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[GDC 2009#07]「ラスト レムナント」はこうして作られた。アメリカ製エンジンに挑んだスクウェア・エニックス
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印刷2009/03/26 18:18

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[GDC 2009#07]「ラスト レムナント」はこうして作られた。アメリカ製エンジンに挑んだスクウェア・エニックス

 「An American engine in Tokyo: The collaboration of Epic Games and Square Enix for THE LAST REMNANT」(アメリカ製エンジンを利用した東京での開発:「ラスト レムナント」に見るスクウェア・エニックスとEpic Gameのコラボレーション)という長いタイトルのセッションは,「Unreal Engine 3」を使って作られた「ラスト レムナント」Xbox 360版 / PC版)の話を中心に,日米のゲーム開発手法やゲームデザインの違いなどを語るという趣旨のレクチャーだった。

 スピーカーは,スクエニ側からラスト レムナントのプロデューサーを務めた高井 浩氏と,技術コンサルタントを担当したRobert Gray(ロバート・グレイ)氏。またEpic側からは,社長のMichael Capps(マイケル・キャップス)氏とLead Engine ProgrammerのDaniel Vogel(ダニエル・ボーゲル)氏という顔ぶれ。司会進行役は,ベテランのゲームデザイナーであるMark Cerny(マーク・チャーニー)氏が受け持った。
 いきなり結論っぽいをことを書いてしまうと,日本のメーカーが外国製のゲームエンジンを使ってタイトルを完成させるには,今までとは違った苦労が数多くあるようだ。

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Unreal Engine 3の光と影 スクウェア・エニックスの挑戦


高井 浩氏。スクウェア・エニックスで「ラスト レムナント」のディレクターを務める。ファイナルファンジーシリーズの制作に携わってきた
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 レクチャーは最初,「ラスト レムナントはなぜ日米で評価が違うのか」というポイントから入った。2009年3月下旬現在,Metacritics.comでのXbox 360版ラスト レムナントのスコアは60点台。日本には対応するデータはないものの,最大で20ポイント以上開きがあるとのことで,全般に日本のほうの評価が高い。これはなぜかという話だ。
 振られた高井氏は,日本のスコアがいいのは,おそらくファミ通の評価が高かったせいだろうとしつつ,日米のレビュアーの姿勢の違いにも言及。個人的な印象に過ぎないとしながらも,「日本のレビュアーは,“こういうゲームはこういうプレイヤーに向いているだろう”といった客観的な評価をするが,海外のレビュアーの多くは,主観的であると思う」と付け加えた。これを受けて,Capps氏も,アメリカのレビューは確かにバイアスがかかっており,極端な例では「RTSを生まれて初めてプレイしたところ難しかったので,低い評価」というものも見られるという。当たっているような気もするが,どうなんでしょうね?

 ともあれ,ゲーム開発ではなく,レビューの日米比較から始まったディスカッションは,ラスト レムナントで「なぜUnreal Engine 3の採用を決めたのか」という質問へと移っていく。
 質問を受けた高井氏は,「もう3年も前の話なので,あまり覚えいていないが……」と聴衆の笑いを誘いながらも,「PlayStation 2までは,社内で一からスクラッチしたエンジンを使ってゲームを開発していたが,Xbox 360,PLAYSTATION 3といった(当時でいうところの)次世代機が登場するに至って,従来の開発手法ではコストと人員の面で立ちゆかなくなることが社内で懸念されており,そのため,海外に倣ってサードパーティのエンジン導入を決めた」と語る。
 候補としては,Unreal Engine 3と「Renderware」の名前が挙がったが,RenderwareのデベロッパがElectronic Artsに買収されてしまったことで,Unreal Engine 3の採用が決定したそうだ。とはいえ,最初に直面したのは当然ながら言葉の壁だったという。

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 Unreal Engine 3には,膨大なドキュメントが付属するが,それらはすべて英語であり,日本人開発者の誰もが容易に読みこなせるわけではない。ライセンシーとしてEpicに質問する場合も英語が要求され,そのやりとりだけで大変。Epic側がスクエニ側の質問の意図をくみ取れず,「その質問はこういう意味か?」と逆に質問する場合も多くあり,コミュニケーションの問題がプロジェクトの初期には大きな課題となっていたそうだ。

Robert Gray氏。スクウェア・エニックスで,ラスト レムナントの技術面のコンサルタントを担当する。滞日12年のバイリンガル
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 そこでキーマンになったのが,技術コンサルタントのRobert Gray氏だ。日本に暮らして12年というGray氏は,英語と日本語に堪能でゲームにも詳しいという希有な人物であり,テクニカルアドバイザーとしてプロジェクトの重要な役割を担ったのである。
 Gray氏はエンジニアではないが,2年前,別の会社でUnreal Engine 3を初めて見たとき,無数のパラメータやコマンドに圧倒され,これは英語が分からなければ大変なことになると思ったそうだ。
 そんなわけで,ドキュメントの翻訳からスタートした同氏だったが,上がってきた翻訳を見て「翻訳者を替えた」こともあるという。内容がよく理解されていないと,翻訳もうまくいかないというわけだ。Gray氏がプロジェクトに参加してからは,これまで伝言ゲームのようになっていたエンジニア同士の電話連絡も,かなりスムースになったのだという。

