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PS4向けの最新テクノロジーやインディーズゲームへの取り組みが披露されたGTMF 2014のSCEセッションレポート
本稿では,PS4用ゲーム開発の最新事情が扱われたセッションの概要をまとめてみたい。
GTMFが開催された東京秋葉原のUDX GALLERY |
SCE テクノロジープラットフォーム シニア・バイス・プレジデントの豊 禎治氏 |
PS4用ゲーム開発に使える2種類の物理シミュレーションエンジンを提供
- PS4の現状
- インディーズゲームに向けた取り組み
- 新たなゲーム体験の創造に向けて
豊氏はまず「PS4の現状」について,PS4とPlayStation 3(以下,PS3)のアーキテクチャにおける違いから解説を始めた。
4Gamer読者にも周知のとおり,PS4はPCアーキテクチャとほぼ同じAMD製のx86系8コアCPUと,同じくAMDによるGCN世代のGPUコアを採用し,大容量かつ高性能なGDDR5メモリを搭載したことを特徴としている。このアーキテクチャは,PS3のそれとはまったく異なるものだ。
そのため,PS3のCPU「Cell Broadband Engine」(以下,Cell)が内蔵する「Synergistic Processor Element」(SPE)で処理していた大量の演算をどこで行うべきかというのが,PS3に慣れ親しんだゲーム開発者がPS4に移行するときに戸惑う部分になっているという。
PS4のアーキテクチャ(左)は,PS3とはまったく異なる(右)。そのため,PS3ではSPEで行っていた大量の演算処理をどこでやればいいのかという問題が生じる。「それはGPGPUで」というのが,後段で説明するSCE側の提案だ |
そうした悩める開発者に対してSCEは,自らが模範となるべく,PS4向けに最適化された2種類の物理シミュレーションエンジン(ライブラリ)を開発し,新版のPS4開発者向けSDKで提供することにしたと豊氏は発表した。提供されるライブラリは,GPGPUを使うように実装された「GPU物理シミュレーション」エンジンと,PS4 CPUを使う「CPU物理シミュレーション」エンジンの2種類だ。
GPU物理シミュレーションは,大量のオブジェクト同士の衝突や挙動を計算させる用途に向いた物理シミュレーションエンジンだ。ビジュアルを派手に見せるための,いわゆる「エフェクト物理」(効果物理ともいう)に適したものとなる。その処理能力は,CPUで同じ処理をこなす場合の10倍以上にも達し,これによってPS4のゲーム上で,数千〜数万個の剛体物理シミュレーションを可能にするとのことだ。
講演中に披露された,CPUによる処理とGPU物理シミュレーションエンジンの性能差を示すデモを動画で掲載しておこう。実力の一端がうかがえるはずだ。
なお,衝突判定単位はパーティクル(球体)ベースに簡略化されているが,自由形状の3Dオブシェクトにも対応している。ただし,自由形状の3Dオブシェクトに対しては,半径の異なる球体を組み合わせた近似形状による衝突に置き換えて判定する方式となる。
また,このGPU物理シミュレーションエンジンは,グラフィックスレンダリングと同時発行・並列実行が可能であり,GPUの高効率活用に貢献すると豊氏は期待を示した。
もう一方のCPU物理シミュレーションは,オープンワールド型ゲームなどで要求される「ゲームプレイ物理」(※プレイに影響を与える物理)にも対応した高精度物理シミュレーションエンジンである。これは,大量のオブジェクト同士による衝突や挙動を計算するというよりも,「ゲームロジックやゲームメカニクスに組み込むことを目的としたもの」(豊氏)とのことだ。
CPU物理シミュレーションでは,オブジェクトの衝突判定はポリゴンで構成された3Dモデル形状で行われ,各種ジョイント構造にも対応している。高速に動く物体の衝突も確実に判定できる,「Continuous Collision Detection」という衝突検出技法にも対応していると豊氏は説明していた。
ゲームエンジンのPS4対応はさらに拡大中
続いて豊氏が説明したのは,PS4に対応するゲームエンジンの最新事情についてだ。
UnityはSCEとの包括契約により,現行世代の全PSプラットフォーム向けゲーム開発に利用できる |
講演時点でのPSプラットフォームに対する対応状況 |
とくに「Unity for PlayStation Mobile」は,開発したゲームを,開発用PS Vitaではなく,市販されているごく普通のPS Vitaで動かせる仕組みが高く評価されているとのこと。そのおかげで,インディーズゲームの開発シーンで注目されていると豊氏は述べていた。
