レビュー
動作クロック2.8GHzへ到達した“Kumaさん”の立ち位置を探る
Athlon X2 7850 Black Edition/2.8GHz
» 従来製品から,動作クロックが100MHz引き上げられた,デュアルコアCPU最上位モデルを,宮崎真一氏がチェックする。一世代前のCPUアーキテクチャを採用し,メーカー希望小売価格8000円前後で登場した新製品を,PCゲーマーはどのように認識すべきだろうか。
2008年12月に市場投入された「Athlon X2 7750 Black Edition/2.7GHz」(以下,X2 7750」から,動作クロックが100MHz引き上げられた新製品の登場により,1万円以下のデュアルコアCPU市場における勢力図は,どういった変化を迎えることになるだろうか。今回は,発表に合わせ,AMDの日本法人である日本AMDからサンプルを入手できたので,その実力を検証してみたい。
“Kumaさん”ベースの歴代最高クロックモデル
従来製品&Pentium Dual-Coreと比較
テスト環境は表2のとおりで,機材調達の都合上,PDC E5300は,「Pentium Dual-Core E5400/2.70GHz」から,動作倍率を13倍に下げることで,“PDC E5300”相当とした。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。テストスケジュールの都合上,レギュレーション7.0には準拠していない。また,GPU負荷が高く,CPUの性能差が表れづらい,「高負荷設定」でのテストは省略し,アンチエイリアシング&テクスチャフィルタリングを適用しない,「標準設定」でのみ比較を行う。
DKA790GX Platinum 「DrMOS」採用のAMD 790GXマザーボード メーカー:MSI 問い合わせ先:エムエスアイコンピュータージャパン TEL:03-5817-3389 実勢価格:1万6000〜2万円(2009年4月28日現在) |
Rampage Formula DDR2対応のゲーマー向けX48マザー メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:2万8000〜3万4000円(2009年4月28日現在) |
クロック引き上げに伴う
順当なスコアの伸びを確認
グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果だ。X2 7850は,X7 7750からクロックが上昇した分スコア向上を見て取れる。
総合スコアで見ると,X2 7850とPDC E5300はほぼ互角。一方,3DMark06のデフォルト設定となる標準設定の1280×1024ドットでチェックしたCPU Scoreだと,L2キャッシュ容量の差が影響しているのか,X2 7850はPDC E5300に水を少々開けられてしまった。
実際のゲームではどうか。グラフ3に示した「Crysis Warhead」は,グラフィックス描画負荷が高く,CPUの性能差が表れづらいタイトルだが,果たして3者の差はわずか1fps。無理矢理「PDC E5300がやや優位」というよりは,むしろまったく差がないと評するべきだろう。
一方,描画負荷の低い「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,X2 7850が良好な結果を残した(グラフ4)。体感できるほどの差ではないとはいえ,Call of Duty 4は動作クロックとキャッシュメモリ容量の“効く”タイトルなので,スコア自体は順当なものになったといえる。
グラフ5に示した「デビル メイ クライ4」も,やはり体感できるレベルではないが,スコア自体はX2 7850が一段高めだ。
その傾向は,「Company of Heroes」において,より強く出ている(グラフ6)。X2 7850とPDC E5300の差は,1024×768ドット時に最大約9%。動作クロックとL3キャッシュの効果は,ここでも相応にある印象だ。
最後にレースタイトル,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果をグラフ7に示したが,全体的にデビル メイ クライ 4と似たような傾向になっていると述べてよさそうである。
消費電力が非常に高いX2 7850
高負荷時はPDC E5300の40%増しに
消費電力取得方法はレギュレーション準拠で,テストにはログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用。OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,「Prime95」によりすべてのコアに30分間負荷を掛け続けた時点を「高負荷時」として,各時点におけるシステム全体の消費電力値を計測した結果をまとめたのがグラフ8だ。
端的に述べて,高負荷時の消費電力が極めて高い。アイドル時こそ,省電力機能である「Cool’n’Quiet」などの効果で,PDC E5300とそう変わらない値になっているが,高負荷時は40%近い差がついてしまっている。低価格路線のCPUということを考えると,この差は“痛い”と言わざるを得まい。
グラフ9はアイドル時と高負荷時におけるCPU温度を,「HWMonitor Pro」(Version 1.02」から測定した結果をまとめたものである。テスト環境の室温は22℃。いずれもPCケースに組み込まない,バラック状態で計測したスコアだ。日本AMDから入手したX2 7850は“CPU単品”だったため,同CPUの冷却には,X2 7750のリテールボックスに付属のCPUクーラーを用いている。PDC E5300の冷却に用いたのは,同CPUのボックスクーラーだ。
ただし,今回のテストでは,HWMonitor ProがX2 7850のCPU温度を正常に取得できなかった。そのため,「CPUクーラー研究室」製の温度測定ツール「ぷりぷりてんぷ」を用いて,補正した数値をスコアとして採用しているため,あくまで参考程度に留めてほしい。
というわけでざっくりまとめると,X2 7850のCPU温度は,省電力機能「Cool’n’Quiet」を有効化した状態でアイドル時に30℃弱,高負荷時に70℃弱。補正の誤差も考えると,発熱量はX2 7750とあまり変わらない,といったところだろうか。
今回も消費電力の高さがネックとなるKumaコア
最大のライバルは下位モデルか
X2 7750のレビューにおいて,筆者はKumaコア版Athlon X2が持つ最大のネックが消費電力にあると指摘したが,残念ながら,それはX2 7850でもまったく解決していない。また,今回はテストスケジュールの都合で,オーバークロック耐性の検証を行えていないが,ステッピングが変わっていない以上,X2 7750から耐性が大きく改善している――先のレビュー記事で試した限り,X2 7750の安定動作限界は空冷で3.2GHz程度だった――可能性も,あまり期待はできそうにない。
そして何より,X2 7750がBlack Editionであることが,X2 7850の立ち位置を微妙にしている。もちろんオーバークロック設定はメーカー保証外の行為なのだが,X2 7750の動作倍率を0.5倍引き上げるだけで,“X2 7850相当”を実現できてしまう事実は,決して軽くないからだ。
消費電力を無視し,とにかくコストと性能だけに着目すれば,L3キャッシュを搭載するKumaコア版Athlon X2には,選択肢として一考の価値はある。しかしそのとき,X2 7850が選ばれるかどうかは,X2 7850登場を受けて引き下げられると推測されるX2 7750の店頭価格,そして店頭在庫量が決めることになるだろう。
- 関連タイトル:
Athlon X2
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