連載
「キネマ51」:第22回上映作品は「キャプテンハーロック」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
第22回の上映作品は,松本零士先生原作のスペースオペラをフルCGアニメとしてよみがえらせ,2013年9月に劇場公開された「キャプテンハーロック」。
映画「キャプテンハーロック」公式サイト
関根:
支配人,おはようございます。
須田:
おはよう。そういえばちょっと前の話だけど,東映系の映画館に行ってきたんですよ。
関根:
はい。
須田:
そうしたらね,あの,マナーCM。
関根:
はいはい,ありますね。
須田:
あれが去年復活した映画版の「おしん」[1]の女の子だったんですよ。
関根:
ほほう
須田:
「携帯はマナーモードにしてください。おねげえするっす」とか「大きな声は出しちゃだめ。おねげえするっす」とか言ってて,あー可愛いなって思ったんですよね。おしん,がんばってんなーって。
関根:
しかし,おしんのリメイク版にはびっくりしましたね。いくら30周年とはいえ,まさか復活するだなんて想像したことすらありませんでしたから。
そういえば,今回の「キャプテンハーロック」って,おしんがTV放映された前年に劇場版アニメが公開されたうえ,どちらも東映作品で,しかも21世紀に劇場版として復活したわけですから……共通項がやたら多いんですよね!
須田:
部長,拾ってくれてありがとう。
関根:
いえいえ,なんだかんだで支配人の下で働き始めてだいぶ経ちましたから……。
常に探りあいな作品?
須田:
確かにいろいろな作品について話してきたけど,この作品……。
関根:
……あっ,一応言っておきますけど,僕は“アリ”でしたよ,この映画。
須田:
あ,そうなんですね。
関根:
この映画の話,常に探り合いになるんですよね。
須田:
さすが部長,分かってもらえてホッとしました。僕はですね,うーん。
関根:
これ,支配人がダメだったら取り上げないほうが良いんじゃないですか?(笑)
須田:
本当はね。あ,ダメではないんですけどね。でも,そういう回があってもいいんじゃないのか? とは思うんですよ。
関根:
それはそうかもしれませんが。
須田:
部長,まず,松本先生はお好きなんですか?
関根:
大好きですよ。死ぬほど好きです。あ,ちょっと盛りましたけど。支配人は当然……。
須田:
大好きですよ。やっぱり宇宙ですよね。最初に宇宙を教えてくれたのは松本零士先生。
関根:
そうですそうです。
須田:
いろんな宇宙を毎週のように見せてくれて。
関根:
ちなみに,支配人にとって思い入れの強い松本先生作品はどれでしょう?
須田:
僕は宇宙ものじゃないんですけど,漫画「ミライザーバン」[2]なんですよ。今でも小学生の頃に読んだミライザーバンの衝撃は忘れられません。
ともあれ,ほかの作品も含めて,僕らは子供の頃に松本先生の描く宇宙感が完全に刷り込まれてますよね。あと,なんといっても宇宙船の中。これですよ。
関根:
機関部の描写が,真っ暗なんですよね。真っ暗で計器だけが光っている。
須田:
格好いいですよね。とくに「銀河鉄道999」の機関部。
関根:
宇多田ヒカルの「traveling」のPVに出てくるような。
須田:
あー,はいはい。
関根:
たぶんあれはオマージュなんだろうと思いますけど。
支配人のハーロック感
で,いよいよハーロックですよ。僕は作品だけでなくて,ハーロックという男のキャラクター,人間像が大好きなんですよ。名ゼリフがありますよね,「男なら,負けると分かっていても闘わなくてはならない時がある」。これですよ。今も胸に刻まれていますから。
負け舞台だと分かっていても,行かなくてはならないときがあるんですよ。
関根:
ありますか,そういうこと。
須田:
ありますよ,いくらでもあります。僕は,勝ち戦だけを求めるような男にだけはなりたくないですね。勝つか負けるか分からないところで闘いたい。ものづくりは,常にそのせめぎ合いですよ。
で,あのー,そうですね……部長,どうでした?