ちなみに,現行の「Unity 4」系は,上述した全プラットフォーム向けの正式版がリリース済みである。現在は,登場が期待されている次世代版「Unity 5」の対応が鋭意進行中とのことであった。
次に取り上げられたのは,Epic Gamesの「Unreal Engine 4」(以下,UE4)だ。こちらはPS4用のゲーム開発専用環境として提供が開始されている。豊氏によれば,ゲームプレイ中にバックグラウンドでコンテンツをダウンロードする「Play As You Download」機能といった,PS4固有機能を効果的に活用できる仕組みも,すでに実装されているそうだ。
現在のUE4は,GPUによるグラフィックスレンダリングとグラフィックス描画コマンドを組み立てるCPUスレッドが,やや強い相関関係にあるアーキテクチャである。しかし将来的には,これらを完全に独立して非同期実行させる「Parallel rendering」機能が実装される見込みで,当然ながらPS4用UE4でもこの機能が使えるようになる予定だ。
さらに豊氏は,Sony Computer Entertainment Europe(SCEE)が開発するゲームエンジン「PhyreEngine」の最新状況についても説明した。これは,PS3の時代に「Xbox 360にも対応したSCE謹製ゲームエンジン」として,欧米のゲームスタジオから高く評価されていたものだ。
PhyreEngineの対応プラットフォームには,PS4とPS Vita&Vita TVそしてAndroidが加わっている。
他社のゲームエンジンと異なり,PhyreEngineはコア部分のソースコードまですべて公開しているうえ,ゲームに使えるかなり本格的なサンプルコードまで付属している。そんな事情もあって,PSプラットフォーム向けタイトルを初めて手がけるゲームスタジオからの引き合いも強いと,豊氏は説明していた。
インディーズゲームの開発を促進する
PS4向け2Dゲーム開発環境「GameMaker」をアピール
「PSはインディーズゲームを支援します」とアピール(左)。PSプラットフォーム対応のインディーズゲームも充実しつつある(右) |
GameMakerとは,2Dタイプのゲームであれば,プログラミングの知識がなくてもマウス操作だけで簡単に作れるという「ゲーム制作ツール」である。その最新版はPS4とPS3,PS Vita&Vita TVへの対応が行われているとのことだ。
GameMakerの特徴を示したスライド。プログラミングの知識がなくても,マウス操作主体でゲームを作れて,しかもPS4にも対応する |
GameMakerで作られたゲームの例。4Gamerでも名前を見かける数々のインディーズゲームが,GameMakerによって作られているという |
多様なゲームエンジンが用意され,世界規模のネットワークサービスである「PlayStation Network」(以下,PSN)も提供されているプレイステーションプラットフォームは,小規模なゲームスタジオがアイデア優先のユニークなゲームを開発し,世界中のゲーマーに向けて発表するには最良のプラットフォームである,というのがSCEの主張というわけだ。
PS4と周辺機器の組み合わせが実現する
次世代ゲーム体験への取り組み
セッション最後のテーマである「新たなゲーム体験の創造に向けて」では,PS4専用カメラ「PlayStation Camera」(以下,PS Camera)を活用する新技術の報告と,開発中のVR対応型HMD「Project Morpheus」の現状報告が行われた。
PS Cameraは,PS4本体に付属するセットモデルも販売されているのだが,プリインストールアプリである「The Playroom」以外に,その機能を生かして楽しめるアプリケーションがない,というのが現状だ。
そこで,こうした状況を打開すべく,SCE側ではPS Cameraの新しい使い方を提案すべく技術開発に取り組んでおり,そのいくつかかが今回公開された。
カメラで捉えた現実世界にCGキャラクターを合成するAR技術は,いまや珍しいものではないが,そのCGキャラクターは現実世界を照らす光とはまったく無関係に描画されるのが一般的だ。そのため,場面によっては非現実的すぎて浮いた映像になってしまうこともある。
それに対してARダイナミックライティングは,PS Cameraが認識した部屋を照らす実際の照明に合わせて,その照明に照らされたようなCGをリアルタイムに描画するという技術だ。
実はこれ,アルゴリズムはとてもシンプルだ。PS Cameraが捉えた情景から床の平面を認識し,その床平面を3×3の粗い領域に分割し,その輝度分布を計算する。そして,輝度分布から光源の位置と照射範囲を求めて,そのライティング条件でCGを照らすという流れになっているという。
