インタビュー
コンテンツの基準は“届けるべき人がいるか”。「FINAL FANTASY XV」の「ROYAL EDITION」「WINDOWS EDITION」開発陣インタビュー
「ROYAL EDITION」は,「FINAL FANTASY XV」(PS4 / Xbox One)の本編と,これまでにリリースされたDLC,特典アイテムに加えて,「インソムニア エクストラマップ」や「ファーストパーソンモード」などの新コンテンツを含む「ROYAL PACK」をセットにしたものだ(ROYAL PACKは単体でも販売される)。
FFXVのPC版となる「WINDOWS EDITION」は,「ROYAL EDITION」と同内容のコンテンツを収録するほか,最大8K解像度やHDR出力に対応し,NVIDIAのゲーム開発支援ライブラリ「GameWorks」を利用した美しいグラフィックスが特徴となる。
今回4Gamerでは,「ROYAL EDITION」と「WINDOWS EDITION」の概要や,これらの“EDITION”をリリースする意図,そしてFFXVの今後の展開などについて,ディレクターの田畑 端氏,プランナーの黒田洋一氏,シニアプログラマーの荒牧岳志氏,ゲームデザイナーの寺田武史氏の4名に聞いた。
より多くの人に,より長く遊んでもらうために
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。FFXVの発売から1年と少しが経ちましたが,これまでを振り返っての率直な感想を聞かせてください。
やろうと思っていたこと,やると決めたことがほぼ達成できた1年でした。おかげで,この1年のマスターアップの回数が……何回だろう?
荒牧岳志氏(以下,荒牧氏):
今,22回です。最初のうちは2週間に1回のペースで……。
黒田洋一氏(以下,黒田氏):
この1か月でも4回ありましたよ。
田畑氏:
常にマスターアップのためのチェックをしている感じでしたね。ともあれ,たくさんのコンテンツを作って提供できた1年でした。
我々としては「ここまでやりきりたい」と考えて突っ走ってきたので,DLCの「エピソード イグニス」の内容と反響まで含めて,充実していたと思います。
4Gamer:
2017年1月に,全世界でのパッケージ版出荷本数とダウンロード販売本数の合計が,当初の目標だったという600万本を突破したという発表がありましたが(関連記事),現在はどのくらいになっているのでしょうか。
田畑氏:
およそ700万本くらいです。
4Gamer:
2月9日にスマートフォン向けの「ファイナルファンタジーXV ポケットエディション」(iOS / Android)がリリースされて,3月6日には「ROYAL EDITION」と「WINDOWS EDITION」がリリースされますが,新たな目標となる数字は設定されているのでしょうか。
田畑氏:
正直,売上本数よりも,「いかに長く,良いサービスを提供して,それに見合う対価をいただけるか」ということのプライオリティが上になっていますね。とは言ってもチーム内では,「WINDOWS EDITION」だけで200万本は行ってほしいといった話が出ていますし,チーム的な目標の1000万本も目指していますが,アプローチが発売前とは異なります。
ポケットエディションは,より広い層にFFXVを告知するための施策という位置づけということもあって,収支計画はありますが,DL数での目標は立てていません。
4Gamer:
FFXVはアップデートやDLCの内容が大規模で,リリース時からかなりの進化を遂げていると感じます。これは最初から予定されていたことなのでしょうか。
田畑氏:
ある程度はリリース前に考えていました。いざ実行したときに,単にコンテンツを出すだけでなく,長く遊んでいただきたくて,内容そのものも強化することにしました。その積み重ねの結果が,今のような形にまでなったんです。
僕らはこの1年で,HDゲームを作るさまざまなノウハウを獲得しましたし,それで作ったものをもっと多くの人に届けたいと考えています。
でも,例えばDLCやアップデートパッチをリリースすると,しばらくしてから「配信されたことを知らなかった」という声が僕らのもとにたくさん寄せられます。つまり,僕らには情報をしっかり届けるノウハウがまだまだ不足していることも分かりました。
4Gamer:
プレイヤーに適切なタイミングで情報が届かないということについては,メディアにも責任の一端はあると思うので,反省しなければならないですね。
いちプレイヤーとしては,アップデートでレガリア TYPE-Dが実装され,フィールドを自由に走れるようになったときに「これは面白そう」と思ってプレイを再開したので,田畑さんの狙いにはまったことになります。
