インタビュー
「LOCO 〜LAND OF CHAOS ONLINE〜」開発&運営スタッフインタビュー。TPS視点のMOBAはいかに生まれ,どう展開していくのか
MOBAとは,簡単に言えば「RPGの長所を積極的に取り入れた,多人数対戦RTS」だ。強力な「ヒーロー」1体を操作し,仲間のヒーロー達とともに敵陣へと攻め込むという内容で,複雑で素早い操作より,状況に合わせた立ち回りや連携が重視される。
海外では「League of Legends」や「Dota 2」といったタイトルが大人気となり,日本でもLOCOや「カオス ヒーローズ オンライン」などの作品が正式サービスを控えている。
RTSをベースとする性質上,MOBA系タイトルは“上空から戦場を見下ろした視点”のものが多いのだが,LOCOでは“自分が操作するヒーローを背後から見るTPS的な視点”を採用したことで,より臨場感と迫力のある戦いを楽しむことができる。
αテスト,ロケーションテストとクローズドβテストを終えて,いよいよオープンβテストを迎えたLOCOだが,今回はプロデューサーである,シーアンドシーメディア オンライン事業本部の水越 進氏に話を聞くとともに,開発元であるDanal Gamesにメールで質問を行ってみた。
本日はよろしくお願いします。ようやくオープンβテストですね。
昨年末にαテスト(関連記事)とロケーションテスト(関連記事)を行われていますが,手応えはいかがでしたか?
水越 進氏(以下,水越氏):
αテストは「League of Legends」の対戦交流会に合わせて行ったのですが,MOBAというジャンルに精通された方から,ゲームバランスに関してなど具体的なご意見を頂戴でき,これをクローズドβテストに活かすことができたのは幸いでした。
また,ロケーションテストを行った理由は,αテストとは違った層からのインプレッションを聞きたかったからです。弊社がサービスしております「DARK BLOOD」の大会を秋葉原で開催した際,同じ会場でロケーションテストも行いましたが,こちらではご家族連れや女性の方などにも楽しんでいただけました。
しかし,競合ゲームの対戦会に飛び込んでいくというのも思い切った決断ですね。
水越氏:
MOBAに慣れ親しんだプレイヤーさんから率直な部分をお聞きしたかったんです。良い点も悪い点も,生のフィードバックがいただけますから。
4Gamer:
そうした意見を受けて,変化した部分について教えてください。
MOBAを経験されたプレイヤーさんからは「ログインしたら即座に対戦したい」というご意見がありました。
それまでのLOCOでは,ログインすると,まず「タウン」という街の空間に自分のヒーローが出現していたんですが,オープンβテストからは,最初に対戦相手を探すロビー画面が表示されるようにしました。もちろんタウンも存在していますので,そちらへも移動していただけます。
4Gamer:
これは大きな変化ですね。
水越氏:
クローズドβテストでは,タウンに出現しても,皆さんがコミュニケーションを取るまでには至らないことが多かったんです。
そこで,ロビーからまず対戦をしていただくことで,その後にタウンで感想を言い合ったり,新たな戦略を練ったりといったコミュニケーションが生まれるのではないかと考え,このような仕様としました。
4Gamer:
ロケーションテストやクローズドβテストで印象的な出来事などはありましたか?
水越氏:
LOCOはTPS的な視点を採用しています。プレイヤーから見える範囲は,見下ろし視点よりも狭くなるんですが,MOBAに精通されたプレイヤーさんから「見下ろし視点のゲームとは戦略が変わってくるのが新鮮だった」といわれたのが印象的でしたね。こうした方々は,いかに戦うかという戦略を練るところに面白さを感じておられるようなので,やりがいがあるゲームとして受け止めていただいているようです。
TPS視点は多くのMMORPGが採用している視点でもあり,普段こうしたゲームを遊ばれている方にも,すぐにLOCOの楽しさを感じてもらえるんじゃないかと思います。
4Gamer:
テストで人気を博したヒーローなどはいますか?