 こうして,「最初に(Unreal Engine 3を)見たときには,何がなんだかさっぱり分からなかった。どうやってゲームを作るのだろうと,実験しながら作業した」というUnreal Engine 3の理解も次第に進んでいった。最初は手も足も出なかったが,慣れるにつれ,あらゆる最新技術をサポートしたUnreal Engine 3に無限の可能性を感じたそうだ。
 また,アメリカに開発チームを送り,直接Epicで勉強したことも効果が高かったとする。プログラマーだけでなく,ゲームデザイナーやアーティストをセットにして派遣することで,さらに良い結果を得られたとのこと。Capps氏によれば,これは「スタンダードなサービスの一環」で,ライセンシーからの派遣というか留学はウェルカムだそうである。
 数十億円ともいわれるプロジェクトが,ただ一人のキーマン頼りになってしまうのは,なんとなく聞いていて不安ではあるものの,新しい挑戦をするときには起こりがちなことなのかも知れない。

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さまざまな問題を乗り越えて制作されたラスト レムナント


 言葉の壁も大きな問題ではあったが,「時差」もまた問題だったようだ。東京とサウスカロライナには20時間近い時差があり,送った質問に回答が来るのが翌日。それを試してうまくいかず,もう一度質問を送ると,それだけでもう二日もかかることになり,ストレスが溜まる。「さいわい,うちのプログラマーは真夜中まで働くので大丈夫でした」とCapps氏は言うが,話を聞く限り,時差の問題はこちらが考える以上に深刻だったようだ。

 高井氏の見るところ,Unreal Engine 3の長けているところは,グラフィックスリソースの作りやすさであるという。デザイナーはグラフィックス作成の方法をすぐに習得し,さまざまなオブジェクトやグラフィックスを次々に作り出していったという。だが,「のちにそれが問題になってくるとは夢にも思わなかった」と高井氏は続けた。

 Unreal Engine 3のメモリ管理は,アメリカ製らしくガベージコレクションという比較的ラフな方法で行われる。これは,メモリに余裕があることが前提だが,日本のゲーム開発,とくにPlayStation 2時代は「メインキャラクターのテクスチャーは128キロバイト以内。背景は1メガバイトで。また,サブキャラクターは16色で描く」といった職人芸的なやり方で,少ないメモリを管理していた。
 次世代機になって,そういう苦労から解放されたと思っていたが,気がつくとデザイナーが作り出したグラフィックスでメモリが占有されてしまい,管理しきれなくなってしまったとのこと。といって,今さら作り直しは無理な話で,ゲームシステムに変更を加える必要があった。具体的には,ゲームの大きなフィーチャーだと考えていた群集シーンの動的オブジェクト,すなわちキャラクターの数を泣く泣く減らすなどしたとのことだ。

Michael Capps氏。Epic Gamesの前は,アメリカ陸軍の制作したFPS,「America's Army」にUnreal Engineを導入する仕事をしていた
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 Gray氏が言うには,Unreal Engine 3は「アーティストフレンドリーにできており,たまにそこが問題になることがある」という代物らしい。一つのことを実現するのにさまざまな方法があるUnreal Engine 3では,ちゃんとしたやり方を覚えなくても,簡単な方法でアイディアを実現できてしまうという。
 またCapp氏もそれに付け加え,「Gears of War」でも似たことが起きたと語る。デザイナーがヘリコプターを先に作ってしまい,それを登場させるために,ストーリーに変更を加えて結果的にクールなシーンになったというのだ。なんだか,そこまでいくと単なる連絡不足という気もするが,なんにせよ予想もできなかった問題だったと高井氏は反省した。
 ちなみに,Xbox 360版のラスト レムナントでは,処理落ちの問題も指摘されているが,もしかしたらその原因もこのあたりにあるのかもしれない。

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 また,Unreal Engine 3の頻繁なアップデートも問題になったようだ。
 競争の激しいエンジンビジネスにあって,アップデートによる最新技術のキャッチアップは避けて通れず,その点をいち早く対応してきたからこそ,Unreal Engine 3の「一人勝ち」状態を実現してきたわけでもあるが,ライセンシーにしてみれば次から次へと行われるアップデートに対応し,新しいドキュメントを翻訳するだけでも大きな作業になる。「どのバージョンを使うのかはユーザー次第」とEpicは言うが,このあたりのこともスクエニとして初体験だっただけに,対応に戸惑ったようだ。
 Capps氏は,プロジェクト終了後の反省点として,もっとEpicのやり方を押しつければよかったとしている。日本には尊敬すべきゲームクリエイターが多く,ゲーム開発の長い歴史を持つだけに,なかなか言えないこともあったようだが,それを押して,Unreal Engineのパイプラインを採用してもらえらば,もっと効率的な開発が可能になったのではないかという。

 従来のスクエニにはない,新たなブランドとして制作されたラスト レムナント。Unreal Engine 3の採用もその一つだったが,まとめとして高井氏は,ほかのデベロッパの文化に触れられたことが最も大きな成果だったと語る。出来合いのゲームエンジンを採用することについては,開発内部からの不平不満もたくさんあったそうなのだが,開発が終わってから再度スタッフに聞いたところ,「とにかく勉強になった」という声がほとんどだったとのこと。
 ともあれ,開発費が高騰の一途を辿るなか,すべてを一からスクラッチしていくという,旧来なゲーム開発手法が曲がり角に来ていることは確かであり,スクエニがラスト レムナントで体験したことは,ほかのゲームメーカーにも役立つ情報なのではないだろうか。そしてこうした赤裸々な話が聞けるところもまた,GDCの面白さであると思う。

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