連載
「キネマ51」:第4回上映作品は樋口真嗣監督作品「巨神兵 東京に現る」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。第4回の上映作品はなんと10分の短編作品。樋口真嗣監督の「巨神兵 東京に現る」だ。
ちょっと遅い夏休みの自由研究と称して,やってきたのは東京都現代美術館。ここでは7月10日〜10月8日に,「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」(関連記事)という特別展示が行われていた(来春以降,国内巡回展も検討されている)。今回取り上げる短編は,この会場でのみ上映されていたものだ。
「特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」公式サイト
関根:
みなさんお決まりですかー?
須田:
ランチプレートですね。僕はこの,“まぜまぜご飯”ですかね。
4Gamer:
僕はフォーにしようかなと。
関根:
それもいいですねぇ。
ウエイトレスさん:
ご注文はお決まりですか?
須田:
まぜまぜ
関根:
まぜまぜ
4Gamer:
フォーっ! ……(赤面)
関根:
ところで支配人,これ買いました? 「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」のパンフレット。2700円でこの内容,買わなくちゃだわですよ。
須田:
うーん……いいですよ,別に。僕はDAICON FILM版「帰ってきたウルトラマン」[1]のDVDを買ったから。
関根:
へー。ぼくは,これも買いました。水野久美さんのブロマイド,1束。いいですなぁ,波川女史。あっ,X星人[2]がシェーやってる。
須田:
僕は,ウルトラ怪獣のブロマイド1束買いましたよ。あ,レオが出た。いいでしょ,レオ。メトロン星人,渋いなぁ。
4Gamer:
あのー,このままだと,ホントに遊びに来ただけになってしまうんですけど……。
須田:
あ,失敬失敬。失敬,谷啓,なんちって。
う,うん。支配人が楽しそうで良かったですよ。
それにしても,ここにいると,あっという間に時間が過ぎていきますよね。何が一番楽しかったですか?
須田:
プロップ[3]やミニチュアが観られたのが嬉しかったですね。 渋くないですか,これ。アイアンロックス[4]。
関根:
アイアンロックスってロボット怪獣なのに着ぐるみだから,変な柔らかさがある感じで,グッと来ます。
須田:
確かに。でもね,当時は,着ぐるみじゃないと思ってたんですよ。なんか,違うやつがでてきたようなイメージで。今でいうところのCGみたいな?
関根:
何となく分かります。架空のロボットということは頭で分かっているのに,どうやって映像にしているのかが分からない。
須田:
そうなんですよ,その魅力というんですかね。
で,子供の頃にいろんな本を買ってみると,あ,誰かが入ってるんだ! みたいなことがだんだん分かってくるんです。
関根:
そうやって少しずつ大人になっていくんですよね。ぼくは,小松崎茂先生[5]が書いた轟天号[6]の内部のイラストにぞくぞくしました。
須田:
図解ですね。
関根:
子供の頃,本によく出てきた解剖図が大好きで。それの本物に出会うことが出来て,感動しました。
須田:
「テレビマガジン」とか「冒険王」に必ず出てきてましたよね,解剖図。宇宙人の関節とか。あれはいいですねぇ。
4Gamer:
何々袋とか書いてあって。
関根:
そうそう,ここで,人間を消化するとか。
須田:
妙なリアリティを感じましたよね。
関根:
ええ。そうそう,館内で借りた音声ガイドも良かったですね。
須田:
展示物がこれだけ多いと,観たことがないものもありますし。
関根:
で,その音声ガイド,「マイティジャック」[7]の模型のところだけ番組オープニングに流れるナレーションが,タイトル曲とともに入っているんですよね。冨田 勲さんの楽曲もさることながら,あのナレーションが良かったですよね。庵野さんの思い入れの強さを感じました。
須田:
僕はマイティジャックって観たことがないんですよね。民放2局の土地で育ったので,地元のテレビ局では放送してくれなくて。
ああ,そうなんですね。ITC[8]からの影響かもしれませんけど,ナディアとか,エヴァンゲリオン[9]に影響を与えているんじゃないかと思うんですよね。潜水艦周りの描写とか,オープニングの雰囲気とか。
4Gamer:
……「マイティボンジャック」って,マイティジャックからタイトルを付けたんですかね?