水越氏:
ロケーションテストでは,いろいろなキャラの特性を試したいからか,まんべんなくヒーローを使っていただけました。
クローズドβテストでは人気だったのは「ステラ」「ハッティ」「シャトー」「カナン」でした。面白いのは,4人とも女性で,敵に大打撃を与える「ダメージディーラー」という役割だったことですね。アイテムをグレードアップすることで分かりやすく火力がアップしていきますので,そうした部分が好まれたのかなと思っています。
4Gamer:
クローズドβテストの時点ではチームプレイが浸透していなかったので,個人個人で戦いやすいダメージディラーが好まれたのかもしれないですね。
ところで,クローズドβテストの初日には,接続が困難になるなどのトラブルがありましたが。
水越氏:
ご参加いただきました皆様,ゲームを楽しみにされていた皆様におかれましては大変申しわけありませんでした。ハード面での準備が不足していたことと,ストレステストを初日に行ったのが原因です。
MOBA系を普段から遊ばれている以外の方からもご注目いただいたんですが,初日のトラブルが収まっても戻ってきていただけなかったプレイヤーさんもいらっしゃいました。
オープンβテストではこうした問題点を改善し,ちゃんとプレイができる環境を用意させていただきます。
4Gamer:
予告はされていたのですが,クローズドβテストの初日にいきなり負荷テストをやるというのは,ちょっとどうかと思いました。
水越氏:
負荷テストについては,開発からの強い要望で行ったものです。接続できない人が多発してご迷惑をおかけしましたが,オープンβテスト以降はトラブルのない環境でサービスできると思います。
4Gamer:
そのほか,「フォントが見づらい」「マッチングがスムーズにいかない」といった声も聞かれましたが。
水越氏:
使用するフォントですが,オープンβテストではもっと見やすいものにさせていただきます。マッチングに関しても力を入れて改善していき,腕前に開きのある方が試合することのないようにします。
4Gamer:
MOBAは日本プレイヤーにはまだまだ馴染みの薄いジャンルですが,どのようにアピールしていく予定でしょうか。
水越氏:
そのための導線や,遊んでいただくための動機付けをしっかりと行い,プレイするうえで障壁がないようにしていきます。オープンβテストでは,ゲーム内の「タウン」にGMスタッフを動員してルールをご説明し,対戦に参加していただくように誘導する試みも考えています。
4Gamer:
クローズドβテストでは,タウンまで行けても対戦でつながらなかったり,そもそも対戦に入るボタンが分からなかったりという感じでしたね。
水越氏:
我々の説明不足のため,クローズドβテストではゲームのルールをご理解いただけないまま離脱されたプレイヤーさんもおられましたし,“対戦の始め方が分からない”“カーソルの出し方が分からない”といったお声もありまして,開発元も分かりやすいユーザーインタフェースの大切さを改めて理解したようです。
こうした点を残したまま正式サービスが始まっては困りますから,ご意見を頂戴できたのは収穫だと考えています。
4Gamer:
プレイしてみると,アクションゲームのような視点なのに純粋なアクションゲームではないという点で少し戸惑いましたが,慣れると独特の魅力が分かりますね。
水越氏:
まずは,いろいろと試して自分に合うヒーローを探していただきたいです。ほかのプレイヤーさんと戦って「強い!」と思えたヒーローや戦法を試してみるのもアリですね。
そして“このゲームでは負けることは別に悪いことじゃないんだ”という点をプレイヤーさんに知っていただきたいです。負けた原因をチームメイトと探り,次回の対戦に活かしていってほしいと思います。とにかく“気軽に対戦してほしい”という意味で,公式サイトでは「カジュアルチームバトル」と呼んでいます。
競争するより,共にMOBAをアピールしたい
使えるヒーローはどのように増やしていくんですか?
水越氏:
弊社の「MKポイント」をご購入いただき,これをLOCO専用の「キャッシュポイント」に変換し,「ヒーローカード」を買っていただく形になります。
ただ,どんなヒーローなのか分からない状態では,なかなかヒーローカードにお金を出すのも難しいと思いますので,週替わりでお試しの無料ヒーローを提供させていただきます。
ヒーローカードも「永久にヒーローが使える」ものと,「一時的にヒーローが使えるようになる」ものの二種類をご用意します。値段は後者のほうが安くなります。
4Gamer:
日本オリジナルのヒーローが実装される予定はありますか?
水越氏:
年内に2体追加する予定です。1体は6月頃に,もう1体は秋頃に実装されます。
ヒーローはオープンβテストの時点で18体が使用可能で,正式サービス時に2体が追加されます。その後は,一か月ごとに1〜2体ずつ追加していく予定です。
4Gamer:
日本オリジナルヒーローはどのようなものなんでしょう?
水越氏:
どちらも女性で,キャラクター特性はまったく異なるんですが,実は“何か”でつながっています。今のところはこれくらいでご勘弁ください。
4Gamer:
MKポイントは,ほかにどんな使い道があるんですか?
