インタビュー
「Adrenalin Edition」でも中間アップデートは予定あり。AMD担当者に聞く「Radeon Software」の現状と今後
Adrenalin Editionで何が変わったのかは,同時に掲載している別記事を参照してほしいが,4Gamerでは,国内の報道関係者を対象とする事前説明会に合わせ,Adrenalin Edition,そしてRadeon Software全般について,短時間ながら話を聞くことができた。
AMD本社でソフトウェアマーケティングマネージャーを務めるSasa Marinkovic(サシャ・マリンコヴィチ)氏と,ドライバソフトウェア担当で「CatalystMaker」として知られるのTerry Makedon(テリー・マケドン)氏という,Radeonファンにはお馴染みの2名が語った内容を本稿ではまとめてみたい。
Adrenalin Editionでも中間アップデートを予定
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはAdrenalin Editionですが,Adrenalin Editiondでは,スマートフォンやタブレット端末とRadeon Softwareを連携させる機能「AMD Link」が追加になりました。
Radeon Softwareのリリース以降,「Radeon ReLive」といったように,機能の頭には「Radeon」が付いているのに対し,AMD Linkだけは「AMD」ですが,その理由は何ですか。
なかなかいい質問ですね(笑)。
もちろんAMDとつけたことには理由があります。簡単に言えば,AMD Linkは「Radeonだけに特化した機能ではないのだ」ということを表したかったからですね。
ただ,それ以上の理由となるとロードマップに関わることなので,ここでお答えすることはできません。現時点で言えるのは「実にいいところを付いた質問ですね」ということだけです(笑)。
Sasa Marinkovic氏:
もう1つ別の理由として,「AMD Linkにニュースフィードの機能があるから」というのもあります。このニュースフィードでは,RadeonだけでなくAMD全般の情報を見ることができるので,「Radeonに特化した機能ではない」と強調したかったから,ということがあります。
4Gamer:
GPUを統合した「Ryzen Processor with Radeon Vega Graphics」――Ryzen Mobileが出たので,それと関係した命名なのかな,と思ったりもしたのですが,そうではないと。
Terry Makedon氏:
Ryzen MobileのためにAMD Linkという名前にしたのか,というご質問であれば,答えは「違います」。
AMD Linkという名称にしたこと自体に,深い理由や,何か謎があるわけではありません。「Radeonのアプリケーション」という名前にしてRadeonに特化するのではなく「AMDのアプリケーションだよ」という形にしたかったのです。我々の会社はAMDですから。
4Gamer:
分かりました。では今後の拡張で,「Radeon以外に向けた機能」が追加になることを楽しみにしています。
Sasa Marinkovic氏:
こちらからも質問したいのですが,AMD Linkについてどう思いましたか? ぜひ意見を聞かせてほしいのです。
AMD Linkで接続したスマートフォンから録画を行えるのは素晴らしいと思います。キーボードショートカットよりも簡単で,かつ“誤爆”が少ないでしょうし。
また,またディスプレイのカラー設定を手元のスマートフォンから変更できるのもいいでよね。もちろん,ゲーム中に「Radeon Overlay」でカラー設定を変えられるのもとても便利だろうとは思います。
Sasa Marinkovic氏:
そうですか,それはうれしいですね。
4Gamer:
一方で,エンドユーザーがおそらく疑問に感じるであろう点としては,録画したデータをAMD Link上で再生できない点じゃないかと思います。スマートフォンでサムネイルは一覧できるため,ついタップしてしまいますが,再生はされない。ここは「あれ?」ということになるんじゃないかと。
現状ではシェアしかできないですから。
その気持はよく分かります。ただ,あくまで今のAdrenalin Editionは「Version 1」です(笑)。近いうちにVersion 1.1か,そんな感じの「次の世代」をお見せできるでしょう。
正直に言うと,今のところモバイルアプリ(=AMD Link)をどのくらいの頻度で更新していくか,まだ決まっていません。モバイルアプリを今後,どのように更新していくかは,ユーザーのニーズを見ながら決定していくことになると思います。
まだAdrenalin Editionは生まれたての赤ちゃんのようなものですから、今後の成長を見ていただければありがたいです。ただ,我々は常にユーザーの声に耳を傾けていますから,Adrenalin Editionがユーザーの要望に合わせて成長していく,という点はお約束できます。
4Gamer:
期待しています。
次に,Radeon ReLiveにおけるオーバーレイ機能についてです。端的に述べて,GPU負荷が上がりそうだなという印象がありました。説明会で言及がありませんでしたが,ここは「上がる」という理解でいいでしょうか。
