業界動向
Access Accepted第529回:いよいよ始まるGDCに向けて,Independent Games Festivalのノミネート作品をチェックする
北米時間の2017年2月27日,世界最大規模のゲーム開発者会議Game Developers Conference 2017が始まる。4Gamerでは今年も総力(の一部)を挙げて,さまざまなセッションのレポートや,新たに発表されるゲーム,ハードウェアを紹介していく予定だ。さて,すでにGDCの最大勢力といっていいインディーズゲームだが,その開発者達が一堂に集まる,Independent Games Festivalも例年どおり開催される。というわけで今週は,大賞候補にノミネートされた6作品を紹介したい。例年に輪をかけて粒ぞろいであり,ユニークな作品が集まったようだ。
GDC 2017の傾向
イベントのメインは3月1日に始まり,ゲームデザインやプログラミング,オーディオ,ビジネス/マーケティングなど,「トラック」と呼ばれる9種類のセッションが並行して行われる。また,その前の2月27日と28日には,人工知能やVRとARのミックスド・リアリティ,インディペンデントゲームといった項目に分かれた,「サミット」と呼ばれる,より専門的なセッションが実施される。
サミットには,ユーザーのゲーム体験についての講義を集中的に行う「UX Summit」と,競技スポーツとしてのゲームにフォーカスした「GDC eSports Day」が今年,新たに加わっている。
公式サイトをチェックすると,昨年に引き続きVR/AR関連のセッションが豊富であり,VR専門トラックのアドバイザーとしては,Funomeraのロビン・ヒューニック(Robin Hunicke)氏,Owlchemy Labsのアレックス・シュワルツ(Alex Shwartz)氏,そしてNorthway Gamesのコリン・ノースウェイ(Colin Northway)氏らの名前が挙がっている。いずれもインディーズ系メーカーの関係者で,いまやGDC 2017最大の勢力に成長したインディーズゲームメーカーのパワーがうかがえる。
これらに加えて,Sony Interactive Entertainmentが「PlayStation VR」についてのスポンサーセッションを行う予定であり,また,今やARゲームの代表作といえる「Pokémon GO」を開発したNianticもセミナーを実施するなど,VR/ARには,今年も大きなスポットライトが当てられることになるだろう。
インディーズ系のゲームといえば,「Firewatch」や「ARK: Survival Evolved」,そして2016年の話題作となった「No Man’s Sky」など,我々のよく知るゲームのセッションも少なくない。毎年,多数の作品がリリースされるインディーズゲームだけに,プロモーションに資金を割けない小さなチームが,いかに消費者の注目を集めるか,マーケティングキャンペーンをどのようにすればいいのかなどが気になる開発者も多くいるようで,そうしたノウハウを伝授するセッションも多数見られる。
そして,イベント3日めの水曜日には,Game Developer‘s Choice Awardに併催される形でインディーズ系ゲーム開発者の祭典「Independent Games Festival」(IGF)が開催される。“オマケ”という雰囲気はまったくなく,エントリー作品や,受賞作が発表されたときの会場の大きな盛り上がりは,どちらも同じくらいだ。
イベントでは,学生部門,オーディオ部門,ゲームデザイン部門,ナラティブ部門,ビジュアルアーツ部門,そして斬新さを評する「Nuovo Award」部門などの受賞作品が発表されることになるが,今週はいつものように,大賞に相当するSeamus McNally Grand Prizeにノミネートされている6作品を紹介してみよう。果たして,エントリーされた650作の中から,大賞に選ばれる作品はどれだろうか?