関根:
いきなり振りましたね。最初にも言いましたけど,僕は“アリ”なんですよ。ただ,一点だけ気になったのは,ハーロックと親友のトチロー,そして彼らの戦艦,アルカディア号の関係性なんです。
この作品の主人公,ハーロックは宇宙海賊と恐れられている男で,軍隊に追われながら宇宙をさまよい続けているんですね。彼の乗る戦艦はアルカディア号といって,その戦艦を作ったのが親友であるトチロー。そして,トチローはすでに亡くなっているんですが,その魂をアルカディア号の中枢コンピューターに宿しているという。
須田:
そうですよね。アルカディア号って,トチローそのものなんですよね。
関根:
そうなんです。なのに,一瞬それを匂わせるセリフはありましたが,それ以外アルカディア号=トチローっていうことが一切出てこないんです,この作品。
須田:
たぶん一番大事な部分ですよね。あらゆる闘いを一緒にくぐり抜けてきた親友が戦艦として,永遠にキャプテンハーロックとともに宇宙をさまよっている。この美学ですよ。
関根:
その美学があいまいになっちゃった気がして。で今回,脚本は福井晴敏さん[3]じゃないですか。
須田:
あー,小説家であり,「機動戦士ガンダムユニコーン」でストーリーも担当している方ですね。
関根:
福井さんって,ユニコーンのときもきちんと設定を組んで,きっちりとした作品に仕上げているんです。
須田:
そうでした。でも細かい設定というよりも松本先生,ハーロックのようにロマンが前提にある男の物語を描くのは,もしかしたら難しかったんですかね。
そうなのかな,と。「宇宙戦艦ヤマト2199」で総監督を務めた出渕 裕さんが,インタビューで「宇宙戦艦ヤマト」をリメイクしたときのこだわりについて語っていたことがあるんです。
それによると,当時(約40年前)は,夢中になりながらもけっこう突っ込みながら観ていた,と。だけど,きっとこういう理由があるのだろうと,愛するあまり脳内変換して自分を納得させていたそうです。でも,どうやったって現実的におかしい部分,若い人が観たら古いなぁと感じそうな部分を今回は変えたそうなんです。
だけど,その突っ込みながら観ていたことっていうのが最も大事なことで,どんなに突っ込まれても残さざるを得ないものについては,全部残したつもりだと語っていたんですよ。
須田:
いやぁ,さすがですね。それがリメイクするときの重要な要素なのかは分からないですけど,今回のハーロックは突っ込みどころを無くしちゃったんですよね,きっと。
関根:
そう。具体的過ぎる設定と具体的過ぎる事件によって,ハーロックのロマンの部分が削られてしまったのかな,と。
須田:
そうですね。
関根:
きっと10巻位までの小説で読んだら,そうとう面白いんだろうなとは思います。
須田:
確かに小説で読んだら面白いでしょうね。今回の新たな設定である,ハーロックが宇宙をさまようことになった理由は,とても新しかったし,きちんとその設定がほかの設定にも関わってくる。
だけど,ロマンの部分が決定的に欠けちゃった。僕は,最後のほうでトリさんが肩に止まるところなんか好きなんですよね。でも,そこまでの過程が急ぎすぎるというか。
関根:
2時間に詰め込みすぎちゃったんですよね,きっと。
フルCGで作るということ
須田:
(資料を見ながら)あー,CGスーパーバイザーは竹内謙吾さんといって,FFシリーズのCGクリエイターの方なんですね。「ファイナルファンタジーVIII」と「ファイナルファンタジーIX」に関わってらっしゃるようです。だからかー。
関根:
何がですか?