Terry Makedon氏:
はい,上がります。ただし,それほど大きく負荷があがるわけではありません。これはベンチマークを取っていただければ分かるでしょう。
4Gamer:
Adrenalin Editionの今後についても,話せる範囲でいいので聞かせてください。というのも,ユーザーとしては,それこそCrimson ReLive Editionのような中間アップデートが入るのか否かが気になるというのがあるからです。
Crimson ReLive Editionでは,7月に「Enhanced Sync」を含む,やや大規模のアップデートがありましたよね。今回のAdrenalin Editionでも,そういったものを予定しているのでしょうか。
Terry Makedon氏::
はい。我々は,年に1回の大型リリースと,年に1回の中型のリリースを計画しています。
我々の目標には,既存のものをより良くしていくというものと,まったく新しい機能を実装していくという2点があります。既存のものをより良くしていのが中型のリリース,そして大型のリリースでは,これまでにない新しい機能を実装していくという格好ですね。
4Gamer:
7月にCrimson ReLiveに実装されたEnhanced Syncは,非常にインパクトがある新機能だったわけですが,あれはあくまでも「改善」のアップデートだったと。
Terry Makedon氏::
ええ。
4Gamer:
それを踏まえてですが,現時点におけるAdrenalin Editionの改善計画を伺うことはできますか。
Terry Makedon氏:
どんな機能を実装するのか,細かいことはお話しできませんが,もちろんRadeon Softwareについてのロードマップは持っていますよ。実際,我々はすでに3〜4か月前から(中間アップデートにおける)新たな機能ついて取り組みを始めています。
我々は,たいてい実際の展開よりも12〜18か月前の時点に計画を立てて,実装に向けた検討と開発を進めていきます。実際,今回のAdrenalin EditionにおけるAMD LinkやRadeon Overlayといった機能も,12か月以上前から開発を始めて,今回実装できた機能なのです。
Windowsのサポートはユーザーニーズで決めている
4Gamer:
ここからはRadeon Software全般について伺っていきたいと思います。まず,Radeon RX Vegaシリーズについてですが,ドライバレベルにおけるパフォーマンスの最適化,とくにグラフィックスメモリ周りの最適化の進捗について教えていただけませんか。
Terry Makedon氏:
我々はあくまでもソフトウェア担当なので,ハードウェア側で何が進行しているのかは分かりません。
4Gamer:
つまり,ハードウェアレベルの最適化をドライバを落とし込むときは,ソフトウェアではなくGPUのチームが動いていることですか。
Terry Makedon氏:
最適化と一口に言っても,さまざまな分野があります。たとえば,BIOS(=VBIOS)やファームウェアの最適化がありますし,文字どおりのドライバ最適化もあります。そのほかに,ゲームエンジン側の最適化や,ゲームそのものの最適化もあります。
どのエリアの最適化になのかによって社内の異なるチームが当たっています。フレームレート以外の最適化もありますからね。
Terryがいまお話ししたとおり,我々(ソフトウェアチーム側で)具体的な情報は持っていません。ただ,社内で聞いている限りでは,Vegaの最適化は順調に進んでいるということです。新しいゲームが展開されるたびに,Vegaではリリースのときから最適なドライバが提供できているようですね。
4Gamer:
なるほど,「ドライバの最適化」にもいろいろあるということですね。
次はちょっと細かい質問で,以前からの疑問だったことです。Radeon Softwareのドライバパッケ―ジは,バージョンが「17.40.2511」のような形式になっています。17.40が大きなバージョンを示すことは分かるのですが,末尾の4桁にはどんな意味があるのですか。
Terry Makedon氏:
末尾の数字は純粋に社内用の番号です。この番号は,我々の「パッケージ作成システム」が,パッケージに収容するバイナリを取ってきて最終的に生成するとき,自動的に割り当ている数字です。
テクニカルサポートが参照するときにこの数字が必要ということで表示していますが,エンドユーザーの皆さんは「17.40」をバージョンとして理解してほしいというのが我々の考えです。
4Gamer:
なぜいまの質問をしたのかというと,何年か前にTerryさんが「Hotfixで修正した内容が次のWHQL版に反映されるタイミングはまちまちだ」とおっしゃっていたからです。
現在はHotfixではなく,WHQL版とOptional版がリリースされていますが,パッケージの番号は出るたびに新しくなっているようです。ですので,HotfixからOptional版に切り替わった現在,新しいドライバは基本的に,より古いドライバの修正内容をすべて含むのではないかと考えているのですが,いかがでしょう。
その話はよく覚えていますよ。確かにそうお話ししましたね。
