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Access Accepted第809回:「The Game Awards」に集まる批判と,その難しい舵取り
「The Game Awards」と言えば,ベテランジャーナリストのジェフ・キーリー氏がプロデュースするゲーム業界の功績を讃える表彰式典だ。2024年は日本時間12月13日に実施される。新作タイトルの発表や,初公開情報のお披露目などの場としても確立され,年々注目度が増しているが,ここのところゲーム業界内外からの批判が多くなってきており,転機が訪れているようにもうかがえる。
年ごとに影響力を増しているゲーム業界の表彰式典
「The Game Awards」は,IGNやGameSpotを始めとするメディアや,YouTubeやTwitch,Steamなどのネットワークに加えて,1万7000ものコンテンツクリエイターの力を借り,2023年度のストリーミングはグローバルの総計で1億1800万回視聴にも達している。第1回が190万回視聴だったことを考えると,視聴者数は60倍ほどに膨れ上がった。
「The Game Awards」はもともと,アメリカのヤングアダルト向けケーブル局Spike TVにて,2003年から2013年にかけて開催されていた「Spike Video Game Awards」を前身とする。キーリー氏がプロデューサー的な役目を果たし,自らがゲーム開発者やセレブに直談判してイベントを行うという,どちらかと言えば手作り感が強い単発番組であった。2013年には俳優のサミュエル・L・ジャクソンさんをホストとして起用することに成功している。
しかし,Spike TVが当時の次世代ゲーム機であるPlayStation 4およびXbox Oneに限定する意向を示し,放送時間も1時間に短縮したことで,キーリー氏は独立してイベントを行うことを決意する。新しい場所として選ばれたのはストリーミング配信だ。
そして,ソニー・インタラクティブエンタテインメントやMicrosoft,任天堂を始めとするパブリッシャの援助を取り付けることで,2014年の第1回配信を成功させたわけだ。以降,年の瀬のメジャーイベントとして成長していき,タキシードがぎこちないゲーム開発者たちの祭典として,年を追うごとに注目されていくことになった。
実際,先述したプラットフォームホルダー3社の重役が集まるゲームイベントはほとんど存在せず,インディペンデントなキーリー氏だったからこそ,成立するイベントになったのかもしれない。また,E3(Electronic Entertainment Expo)の影響力が下がってきたタイミングだったこともあり,入れ替わるような形で台頭してきた。
なお,「The Game Awards」の受賞作の選択に関しては,キーリー氏や運営者は関わっておらず,評価の割合は各企業の代表者やメディア関係者から選出された陪審が90%を占め,残りの10%はファン投票となっている。
セレブの出演からDLC作品のノミネートまで,迷走しているようにも見えるThe Game Awards
そんな「The Game Awards」が,ここのところ批判の対象になっている。問題のひとつは,長時間にも及ぶゲームの宣伝と,その宣伝をするために必要な莫大な費用だ。もちろん,巨大なシアターの確保から映像・音響機器のレンタル,警備員の雇用に至るまでに何億という費用が必要なイベントフォーマットだけに,利益率を高めるために必要なことは理解できる。
しかしそれでも,あまり興味が湧かないワールドプレミア(世界初公開)の映像が淡々と流される光景は,表彰式典目的の視聴者からすれば,何とも長く感じるのは確かだろう。
ほかにも,ショーを豪華なものにしたいという思いからか,ゲームとは直接関係ないセレブの登場が多いことも問題として挙げられる。その影響で,本来は壇上で賞賛されるべきゲーム開発者たちの出番が短くなり,本末転倒な状態になっていることを批判する視聴者も多い。
ゲームに関係するドラマシリーズのプレビューや,声優として参加したセレブ,多くの人に認知されているストリーマーたちも,ゲームに対する貢献度は疑いないが,本来はGame of the Yearと,それを作り上げたゲーム開発者たちにスポットライトが当てられるべき,と考えるのが真っ当だろう。
さらに今年は,「DLC」や「リメイク」,および「リマスター」もGame of the Yearに含まれるという新方針が表明されており,ファンのあいだで大きな話題になっている。すでに,そのノミネート作品も紹介されており(関連記事),今年はフロム・ソフトウェアの「ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE」と,スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY VII REBIRTH」が該当している。
キーリー氏は,声明で「The Game Awardsは,多くのゲームが進化する継続的なサービスであることを認識しています。過去にリリースされたゲームは,新しいコンテンツ,改善,またはサービスの更新によりノミネートに値すると審査員が判断した場合に限り,すべての賞のカテゴリーで対象となります。」と述べている。
リメイク作品はまだしも,DLCは単体では作動しない“付属物”であり,それについて不満を覚える人が多いのも納得できる。年に何千本もの新作が出ているのだから,その中から革新的な作品を6作選ぶのは,それほど難しいことではないだろう。
思えば昨年,CD Projekt REDの「サイバーパンク 2077: 仮初めの自由」がBest Ongoing Gameに選ばれた際も,DLCはライブサービスとして評価されるべきではないという意見が出たし,巨大企業のNEXON傘下の開発チームであるMINTROCKETによる「デイヴ・ザ・ダイバー」が,独立系作品に与えるBest Independent Gameにノミネートされたことに違和感を覚えた人も少なくなかった。
さて,今年のGame of the Yearにノミネートされた作品は,唯一の非アジア産ゲームとなったLocalthunkの「Balatro」,今年のトピックである「DEI問題」の一角を担った「黒神話:悟空」,メディアとプレイヤーの両方から高い評価を得た「アストロボット」と「メタファー:リファンタジオ」,そして先に挙げた2作品となっている。
どの作品が選ばれれば視聴者が納得するかは分からないが,さまざまな嗜好を持つ視聴者が存在する以上,どのような展開になろうと不満を持つ人は出てくるだろう。とくに新方針によってノミネートされた2作品のどちらかが選ばれた場合,不満の声が大きくなるかもしれない。いずれにせよ,このイベントフォーマットである限りは今後も難しい舵取りは続いていきそうだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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