テストレポート
「Phenom X4 9950 Black Edition&X4 9350e」テストレポート。X4 9350eは扱いやすいクアッドコアCPUに
X4 9950とX4 9350eを検証
AMD製CPUユーザーにとっての意義を探る
また,X4 9350eは,動作クロックこそ2.0GHzで目新しさがないものの,TDPが65Wである点に注目したい。TDP 65WのPhenom X4はこれが初めてではなく,「Phenom X4 9100e/1.8GHz」が販売されているが,同製品はTLBエラッタが残ったままの,いわゆるB2ステップ品。今回リリースされたX4 9350e(とX4 9150e)はいずれもB3ステップのCPUコアが採用されており,TLBエラッタ問題が解決している。
X4 9950の比較対象として用意したのは,X4 9850のほか,X4 9950と動作クロックが同じデュアルコアCPU「Athlon 64 X2 5000+/2.6GHz」(以下,X2 5000+)。Athlon 64 X2 5000+クラスのAMD製デュアルコアCPUを持つ人にとって,有効なアップグレードパスかどうかをチェックしようというわけだ。
一方のX4 9350eについては,Athlon 64 X2 5000+の動作倍率を変更し,“「Athlon 64 X2 3800+/2.0GHz」相当”にしたうえで,やはりデュアルコアCPUからのアップグレード対象として意義深いか否かをチェックする。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠。ただし,スコアがGPUパフォーマンスに依存しやすい「高負荷設定」を省略し,「標準設定」のみとする。また,標準設定でも,1920×1200ドットは,やはりGPU性能に依存したスコアが出やすいため割愛。スケジュールの都合で,「Half-Life 2: Episode Two」「Company of Heroes」のテストを行っていないことも併せてお断りしておきたい。
なお,テストに用いたCPUの主なスペックは表2のとおりだ。
L3キャッシュは対Athlon 64 X2で
大きなアドバンテージに
さっそくテスト結果を見て行こう。グラフ1,2は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。3DMark06はマルチスレッド処理が進んでいるアプリケーションだけに,同じ動作クロックならAthlon 64 X2よりもPhenom X4のほうがスコアは高い。一方,X4 9950とX4 9850の差は(動作クロックに大した違いがないので当たり前といえばそれまでだが)それほど大きくない印象だ。
続いてFPSの「Crysis」から,ベンチマークレギュレーション5.2ではGPUベンチマークとなる「Benchmark_GPU」のスコアのみを参照するが,今回はそれに加えてCPUベンチマーク「Benchmark_CPU」のスコアもまとめてみた(グラフ3,4)。
Benchmark_GPUはその名のとおり,グラフィックスカードの性能にスコアが大きく左右されるため,CPUの違いは見えにくくになるが,それでも低解像度では,X4 9950とX2 5000+の差が10fps弱にも達している。Crysisでは,マルチCPUであることのメリットが見えにくいことを考えると,Phenom X4のL3キャッシュには相当に意味がある。
Benchmark_CPUも似た傾向を示しているが,ここでは動作クロックで下回るX4 9350eのスコアが,X2 5000+のそれを上回っている点に注目したいところだ。600MHzも動作クロックが異なることを考えると,L3キャッシュの影響力はかなり大きいといえる。
もう一つFPSから「Unreal Tournament 3」(以下,UT3)の結果を見てみよう。グラフ5は,CrysisのBenchmark_CPUと似た傾向を示している。UT3の場合,メインスレッドと,それを補佐するヘルプスレッド,二つのスレッドが実行される仕様になっているため,クアッドコアCPUが有利という状況は考えにくい。やはりここでも,L3キャッシュがパフォーマンス面で好影響を与えていると見るべきだろう。
グラフ6,7はTPS「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)の結果である。まず,実際のゲームプレイに近いスコアとなりやすい「Snow」だが,ここでは1024×768ドットで,CrysisやUT3と似た傾向を見せるに留まっている。
一方,CPUベンチマークとなる「Cave」では,「ゲームエンジンがマルチスレッドに最適化されているメリット」を大いに感じられる,ロスト プラネットならではの結果となった。X4 9350eが,X2 3800+比で倍以上のスコアを叩き出しているのは,立派というほかないだろう。同時に,X4 9950に,X4 9850と比べて上積みがほとんどない点も指摘しておきたい。
X4 9350eが見せる消費電力の低さに注目
X4 9950には“当たり”がある?
X4 9950のTDPは140W,X4 9350eのTDPは65Wと,両製品ともその消費電力が気になる。そこで,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,MP3エンコードソフト「午後のこ〜だ」ベースのCPUベンチマークソフト「午後べんち」を30分間連続実行した時点を「高負荷時」とし,前者については省電力機能「Cool’n’Quiet」の有効/無効それぞれについて,システム全体の消費電力を計測することにした。計測に用いたのは,消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」。ここではX2 5000+からの倍率変更を行っているX2 3800+のスコアは省き,4製品で比較している。
その結果はグラフ8のとおりとなるが,ここで疑問なのが,X4 9950がX4 9850より低いスコアになっている点だ。CPUコア,ステッピングとも同じなら,動作クロックが高く,TDPも高いX4 9950のほうが消費電力は高くなるはず。そこで日本AMDに問い合わせたところ,確率論の話になるという前置きがあったうえで「AMDのプロセッサは従来からワット性能の向上に力を注いで開発,製造されているため,個体によってはあり得る」との回答が返ってきた。早い話が「個体差」で,今回使用したサンプルが“当たり”だったということだ。
市場に出回る製品に,こうした“当たり”がどの程度含まれるのかは分からないが,TDP 140W化によって,一概に消費電力が増大するというわけでもないようである。
X4 9950以外では,X4 9350eの素性の良さが光る。アイドル時こそX2 5000+に及ばないものの,高負荷時には下回っており,かなり立派といっていいだろう。
最後に,アイドル時と高負荷時のそれぞれにおいて,CPU温度測定ユーティリティソフト「Core Temp」(Version 0.99)を使ってCPU温度の測定を行った結果をまとめたのがグラフ9になる。CPUクーラーはX2 5000+リテールボックスに付属していたものを4製品で共通して用い,テスト環境は22℃の室内で,PCケースに組み込まない,バラックの状態に置かれている。
テスト結果を一言でまとめると「消費電力を踏襲した結果」。“当たり”固体のX4 9950がX4 9850の温度を下回っているほか,X4 9350eも高負荷時に42℃と,かなり優秀だ。
X4 9950は微妙。X4 9350eはやや割高だが
クアッドコアCPUとして扱いやすい存在に
一方のX4 9350eは予想実売価格が2万5000円前後と,低消費電力であることにプレミアがつけられている点が残念。正直,X4 9150eの予想実売価格となっている2万1000円前後が(販売開始時点の)適正価格ではないかと思う。
だが,消費電力,CPU温度とも低く,かなり扱いやすいCPUに仕上がっているのも確かである。Athlon 64 X2と比べて,動作クロックが低くても,L3キャッシュを武器に高い性能を発揮でき,しかもマルチスレッド処理に積極対応を果たしたタイトルではさらに高いパフォーマンスを期待できるのは魅力だ。価格が少し下がってくれば,という前提条件は必要だが,いまモデルナンバー5000+前後,もしくはそれ以下のSocket AM2対応Athlon 64 X2を利用している人にとって,X4 9350eは,差し替えることで幸せになれる可能性の高いアップグレードパスとなるだろう。
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Phenom
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