レビュー
人気RTSシリーズの最新作が日本語で登場
カンパニー オブ ヒーローズ テイルズ オブ ヴァラー 日本語版
» カナダのRelic Entertainmentが開発し,2006年にズーから日本語版が発売された「カンパニー オブ ヒーローズ」(CoH)は,徹底的に描き込まれた3Dグラフィックスによって,RTSの新たな地平を切り開いた記念すべきタイトル。今回紹介する「CoH テイルズ オブ ヴァラー」は,そんなCoHシリーズ第三弾で,スタンドアロンでも起動する拡張パックという位置づけだ。そんな本作を「違いの分かる」ライターの徳岡氏がレビューした。
2009年4月24日にズーから発売された「カンパニー オブ ヒーローズ テイルズ オブ ヴァラー 日本語版」(原題,Company of Heroes Tales of Valor。以下,ToV)は,緻密なグラフィックスと高い戦術性を誇る人気RTS,「カンパニー オブ ヒーローズ」のスタンドアロンエクスパンションだ。ToV単体でも起動可能で,シングルプレイ用の新シナリオが3本と,新規導入されたマルチプレイモードなどが収録されている。
マルチプレイのゲームモードが追加
ToVで最も注目すべき追加点である,マルチプレイの新規ゲームモードは,以下のような内容。
まずは,戦車の戦いを描く「戦車戦」。ToVではユニットに攻撃命令を細かに発行する「直接射撃」が新たに導入されており,戦車戦モードではその機能が有用に機能する(……と思う。詳しくは後述)。プレイヤーが操作するのは自分の戦車1両だけなので,操作などでパニックを起こすことは少ないだろう。
次に,押し寄せる攻勢をしのぎ続ける「阻止戦」。これはCo-opスタイルのゲームモードで,怒涛のようにやってくる敵軍を,味方部隊と協力しつつ阻止し続けるのが目的だ。「防御戦闘なら負けないぞ!」という,RTSのマルチプレイではいま一つ陽の目を見ない(かつ微妙に賞賛されにくい)スキルをお持ちの人は,その手腕を遺憾なく発揮してほしい。
最後の「強襲戦」は,前二者とはややニュアンスが異なる。基本的に3vs.3で行われるこのモードは,互いにAIがコントロールする強力な防御陣地を有していて,それをヒーローユニットの特殊能力を駆使して突破することを目的とする。プレイヤーは一つのヒーローユニットだけを操作して,AIが操る味方などを援護しながら戦闘するのだ。
「ウォークラフトIII」に詳しい方であれば,DotAというMODを想像していただければ,だいたいそんな感じだ。コントロールするユニットが少なく,また経験によってヒーローが強化されていく(死んでも強化は維持される)ため,戦車戦同様に最初のマルチプレイ体験としては,いいかもしれない。
戦車戦と強襲戦は――とことん遊び込んだらまた話も変わってくると思うが――通常のマルチプレイよりもずっと気軽に楽しめる。とくに戦車戦は(もちろんチームワークや戦術的センスといったものも重要になるが)一度に処理すべき情報が少ないため,どちらかといえばFPSをプレイしているような感じで参加可能だ。
阻止戦は,まあCo-opの常だが,打ち合わせをせずに参加しているプレイヤーの数が増えれば増えるほど乱戦になり難度が上がる。ただこのモードは,マルチプレイでRTSを楽しむにあたって最も入りやすくなる可能性を持っていると思うので,今後に期待したい。
いずれのモードも,RTSにおいてまったく初めての試みというわけではないが,ゲームにバリエーションが増えるのは歓迎できる。ことCoHは,若干ラーニングカーブがきついこともあり,手軽に参加して楽しめるマルチプレイモードが追加されたのは朗報といえるだろう。
作戦前のブリーフィングも従来どおり。今回はあまり「占領」にこだわるシナリオは多くない。もっともスコアを目指すとなれば話は別 |
二台の戦車で戦車無双。難度を上げるとさすがにやっかいだが,基本はやっぱり無双。それはそれで,戦車好きには楽しいはずだ |
激戦を戦い抜くシングルプレイ用シナリオ3本
シングルプレイ向けには,3本のシナリオが収録されている。
最初のシナリオは「ティーガーエース」。フランス北部,ヴィレル・ボカージュでの戦車戦を扱ったシナリオで,圧倒的な火力を誇る「虎」で存分に暴れまわれる(途中,戦車を放棄しての歩兵戦闘も挟まれるが)。ドイツ軍の伝説のタンクコマンダー,ミハエル・ヴィットマン中尉の気分が満喫できるシナリオだ。
続いて,「ラフィエール侵入路」。アメリカ空挺部隊を操って,D-DAY直後の西部戦線を戦い抜くシナリオだ。強襲,死守,また強襲と,テンポよく展開するシナリオだが,展開はとにかく「ブラッディ」。ティーガーエースから連続でプレイすると,歩兵の辛さに身もだえすること請け合いだ。
