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Access Accepted第434回:怪作「ナイトトラップ」は復活できるのか
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印刷2014/09/08 12:00

業界動向

Access Accepted第434回:怪作「ナイトトラップ」は復活できるのか

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第434回:怪作「ナイトトラップ」は復活できるのか

 1992年にリリースされた「ナイトトラップ」は,当時普及し始めたCD-ROMを使い,実写映像をゲームに取り込んだ作品だ。日本語版も発売されたので,ひょっとしたら覚えている人がいるかも知れないが,同作が現在,「Night Trap ReVamped」と名前を変え,復活に向けて動いている。今週はそんな「ナイトトラップ」の過去と現在を紹介してみよう。


ゲーマーの記憶に残る珍作,「ナイトトラップ」とは?


 1990年代前半,「未来の記憶媒体」ともいわれたCD-ROMがPCやコンシューマ機に普及し始めたことをきっかけに,FMV(フルモーションビデオ)というテクニックを使った作品群がアメリカのゲーム市場に出現した。CD-ROMの(当時としては)大容量を活かしたもので,スタジオで撮影した実写映像をゲームの展開に応じてインタラクティブに映し出すような作品が,まとめてFMVと呼ばれた。

 当時は聞き慣れない言葉だった“マルチメディア”を謳った庄野晴彦氏の「Alice: An Interactive Museum」(1990年)を始め,アドベンチャーゲームの「The 7th Guest」(1992年)やスペースコンバットシムである「Wing Commander III: Heart of the Tiger」(1994年),そしてRTSの「Command & Conquer」(1995年)など,実写を利用したエンターテイメント作品が次々に生み出され,Micromediaの「Director」といったオーサリングツールが充実し,映像とゲームを手軽に扱えるようになってきたことも開発に拍車をかけた。

画像集#002のサムネイル/Access Accepted第434回:怪作「ナイトトラップ」は復活できるのか
 そんなFMVタイトルの一つとして1992年にリリースされたのが,Digital Picturesというメーカーが開発し,1992年にセガからリリースされた「Night Trap」(邦題,ナイトトラップ。以下,ナイトトラップ)だ。対応機種は同社のメガドライブで,いうまでもなく周辺機器のメガCDが必須であった。

 プレイヤーの役どころは,アメリカ郊外の町で若者が次々に失踪するという事件を追う特殊捜査部隊SCAT(SEGA Control Attack Team)の隊員で,事件に関係があると思われるマーチン家に招かれた5人の女の子(と弟が1人)を守る任務が与えられる。
 オープニングでSCATの隊長から与えられるデバイスが,どう見てもメガドライブ用のコントローラだったりして,のっけからなかなか面白いが,ともあれ,プレイヤーはリビングやベッドルーム,廊下など8つのエリアを防犯カメラで監視しつつ,「オーガー」と呼ばれる黒ずくめの悪者が彼女らに近付く前にトラップにかけていくことになる。
 女の子は,「じゃあシャワーでも浴びてくるわ」などと呑気な行動を取るので,彼女らのセリフを把握して,先回りしてオーガーを処理しておかなければならないわけだ。8つのエリアでは同時進行でいろいろなことが進んでいくので,カメラの切り替えタイミングも重要だ。Cボタンでトラップを切り替え,Bボタンでタイミングよく作動させるという,現在のタワーディフェンスもののような操作法だった。

 このゲームがゲーマーの記憶に残る理由の一つは,映像のB級映画的な雰囲気だろう。例えばテレビのホームコメディのように照明がまんべんなくセットを照らしているため,何の恐怖心も与えてはくれず,さらに,潜入捜査員として女の子達に混じっていたダナ・プラトーさんこそテレビドラマでそれなりの知名度があったものの,そのほかはモデルを中心にした大根役者ぞろい,オーガーがノソノソ歩く姿もコミカル過ぎた。トラップも,落とし穴や,上から白い粉が降ってくるものなど,コントを思わせる脱力系のものが多い。
 しかも上記のSCAT隊長は,序盤のルール解説が終わって何もせずにいると,数秒後には「何をモタモタしているのだ」と怒りだし,ゲームオーバーにしてしまうという鬼教官ぶりで,どこか当時のアメリカらしい理不尽さと馬鹿馬鹿しさを持ったゲームだったのだ。

鏡を見ているのだから気がつくはずだが,絶対に気がつかない女の子。つい「うしろ,うしろ!」と声が出てしまう。もっとも,1本のドラマが作れそうなほどの長編映像を収めた,FMVタイトルとしてはマイルストーン的なゲームであり,その業績は,もう少し評価されても良いと思う
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Kickstarterでのキャンペーンに失敗したリバイバル作品