須田:
途中で映画を観ながら,FFをやってるような感覚になってしまったんですけど,ちょっと雰囲気が似ていたのは,なるほど,ご本人だったということなんだなと。
関根:
ほうほう。
須田:
それから,「バイオハザード」のCGアニメがあるんですけど,その雰囲気もあるなぁと思っていたら,音楽の高橋哲也さんは,その作品に関わっていらっしゃるんですね。いわゆるゲーム系の人も,がっつり参加しているんだな,と。
関根:
じゃあ4Gamer読者の方なら,親しみやすい映画かもしれませんね。
須田:
ええ。ただ,ゲームとの親和性という話が出たんで続けますけど,フルCG映画として作られたこの作品を見て,その手法の面白さと難しさが同時に分かったような印象を受けたんですよ。
僕らビデオゲームの世界はCGとの距離が近いんですけど,ビデオゲームっていうのは撮影するわけじゃなくて,ゼロから全部作り込むわけです。ある意味,CGアニメと近い作り方なんです。
関根:
なるほど。
須田:
ただ,自分達の作っているものは,プレイヤーの人達が直接登場人物をコントロールすることによって感情移入してもらうことができます。でも,入力をせずに2時間観ることだけで楽しむ映画って,観客の感情をスクリーンの向こう側にいざなわなきゃいけないんですよね。だからこそ,偉大なるチャレンジだなと思いました。
海外でも,いわゆるデフォルメされたキャラクターではなく,リアルなキャラのフルCGアニメってあんまりないと思うんですよ。日本でも劇場版「ファイナルファンタジー」なんかはありましたが,それほど数はありませんよね。
関根:
そういえばそうですね。まったくないわけじゃないんですけど。
須田:
なので,この作品の挑戦は面白いと思ったんですけど,ここまで作り込むのであれば,むしろ実写でも良かったんじゃないかなと思ったんですよね。
関根:
実写ですか?
須田:
そうです。戦艦の戦闘シーンなんかはCGでしか描けないですけど,三浦春馬が声をあてていたヤマというキャラクターは,CGでも三浦春馬にしか見えないくらい描き込まれていて。
そこまでやるんだったら,実写でもいけたんじゃないかと思ったんですよ。ただ,ハーロックは誰も演じられないかもしれないけど……。
関根:
それは面白いですね。僕は,CG作品を観るときにいつも思うことがあるんです。例えば実写映画で雨を撮りたい場合,ものすごく雨が降っていないとちゃんと映らないんですよ。だからわざわざ雨の日にホースなんかで雨を足すんですね。大きいものを大きく見せるときのパースのつけかたとか,そういったほかの撮影技術も含めて,実写映画は必ずしもリアルではない場合が多いんです。
須田:
確かに。
関根:
フルCGでリアルを再現するときに,この“必ずしもリアルではない”ということを忘れてしまっているのではないかと感じてしまうことが多くて。極端なことを言ってしまうと,モーションキャプチャーを使わなければ良いのにって。
モーションキャプチャーの動きを気にしすぎて逆に自由度が減っているんじゃないかなと。モーションキャプチャーのこと何も知らずに言ってますけど(笑)
須田:
僕も,モーションキャプチャーの演出の経験はありますけど,体全体で表現しようとするからオーバーに動いてしまう。それに違和感があったんですけど,動きという情報を埋め込んでいき,密度を足していくためには,大きな動きにする必要があるんです。
というのも,モーションキャプチャーでは繊細な演技というのをデータとして拾ってくれないんです。
関根:
なるほど。支配人のキャラクターだけ実写案,静かな男たちの闘いの場,松本零士先生のロマン溢れる戦場の描写をするには,そっちのほうが良かったような気がしてきました。
松本先生のロマンや物語は,フルCGでは,もっともっと果敢なチャレンジを必要とするということですね。
須田:
そうかもしれませんね。銀河鉄道999なんてぶったまげますよ。いや,子供の頃は当たり前だと思って毎週観てましたけど,今,世の中にある物語のなかで,あれだけ毎週毎週違う話を描いている作品はないですよ。おかしいですよ(笑)。
だから,今のクリエイターの人が松本先生ワールドにトライした作品をこうやって拝見して,またあらためて松本先生という人のすごさを思い知るわけですよね。同じ練馬区民なんでね,ご近所さんですから。
