インタビュー
Logicool Gのプロダクトマネージャーに聞く,新型ヘッドセット「G633」「G933」の音づくり
Logitech G/Logicool Gの新世代フラグシップヘッドセットが気になる人はぜひ一読を。
Logicool G,部屋の広さを表現できるゲーマー向けヘッドセット「G633」「G933」を発表。オリジナルドライバー搭載で10月以降に発売
プロダクトマネージャーに聞く,G633とG933の音とその設計思想
4Gamer:
インタビューの時間をいただき,ありがとうございます。私自身はゲーマーではなく,サウンドやオーディオにおける技術畑を歩んできた人間なので,本日はそちらを中心にお話を伺えればと思っています。
Doug Sharp氏:
今回はわざわざキャマスまで来ていただき,こちらこそありがとうございます。
私自身はオーディオファイル(Audiophile,マニア)ではありませんが,実はLogitechに入る前,Monster Cableで14年ほど働いていまして,同社の製品の80%くらいには関わって,オーディオファンのために動いていました。技術畑であるあなたの質問にどこまで答えられるか分かりませんが,頑張りますね。
Monster Cableで14年! それは頼もしすぎるキャリアですね。
さて,発表会に先立って,G633を“素”の音で聞くことができたのですが,一言でいえば,良いバランスでした。
多くのゲーマー向けヘッドセットはいわゆるドンシャリ傾向で,迫力はあるものの,元のコンテンツには忠実ではありません。そして,これがときとしてゲームプレイの邪魔になります。
それに対して,G633の場合,重低音は普通より大きく,低音はそれほどでもなく,中帯域の解像度は大抵の他の製品より高い。高音はもちろん……。
Doug Sharp氏:
(発言に被せつつ)クリアでブライトですよね。
4Gamer:
そのとおりです。そして,この特性は,3Dゲームにおいて音源の位置を知るのにとても重要です。
Doug Sharp氏:
サウンドステージ(Sound Stage)のことですね。
4Gamer:
ええ。というわけでまずは確認なのですが,G633――まだG933の音は聞いていませんが,仕様的には同じ音だと説明を受けました――におけるフラットな周波数特性は,Logitech G/Logicool Gというか,キャマスの開発部門で意図した結果ですよね?
はい。私達のデザインゴールは,フラットでクリーン,かつクリアであることです。これが「Logitech Signature」(Logitechシグニチャ,ここでは「Logitech/ロジクールとして,自信を持って送り出せる品質」くらいの意味)で,ゲーム用途以前に,Logitech Signatureたる最高の初期設定を行いました。
4Gamer:
「初期設定はよりフラットであるべきだ」という意図によるものなのですね。とくにドンシャリサウンドは,「いい音風」に聞こえるのですが,ゲームサウンドを「勝つための情報」として捉えると,よいとは思えませんし。
おっしゃるとおりです。
たとえば「Dragon Age: Inquisition」
なので,(ゲーマー向けヘッドセットのサウンドづくりは)ニュートラルなところから始める必要がありますね。初めから低音が強すぎたりすると,ゲームのある場所ではいいけれども,別の場所ではよくないといった事態が生じかねません。
4Gamer:
それゆえに,音楽コンテンツで,もともと低音の少ないものを聞くと,そのまま低音が少なく感じますが,これはもう「そういうものだよ」ということですよね。
ただ,今回もプロゲーマー達とたくさんのテストを行っていくなかで,彼ら彼女らのなかには,フラットではない音を好む人もいました。そこでG633とG933では(統合ソフトウェア「Logitech Gaming Software」上に)10バンドイコライザを用意してあります。これで数dB弄って,好みの設定をヘッドセット側に保存できるわけです。
G933でも,ワイヤレスで本体側に設定は保存できますよ。
4Gamer:
「とにかくフラットで,あとはエンドユーザーが好みに応じて設定できる」というのは,とても合理的ですね。
Doug Sharp氏:
でしょう?(笑)
G633とG933における重要な新要素,DTS Headphone:Xについても聞かせてください。
