森下正敏氏(日本AMD代表取締役社長)
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2008年1月21日,AMDの日本法人である日本AMDは都内で
「2008年日本AMD事業方針説明会」を開催した。2007年はPhenomやATI Radeon HD 3800シリーズなどといった新製品をリリースした一方,CPUではエラッタ問題に悩まされ,思うような立ち上げを行えなかったAMD。2008年のロードマップについては,4Gamerでも何度かお伝えしているが(
関連記事1,
関連記事2),日本AMDはどのような戦略で動くのだろうか。説明会の概要をお伝えしたい。
順調だった(?)2007年のAMD
2008年はプラットフォームトータルを推す
さて,説明会の冒頭で挨拶に立った日本AMDの森下正敏代表取締役社長は「日本AMDにとって実りのある年だった」と2007年を振り返った。
意外に思えるかもしれないが,その理由として森下氏は,ATI Technologiesの買収によって「プラットフォームモデルを造り上げることができたため」とする。CPUに加えてGPU,チップセットを手にしたことで,一つのプラットフォームが完成したというわけだ。
吉沢俊介氏(日本AMD 取締役 マーケティング本部 本部長)
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続いて登壇したのは,日本AMDの取締役 マーケティング本部 本部長である吉沢俊介氏。まず氏は,先週発表されたAMDの2007年第4四半期および同年通年決算で,エラッタ問題が噴出した第4四半期に17億ドル超の売り上げ高に対して16億ドル超の営業損失があったという,一見衝撃的な内容になっていた件について,「ATI Technologiesの無形資産(※のれん代,知的所有権など)を再評価した結果,買収時に比較して価値が下がっているという結果が出たため損失を計上することになったのであって,純然たる経理上の措置」と釈明する。2007年第4四半期には過去最高のプロセッサ出荷量を達成し,営業損失は900万ドル。「損益分岐点に近づいて」おり,粗利率約44%,現金残高19億ドルなどの数字を挙げ,財務の健全性をアピールしてみせた。
吉沢氏による,2007年決算発表ハイライト。2008年の話も多い。ちなみに(2)で「2007年でのチップセットの新しいデザイン」とあるのは「チップセットとしたのは誤り。ノートブックのデザインインが100件を超えた」(吉沢氏)
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続けて氏は2008年のトピックをいくつか挙げたが,最初に言及があったのは「ノートブックのデザインインが100件を超えた」ことだ。専門的な表現なので少々分かりにくいが,これは要するに「ノートPCメーカーが,AMDのCPUやGPU,チップセットを採用して設計を開始した件数が,100を超えた」という意味だ。2007年には,「Mobile Sempron」を搭載したNEC製ノートPC「PC-VN750KG」が,長らく販売台数1位の座にあり続けたことを引いた吉沢氏は,2008年にはさらに多くのAMD製CPU搭載ノートPCが登場するだろうと予告する。
懸案となっている「Quad-Core Opteron」&「Phenom」のエラッタ問題については,
修正版となるB3ステッピングはFabから出て,AMD社内で評価中であると,解決に向けて順調に進んでいることを強調し,「第1四半期中に2.3GHz,第2四半期には2.5GHzのQuad-Core Opteronを投入する。Phenomのスケジュールも似たようなものになる」と説明。2008年第2四半期中に45nm SOIプロセスのCPUを投入する計画にも変更はないとした。
続けて吉沢氏は2008年の戦略として,「
『PCユーザーエクスペリエンス』を繰り返し述べていくことになる」と述べる。「ユーザーエクスペリエンスには,CPUでまかなうものと,GPUでまかなうものがある。AMDは(その両方を持つ企業として,それらを一つにした)『プラットフォーム』にフォーカスし,エクスペリエンスを追求していく」というのである。
ローエンド向けのグラフィックス機能統合型チップセットとして用意されるRS780Gが,PCユーザーエクスペリエンスを向上させると吉沢氏
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その例として挙げられたのが,「Cartwheel」(カートウィール,開発コードネーム)プラットフォームである。Cartwheelとは,リリース間近となる3コアの「Phenom 8000」シリーズを含むPhenomシリーズのCPUと,コストパフォーマンスの高さで人気となったグラフィックス機能統合型チップセット「AMD 690G」の後継となる
