レビュー
AMD 8シリーズの尖兵となるSATA 6Gbpsネイティブ対応チップセットをテスト
M4A89GTD PRO/USB3
(AMD 890GX)
今回4Gamerでは,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)の協力で,搭載マザーボード「M4A89GTD PRO/USB3」を入手できたので,今回は,本製品を通じて,AMD 890GXというチップセットの詳細と性能に迫ってみたい。
ノース&サウス間帯域幅増加&SATA 6Gbps対応
グラフィックス機能は“強化版”止まり
AMD 890GXのブロックダイアグラムは下に示したとおり。ノースブリッジとしてのAMD 890GXが持つ機能はAMD 790GXのそれを踏襲しており,グラフィックスカード対応がPCI Expresss(以下,PCIe)2.0 x16 ×1またはPCIe 2.0 x8 ×2という点も変わっていないが,注目したいのは,組み合わされるサウスブリッジが,完全新作の「SB850」になっていることだ。
このスペックアップを活かして,SB850では,業界で初めて,Serial ATA 6Gbpsに標準対応を果たしている(表1)。
※2010年3月8日16:40追記
AMD 890GXとSB850間の帯域幅については,当初「状況証拠から片方向2GB/sだと思われる」という論旨で紹介していましたが,その後,「片方向2GB/sだ」という続報がAMDから得られたため,表1の注釈を書き換えました。
さらに,AMD 890GX側に,6レーン分のPCIe 2.0 x1が用意されているため,こちらにUSB 3.0コントローラを接続することで,やはりフルスペックのパフォーマンスを発揮できるとも,AMDはアピールする。
一方,冒頭でその名を挙げた,HD 4290というブランド名からピンときた人も多いだろうが,統合されているグラフィックス機能に,見どころは残念ながら多くない。
その意味でHD 4290は,HD 4200比で,動作クロックが200MHz高められたものに過ぎないという理解でいいだろう(表2)。一方,AMD 790GXをベースに,DirectX 10.1&HDMI 1.3対応や,UVD 2.0の搭載を果たしたもの,と見ることもできそうだ。
グラフィックス機能統合型チップセットとローエンドGPUのATI CrossFireX動作は,「Hybrid ATI CrossFireX」として知られてきたので,何を今さらと思うかもしれないが,実は今回,この協調動作には,「AMD Dual Graphics」という名が与えられているのだ。
AMDは,レビュワー向けのドキュメントで,「新設計のマルチGPUドライバにより異なる世代のGPUによる協調動作を実現する」(ATI Radeon graphics processing abilities from different class products which is made possible through a driver re-architecture that introduces a new multi-gpu driver.)としているので,マルチGPUに関するドライバコードを独立させたのを機に,名称を変更した可能性が高そうである。
USB 3.0コントローラ搭載のM4A89GTD PRO/USB3
CPU用電源回路は10フェーズ仕様
以上,AMD 890GXとSB850を概観してきたが,そんな新チップセットを搭載するM4A89GTD PRO/USB3は,製品名からも想像できるとおり,NEC製コントローラを搭載することにより,標準でUSB 3.0×2をサポートするマザーボードだ。SB850によるSerial ATA 6Gbpsポートは六つ用意され,RAID 0/1/5/10に対応している。
NEC製コントローラ「D720200F1」を搭載し,I/Oインタフェース部でUSB 3.0×2を提供する |
並びがやや変則的な白いSerial ATAポート。6ポートは,すべてSerial ATA 6Gbps対応となっている |
オンボードのIDEや,I/Oインタフェース部のPower eSATAは,JMicron製コントローラで実現 |
電源回路は8+2フェーズ構成。マニュアルでは言及されていないが,AMD 890GXのグラフィックス機能用にも1フェーズ分用意されているようだ。
ユニークなのは,製品ボックスに「VGA Switch Card」が付属し,これが“16レーン動作スイッチ”として機能する点。M4A89GTD PRO/USB3では,規定の動作が8+8レーンで,CPUソケットに近いほうのセカンダリPCIe x16スロットにVGA Switch Cardを差すと,プライマリが16レーン動作するという仕掛けである。
なお,筆者の手元にあるX2 555で試す限り,Core Unlocker,BIOSのどちらからでも,4コア動作はあっさりと実現している。
※注意
CPUの“4コア化”は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にして4コア化を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
HD 5450,AMD 790GX,
AMD 785G,Intel HD Graphicsと比較