 ゲームとしてはツッコミどころ満載の「Night Trap」だったが,当時のアメリカではかなりの話題になった。ただ,残念なことに,「Mortal Kombat」「DOOM」「Duke Nukem」などと一緒に,アメリカ議会によって“暴力ゲーム”のレッテルを貼られてしまい,上記の作品と共に,ゲーム業界が自主規制を行うレーティングシステム「Entertainment Software Rating Board」(ESRB)を発足させるきっかけになったタイトルともいわれる。
 「男達が,女の子を罠にかけて殺すのを楽しむゲーム」などと,実際とはまるで違う見解を平気で述べる反対派の議員もおり,販売店が「Night Trap」の取り扱いを一時的に中止するような事態に陥ってしまったこともある。

 そのためか,「Night Trap」は続編が作られることもなく,珍作としてゲーマーの記憶に残るのみだったのだが,リリースから22年後の今年(2014年),予想もしなかったことに,オリジナル版のクリエイター達が「Night Trap ReVamped」の開発を発表したのだ。彼らは,Night Trap LLCという新会社を設立したうえで,高画質に対応したリバイバル版を制作するというプロジェクトをKickstarterにアップし,出資者を募った。募集の締め切りは北米時間の2014年9月9日で,目標額は33万ドルだ。

Night Trapは,Atariの創業者でもあるノーラン・ブッシュネル(Nolan Bushnell)氏が開発していた,ビデオテープをメディアにしたコンシューマ機「NEMO」向けに制作されていた作品で,1986年には27億円もの予算が投入されている。残念ながら,NEMOの開発は中止となり,その後,メガCDの登場までお蔵入りになっていたという
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Kickstarter「Night Trap ReVamped」企画ページ


 ついにあの「ナイトトラップ」が帰ってくる! ということになれば,話はきれいにまとまるのだが,残念ながら原稿執筆時点(北米時間9月5日)で目標にはほど遠い金額しか集まっておらず,何かのミラクルでも起きない限り,キャンペーンは間違いなく失敗するという,かなり悲惨な状況になっている。

 失敗前提で話すのもどうかと思うが,こうなった理由として,Kickstarterの企画ページの説明が悪かったことが挙げられるだろう。当初は,集めた33万ドルが何に使われるのか明記されておらず,また「PlayStationとXboxにも対応する」と書かれていても,それがどのPlayStation/Xboxなのかも分からないといった具合であり,とても潜在的投資家達に「資金提供をしても良い」と思わせるものではなかったのだ。
 そのため,アメリカのゲームメディアもあまり好意的には取り上げようとせず,それがさらに悪影響を及ぼしたようだ。

 北米のゲームブログであるKotakuのインタビューによれば,33万ドルのうち25万ドルはNight Trapの知的財産権を買い戻すために支払う費用であるとのことだが,Kotakuの記事にもあるように,残る8万ドルで,さまざまなバージョンを開発するのは現実的でない。

 さらに,オリジナル版のプロデューサーだったトム・ジート(Tom Zito)氏やディレクターのジェームス・ライリー(James Riley)氏などは,Atari 2600の時代からゲーム業界に携わってきた大ベテランではあるものの,それほど知名度の高い人物ではなく,そのためか,例えば「開発者のサイン入りグッズや,開発者達とのディナー」などという,高額投資者向けの特典なども用意できず,代わりに「500ドルでエンドロール,1000ドルでオープニング,1万ドルならエグゼクティブプロデューサーとしてゲームに名前が登場する」といった地味な特典があるのみで,これもまた多くのゲーマーにとっては,あまり魅力あるものに思えなかったはずだ。
 もちろん,作り直したりなどせず,「ナイトトラップ」はあくまで記憶の中に留めておくだけでいいと思った人が多かったのかもしれないが。

Kickstarterの企画ページに最近掲載された,メガCD版とHD版とのグラフィックスの違い。ブリトニー・スピアーズにも似たダナ・プラトーさんはすでに他界しているが,ゲームの中ではSCAT隊長と共にプレイヤーのことをさんざんののしりまくってくれる
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 Kickstarterでのキャンペーンが失敗した場合,プロジェクトがどうなるのかは明らかになっていない。今回のキャンペーンは(結果として失敗だったかもしれないが)広報が主な目的であり,開発資金はすでに確保されていると見る人もおり,継続されていくだろうという予想もある。
 日本語版では,SCATの隊長を大塚明夫氏が演じていたことを覚えている人も少なくないはずで,もし当時のままのボイスで日本語版が作られるのであれば,ぜひプレイしてみたいと思う日本人プレイヤーも割といるのではないだろうか。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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