DTS Headphone:Xは,(メーカー側での)調整が簡単なプロセッサ(≒機能)ではないと考えています。過去にいくつか対応製品を試したことがあるのですが,製品によって良かったり悪かったり……。その点,先ほどG633で3つのプロファイル「DTS 7.1」「Logitech Signature Studio」「First Person Shooter」で音を聞きましたが,どれもとても素晴らしいですね。
Doug Sharp氏:
個人的には,コンサートホールで収録されたマルチチャネルソースを(DTS 7.1やLogitech Signature Studioのルームプロファイルで)マルチチャネルのまま聞くのが,本当にリアルで好きですね。
面白いのは,6ch(=5.1chマルチチャネル)をスタジオ録音したようなソースだと,そのままマルチチャネルで聞くより,ステレオにしたほうがよくて,6chのゲームサウンドは,そのままマルチチャネルで聞いたほうがよかったりするところです。
4Gamer:
ちなみに,3つ用意されるルームプロファイルのうち,First Person Shooterの想定用途は言わずもがなですが,残るDTS 7.1とLogitech Signature Studioは,どういう使い分けを想定されていますか。
個人的に一番好きなのは,Logitech Signature Studioです。理由は明快で,反射音が少ないから。私はリアルな体験が好きで,「多くのゲームエンジンがゲーム内の環境用にどれだけよい音響を提供してくれるか」に興味があります。なので,ゲームプレイにおいては,ほとんどのケースで(よけいな付帯音の少ない)Logitech Signature Studioを使っていると言わなくてはなりません。
一方のDTS 7.1ルームプロファイルは,よりシネマティックな要素の強いゲームや,屋外のシーンが多くなるゲームにいいと思います。音をゴージャスにしてくれますから。ただ,お勧めはやっぱりLogitech Signature Studioのほうかな(笑)。
4Gamer:
ルームプロファイルについてもう1つ。今後,置き換えたり追加したりすることは仕様上可能ですか。
Doug Sharp氏:
もちろんです。追加の予定もありますよ。
4Gamer:
それはひょっとして,ゲームデベロッパとコラボして,特定のゲーム向けに,デベロッパ内のスタジオをシミュレートできるようにするとか?
Doug Sharp氏:
そのとおりです。
4Gamer:
それは楽しみです。
ところで,先ほどもお話ししたとおり,DTS Headphone:Xは本当にいいのですが,それだけに疑問もあります。Dolby Headphoneを,なぜ従来製品から引き続き採用しているのでしょう? 聞き比べると明らかに見劣りすると思うのですが。
Doug Sharp氏:
いい質問ですね。
お答えすると,「『Dolby』というブランドは誰でも知っているものだから」といった,マーケティング的な観点も理由としてはありますが,それ以上に,多くのゲーマーからポジティブなフィードバックをいただいているからです。
もちろん,(購入して使い比べた結果)Dolby Laboratories(以下,Dolby)の技術はいらないという人はたくさんいるでしょう。そもそもDolbyのファンではない(から使わない)という人も多いと思います。それは分かっていますが,同時に,私達はDolbyのファンをたくさん抱えていて,Dolbyの技術を使いたい人がたくさんいるのも知っています。そういう人達を安易に切り捨てることはしたくない。
新型のヘッドセットで「変える」ことは比較的容易ですが,そのとき私達は「追加した」ものを提供したい。何かを「マイナス」にはしたくないのです。
4Gamer:
確かに,この仕様であれば,「プラス」になりますね。
Doug Sharp氏:
また,今回はコンサートの映像やゲームで試聴いただきましたが(※編注:発表会場のデモ機は多くがゲームで,一部,音楽コンテンツになっていた),Dolbyの技術は,素晴らしい映画体験を提供してくれます。(ゲーム用途はともかく)Dolbyの技術がそこに価値をもたらしてくれる以上,ユーザーに切り捨てを強要したくはありません。
4Gamer:
十分に棲み分けられるということですね。
Pro-Gドライバーは,Logitechが完全に独自で開発したものだと説明を受けました。一般ユーザー向け市場と比べて,それほど数が出ないであろうゲーム市場向けに,新規でスピーカードライバーを起こすというのは,相当なチャレンジだったのではないかと思うのですが。
Doug Sharp氏:
というより,Pro-Gドライバーの開発は,私にとって非常にエキサイティングなものでした。
4Gamer:
と,言いますと?