「RS780G」(開発コードネーム,RS780と書かれることもある),そして新サウスブリッジ
「SB700」で構成されるプラットフォームだ。いわばAMDの次世代メインストリーム(=ローエンド)向け製品だが,吉沢氏は「いままで単体グラフィックスカードでなければ実現できなかったものが,マザーボードに乗ってくる」と,DirectX 10サポートとなるRS780Gのグラフィックス性能をアピールする。
SB700サウスブリッジ(※AMDロゴ入りヒートシンクの下)
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ところで,吉沢氏は説明会の中で,「CPUだけでなく,さまざまな技術要素をもってPCのユーザーエクスペリエンスを豊かにしていきたい」と述べており,2008年のAMDが「プラットフォームの魅力」を前面に押し出す方向へ切り替えたことが見て取れる。2007年以降,それまで声高に繰り返してきたプラットフォームという言葉をあまり使わなくなり,プロセス技術やCPUの性能そのものをアピールする方向へ進んでいるIntelとは対照的といえよう。
意地の悪い見方をすれば,「CPU単独ではライバルに差を付けられてつつあり,現時点では勝ち目がないため,“ライバルが持っていないもの”をひっくるめて訴求する戦略に切り替えた」といえるが,それはそれで間違った方向ではないと思われる。というのも,漏れ伝わってくるRS780Gの3D性能は(あくまでグラフィックス機能統合型チップセットとしてはという条件付きだが)かなり高いという。グラフィックス機能統合型チップセットの3D性能向上は,低価格PCの3D性能向上,ひいてはPCゲームプラットフォーム全体の底上げにつながるわけで,我々ゲーマーとしても歓迎すべき動きである。
また吉沢氏は,2008年におけるAMDのキーワードが
「Get Ready HD!」となったことを明らかにした。HD=High Definition(ハイディフィニション)を,「すべてのAMDプラットフォームでサポートする」という意味が込められたものだそうだ。
Get Ready HD!を具現化する存在の一つとして紹介されたのが,
「AMD Live! On Demand」のデモだ。日本語化が進められている同機能は,例えば自宅にあるPhenom搭載PCに保存されている動画や画像を,外出先のPCや(PSP,iPod Touchなどといった)無線LAN対応デバイスから鑑賞できるようになるというもの。回線状況や,受信端末の能力に応じて,リアルタイムでトランスコードを行ってサーバー機から送出されるという。
土居“兄貴”憲太郎氏の自宅にあるPhenom搭載PCをサーバー,説明会会場にあるデモ機をクライアントとして,AMD Live! On Demandのデモが行われた。「AMD Live! Explorer」(中央)というソフトからサーバーへアクセスして再生したのはWMV HD(と思われる)ムービー(右)で,どれくらいの解像度&ビットレートで配信されているのかは不明だが,そこそこ滑らかに再生できていたのは報告しておきたい
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ミドルレンジ以下の市場に勝機があるAMD
2008年の巻き返しに期待したい
ご存じのように,現時点で国内最速のスーパーコンピュータとなる東京工業大学の「TUBAME」はDual-Core Opteronを採用しているが,国立3大学もOpteronを選択した
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現実問題として,Intelが45nmプロセス世代のCPUを出荷を本格的に開始したのに対し,AMDは2008年内の予定となっている。性能や電力効率といった部分で,AMDがライバルにすぐ追いつくのは難しい状況だ。だからこそAMDは,「プラットフォーム全体で魅力を打ち出す」方向に切り替えたわけである。
プラットフォームとして見れば,AMDのラインナップには確かに相応の魅力がある。とくにコストパフォーマンスが重視されることになるローエンド〜ミドルレンジ市場では,IntelやNVIDIAと十分に戦える力があるはずだ。説明会でも推されたRS780Gなどを武器に,2008年はこのセグメントでシェア拡大を図ることになるだろう。
また,エンタープライズ分野ではQuad-Core Opteronの出荷が滞ったことなどが影響してシェアが低下気味のAMDだが,筑波,東京,京都の3大学法人が2008年中にそれぞれ導入予定のスーパーコンピュータにも揃ってQuad-Core Opteronが採用されるなど,評価は依然として高い。B3ステッピングの投入とともに始まる,AMDの巻き返しに期待したいところだ。