廃棄物」ということになる。何というか,今の日本だと手が出しにくいシニカルなテーマ性を持った作品だ。
ホッペおじさんのところに何の前触れもなくやってきた核廃棄物に,彼が悪戦苦闘するというコメディタッチのショートムービーになっており,ペーパークラフトと油粘土によるストップモーション風に仕上げられている。いくつかのエピソードが制作されていて,Electronic Theater会場でも,3作品が上映されていた。
どうしても核廃棄物を捨てたいホッペおじさんが,さまざまな方法でどうにかしようと試みるが,結局自分のところに戻ってきてしまう。もともと自分のものではないのに,どうしてこんなに苦労するのか……という感じのオチが繰り返される。そんな様子がLOONEY TUNESのWile E. CoyoteとRoad Runnerの雰囲気によく似ている印象だ。ちなみに公式サイトでは,全編が公開されている。
Rosette
by Gael Falzowski氏ほか,Supinfocom Arles,フランス
Rosetteは,CAF常連となるフランスのCG関連名門大学,Supinfocom Arlesの学生による作品。「Well Told Fable Prize」(よくできたおとぎ話で賞)というElectronic Theater特別賞を受賞している。
とある肉屋さんが,常連客の美しい女性にプロポーズする様子を描いた本作。肉屋さんが手渡したのは花束ではなく“肉束”。肉屋さんも肉が好き,美しい新妻もお肉が好き。二人は“肉”欲におぼれ,その結果,“肉”の塊の赤ちゃんが産まれるのだった。はたして,この家族の運命は……。
登場人物の表現が,皮膚の表面下散乱や髪の異方性反射をうまく使って非常によくできているが,何よりも特徴的なのが。肉製品へのこだわった表現。サラミやら生ハムやらが学生作品とは思えないほどリアルに再現されており,やや緑色に寄った油の質感も物語進行によって美味しそうに見えたりグロテスクに見えたりするのが面白い。
Rosette (Extrait) / Supinfocom from Supinfocomgroup on Vimeo.
Animation Showreel 2011 - Gael Falzowski from Gaël Falzowski on Vimeo.
秀逸な映像作品が集まる「Electronic Theater」レポート(前編)。ゲームからは「DiRT」シリーズのオープニングが入選
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