最後が「ファレーズ孤立地帯」。巨大な包囲網を敷かれたファレーズから脱出するドイツ軍を支援するシナリオで,錬度も装備も不十分なドイツ軍を操って連合軍の猛攻を退けるのが主眼となる。前二つと異なり,生産や支配地域の概念がクローズアップされるシナリオなので,CoHの基本的なルールを把握できていないと苦しいかもしれない。
「ラフィエール侵入路」のシナリオは空挺部隊が大活躍する。そろそろエバーグリーンという感じになってきた「バンド・オブ・ブラザーズ」のノリである |
ファレーズでの防御戦。突撃砲を建物の間に隠し,敵が通過したところを背後から奇襲。機動力を活かせば,防戦であってもこのとおり。「占領」の概念が重要だ |
阻止戦。基本はマルチプレイのCo-opだが,シングルでもプレイ可能。まずは一人で様子見をしてもいいかも |
戦車戦。展開はかなりスピーディ。個人的には一番気軽にプレイできるマルチプレイだという印象である |
シングルプレイにおける追加要素は以上にとどまる。システムとして,前述のとおり,直接射撃が加わっているのだが,個人的には「ものすごく便利!」的な印象は受けなかった。むしろAIに任せて撃ってもらってもそれほど困らないというか……。
もっとも,この機能が呆れるほど便利で強力だったら,CoHは強烈なマイクロマネジメントゲームになるだろうから,その点においては無難なバランスだろう。ここらへんのさじ加減はなかなか難しいものがある。
マルチプレイに対する補完に比べると,シングルプレイへの追加はちょっと寂しい印象が残るが,ティーガーエースとラフィエール侵入路は文句なく良くできたシナリオなので,プレイしてがっかりする心配はないだろう。「まるで映画を見るようなクオリティで進行するゲーム」というのはCoHの伝統ともいえる美点だが,本作でもそれは継承され,遺憾なく発揮されている。
ただ,ファレーズ孤立地帯で,撤退してくるドイツ軍戦車と歩兵が道の真ん中で渋滞を起こすのだけは,パッチで改善してほしい気も。複数の戦車や戦闘車両が渋滞するならともかく,半ば擱坐(かくざ)した戦車のせいで歩兵まで渋滞するのはまったく意味不明である。
CoHのマルチプレイプレイファンには必須
総合的にいって,ToVはCoHでマルチプレイを楽しむプレイヤーにとって必携の作品に仕上がっている。追加ユニットもマルチプレイ専用なので,シングルプレイに比べてそのボリュームの差は歴然としている(ただし,現時点では追加ユニットにバランスの問題が生じているが,じきに解消されることを期待したい)。
また,RTSのマルチプレイに尻込みしてしまう人達にとっても,ToVは「初めてのマルチプレイ」として推奨できる(とくに,戦車戦モード)。第二次世界大戦というテーマに抵抗がないなら,ここからマルチプレイを始めてみるのは悪くないように思う。時間帯によって対戦相手が見つかりにくいことは,ままあるが。
一方,どんなにシナリオに見るべきものがあるといっても,シングルプレイ専用のプレイヤーにとってToVはいささかボリューム不足の印象をぬぐえない。3本のシナリオはいずれもそれほど長いものではなく,まかり間違ってもカンパニー オブ ヒーローズ本編や,「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III」などに収録されていたような大長編を期待してはいけない。
事前の噂と異なり,結局西部戦線しか収録されていないのも残念なところだ。一般的な知名度という点では西部戦線のほうが高いのかもしれないが,正直いってCoHを遊んでいるようなプレイヤーであれば,東部戦線にまったく興味がない人を探すほうが難しいだろう。
もし,CoHに次の拡張セットがありうるならば――あるいは「Company of Heroes 2」という形で続編が出るのであれば――ぜひとも東部戦線にもスポットライトを当ててほしい。「RTSはマルチプレイを遊んでこそ」というのは事実だが,シングルプレイでしかRTSを遊んでいない人も少なくはない。東部戦線であれば,1941年から(場合によっては39年からでも)終戦まで,十分に長いキャンペーンを組むことも可能だ。CoHのクオリティでハリコフやコルスン,ヴェルキエ・ルキといったあたりをプレイしてみたいと思うのは,筆者だけではあるまい。
※なお,本作をプレイするには認証のためにインターネット環境が必須となっている。たとえシングルプレイしかしないのであっても,オフラインでのプレイは不可能になっているので注意したい。
- 関連タイトル:
カンパニー オブ ヒーローズ テイルズ オブ ヴァラー 日本語版
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