ただ,去年だったかな,Hotfix版はβなのか否かというご指摘をいただいて(笑),それでOptional版というように名称を変えましたが,現在,すべてのOptional版は,過去のOptional版の内容を含んでいます。
4Gamer:
ああ,やっぱり。
Terry Makedon氏:
たとえばOptional版が1,2,3と続いたとしましょう。このときOptional版2はOptional版1の内容をすべて含みますし,Optitionl版3は2と1の内容を含みます。
これは先ほどのバージョン番号にも関連してきますが,WHQLの内容を更新するときに「17.40」や「17.30」というバージョン番号を与えて,新しいバージョンが始まったということを表していますね。
4Gamer:
バージョンについてはもう1つあって,Optional版が,数日から1週間程度でWHQLに昇格していることがありますよね。あれはどういう基準で昇格させたりさせなかったりしているのですか。
Terry Makedon氏:
そうですね,1つ前の話と関連していますが,WHQL版への昇格を決めるのはHPやDellなどのOEMメーカー側の事情によります。OEMのシステムだとWHQLが要件になっていますので,OEM側に取り込まれるときにWHQLに昇格させるのです。そのときに,「17.40」といった新しいバージョン番号を与えることになります。
ただ,Optional版とWHQL版に品質の違いはありません。OEMのシステムに導入するときにはWHQLが必要なので,そうしているだけなのです。ですから私からゲーマーの皆さんに伝えたいのは,「最新のドライバさえ利用していれば何の心配もありません」ということですね。
そういうことだったんですね……。
さて,もう1つ疑問があるのは,Windowsのサポートについてです。たとえば,Radeon RX VegaとRadeon RX 500シリーズでは,32bit版Windowsのサポートがありませんよね。あるいはRadeon RX 400シリーズだと,32bit版や,Windows 8.1のサポートもあったりします。付け加えると,Radeon RX 500シリーズにおけるWindows 8.1の対応は17.7.1を最後に突然止まり,しかもアナウンスもなかったりしますが,どういう事情でこういうことになっているのでしょうか。
Terry Makedon氏:
端的に言うと,我々はドライバのダウンロード数をモニタリングしています。ダウンロード数を見たときに,32bit版や,Windows 8.1でダウンロードしている人がほとんどおらず,実数で見て1%未満だったので,サポートを打ち切ったのです。
4Gamer:
そういうことでしたか。
Terry Makedon氏:
ええ,で,「なぜGPUごとにWindowsのサポートが違っているのか」ですが,これはGPUがリリースされたタイミングの問題です。Radeon RX 400シリーズはRadeon RX 500シリーズより前にリリースされたGPUでで,当時はまだWindows 8.1や32bit版のニーズがありました。
ですが,Radeon RX 500をリリースしたときには,32bit版やWindows 8.1のニーズがほとんどなくなっていたので,サポートを行わないことにしたわけです。
4Gamer:
Windows 7は最新世代のGPUでもサポートされていますが,これは?
Terry Makedon氏:
それは中国市場の影響です。Windows 7の中国における市場シェアは依然として33%あり,ダウンロード数の割合を見ても30%超です。ですのでサポートを継続しているわけです。
まとめると,対応するか否かの判断は「ユーザーにニーズがあるかどうか」で決めているということです。
4Gamer:
GPUごとにWindowsのサポートが異なるのは少々わかりにくいので,AMDから何かしらのアナウンスがあったほうがいいのではないかとも思うのですが。
Terry Makedon氏:
そうですね。そういった告知が可能かと言えば可能です。ただ,そもそも使う人がほとんどいない状況にあるドライバについて,わざわざ告知する必要はないだろうと我々は判断しています。
もう1つ言うと,人々はネガティブなストーリーが好きなんですよ(笑)。アナウンスをしてしまうと必ず「AMD,Windows 8.1を完全に見限る」とか言い出す人が現れるんです(笑)。
4Gamer:
ああ(笑)。
Terry Makedon氏:
我々としては,それを避けたいということがあります。できるだけ大げさにすることなく,対応を終了させていきたいと考えているわけです。
ただ,これは秘密でもなんでもないので「Windows 8.1のサポートをやめたのですか」と質問されれば正直に「そうです」とお答えするようにはしています。まあ,そうは言っても,Windows 8.1のサポートについて聞かれたのは今回が初めてなんですが(笑)。
4Gamer:
(笑)。本日はどうもありがとうございました。
AMDのグラフィックスドライバダウンロードページ(英語)
- 関連タイトル:
AMD Software
- この記事のURL:
(C)2019 Advanced Micro Devices Inc.