「Independent Games Festival」公式サイト
■Event[0]
開発元:Ocelot Society
対応機種:PC/Mac
http://event0game.com
「Event[0] 」は,1980年代に太陽系内の宇宙旅行が可能になったという設定のアドベンチャーゲームだ。2012年,木星の第2の月“エウロパ”からの帰還途中に故障した宇宙船を舞台に,唯一生き残ったプレイヤーが,協力的ではないAI,Kaizen-85を説得しつつ,地球に戻るための方法を探っていくというストーリーで,ハッキングやパズル,探索をメインにしたゲームシステムになっている。
特徴的なのは,AIのセリフがプレイヤーのタイピングに応じて自動生成されることで,最大200万タイプの“会話”が可能になっているとのこと。英語以外でプレイするのは難しいが,フランスの学生達が作った作品として,高いクオリティが評価されている。
■Hyper Light Drifter
開発元:Heart Machine
対応機種:PC/PS4/Xbox One/Mac
http://heartmachine.com
「ゼルダとディアブロをミックスする」というアイデアのもと,8ビット風の2Dアートワークを前面に押し出したのが,この「Hyper Light Drifter」だ。
2013年にクラウドファンディングサイトのKickstarterでキャンペーンを行ったところ,2万7000ドルの目標額に対して,その20倍以上の約60万ドルを集めたことで話題になった作品でもある。主人公であるドリフター(放浪者)は,さまざまなモジュールを埋め込んで異なる性能を発揮させられるエネルギーソードを持っており,長距離攻撃からエリアアタックまで可能な銃器も利用できる。
クラウドファンディングの勢いそのままに,大賞を獲得できるだろうか。
■Inside
開発元:Playdead
対応機種:PC/PS4/Xbox One
http://playdead.com/
コペンハーゲンに本拠を置くPlaydeadは,モノトーンのグラフィックスとシビアなトラップで話題になり,さまざまな機種に移植された「LIMBO」で知られるデベロッパだ。彼らの2作めとなる「Inside」は,前作によく似たアートワークでありながら,キャラクターを3D化して,さらに自由に動き回れるようにしたり,画面の一部に色を付けたりすることで,「LIMBO」とは印象のまったく異なるゲームになっている。
マインドコントロールされた人々がゾンビのように徘徊する街からの脱出を目指す少年が主人公で,最初から最後までまったく言葉を使わず,グラフィックスだけで物語を作り上げているところがユニークだ。マルチエンディングになっているが,その内容について,ほとんど説明がないことから,ファンの間ではさまざまな議論が巻き起こっている。
■Overcooked
開発元:Ghost Town Games
対応機種:PC/PS4/Xbox One
http://www.ghosttowngames.com/
“クッキング・アドベンチャー”を自称する「Overcooked」は,料理シミュレーションとアドベンチャーをミックスした作品だ。プレイヤーは雇われシェフとなり,各地をバスで巡りながら,求められる料理を手際よく作っていく。
面白いのは,本作が4人のプレイヤーによるCo-op専用のオンラインゲームであることで,それぞれが役割分担して,効率よく料理を作らなければならないことだ。そのレストランが目標とする収益を時間内に得ることが必要だが,それぞれのミッションで冷蔵庫やオーブンのレイアウトが異なっているので戸惑ううえに,なぜか氷山の上で料理を作らなければならなかったり,通行人がキッチン内を横切ったりなど,ツッコミどころ満載の,さまざまな難関がプレイヤー達に襲いかかるのだ。
■Quadrilateral Cowboy
開発元:Blendo Games
対応機種:PC/PS4/Xbox One/Mac/Switch
http://blendogames.com/qc
「DOOM」や「Half-Life 2」のMOD開発者として知られ,新作を頻繁に送り出すことでも有名な開発者,ブレンドン・チュン(Brendon Chung)氏の最新作が,「Quadrilateral Cowboy」だ。
プレイヤーは,56.6Kbpsのモデムが最新鋭機器だった1980年代のハッカーとなり,さまざまな場所に乗り込んで機密書類を盗み出す仲間のエージェントを,セキュリティシステムの解除や電子機器の誤作動などを起こして,遠方から支援していくという,一人称視点のパズルアクションになっている。また,キーボードから即席プログラムを打ち込むなど,プレイヤーのスキルも試される。
■Stardew Valley
開発元:ConcernedApe
対応機種:PC/Mac
http://stardewvalley.net
2011年に大学を卒業したというエリック・バローン(Eric Barone)氏が長らく開発してきたシミュレーション「Stardew Valley」は,現在,Steamで最もダウンロードされるタイトルの1つとなった。
祖父の遺産の農場を,最初は簡単な道具と少ない資金しかない状態で経営を開始し,次第に拡大していくという内容で,「牧場物語」シリーズに強くインスパイアされたという。栽培や開拓だけでなく,釣りや料理,鉱物の採取など,いろいろなことが行える。
近所に住むNPCと交流を深めて結婚することも可能で,古い2Dゲームの雰囲気を漂わせつつ,プレイヤーが自分のペースでゲームを進めていけることが,幅広い層に支持される大きな理由だろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
来週の「奥谷海人のAccess Accepted」は,筆者取材のためお休みします。次回の掲載は,2017年3月13日を予定しています。
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