テストのセットアップに入ろう。今回は,ここまでにその名を挙げたAMD 790GXとAMD 785G,そして,ATI Radeon HD 5000シリーズのローエンドモデル「ATI Radeon HD 5450」(以下,HD 5450)を用意。さらにIntelプラットフォームから,グラフィックス機能のコアクロックが733MHzとなる「Core i5-660/3.33GHz」(以下,i5-660)も,比較対象として,「Intel H55 Express」とセットで準備している。
マザーボード,グラフィックスカードは,すべてASUS製品で固めた。ミドルハイクラス〜ハイエンド向けとなるAMD 890GX,AMD 790GXマザーボードがATXフォームファクタで,残る2枚はmicroATXフォームファクタだ。グラフィックスカードは定格動作モデルとなる。
今回用意したAMD製チップセット搭載のマザーボードはすべてSidePort Memoryが搭載されているので,いずれも有効化。また,Phenom IIのメモリアクセス設定は,ゲーム用途で高い性能を期待できる「Ganged」に指定済みだ。
参考までに3DMark Vantage(Build 1.0.2)のEntry Presetでテストを行ってみると,スコアは,
- HD 5450シングルカード:6120
- AMD Dual Graphics(HD 5450+AMD 890GX):6892
と,約13%上がることを確認できたので,今後に期待,といったところだろうか。
AMD 790GXから上積みがない
AMD 890GXの3D性能
前置きが長くなったが,ベンチマーク結果の考察に入っていこう。
グラフ1は,「3DMark06」(Build 1.2.0)の総合スコアをまとめたものになる。
以下,グラフ中に限り,チップセット名の「AMD」表記を割愛するが,AMD 890GXのスコアは,解像度を問わず,AMD 790GXのそれと同じ。HD 5450の3D性能は決して高くないのだが,AMD 890GXとAMD 790GXは,そんなHD 5450にも19〜35%離されてしまう。
グラフィックス描画負荷の高い「Crysis Warhead」を,エントリークラスのGPU向けとなるエントリー設定で実行した結果がグラフ2だ。
プレイアブルなスコアが得られていないという点はさておき,傾向そのものは3DMark06と変わらないことが見て取れるだろう。
続いてグラフ3は,「Left 4 Dead 2」のスコアをまとめたものになる。i5-660ではリプレイ再生を正常に行えず,ゲームプログラムが異常終了するので,ここではAMD製品のみのスコアを掲載しているが,テスト結果自体はやはり同じ傾向である。
1024×768ドット設定時に,HD 5450なら十分プレイ可能だが,AMD 890GX以下,グラフィックス機能統合型チップセットでは,グラフィックスオプションを多少落とす必要がありそうだ。
その下に示したグラフ4は,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果になるが,これも同じ傾向を示している。
一方,Intel製CPUへの最適化が行われている「バイオハザード5」だと,ここまであまりいいところのなかったi5-660が盛り返しているが,それ以上に,AMD製のグラフィックス機能統合型チップセットのパフォーマンスが,HD 5450に相当離されているのが目を引く。とくに,エントリー設定を行えばHD 5450で十分ゲームになる1024×768ドット設定時に,AMD 890GXが15fpsしか示せていないのはインパクトが大きい。
また,グラフ6に示した「ラスト レムナント」も,バイオハザード5と同じような結果になっている。
ゲームテストの最後は「Colin McRae: DiRT 2」だが,ここでは,AMD製品のスコアがまったくの横並びとなった。ゲームエンジン側で,最低フレームレートを維持するような設計になっているのかもしれないが,設定ファイルを漁ってみても,それらしき項目は(今のところ)見つかっていないので,グラフィックスドライバ側の問題という可能性もあり,なんとも言えないところ。ただいずれにせよ,プレイ可能なレベルのフレームレートに遠く及んでいないのは確かだ。
なお,i5-660は,起動可能で,ダイアログ類も表示されるのだが,メニューや背景などが表示されないという状況で,とうていベンチマークテストを実行できるレベルではなかったため,スコアをN/Aとしている。
消費電力もAMD 790GXとほぼ変わらず
ただし,多少下がっている可能性も
消費電力周りもチェックしておこう。
OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,上で性能検証を行った各アプリケーションベンチマークの実行時に,最も高い消費電力値を示した時点を,タイトルごとの実行時として,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」からスコアを取得した結果がグラフ8である。
HD 5450は,M7A89GTD PRO/USB3に差した状態であること,そして,今回用意したマザーボードは,フォームファクタが異なるほか,実装される部品点数も相当に異なるため,スコアは参考程度に捉える必要があることを最初にお断りしておきたいが,それを踏まえるに,AMD 890GXとAMD 790GXの間に,消費電力の違いはほとんどないようだ。数字上は,AMD 890GXを搭載したM7A89GTD PRO/USB3のほうが,AMD 790GXベースのM4A78T-Eより低いが,その差は最大でも9W。マザーボードの設計レベルで吸収されてしまう程度の違いでしかない。