関根:
同じ町内じゃないんですね。縄張り意識が妙に広いというか。
そろそろゲームのお話を。。。
キャプテンハーロックを描いているなら,わがまま言っちゃうと,クイーンエメラルダス[4]も出してほしかったですよね。
関根:
説明過多っていいながら,さらにキャラクターを増やしちゃいますか(笑)。
須田:
あー,そうですね。その説明もしなくてはいけないですもんね。
この作品って,ハーロックを知らない世代に向けたハーロックという感じがするので,それは難しいか……。
関根:
若者に向けた作品なんですよね。小栗 旬とか三浦春馬がキャスティングされてるし。だから説明過多なのか。意外とそれがポイントだったのかもしれないです。
須田:
確かに。僕はなんとなくなんですけど,先生の立場で考えるとハーロックが,劇場版として,フルCGとして,これだけの大きい規模でよみがえったということ自体,すごく嬉しいんじゃないかと思うんですよ。だから僕は,それでOKかなと思いますね(笑)。
自分が原作者だったら,「あ,ここまでやってくれたんだから,俺は嬉しいよ」って思うんじゃないかなと。
関根:
途切れることなく,自分の作品が世の中に出て行くことの幸せってありますよね,きっと。
須田:
そこをすごく感じました。
関根:
やっぱり僕らの世代ではなくて,4Gamer読者の若い人達にハーロックを観てもらって,松本零士作品に興味を持ってほしいですよね。
ジブリ作品って毎年TVでも放送されるじゃないですか。僕はそれと同じように,劇場版の銀河鉄道999なんかも,毎年TVで流してもいいんじゃないかと思っているんです。
関根:
えっ? ……って,一瞬突っ込もうかと思いましたが,それもいいかもしれないですね。いろいろとまとめると,この作品,実に意欲作な気がしてきました。
須田:
うんうん,そうですよね。なんか良かったですよ。
関根:
ちょっとロマンあるお話でまとまったところで,そろそろゲームの話でしょうか。
須田:
あー,そうですね。まぁ,これはもうね。参加メンバーを見ていただければわかるように,「ファイナルファンタジー」ですよ。宇宙,ロマンといえば,ファイナルファンタジーです。シリーズ作品がいっぱいありますので,あえてどれがオススメとは言いませんが。
関根:
言わないんですか! 支配人のオススメがどれか気になったのに!
須田:
これはですね,みなさんの心の中にあるファイナルファンタジーを選んでほしいなと思います。
関根:
なんか,良いことを言った風な顔になってますけど,そうでもないですよ! そもそも,この映画と合わせて楽しんでほしいゲームを紹介しようという話なのに,みなさんの心の中にあるものだったら,みなさんソフト持ってるでしょ,普通。
須田:
わははははは。
関根:
あ,ごまかした。
須田:
まあ,CGスーパーバイザーとして参加されている竹内謙吾さんが関わった作品はVIIIとIXですので,それはこの作品の流れからも楽しめますよね。ちなみに,僕が一番好きなのは「ファイナルファンタジーVI」です。
関根:
それが聞きたかったんですよ。なんで好きなんですか?
須田:
いや,設定含めて全部好きです。シナリオも演出も。一番好きですね。
関根:
信じましょう。
須田:
それから,宇宙ものということでいうと,「EVE ONLINE」というオンラインゲームがあるんですけど,これもオススメですね。
関根:
それはどういったゲームなんですか。
須田:
宇宙船に乗りながら宇宙で生活するゲームなんですよ。いろいろな仕事をしたり,戦闘があったりと,とても自由度の高いゲームで,まさに,ハーロックとアルカディア号の中で生活をする感覚が体験できるゲームですね。
詳しくは,4Gamerの記事を読んでいただければ分かると思います。
関根:
ちょっとワクワクしますね。じゃあ,僕達もいつか移動映画館でも作って宇宙を旅しましょうね!
須田:
そうだね,部長。じゃあ,売り上げは僕と部長で8:2で分ける感じでいいかね。
関根:
まったくもってロマン要素ゼロですね! しかも,割合,不当だし! 勝ち戦しかしてない!
須田:
怒ってる割には,いっぱい言葉出てくるよねー。
映画「キャプテンハーロック」公式サイト
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