キャラクターの見た目を変えるアバターアイテムや,ペット,ゲーム内マネーが通常よりもたくさん手に入るようになるブースターアイテムなどをご購入いただけます。
いずれも対戦の公平性を損なうようなものではなく,アバターアイテムもペットもヒーローの能力には影響を与えません。
4Gamer:
対戦で手に入るゲーム内マネーでは何ができるんでしょうか。
水越氏:
ゲーム内マネーでも,キャッシュポイントで販売されているアイテムの一部を買うことができます。今後はゲーム内マネーでのみ購入できる,ヒーローの特性を少し変更するようなアイテムもご用意させていただきます。
4Gamer:
今後,キャラクターバランスなどではプレイヤーさんからいろいろな意見が出てくると思いますが,それらにはどう対応されますか。
水越氏:
公平性が問われるゲームですので,いただいた意見のすべてを取り入れることはできませんが,参考にしてゲームを成長させていきます。仕事帰りにジムへ行って少し身体を動かすといった,そんな感覚で遊べるゲームにしたいですね。
4Gamer:
スポーツ的なゲームということですね。スポーツといえばMOBAではeSports的な展開も盛んですが,LOCOでも大会などを行われますか?
水越氏:
eSports的な展開があっても面白いとは思います。ただ,現時点で運営サイドからプレイヤーさんに提案することは,ゲームの遊び方を決めてしまうことにもなりますので,プレイヤーさんからのご要望をいただいてから検討したいと思います。
これは個人的な思いなんですが,せっかく日本に新しいゲームジャンルがやってきたわけですから,同ジャンル内で競争するより,MOBAのことをご存じない方々,潜在的なプレイヤーさんへ広くアピールすることが必要なのかなと思います。
そのうえでは,他社さんのタイトルとも連携を取っていければいいですね。複数のMOBA系タイトルを試せるオープンなIDを作ったり,複数タイトルで「MOBAグローバルチャンピオンシップ」的な大会や,各タイトルのプレイヤー同士の交流戦などもできたりすると面白いかもしれません。
4Gamer:
では,LOCO運営チームが考えるMOBAの魅力とはどういったものでしょうか。
水越氏:
同じヒーローでも使う人によってスタイルが変化してくる奥深さですね。プレイヤーさんごとに動きなんかも全然違ったものになります。
そんなヒーロー達が一緒に戦い,勝利したことで大きな達成感が得られるんですが,これはほかのジャンルのゲームでは得られない体験になると考えています。
4Gamer:
ぱっと見はアクションRPGみたいなのですが,RPGのようなキャラクターの成長要素がありませんから,ベテランでも初心者でも同じ条件で勝負できますし,パーティ構成や相手の構成によって一戦一戦で別戦略が要求されるなど非常に奥深い内容ですよね。
水越氏:
その場その場でマッチメイクされ,ほかのプレイヤーさんの動きやスキルなどを活かしてチームを勝利に導くあたりはビジネスシーンに似てるんじゃないかと思います。
与えられた環境の中,チームとして個人のパフォーマンスを発揮させ,最終的な成果を掴む,だからこそ,試合結果に関わらずポジティブな考え方ができるわけです。失敗があるから成功があり,失敗しても,仲間とその原因を探っていく……そうした繰り返しが大事になりますね。
4Gamer:
奥深さと,チームで遊ぶことによる,負けても前向きでいられるゲーム性というわけですね。コミュニケーションを取っていくことが,LOCOを楽しむ秘訣であると。
水越氏:
個人的には社会人の方にもお勧めしたいですね。チームワークが大切ですし,プレイヤーさんごとに性格が出ますから。現在は突っ込んでいくダメージディーラーが人気ですが,仲間と協力することで持ち味の出るヒーラーが活躍できるようなチーム環境が整っていけば,さらに幅も広がって面白くなるのではないかと。
差別化と複雑化,LOCOの苦闘
4Gamer:
LOCOではなぜTPS視点を採用しているんでしょうか。
LOCO開発チーム:
MOBA系の静的なイメージから脱却し,ほかのタイトルと差別化するためです。「アクション性」と「スピード感」を強調するためTPS視点としております。
4Gamer:
開発が進むにつれて仕様が大きく変化していますね。
2008年の時点ですと,最大16人のプレイヤーがそれぞれ20人のNPCを引き連れる大規模戦(関連記事)だったり,2009年に出展されたバージョンだと3人のNPCに指示を出したり(関連記事)。
当初はNPCとの共闘にこだわっていた印象を受けますが,これをやめた理由は何でしょうか。
LOCO開発チーム:
初期段階では「DotA」や「カオスヒーローズ オンライン」など,ほかのMOBA系タイトルと違いを出すために,NPCを引き連れるような仕様となっておりました。
MOBA系をコアに遊んでおられる方には,それが差別化として歓迎されたのですが,そうでないプレイヤーさんにとっては複雑すぎるものとなってしまいました。
