レビュー
等身大の恐怖と喜びが味わえる“大災害体験シミュレーター”
絶体絶命都市3 −壊れゆく街と彼女の歌−
本作は,大地震やそれによって引き起こされる二次災害の恐怖,そして極限状態の中で必死に生き延びようとするキャラクター達の人間ドラマを描いた作品だ。
記念すべきシリーズ第1作である「絶体絶命都市」は,2002年4月25日にPlayStation 2用ソフトして発売され,従来のアクションアドベンチャーゲームにはなかった斬新なテーマや独特のゲームデザインが,プレイヤーから高い評価を受けた。
その後,第2弾の「絶体絶命都市2 -凍てついた記憶たち-」も,同プラットフォームにて2006年3月30日に発売されている。
シリーズ3作目にあたる本作は,これまでのシリーズの伝統を受け継ぎながらも,PSP版ならではの新たなシステムが多数実装されているので,旧来のファンのみならず,本シリーズを未プレイの人にも注目してもらいたい作品だ。
独自のシステムがゲームに深みを付与している
通信プレイでは仲間と助け合うことも可能
春から,セントラルアイランドの大学に通うことになっている主人公,香坂直希と牧村里奈(主人公は男女選択可能)は,高速道路を走る夜行バスの中で,これから始まる新しい生活に思いを馳せていた。
しかし,バスが海底トンネルの中程に差し掛かったとき,巨大地震が発生する。なんとか自力でバスから這い出た主人公は,煙の立ちこめるトンネル内で,島から本土へと向かう途中だった元看護師,本条咲を助け出す。
どうにかトンネルを脱出し,セントラルアイランド側から地上へと出た二人を待ち構えていたのは,傾いたビル群と,どこまでも高く立ちのぼる煙,そして鳴り響くサイレンだった。主人公は咲と共に,無事に島から脱出できるのだろうか!?
ストーリーにもあるように,本作ではプレイヤーキャラクターを,香坂直希/牧村里奈という二人の主人公から選択可能となっている。直希は,体力面では里奈を上回っているが,ストレスを感じやすいという欠点があり,逆に里奈は,体力面では直希に劣るがストレスには強い。
ちなみにストレスは,余震によって転倒してしまったり,煙を吸い込んでしまったり,ほかのキャラクターに罵声を浴びせられたりすることによって,どんどん溜まっていってしまう。ストレスを示すメーターであるストレスバーは,HPバーを圧迫するため,体力が減少してしまうので注意が必要。なるべくストレスが溜まらないように行動することが,本作の攻略のカギなのだ。
ストレスを減少させるには,ゲームの随所に設置されているベンチで休息を取る,ミュージシャンを目指す本作のヒロイン,本条咲の歌を聞いて癒される,といったことをする必要がある。本作ではちょっとしたイベントでも,すぐにストレスがアップしてしまうので,ストレスの解消はこまめにしておいたほうがいい。ちなみにベンチはセーブポイントにもなっている。
また本作では,プレイヤーの行動や会話中の選択で,主人公の性格がどんどん変化していき,性格次第でストレスを受ける度合いや,癒しの効果が変わっていく。
性格の種類は大きく分けて3種類。その内の一つである“情熱型”の性格は,ストレスを受けやすい半面,癒しの効果が高いという利点がある。二つめの“冷静型”は,ストレスこそ受けにくいものの,癒しの効果は薄い。そして最後の“臆病型”は,地震で転倒したりした際の,恐怖からくるストレスにはめっぽう弱いが,避難所などでの癒し効果は全性格の中で一番大きい。
と,性格によってキャラクター性能に若干の変動があるので,人それぞれのサバイバルが楽しめるというわけだ。
そのほか,絶体絶命都市3にはお遊び要素も盛り込まれている。その一つがコスチュームチェンジだ。これは,ステージに何故か落ちているコスチュームを拾って装備できるというものなのだが,かなりの種類が用意されており,気分転換にもってこいだ。
また,ゲーム内での移動時に重宝する“コンパス”もさまざまな種類があり,プレイヤーを飽きさせない。シリーズファンであれば,思わずニヤリとしてしまうコンパスも存在するので,ぜひとも入手してほしい。
なお,初のPSP版となる本作では,最大4人まで参加できるマルチプレイモードが搭載されており,数多くのクエストがプレイ可能だ。クエストの種類によって舞台となるステージや,クリア条件が異なるので,プレイヤーは,それらに応じた対処法を練っていく必要がある。