田畑氏:
作ったものを多くの人に,より長く遊んでいただくということを考えないと,ゲーム産業としてやっていけなくなるという危機感があります。ゲーム開発は非常に多くの労力と時間を必要としますから。
4Gamer:
「ROYAL EDITION」もその考えに基づいてリリースするわけですよね。
田畑氏:
そのとおりです。まだFFXVをプレイしていない人には「ROYAL EDITION」,購入済みの方にはDLCの「ROYAL PACK」という形で用意しました。
4Gamer:
では,このタイミングで「ROYAL EDITION」をリリースする理由を教えてください。もともとアップデートパッチやDLCのリリースは2017年いっぱいの予定だったところ,プレイヤーからの要望を受けて,2018年も継続することが東京ゲームショウ2017のステージ(関連記事)で発表されました。なので,いわゆる「完全版」とは少し違う位置づけになると思うのですが……。
田畑氏:
はい。当初の予定だと,FFXVのプロジェクトは「ROYAL EDITION」のリリースをもって終了する予定だったんです。「エピソード イグニス」をリリースし,そこまでのコンテンツ全部と新要素を加えた「ROYAL EDITION」を出して終わりと。
4Gamer:
急遽アップデートを継続することが決まって,そこから「ROYAL EDITION」の事業計画を変更するのは難しかった,ということでしょうか。
田畑氏:
もちろん,そういったビジネス上の事情もありますが,現場で実際にゲームを作っている僕らにとって,「ROYAL EDITION」と,同内容のPC版である「WINDOWS EDITION」をこの時期にリリースすることは,大きな目標になっていましたから。また,リリースから1年以上を経て,進化したFFXVをあらためて出すということにも意義を感じています。
4Gamer:
この1年,チーム全員が「ROYAL EDITION」のリリースに向けて頑張ってきたと。
田畑氏:
はい。そのために20回以上マスターを上げてきたわけですから。そこで「今後も開発が続くことになったから,『ROYAL EDITION』は先送りね」と言われたら,スタッフはみんな目標を失って,大変なことになります(笑)。
黒田氏:
まず本編をリリースし,そのストーリーで描かれていない部分をDLCで掘り下げて,最後に集大成となる「ROYAL EDITION」ですべてをつなげる,という構想で開発を進めてきたんです。
田畑氏:
2017年にリリースしたすべてのDLCを購入された方にも,「『ROYAL EDITION』を遊んでよかった」と思っていただけるものを目指しました。例えば今回,王都インソムニアのマップが拡張されますが,そこで展開するストーリーは「オンライン拡張パック:戦友」からつながっています。
そういった感じで,本編とそのリリース後の1年間で作ったものにアレンジを加えてパッケージにする,本編を遊んでいる方には差分を提供するという計画は,僕らにとって大事なものでした。
黒田氏:
王都のマップには,新しい拠点やクエストなどを用意しています。ストーリーは,田畑が説明したように「戦友」からつながっていて,皆がどうやってノクト不在の10年間を過ごしてきたのかが分かります。具体的には,CHAPTER 14以降の内容が拡充されます。
4Gamer:
つまり,チャプターの構成やストーリーの流れはそのままで,新たにいくつかのエピソードが加わっていると。
黒田氏:
そうです。映画「KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV」に登場した精鋭部隊「王の剣」が戻ってきて,コル将軍の指揮のもと,王都を支えているといったエピソードがあり,それを進めていくと新しいボスと戦うといった展開になります。それらを体験すると,よりラストが盛り上がるという仕掛けです。
4Gamer:
追加分のボリュームは,全体でどのくらいになっているのでしょうか。
およそチャプター1つ分です。
田畑氏:
本編にあったエピソードをさらに掘り下げたり,ノクトとほかのキャラクターの関係を補完したりと,さまざまな形で追加しています。
黒田氏:
新しい遊びも追加しました。クルーザーでの航海や海釣り,「レガリア TYPE-D」の入手・強化クエストがそれです。
4Gamer:
TYPE-D自体は,以前のアップデートですでに入手しているプレイヤーも多いと思いますが……。
黒田氏:
すでに入手済みの方もプレイできるクエストにしています。また,TYPE-Dを使うレース場も用意しました。
4Gamer:
クルーザーは最初から使えるんでしょうか。
黒田氏:
オルティシエに着くと,クルーザーのキーをもらえて,自由に操作できるようになります。
田畑氏:
海釣りは,そのクルーザーの魚群レーダーを見ながら行うことになりますね。何日も海の上で過ごすことを想定して,キャンプ機能もクルーザーに搭載しています。
4Gamer:
一度クリアした人なら,ガーディナから見える神影島に行きたくなると思うのですが……。
黒田氏:
上陸まではできないのですが,近くまで行くとちょっとしたイベントが発生します。
4Gamer:
気になりますね。新たにファーストパーソンモードも用意されましたが,ゲーム全編を一人称視点で遊べる,という理解でいいでしょうか。
イベントシーンなどは従来のままですが,バトルや探索など,ほとんどのことは一人称視点で遊べるようになっています。チョコボへの騎乗やシフト移動はもちろんできますよ。
4Gamer:
一人称視点でのシフトは迫力がありそうです。
田畑氏:
4K解像度でのファーストパーソンモードはオススメです。フィールドがすごくオープンに感じられるし,仲間の存在がより身近になると思います
4Gamer:
「ROYAL EDITION」で王都のマップが拡張されますが,王都については以前から聞いてみたかったことがあるんです。王都にある店の看板などには日本語が使われているものがありますよね。
田畑氏:
前身となる「Versus XIII」の頃から,インソムニアでは日本語が使われているという設定だったんです。
ルシス王国の中に,そういう文化があるというわけです。
王都インソムニアは,開発初期からリアルな新宿をモチーフに制作しました。なので日本語の看板などはたくさんありますよ。
4Gamer:
ただ,同じルシス国内でも,王都の外になるとアルファベットを崩したような文字が使われているようです。
寺田氏:
ルシス王国全体では英語ベースになっていて,インソムニア内部の一部でだけ日本語が使われています。王都は魔法障壁の影響で外との交流が制限されてるので,独自の文化生まれているという世界観なんです。
田畑氏:
場所が変わると言語も変わるということですね。
寺田氏:
FFXVは「旅の体験」というテーマでレベルデザインしています。「外国に行ったら言葉が通じない」という旅の経験をユーザーに体験してもらうのが狙いです。
田畑氏:
つまり旅情ですね。最初は「ニフルハイムはドイツ語」「オルティシエはスペイン語」みたいに,実際に言葉を変えようとも考えていましたが,開発することを考えるとあまりにも大変で……。
4Gamer:
それは作る方だけでなく,遊ぶ方も大変そうですが(笑),やはり旅というテーマが一貫しているということを改めて感じました。
田畑氏:
FFXVでは旅の中で感じる文化の違いを意識していて,それがどのくらいの距離で発生すると自然なのか,ということを計算しながらマップを作っていきました。
環境は“動的”に作り,アーティストは個性を出すことに集中する
4Gamer:
「WINDOWS EDITION」のムービーを見たとき,グラフィックスの表現が明らかに違うことに驚きました。ガルラの体毛のフサフサ感などを見ると,いわゆる「リマスター」とは別物ですよね。あれは素材を一から作り直したのでしょうか。
荒牧氏:
ガルラの毛は新たに作りました。ほかにも何体か,同じように作り直したモンスターがいます。
田畑氏:
フィーチャーしたい技術を適用する部分を作り直したんです。
4Gamer:
全体の何割くらいを作り直したのでしょう。
荒牧氏:
ゲーム全体のボリュームが大きいので,それとの比較だと小さいのですが,ただ,草の生えている部分は7割以上,モンスターは3割くらいを作り直しています。
また,テクスチャーは,NPCを含めてすべてのキャラクターに高解像度版を用意していますし,ムービーも4Kのものを用意しました。
4Gamer:
以前のインタビューで,FFXVではどのプラットフォームに持って行っても,その環境に合わせて正しく見えるような素材の作り方をしていると聞きました。
さきほど話に出たガルラのように,作り直した部分もあるとのことですが,それ以外のものについては,コンシューマ版でも「WINDOWS EDITION」でも基本的に同じものを使っているという認識でいいんでしょうか。
荒牧氏:
はい。実際の作業としてはPCで作ったものをPS4やXbox Oneに持っていくという形でしたが,コンバートする前にしっかり作り込むことで,どのプラットフォームでも同じ表現ができるようになっています。ですので,4Kや8K解像度に対応する「WINDOWS EDITION」のデータも,作り直したもの以外のほとんどは,作成済みののデータを少し手直ししたくらいのものなんです。
4Gamer:
「WINDOWS EDITION」はNVIDIAの技術協力を受けているとのことですが,具体的にどういった恩恵があったのでしょうか。
荒牧氏:
草も1本1本がポリゴンで描かれていて,何気ない草原のシーンでも億単位のポリゴンが使われているんですが,そのあたりはNVIDIAが持っている3Dライブラリのおかげですね。うまくスクウェア・エニックスのエンジンに組み込むことで,「WINDOWS EDITION」のグラフィックスを実現しました。
4Gamer:
コンシューマ版はAMDのAPUを採用しているPS4やXbox Oneに向けだったので,「WINDOWS EDITION」でNVIDIAの技術を利用するために必要になった作業もあると思うのですが,いかがでしょうか。
荒牧氏:
はい。AMDに加えてNVIDIAのGPUでもパフォーマンスが出るように,シェーダーをかなり書き換えています。これはNVIDIAさんと共同で行いました。実を言うと,「WINDOWS EDITION」の開発はコンシューマ版発売の1年ほど前から進めていたので,かなりの時間をかけているんです。
田畑氏:
まずPCで基礎開発をして,コンシューマ版の仕様を決めた後に,もう1世代上のバージョンとして,「WINDOWS EDITION」に向けた研究を進めていきました。草が風になびいたり,キャラクターとの当たり判定があったりするのを見ると,「WINDOWS EDITION」ではかなり環境を動的に作れるようになったと思います。
4Gamer:
“環境を動的に作る”とは,どういうことでしょうか。
田畑氏:
あらかじめ作っておくのではなく,その場で計算し,自動生成しているという意味です。
荒牧氏:
例えば「草が生えている」と指定したら,自動で草を生やしてくれますし,草が揺れるのも物理ベースのシミュレーションで実現しています。以前なら,アーティストが一つ一つ草を置いて,アニメーションも人の手で作っていたんですよ。
田畑氏:
雲の自動生成も進化しています。コンシューマ版でも自動生成はしていましたが,「WINDOWS EDITION」ではその適用範囲を広げています。
4Gamer:
なるほど,いちいち人の手をわずらわせずに作れる部分が増えたと。
荒牧氏:
取り組み自体は,PS4向けのゲーム開発初期から始めていました。ゲームの規模が大きくなると,どうしてもアーティストの手が足りなくなってしまうので。技術を取り入れることで負担を減らし,よりリッチな表現を目指したわけです。
田畑氏:
アーティストには,もっと違う部分で個性を発揮してほしいですから。
4Gamer:
リアルで物理的に正しい表現を目指す中で,「個性を発揮する」というのはどういうことでしょうか。
田畑氏:
ただ自然をリアルに描くのではなく,例えば現実にはあり得ないアーチ状の巨岩がある,電信柱の横にモンスターがいるといった独自の世界を,デザイン的にも環境の整合性としても,そして絵の魅力やバランス的にも成立させるのがアーティストです。
荒牧氏:
例を挙げると,ヴェスペル湖周辺に生えている木は全部ねじれていて,現実世界にはない植物なんですが,とても周りの環境になじんでいますよね。そういう絵作りをするのが,アーティストの役割です。
田畑氏:
FFXVでいえば,リアルな現実の中にファンタジーをしっかり入れ込む部分が,アーティストの個性を発揮する場所なんです。
4Gamer:
なるほど。
「WINDOWS EDITION」では,MOD対応というところも気になっているのですが,オフィシャルのMOD作成用ツールがリリースされるのでしょうか。
荒牧氏:
そのとおりです。
田畑氏:
PCゲームは多様な遊び方をされます。どんなPCで遊ぶのかも,プレイヤーの選択に委ねられています。ですから,なるべくそこに向き合った内容にしようと。僕らが想定した遊び方だけでなく,もっと幅広く,プレイヤー本位に遊んでいただくほうがいいと思っています。そもそもゲームは,開発者が考えたものを飛び越えた遊び方ができるほうが面白いですよね。
黒田氏:
1プレイヤーとしては,絶対MODを使いたいですよね。
4Gamer:
MODは「WINDOWS EDITION」のリリースと同じタイミングで使えるようになるのでしょうか。
田畑氏:
サンプルデータは最初から使えますが,作成ツールの提供は少しあとのタイミングを予定しています。
荒牧氏:
ツールによって,マップやクエスト,シナリオをプレイヤーが作れるようにする予定です。「こういう遊び方をしたい」という思いに応えることで,プレイヤー層を広げたいと思っているので,ifのFFXVをぜひ作っていただきたいです。
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