須田:
テクモの!?
関根:
間違いなく違うでしょうね!
須田:
TeTさん,フォーが正解だったかもしれませんね。今のところピーナッツご飯ですね,こちらは。
関根:
スルーですか……。
気を取り直しつつ,いよいよ本題
今回は通常の展示も素晴らしいんですけど,「キネマ51」として観ておかなくてはいけない,ちゃんとした理由もあったんです。
須田:
そう,ここでしかやっていない短編映画,「巨神兵 東京に現る」を観に来たわけですよ。
4Gamer:
やっと本題ですね。
関根:
「風の谷のナウシカ」に登場した巨神兵を,CGを一切使わずに特撮だけで描くというコンセプトのもと,特殊技術の職人たちが集まって完成させた意欲作です。
須田:
実に贅沢な映画でしたね。これぞ特撮って感じでした。新しい手法をふんだんに取り入れているのも,圧巻でした。レイ・ハリーハウゼン[10]のストップモーションじゃないですけど,あれに近い手法なんかも見られたし。ビルの破壊の仕方も複数パターンで見せてもらいました。個人的に見慣れている,南阿佐ヶ谷駅前のビルも木っ端みじんでした。
関根:
作品を観終わって,隣のブースに移ると観られるメイキングも面白かったですね。本編よりも5分長いという。
須田:
きのこ雲を作るところなんかは,本当に素晴らしかったですよ。
関根:
監督の樋口真嗣さんをはじめ,メイキング映像に出てくるスタッフの方達が楽しそうでしたね。
須田:
ですね。プロの大人達の,仕事と遊びの中間の何かを感じました。アートであり,職人が作り上げた工業製品のようでもある。面白い位置付けの作品ですね。
関根:
いいものを観させて頂きました。今,支配人がおっしゃったように,遊びの部分も多かったですし。ぼくは,巨神兵の写真を撮っている人達が,写真で作られたミニチュアになっているのが面白かったです。
4Gamer:
いわゆるメタギャグですよね。
関根:
そう,あれは良かったなぁ。
須田:
マンションとか団地から,みんなが巨神兵を見ている姿が全部フィギュアで。公園で吼えている犬もミニチュアでしたね。でも,なんで誰も逃げないんだろう(笑)。
関根:
一見不自然だけど,あの光景はありそうですよね。結局,逃げようもないわけですし。
須田:
いや,車で逃げますよ,山のほうに。うちは高速が近くにあるから,すぐ逃げられます。
関根:
どれだけ必死なんですか(笑)。
須田:
ほかにも,テレビでニュース速報が流れていて,窓の外に巨神兵がいるシーンも,CGのはめ込みじゃなくて,オプチカル合成[11]だったとしたら,すごいですよね。
関根:
あの,ニュース速報も細かかったですよね。ああいう細部へのこだわりが粋なんですよ。
4Gamer:
「外出は控えてください」って。控えたところでマンションごと壊されちゃうよ! という(笑)。
そうそう,ナレーションの林原めぐみさんが,あの青い髪の少女を彷彿とさせる演技をされていたのも印象的でした。
須田:
確かに。“エヴァの原点は巨神兵”というコンセプトですから,あえて意識したんですかね?
4Gamer:
ただ,セリフ回しはちょっと違うんですけどね。“言語”担当が舞城王太郎[12]さんだったこともあるんでしょうけど。
関根:
“脚本”は庵野さんなんですけど,どういう役割分担だったんでしょうね?