なお,クエスト中の仕掛けは一人だと乗り切れないものが多く,いかにプレイヤー同士で協力しあえるかがクリアのポイントとなる。NPCではなく,プレイヤーと力を合わせて絶体絶命的状況を乗り切るという要素は,本シリーズにおいては新たな試みだし,また本編とは違った楽しみ方ができるので,ぜひ一度は挑戦してもらいたいモードだ。
ちなみに災害マニュアルは,メニュー画面からいつでもチェックできるので,ちょっとした空き時間などに目をとおすのもいいだろう。
不自由だからこその緊張感
徹底したリアリティから生まれたゲーム性
では,絶体絶命都市シリーズはどうなのだろうか。この作品でいうところの恐怖/パニックは,視覚や聴覚を通じてダイレクトに伝わってくる要素だけでなく,「余震」や「地盤の崩壊」といった,一手先すらも予測できない「不安」「緊張感」からも生まれてくる。プレイ中に恐怖を覚える点では上記の作品群と同様だが,恐怖の質についてはかなり異なっているのだ。
本シリーズでは先述したように,ゲーム中何の前触れもなく「余震」が発生する。余震が発生したら,とっさに“ふんばる”動作で転倒を回避しなくてはならない。転倒してしまうと,ストレスゲージが上昇して体力がどんどん減ってしまうからだ。当然のごとく余震は目に見えるものではないので,プレイヤーは常に緊張を強いられる。もちろん余震以外にも,危険物の落下や地割れといった二次災害にも気を付けなければならない。
とまあ,こういった内容のゲームであるわけだから,本シリーズはハデにガンガン進んでいくタイプのゲームではないし,アクションゲーム特有の“破壊の爽快感”といったものは,あまり味わえない。
また,絶体絶命都市シリーズの主人公は“一般人”だ。特殊訓練を受けた兵士でもなければ,超能力を持った選ばれし者でもない。煙を吸い込めばストレスが貯まり,体力に影響を及ぼすし,ちょっとした段差から飛び降りただけでもダメージを食らってしまう。もちろん,高いところから落ちたら即死である。
恐らく,本シリーズの経験者でも,シリーズ未プレイの人でも,本作をプレイすれば何度もゲームオーバーになるだろう(筆者は過去の作品もプレイしているが,それでも何回も心が折れそうになった)。
そう言われると,「なんだかストレスの溜まりそうなゲームだなぁ」と思う人がいるかもしれないが,本作では,あえて“一般人”をゲーム内の主人公とすることで,人間の弱さをリアルに描き,等身大の恐怖/パニックを表現しているのだ。主人公に感情移入すればするほど,ストレスが溜まるのは当然なのである(これはもちろん,ゲームプレイそのものから感じられるストレスではない)。
それだけに,本シリーズの主人公のリアルな“弱さ”は,作品内において欠かすことのできない要素だ。一般的なアクションアドベンチャーであれば,余震のたびにふんばって,揺れが収まるまでじっと待つなんて,ゲーマーとしてはじれったいことこの上ないだろう。しかしそれこそが,本シリーズのテーマである“自然災害の恐ろしさ”を体感するための,象徴的な仕様なのである。そして,危機的状況を疑似体験し,知恵を絞ってそれをクリアしたときに感じる快感もまた,等身大の恐怖/パニックが描かれる本作ならではの醍醐味なのだ。
さて,上でも述べたが,絶体絶命都市3は,3Dアクションアドベンチャーではあるものの,爽快なアクション,派手な戦闘などを求める人にとっては,あまりオススメできないかもしれない。また個人的には,ロード時間の長さもちょっとだけ気になった。
しかし,本作のキモは軽快さ,爽快さなどではなく,あくまでも自然災害をリアルに描いた部分にある。誤解を恐れずにいえば,本作は“大災害体験シミュレーター”といってもいいだろう。なので,シリアスなテーマをじっくりと楽しみたいという人にこそ,オススメしたいタイトルだ。まさに絶体絶命な状況を,機転と勇気で乗り越えたときに得られる喜びは,本作の描く恐怖がリアルだからこそ味わえるもの。本稿を読んで興味を持った人は,ぜひとも購入を検討してみてほしい。そして,主人公を含む登場人物達を,絶体絶命の危機から救ってあげてほしい。
- 関連タイトル:
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