つまり,懐中電灯がどこで光り,どこを照らしているのかを画像認識しているわけではない。だから動画をよく見ると,懐中電灯の位置とCGキャラクターの影がずれているのが分かるだろう。光は基本的に天井方向からやってくるものと仮定しているそうだが,これはPS Cameraの設置環境が天井に照明があるリビングルームであると想定しているからのようだ。
ARダイナミックライティングを使えば,PS Cameraを使ったARゲームで合成表示されるCGを,部屋の照明によって自然に照らされたような表現で描画することが可能になるだろう。なかなか面白い技術だ。
PS CameraとAR技術を組み合わせたもう1つの新技術が「大規模物体認識」と呼ばれるものである。PS Cameraが捉えているゲーム盤の上に置いたカードを認識し,それに関連したキャラクターを表示したり,ゲームの判定をしたりといった具合に,現実のカードをCGのゲームに応用できる技術だ。先に掲載した動画の0:50秒あたりから,そのデモ映像となっているのでぜひこれも見てほしい。
大規模物体認識では,PS Cameraの前に置いたカードゲームのカードを認識させてゲームに反映させることが可能となる |
今までも,カード上に描かれたバーコードやQRコードなどの画像パターンを使い,カードを認識させてゲーム画面に反映するという技術はあった。それに対して大規模物体認識では,そうした画像パターンは必要ない。イラストと文字が書かれたごく普通のカードでもいいのが最大の特長だ。
いわば「自由画像認識システム」といった技術なのだが,今回開発された技術では,認識対象数に応じて適宜アルゴリズムを切り換えたり,クラウド技術を使ったりすることができるシステムになっているという。デモの中では,ゲーム盤上に出された多数のカードをすべて同時に認識し,ゲーム画面上で処理する様子が示されていた。
SCEはPS Vitaでも,こうしたAR技術の開発に取り組んでいたが,PS4でも継続して研究開発に力を入れていく方針のようだ。
「これまでのゲーム機向けゲームといえば,テレビ画面に切り取られた矩形の映像を見ながらプレイすることしかできなかった。解像度の向上や3Dテレビといった技術革新はあったものの,テレビ画面の枠内でプレイするというスタイルに変化はないままだ。そこにProject Morpheusで革新をもたらす」というのが,SCE側が思い描くストーリーだ。
テレビという「窓」に縛られていたゲームから(左),窓を取り去って映像の中で体験しているようなゲーム(右)を目指すのがProject Morpheus,というイメージスライド |
製品版の仕様や発売時期についてのアナウンスは今回もなかったが,Project Morpheus対応ソフトの開発を始めたゲームスタジオやミドルウェアメーカーには,プロトタイプの機材が供給されているそうだ。ハードとソフトの両面で開発が進んでいるようだった。
セッション内で披露されたProject Morpheusのデモ(左)。使われたアプリケーションは,Game Developers Conference 2014でも使われた海底探検デモ「The Deep」だった(右) |
今回は1つのセッションで3つのテーマを解説するという内容だったため,1つ1つを掘り下げた解説をする余裕はなかった。そこで,2014年9月2日にパシフィコ横浜で開催予定の開発者向けイベント「CEDEC 2014」にて,今回の3テーマをさらに深く掘り下げたセッションが開かれる予定だという。
豊氏も「PlayStation 4 最新技術のご紹介」というセッションで登壇の予定があるとのこと。CEDEC 2014に参加予定のゲーム開発者は,下記のセッションをチェックしておくことをお勧めする。
タイトル | 開催日時 |
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PlayStation 4のGPGPUを活用した剛体シミュレーション最適化事例 | 2014年9月2日 16:30〜17:30 |
AR(拡張現実)コンテンツの制作事例と,最新の取り組み | 2014年9月3日 13:30〜14:30 |
カメラ応用アプリケーションポストモーテム | 2014年9月3日 16:30〜17:30 |
PlayStation 4 最新技術のご紹介 | 日時未定 |
Game Tools & Middleware Forum公式サイト
- 関連タイトル:
PlayStation VR本体
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