Doug Sharp氏:
私はこれまで,製品開発において,妥協しなければならないシチュエーションを数多く経験してきました。ヘッドセットに限らず,あらゆるサウンド・オーディオ製品で,です。材料だったり,部署間のコミュニケーション問題だったり,コストだったり……。
それが,Pro-Gドライバーでは,私の記憶する限り,何1つ妥協することがなかったのです。「すべてのリソースを存分に活用し,何かを生み出す」よう働くことができました。
4Gamer:
それは得がたい経験ですね。
ええ。私達は,G633とG933の開発にあたって,「この機能を入れるチャレンジのために,音は二の次」にすることは一度もありませんでした。音質は常にスーパーポイント(Superpoint,ここでは「最重要なポイント」くらいの意)でしたね。
唯一最大のハードルは販売価格で,私達の掲げた目標を実現するために時間がかかりましたが(笑)。
4Gamer:
ということは,今回のPro-Gドライバーは,Dougさんにとってベストドライバーの1つになったという感じでしょうか。
Doug Sharp氏:
間違いなくベストですね。
ただ,1つ言えることは,「Pro-Gドライバーを搭載するヘッドセット」としては,まだ成長の余地があるということです。
4Gamer:
どういうことですか?
Doug Sharp氏:
素晴らしいヘッドフォンアンプと組み合わせて,ぜひ一度テストしてみてください。私達はSchiit Audioの「Valhalla 2」という真空管ヘッドフォンアンプ兼プリアンプと組み合わせてテストしていますが,アナログ接続して音を聞いていただくと,Pro-Gドライバーに,とても大きなヘッドルームがあることを確認できると思います。
4Gamer:
それは楽しみです。しかしそのお話だと,さらに上位モデルの製品を出せそうですね。
Doug Sharp氏:
将来の製品の話はできませんが,成長の余地があるとは感じています。あるいは,Pro-Gドライバーをベースに,もっとサイズを小さくする,とかですかね。この技術は,ほかに広がる可能性を秘めています。
4Gamer:
時間が来てしまったので,最後にちょっと確認気味の質問です。G933のUSB Mix Adapterは面白い接続仕様ですが,どういうユーザー層を想定していますか。
ゲーム用のヘッドセットをPCのある場所からリビングルームやオフィスへ持ち込めるというのは,エキサイティングなことだと思いますね。
RCAケーブルをテレビ(など)に接続すれば,(PCと合わせて)360度全方位に対応し,かつ,古今東西あらゆる据え置き型ゲーム機でも利用できるようになります。ユニバーサルに楽しんでいただける機能といえるでしょう。
4Gamer:
ユニバーサルというか,ホームエンターテインメント全般というか。
Doug Sharp氏:
そのとおりです。私の友人に,ゲームを1台のPCでプレイして,別のPCで音楽をかけるという人達がいます。そういう人達には,この機能はとてもクールです。
自分の好みのサウンドトラックをかけながらそれをコントロールしたりボリュームを変えたりできます。加えて,PCでボイスチャットをしたり。素晴らしいですよね。
……北米では転職が一般的なのだが,それでも,Sharp氏が,Monster Cableという,万人が認めるホームオーディオのメーカーで10年以上のキャリアを持つ“オーディオガイ”だったというのには,さすがに驚いた。と同時に,G633(およびG933)の持つ,素性のよさにも納得がいった次第である。Sharp氏の話を聞けば聞くほど,今回の新製品は,ホームオーディオのノウハウを持っている人達がきちんとした研究開発を行った製品,という印象が強くなるのだ。
同時に,複数のデバイスと同時に接続して使い分けられるというギミック的な機能からは,ゲーマー向けヘッドセットでありながら,Sharp氏のもともとのホームグラウンドであるホームオーディオの世界へ向けたアプローチも見え隠れしており,色気というか,新規マーケットの開発意欲も感じられる。リリース後に市場からどのような反応が得られるか,本当に楽しみである。
Logicool Gのサウンド関連製品情報ページ
Logicool G,部屋の広さを表現できるゲーマー向けヘッドセット「G633」「G933」を発表。オリジナルドライバー搭載で10月以降に発売
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