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印刷2008/02/13 11:58

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宇宙の海は星の大海(同義反復) 第32回:『レンズマン』→宇宙艦隊戦モチーフ

 

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『レンズマン・シリーズ1 銀河パトロール隊』
著者:エドワード・エルマー・スミス(E.E.スミス)
訳者:小隅 黎
版元:東京創元社
発行:2002年1月
価格:882円(税込)
ISBN:978-448603168

 

 とかくSFはサブジャンルが多い。「サイバーパンク」や「ハードSF」といった分類用語は,読者もよく目にすることと思う。そうしたSFのサブジャンルのなかで,古くからあり,なおかつ一般的にイメージされるSFの類型に近い「宇宙を舞台にした」物語の一ジャンルが「スペースオペラ」だ。
 スペースオペラの発祥は古く,1911年発表のE.R.バロウズ作「火星シリーズ」あたりが元祖とされている。当時はSFといっても科学理論的趣向は二の次で,とにかく「宇宙を舞台に」「ヒーローが活躍する」小説であった。スペースオペラという呼称も元来,三流西部劇を意味する「ホースオペラ」(この言葉自体,おそらくソープオペラのもじりだが)のもじりであり,馬でなく宇宙船を駆り,拳銃の代わりに光線銃を持ったヒーローが活躍する冒険活劇という位置付けであった。
 例によって前置きが長くなったが,このスペースオペラのターニングポイントであり,マスターピースともいえるシリーズが二つ,1930年代後半から1940年頃までに発表されている。一つはE.ハミルトン作の「キャプテン・フューチャー」であり,もう一つが今回のお題であるE.E.スミス作の『レンズマン』シリーズである。「キャプテン・フューチャー」は1978年,『レンズマン』は1984年に日本でアニメ化されているので,名前を知っている人も多いだろう。
 このうちとくに『レンズマン』は,それまでの「宇宙冒険活劇」の枠を超え,しっかりした科学考証(もちろん発表当時のテクノロジーレベルを基準としたものだが,先に述べたとおり,そもそも当時のスペースオペラでは科学考証がなきに等しいものも多かった)や一人のヒーローに留まらない「組織」の活躍,さらには壮大なスケールの宇宙艦隊戦など,以降のSFに大きな影響を与えた作品である。

 例えば「スター・ウォーズ」とのバックボーンの類似はよくいわれる話である。レンズマンに当たるエリート戦士としてのジェダイ,彼らの使う「精神エネルギー」と「フォース」,さらには主人公を導く師となる存在(アリシアのメンターとヨーダ)などなど,非常に似通った構図を持っている。「もともとジョージ・ルーカスはレンズマンの映画化を考えていたが,許可が下りなかったので,アレンジしてスター・ウォーズにした」という俗説まであるくらいだ。

 大規模な宇宙艦隊同士の戦闘なども,それまでのスペースオペラでは珍しかった要素で,シリーズが進むにつれて,その規模は大きくなっている。これは,主人公のキムボール・キニスン(キム)がそれまでの一匹狼的なヒーローではなく,銀河パトロール隊という組織の一員であり(とはいえ,物語が進むと組織内のヒーロー的な存在になるのだが),敵となるボスコーンも大規模な宇宙海賊組織であるため,必然的に描かれたものといえよう。
 銀河大戦というべき規模になるシリーズ後半では,現代海軍の戦闘でCICに当たる装備を使って戦域全体を管制し,指揮を執る銀河パトロール艦隊旗艦「ディレクトリクス号」,超兵器ともいうべき「負の球体」(ネガスフィア)や「誘導惑星」など,さまざまなSF的アイデアが盛り込まれ,非常に密度の高いストーリーが楽しめる。これが執筆された1940年代には,当然ながらCICのようなものはなかったので,文学が現実的要請の先を描いた好例ともいえる。

 もともとは「宇宙西部劇」であったスペースオペラが「宇宙を舞台にしたドラマ」として発展する端緒になったという意味で,『レンズマン』はターニングポイントなのである。後に続いて,海洋冒険小説の手法や「演義もの」のテイストを取り入れた作品など,さまざまなパターンの「スペースオペラ」が登場するわけだが,その発達の原点になったのだ。

 レンズマンと,その敵であるボスコーンには,それぞれ高度な精神文明を持った種族が力を貸しており,彼らの戦いは,その2種族アリシア人とエッドア人の代理戦争として展開している。これはファンタジー作品でも見られる構図であるから,その後の世相の反映と見るのは,少々うがちすぎかもしれないが,少なくともファンタジー作品よりSF作品で扱われたほうが,生々しい気はする。

 このように,スペースオペラの完成度を高め,それまでのB級エンターテインメントから,ある程度高度な鑑賞に堪えるものとして確立,広く後進が登場するための道筋を付けたのが『レンズマン』だといってよい。先に述べたように,スター・ウォーズやそのほかのSF作品への影響は大きいし,各種宇宙艦隊ものストラテジーゲームから見ても,原点といえる作品である。

 正史といえる『銀河パトロール隊』『グレーレンズマン』『第二段階レンズマン』『レンズの子供たち』の4冊に加え,レンズマンの誕生を描く『ファーストレンズマン』,銀河パトロール隊の発足に至る経緯を扱った『三惑星連合軍』,そしてサイドストーリーである『渦動破壊者』の7冊が,日本では長く親しまれてきたものの,残念なことに近年は絶版状態であった。
 その絶版の小西 宏氏訳に代わって,2002年から小隅 黎氏による新訳版が発行されている。ストーリーの構成などは典型的な勧善懲悪型であり,いささか時代を感じさせる部分もあるが,登場するアイデアやガジェットなどは,まさに現在のSFに通じるものばかり。すべてのSF作品を楽しむに当たり,まず押さえておくべき古典の一つであることは明らかで,現在となっては,SFガジェットの多くが1940年代にかなり出揃っていたことに驚ける1冊でもある。

 

宇宙時代の社会が,かえって政治的に退化している点について

いや,だからって「1984」みたいに描かれてもねえ。

 

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■■田村眞治(ライター)■■
銃器,SF,武道と,広いんだか狭いんだか分からない分野に深く通じ,とくにその精神性にこだわりを持つPCゲームライター。関心分野と連動しつつ,ドキュメンタリーやハードSF,ミステリ小説など,カバーエリアは広いのだが,執筆姿勢はいたって慎重。もっと書いてくださいよ〜。
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