また,MMORPGなどいろいろなゲームの要素も取り入れていたのですが,純粋に対戦を楽しみたい方には,そうした部分が邪魔になっている感じられたようでした。そこでヒーロー1体のみを操作する現在の形式に落ち着いたのです。
水越氏:
こうしたリニューアルは成功だったようで,日本版LOCOの動画を見た海外の方から「このゲームはどこで遊べるんだ?」といったお問い合わせをいただいたりもしてますね。
4Gamer:
MPを捧げて相手ヒーローをしばらく気絶させる逆転兵器「Tree of Light」が敵味方ともに使えるのが印象的でした。これを導入した理由を聞かせてください。
LOCO開発チーム:
負けているチームにも反撃する機会を与えたいということで導入いたしました。
ただし,オープンβテストの時点では一度これを取り除き,ラインの戦略性を高めたマップをご用意する予定です。
水越氏:
ロケーションテストやクローズドβテストで公開したものとは別のマップがすでに作られており,いつもとは違った雰囲気で遊びたいというご要望に応えるものになっています。MOBA系はダークな雰囲気のマップが多いので,個人的には明るいものがあってもいいんじゃないかとは考えてます。LOCOは固まった世界観がない分,いい意味で「何でもアリ」な懐の深さが魅力ですね。
4Gamer:
世界観が何でもアリならば,アニメとのタイアップなども面白いかもしれませんね。
水越氏:
現時点では予定はありませんが,アニメとも親和性の高い絵柄ですので,いろいろ展開していければいいですね。実はアニメとのタイアップに関しては,開発元も大いに興味を示していますので。
4Gamer:
「タウン」はどういったコンセプトで作られたものなんでしょうか。
LOCO開発チーム:
「プレイヤーさん同士のコミュニケーションを強化する」「アバターやペットを見せ合えるような空間を作りたい」という二つの理由から開発いたしました。
対戦中もほかのプレイヤーさんのアバターは見られるのですが,ゆっくりと眺めるのは難しいですし。タウンがあれば,対戦後に自分のヒーローを動かしながらコミュニケーションを取ることができます。
4Gamer:
ゲームバランスを調整するうえでのポリシーはどういったものでしょうか。
LOCO開発チーム:
「ヒーロー間の対戦バランスは可能な限り公平にする」ことです。あるヒーローが強すぎて,使用率が著しく偏るような状況はナンセンスですので,プレイヤーさんからご指摘がありましたら,その都度調整を検討します。MOBAはまだ成長途上のジャンルですので,我々開発チームも日本のプレイヤーさんからいただく意見を重要視しております。
4Gamer:
ヒーローを開発するうえではどんな点に注意されましたか?
LOCO開発チーム:
日本のプレイヤーさんに好んでいただけるような,日本的なビジュアルを作り出すことに注力いたしました。そのために,日本で流行しているアニメやマンガなどを研究したのですが,ビジュアル面の構築だけではなく,ヒーローのスキルなどを生み出すうえでも多くのインスピレーションをいただきました。
4Gamer:
Danal Gamesには世界各国からスタッフが集っているそうですが,コミュニケーションを取るときに文化の違いを感じられたりすることはありますか。
LOCO開発チーム:
確かに文化の違いを感じることはあります。しかし,どの国から来た開発者であっても「良いゲームを作りたい」という志は同じですので,開発作業のうえでは問題になることはありません。
4Gamer:
では,最後に日本のプレイヤーさんへのメッセージをお願いします。
LOCO開発チーム:
LOCOは新しい試みを行っていくゲームだと考えております。初めて遊ばれる方が「難しい」と感じられるような部分をできるだけなくしつつ,ご意見を積極的に取り入れて,日本のプレイヤーさんと共にゲームを作っていくような関係を築けるよう努力いたします。
LOCOを通じて楽しいコミュニケーションを取っていただければと思います。ぜひゲームを楽しんでください。
LOCOのTPS視点は,日本では多くの人が慣れ親しんだ環境であり,RTS文化の薄い日本ではより馴染みやすいものと言えるかもしれない。一方で,クローズドβテストの際には課題が散見されていたことも事実だ。まず,接続難,使用フォント,対戦への導線の弱さだ。対戦部分にたどり着けずに諦めた人もいたのではないだろうか。
今回のインタビューでは,オープンβテストでそれらの問題点がほぼ克服されていることが確認できた。ようやく,普通の人がプレイしても大丈夫な環境になったと言えるだろう。
新ジャンルだけに,まだまだルールや楽しみ方が知られていないのも事実であり,これはLOCOもカオス ヒーローズ オンラインも共通する課題となっている。そんな中,MOBA同士で競争するのではなく,共にジャンルの面白さを周知していこうという水越氏の考え方は,まず市場自体を育てていきたいというセガの意向とも一致している。
MOBAが日本で定着するか否か。オンラインゲーム界の今後を占ううえでも,両社の動きから当分目が離せそうにない。
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