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[AOGC 2006]チーム「Trinity」栗原氏が語るGM業務の実像と可能性
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印刷2006/02/15 17:24

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[AOGC 2006]チーム「Trinity」栗原氏が語るGM業務の実像と可能性

GMの業務や,GMイベントの効果について実例を交えつつ語る,モビーダ・ゲームズ 取締役 コンテンツオペレーション室 室長 栗原 哲氏
 AOGC 2006で行われた,モビーダ・ゲームズ 取締役 コンテンツオペレーション室 室長 栗原 哲氏の講演「オンラインゲームの運営とゲームマスターの可能性」の内容をお届けする。
 講演の冒頭でも述べられたとおり,栗原氏は「ウルティマ オンライン」でGMコール対応やサポートボランティアスタッフの管理,各種GMイベントの企画/運営,そのための組織作りを担当した。その後,「エバークエスト」のリードGMとして,GMの教育やローカライズ業務に携わった経歴を持つ。

 氏はまず,「ゲーム内カスタマサポートスタッフ」としてのGMの基本的な業務(争いごとの解決や,不正行為への対応,GMイベントの企画/運営など)を簡単にまとめた後,GMに期待される事柄と業務範囲が広がっていることを指摘し,その内訳と理由を説明した。
 前述の基本的な業務に加えて,GMに求められるのは,

ゲーム外イベントへの参加
ゲーム障害対応
ゲーム外でのカスタマサポート(メールでの対応)
ゲーム企画への参画

 などであり,これらは言うまでもなくGMがゲーム内容に通じていること,昼夜を問わず勤務についていることなどから生じる。ただし,そうした業務を無定見にGMに任せていくことには,リスクやデメリットもあると,栗原氏は指摘する。
 例えば,GMにはゲーム内の“空気”を反映した提案が可能な一方,ときに“プレイヤーの代弁者”としての意識が強くなって,バランス感覚を失う危険があるという。また,バグチェックなどの業務では,ゲーム内容を深く知っているだけに状況を把握しやすい一方で,QA(Quality Assurance。品質保障)テスターとしての教育を受けていないため,その検証能力にはバラつきが出るとする。また,専門のQAテスターと比べて,一般に給与面でコストが高いため,プロジェクトの規模に従って,専門のQAテスターを活用したほうがよい場合もあるという指摘は,広汎なゲーム運営に携わってきた立場ならではのものかもしれない。

 続いて氏は,GM業務の成果として気になる部分,ゲーム内GMイベントの効果について,実例を挙げて語った。一般にGMイベントは,新規プレイヤーの獲得には結びつかないものの,現プレイヤーの退会抑止に効果があるといわれている。そこで,ゲーム内で実際に行ったイベントについて,追跡調査で効果判定をしてみようという話だ。

 判定に使ったイベントの性格は,

初心者の定着を狙ったゲーム紹介的で,小規模かつ非戦闘系
初心者(ただし,参加キャラクターのレベル制限はしない)
ほぼ週に一度,休日の前夜に開催
1回に10名程度が参加
30回分で総サンプル数は320アカウント

というもの。そしてその結果は,イベント参加者が6か月以内に退会した例が,17アカウントで約5%。その退会者が,イベントに参加してから退会するまでの期間は,平均87日(ただし,最短は1日)であったという。
 イベントに参加する人はそもそもモチベーションが高い気もするが,これは確かに,常識的な退会率の数字と比べてかなり低い。氏はこの経過を収入/コスト面でまとめ,必要人件費よりも,イベント参加後に退会した人が,退会までに払った課金のほうが多いという数字をまとめたうえで,これに算定不能な「退会を思いとどまったイベント参加者」の分を加えたのが,このGMイベントのコスト/収入上の価値であると説明,スライド資料の「priceless」という言葉をダブルミーニングで使い,オンラインゲームにおけるイベントの,「かけがえのない」体験としての側面にも言及した。



 氏はさらに,GMのゲーム外での取り組み業務例として,MMORPG「ベルアイル」における公式blogについて説明した。
 モビーダ・ゲームズの「ベルアイル」は,2005年5月9日にオープンβテストを停止し,ゲームの品質向上に向けた開発が改めて行われている(2006年2月16日から“新クローズドβテスト”のテスター募集を開始予定)。そして,再開までの間のコミュニティ維持策として,開発状況をblogの形で知らせる「GM情報局」を2005年6月15日にオープンした。
 これは,テストサーバーの状況をGMがキャラクター名で報告し,サイト来訪者がトラックバックやコメントで意見を述べられるというものだ。
 栗原氏は,コメントやトラックバックの推移グラフや利用状況をまとめた数値(平均PV約2500/1日,平均ユニークIP数約1200/1日など)を示しつつ,「プレイヤーコミュニティの“種”は十分残ってくれたと考えている」と,活動の成果を総括した。また,会場で出た「サイト来訪者が自由にコメント/トラックバックを付けられるようにすることで,場が荒れる危険は気にならなかったか」という質問に対しては,「開発の仕切り直しに有益な意見が得られる可能性と,場が荒れる危険性を秤にかけて,やる価値はあると判断した」と回答した。



 さて,そうした個別の事例紹介から,再びGM一般に話を戻して,栗原氏はGMに関して語られる問題,人材不足とキャリアパスの不明確さに言及した。現実のGM業務に,

基本的にスタート時給1000円ほどのアルバイト
夜勤や休日出勤を含むシフト勤務
週5日働けるとは限らない

といった問題があることを指摘し,1年ほどで退職する例が多いと,現状を説明した。また,人材難のもう一方の原因である採用率の低さ(10%ほど)の背景として,GM業務が,顧客への直接応対職種との親和性が高い一方,収入面でビハインドがあること,ゲーマーからGMになる場合“ゲームを職業にできるか”という覚悟と認識の問題や,プレイヤーと癒着する危険があるといった問題を挙げた。
 そしてキャリアパスについては,シフト管理や新人教育,新規タイトルのサポートポリシー策定などに携わる「上位GM」を,まず挙げた。しかし,そこから先では「運営全般の管理」「作品プロデューサー」「企画」といった業務が考えられるものの,現時点では実例が少ないと述べた。
 会場では「日々プレイヤーから罵詈雑言を浴びせられ続けるGMのメンタルケア」の具体策について質問が出,これについては「まとまった休みを与える,定期的に上司と面談する」といった対処が一般になされている旨,回答が示された。一方キャリアパスの問題,「広汎に必要な業務でありながら,進める先が少ない極端なピラミッド構造」について,この講演では課題を浮き彫りにするに留まった。




 先日掲載した,ガンホー・オンライン・エンターテイメント 取締役開発本部長 堀 誠一氏の講演では,まさにこの問題をめぐって,職位としてのGM/GMグループを解体し,企画/保守/キャストに専門化していくというガンホーの取り組みが紹介された。これは,確かに個人的な展望として持てる明確なキャリアパスを示した点で,画期的なものだ。
 だが一方で,メンタルケアも含めた現実的な“労働条件”としての認識と問題解決策も,同時に必要なのではないか? GMが果たしうる役割や可能性と同時に,そうした,よく考えれば当然の課題を,あらためて課題として提起したところが,この講演の意義といえるだろう。(Guevarista)

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