もちろん,本当にAMD 890GXのほうが消費電力は低い,という可能性も残されているが,基本的には同じレベルであると捉えておいたほうが安全ではなかろうか。
なお,アプリケーション実行時におけるi5-660の消費電力が圧倒的に低いのは,i5-660のTDPが73Wなのに対し,「Phenom II X4 965 Black Edition/3.4GHz」のそれが125Wである点が大きそうだ。
SB850のSerial ATA 6Gbpsインタフェースが
持つポテンシャルもチェックしてみる
AMD 890GXというチップセットのグラフィックス処理性能を見てきたが,ここからは,SB850のテストに入りたい。
前述したとおり,テーマはSerial ATA 6Gbps。今回は同規格に対応したWestern Digital製HDD「Caviar Black」(型番:WD1002FAEX)を用意し,M7A89GTD PRO/USB3に付属する6Gbps対応のSerial ATAケーブルを使って4枚のマザーボードと接続して,EFD Software製のHDDベンチマークツール「HD Tune Pro」(Version 4.01)から,リード時の転送レートを測定することにした。
テストに当たってSB850に導入したAHCIドライバは,AMDからレビュワー向けに提供されたもの。ただこのドライバ,SB750が組み合わされたAMD 790GX&AMD 785Gには適用できなかったため,両製品についてはATI Catalyst 10.2のAHCIドライバを単体で充てている。
さて,グラフ9は,HD Tune Proから,リード時におけるMinimum(最小),Maximum(最大),Average(平均)スコアを抜き出してまとめたものだが,マザーボード(≒サウスブリッジ/PCH)による違いは,まったくといっていいほど出ていない。
HD Tune Proでは,Burst Rate(連続転送時の転送レート)も計測してくれる。そのスコアを抜き出したのがグラフ10だ。Burst Rateの値は計測のたびにスコアが変わってしまい,±10MB/s程度のバラ付きがあるため,今回は3回計測し,中間のスコアをデータとして採用している。そのため,精度に議論の余地はあるのだが,それでもテスト対象となった4製品のうち,AMD 890GXのSB850だけが200MB/sを超えるスコアを記録したのは,注目に値するだろう。
もちろん,この結果だけで「だからSB850のSerial ATA 6Gbpsコントローラが優れている」と断言できはしないのだが,少なくともSB700世代から,連続転送時のパフォーマンスが引き上げられているのは確かなようだ。
……そのメリットを体感するためには,Serial ATA 6Gbps対応のSSDや,高速なSSDによるRAID構成が必須になりそうだが。
AMD 790GXの機能強化版といえるAMD 890GX
順当な進化と見るか,変わり映えなしと見るか
長くなったので,ちょっとまとめてみよう。AMD 890GXのポイントは,おおむね以下のような感じである。
- AMD 890GXが持つグラフィックス機能は,AMD 790GXをベースに,DirectX 10.1&HDMI 1.3対応とUVD 2.0搭載を果たした機能強化版で,3D性能の上積みは見込めない
- Hybrid ATI CrossFireXは,AMD Dual Graphicsに名前が変わったようで,異なる世代のGPUによる協調動作が可能になった
- リンク帯域幅が向上したSB850は,Serial ATA 6Gbpsの対応を果たした初のサウスブリッジであり,(体感できるかはともかく)パフォーマンス上のメリットもある
- AMD 890GX+SB850の消費電力は,Socket AM3版のAMD 790GX+SB750と同等レベル。多少下がっているかもしれないが,劇的ではない
よく言えば,グラフィックス機能統合型チップセット上位モデルの最新世代製品として,順当な機能拡張を果たした製品。悪く言えば,トピックはサウスブリッジにほぼ集中しており,グラフィックス機能統合型チップセットとしての見所に乏しい製品といったところだろうか。UVD 2.0やHDMI 1.3,PCI Express,Serial ATA 6Gbpsといった新要素を,どれだけ重く見るかによって,評価は変わってくる印象を受ける。
ただAMDは今後,Phenom II X6に合わせて,「AMD 790FX」の後継となる「AMD 890FX」や,AMD 785G後継となる「AMD 880G」といった製品の投入も予定している。フラグシップ製品としてのインパクトはAMD 890FXのほうが上だろうし,コストパフォーマンス重視のグラフィックス機能統合型チップセットとしては,AMD 880Gのほうがバランスに優れると思われるだけに,そろそろAM3環境へ移行したいというAMD派にとって,AMD 890GXは,なかなかに悩ましい存在と言えるのではないだろうか。
- 関連タイトル:
AMD 8
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