須田:
そっか,今回はそう考えると庵野作品ではなくて,樋口作品としての色が強いわけですね。
関根:
樋口監督作品で思い出した! 会場には「ローレライ」の潜水艦,“伊507”[13]の撮影用模型も飾ってありましたね。これ欲しいなぁ……ってボーっと眺めちゃいました。あの映画の潜水艦浮上シーン,好きなんですよ。
須田:
僕は,轟天号の模型が欲しくなりましたね。部長の力で何とかなりませんか。あれ。
関根:
ならないですね。
博物館の演出の妙
面白いと思ったのは,この映画までの導線なんですよね。展覧会にビデオ作品が展示されているケースは少なくありませんが,全体的な展示の流れとは別に小部屋が用意されていて,見るか見ないかは来館者に選ばせるようなケースが多いと思うんです。
でも,今回は,音声ガイドを聞きながら進んでいくと,「さあ,いよいよ次は巨神兵が東京に現われます」みたいなナレーションとともに,そのまま上映部屋に誘われていくんです。
須田:
そう。その導線がきちんと出来ていました。
4Gamer:
ミニチュアや,プロップなんかを色々見てから,次に,それらをふんだんに使った映画を観る。そしてメイキングや,舞台装置を見ながらどうやって撮影したのかを解説してもらう。
須田:
この流れは完璧ですね。
4Gamer:
もうちょっと若かったら特撮をやろうと思ったに違いないぐらい,夢中になりました。
須田&関根:
ですね。
関根:
副館長の樋口さんがパンフレットで,これを観た若者が,かつての自分がそうであったように,一人でも特撮の世界に飛び込んできてくれれば嬉しいって書いているんですが,まさにそういう作り方になっているんだな,と。
須田:
CG全盛の現在は,特撮という職人技というか,モノ作りが,後世にまで残るかどうかが問われている時代ですからね。
関根:
だからこういった博物館を庵野さんや樋口さんみたいに影響力がある方がやるっていうのが,とても重要なことなんですよ。
須田:
今日も,若い人やチビッコが多いですよね。
関根:
ウルトラマンのデザイン画を見て,ダッセーとか言ってる若者がいて,いやもう,そうかって思って。
須田:
成田 亨さん[14]のですか?
関根:
そうですね。でも,そういう人が,好き嫌いは別として,ウルトラマンの原画に触れるタイミングが生まれたっていうことは,庵野さんの力であり,エヴァの力だなと。
須田:
そっか……。でも,そういうことになっているんですね……。成田さん,素晴らしいですから,影響を受けてくれる若者もちゃんといるといいですね。
支配人はウルトラマンがお好き
実は僕は,仮面ライダーも好きなんですけど,やっぱりウルトラマンなんですよ。そのウルトラマンも,特撮系のものはメビウス以降なくて,また流れが来るといいなぁと思っていて。で,あと,今回,平成ウルトラマンがなかったじゃないですか。ティガが一番好きな人間としてはそれが腑に落ちないかなと。
4Gamer:
平成はあえて抜かしたのかもしれないですね。
須田:
子供達は見たいはずですよね,ティガ以降[15]。
4Gamer:
ティガ以降,ネクサス以外ですよね(笑)。ボクはネクサスが一番好きなんですけど。
須田:
メビウスが凄いんですよ,昭和のウルトラマンの全部を補完したんです。だから,メビウスは老後の楽しみに取ってあるんですよ。あと,ネクサス以降から板野一郎さん[16]がCGの特技監督やってるんですよね。
4Gamer:
ティガは特撮としても良かったんですけどね。
須田:
ええ。ティガは,一人でも多くの人に見てほしいなぁ,ホントに名作なんで。
4Gamer:
大人になるとなかなか機会はないと思うんですけど。
須田:
まあ,レンタルDVDなんかでね。まず,ティガを観て,続けてダイナも観て。さらにガイアも観て。
4Gamer:
それからネクサスを観て。
須田:
ええ。メビウスにマックスも。
関根:
……結局全部じゃないですか!
須田:
あっ,忘れちゃいけません,コスモスもね。
関根:
まぁ,それだけ支配人は,平成ウルトラマンに思い入れがあるということですよね。ぼくは,お二人がウルトラマン談義に夢中になっている間,今回の博物館の副館長,先ほどから何度か出てきている樋口さんについてちょっと考えていて。
須田:
なんですか?
関根:
樋口さんってCGの会社に所属していたような気がしていたもので……。[17]
須田:
そうなんですか? 確か,樋口さんて,カプコンさんのゲームのオープニングの絵コンテもやってましたよね?[18]
関根:
そうだ,そろそろゲームの話も。着ぐるみのゲームってないんですか?
須田:
あれですよ,「Little Big Planet」ですよ。
関根:
確かに! 「Little Big Planet 2」では,アイドリング!!!とコラボしてましたよね。アイドリング!!!のメンバーがオリジナルのステージを作っていましたよ! それで,知りました。
須田:
あんまり話題にならなかったですよねぇ
関根:
はい……。
須田:
それはともかく,特撮全般より,今回観た映画との親和性でいうと。
関根:
巨神兵ですよね。巨神,巨人。
須田:
「巨人のドシン」「ワンダと巨像」が2大巨人ゲームですよね。
関根:
いつもながらの言い切り,素晴らしいです!
4Gamer:
まぁ,巨人と言われたら,最初にドシンが浮かびますよね。あとは,巨大な何かが襲いかかってきて人類に危機が訪れるというモチーフは,けっこうあります。それこそ「地球防衛軍」シリーズなんかは最たる例でしょう。
須田:
確かにそうですね。
4Gamer:
今回展示されていたようなものを原作に持つキャラクターゲームも豊富ですし。
関根:
ウルトラマンの格闘ゲームなんかもありました。
そうそう,ぼくが好きだったのは,ドリームキャスト版のゴジラのゲームでした。とにかく街を破壊しまくるゲームで,1984年版ゴジラの自衛隊メカが出てきたり,アメリカ版ゴジラが出てきたりで,仕事から帰って毎晩ずっとやっていた記憶があります。
4Gamer:
日中は破壊衝動がはぐくまれていたんですかねぇ……。
巨大なものが街を壊すというと,「破壊王」という作品もありましたね。サラリーマンがモノを破壊し始めて,最終的に巨大化して街を壊すという。
須田:
それ,主人公,橋本真也ですか?
関根:
破壊王と聞いたら,どうしてもそう思っちゃいますよね。違いますけど。
4Gamer:
橋本真也は映画「一軒家プロレス」[19]で家を破壊してましたけど(笑)。
須田:
そういえば,今日の会場で,ゴジラのテーマが流れてましたけど,あれ,僕とTeTさんにとっては,ゴジラじゃなくて佐竹[20]ですよね。
4Gamer:
伊福部 昭先生の「怪獣大戦争マーチ」ですね。最終的に伊福部先生は入場テーマ用に編曲して,「闘志天翔〜覇王・佐竹雅昭のテーマ」を作られて……。
関根:
ぼくのなかでは,聖飢魔IIのライヴのオープニングって感じですね。ゴジラの咆哮とともに。閣下が「ウヘヘヘヘ」って叫ぶんですよ。
須田:
さすが閣下,センスいいですよね。
特撮の夢は広がる?
須田:
しかし,ホントに今日は楽しかったですよ。ゴジラという特撮界の頂点がいて,子供達を特撮の世界に引っ張ってくれるウルトラマンのような存在がいる。そして,今回,特撮界,第三のスター,巨神兵が誕生したわけですよね。
関根:
まさに,命を吹き込まれました。
須田:
そうです。
関根:
「風の谷のナウシカ」の中で不完全な存在としてよみがえってしまった巨神兵に,本当の命を与えた。これはきっと,特撮の人たちの,不可能なものを可能にする使命みたいものですよね。まさに夢の実現ですよ。
須田:
なるほど,そうですよね。なんか,いい話じゃないですか。
欲を言うなら,いっそ,テレビシリーズでやってほしいですよね。
関根:
え?
4Gamer:
巨神兵が,毎週違う都市に現われるっていうのどうですか。今週は京都に現れます,みたいに(笑)。
須田:
毎回15分くらいで,「トリプルファイター」[21]みたいな感じで。
関根:
じゃあ毎回ゲストの有名人が被害に遭ったり?。
もう,あの,ゴールデンタイムの,1時間番組が終わったあとにやってる番組みたいな時間でいいですよね。
4Gamer:
電車の窓から巨神兵が見える「世界の車窓から“巨神兵”」みたいな。
関根:
松岡修造が料理を食べようと思ったら,自分が食べられてしまう「食いしん坊“巨神兵”」とかね。
須田:
そういうシリーズを樋口さんにやってもらいたいですね(笑)。
関根:
くだらないですけど,ちょっと観たい(笑)。樋口さん,ぜひ,よろしくお願いします!
須田:
いやぁ,今日は楽しかった。じゃあ部長,あとで僕の部屋までティガのDVDを取りに来るように。
関根:
かしこまりました……(当分眠れそうにないな)。
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