レビュー
40nmプロセス世代の開幕を告げるミドルクラスGPUは,期待どおりの実力を発揮できるか
GIGABYTE GV-R477D5-512H-B
ATI Radeon HD 4770リファレンスカード
» GPU市場に40nmプロセス技術世代の幕開けを告げる「RV740」が,ついに正式発表された。一般に,プロセスの微細化が進むと,製造コストと消費電力の低減を期待できるわけだが,109ドルという想定売価の与えられた第1弾製品は,そういった期待に応えられるだろうか? Jo_Kubota氏によるレビューをお届けしたい。
GV-R477D5-512H-B メーカー:GIGABYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:リンクスインターナショナル(販売代理店) 予想実売価格:1万3000円前後(2009年4月28日現在) |
HD 4770リファレンスカード |
2009年4月時点において,1万円台前半の価格帯に“君臨”する「GeForce 9800 GT」(以下,9800 GT)への刺客とも位置づけられているHD 4770。果たして期待どおりの性能を発揮できるのか,今回はGIGABYTE TECHNOLOGY(以下,GIGABYTE)の協力で入手したリファレンスデザインの搭載カード,「GV-R477D5-512H-B」をメインに,一部,AMDの日本法人である日本AMDから借り受けたリファレンスカードも交えつつ,その実力に迫ってみよう。
性能向上のポイントは高いコアクロックとGDDR5メモリ
HD 4850/4830比で消費電力は約30%改善
ATI Radeon HD 4770 GPU。ダイサイズは実測で約11.5×12.3mm(≒141mm2)だった |
搭載するGDDRメモリチップ,IDGV51-05A1F1C-40X。片面実装8枚で容量512MBを実現する |
HD 4770の汎用シェーダプロセッサ「Stream Processor」の数は640基で,ROP(レンダーバックエンド)数は16基。GPUの基本的な構成はHD 4830とよく似ているが,そんな開発コードネーム「RV740」とされてきたHD 4770を特徴付けるのは,HD 4850すら凌駕する高いコアクロックと,採用するGDDR5メモリチップである。
GDDR5メモリを採用する意義については,別途西川善司氏が詳しく解説しているため,本稿では割愛するが,HD 4670と同じ128bitメモリインタフェースを採用しながら,3.2GHz相当というメモリクロックによって,メモリバス帯域幅はHD 4830に迫っている。
なお,採用するメモリチップはGV-R477D5-512H-B,HD 4770リファレンスカードともQimonda製の1.0ns品,「IDGV51-05A1F1C-40X」。スペック上,1.5Vで4GHz相当(実クロック1GHz)の動作が可能なので,メモリクロックのマージンは比較的残っている計算だ。
試しに6ピンケーブルを差さず起動してみたところ,GV-R477D5-512H-B,リファレンスカードとも,POST時にエラーメッセージが表示され,Windowsを起動できなかったことは付記しておきたい。
リファレンスカードと,リファレンスデザインを採用したカードでGPUクーラーが異なる理由は別記事においてお伝えしているとおりで,GV-R477D5-512H-Bでは,リファレンスカードが採用するものよりもコストの低いGPUクーラーを搭載。クーラーを取り外すと,カードデザインが完全に共通でありながら,GV-R477D5-512H-Bのほうが部品実装点数が少ないのも分かるが,これもおそらくはコスト対策だろう。リファレンスデザインの最適化に当たって,安定動作を期待できるレベルを維持しつつ,コストを切り詰めてきたものと推測される。
なお,動作クロックは2枚ともリファレンスどおり。TechPowerUp製のBIOSカスタマイズツール,「Radeon BIOS Editor」(Version 1.20)を使って,VBIOS(グラフィックスカード上のBIOS)に記録されているクロックテーブルを見る限り,コアクロックは250/500/750MHzの3段階で,省電力機能「ATI PowerPlay」により切り替えられるようだ。GPUコア電圧は,0.900V/0.950V/1.000V/1.050Vの4段階が用意されていた。
HD 4850&HD 4830,9800 GTと比較
テストにはレギュレーション7.0を初採用
今回のテスト環境は表2のとおり。比較対象としては,表1で挙げたGPUを搭載するカードを用意した。HD 4850は,日本AMDから貸し出しを受けたSapphire Technology製品,HD 4830は同じく日本AMDから入手したリファレンスカードで,9800 GT搭載カードは,55nmプロセス技術で製造された個体を搭載した通常消費電力版となるGALAXY Microsystems製品を,同社の販売代理店であるエムヴィケーの協力で手に入れている。
主役のHD 4770は,基本的にGV-R477D5-512H-Bを利用。消費電力とGPU温度のテストのみ,AMDのリファレンスカードでもテストを行う。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション7.0準拠。HD 4770のテスト用として,全世界のレビュワー向けにAMDから配布されたドライバ「8.60-090316a1-078298C」は,ほかのATI Radeon HDカードをサポートしていなかったため,HD 4850とHD 4830では「ATI Catalyst 9.4」を用いることにした。
なお以下,とくに必要のない限り,文中,グラフ中とも,GPU名でのみ表記する。
GF P98GT/512D3/TT カード長221mmと,リファレンスより短いオリジナル基板にArctic Cooling製GPUクーラーを搭載した静音仕様 メーカー:GALAXY Microsystems 問い合わせ先:info@galaxytech.jp 実勢価格:1万2000〜1万4000円(2009年4月28日現在) |
SAPPHIRE HD 4850 512MB GDDR3 PCIE メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp 実勢価格:1万6000〜1万8000円(2009年4月28日現在。テストに用いた1スロットモデルは流通在庫のみで,現在はオリジナルデザインの製品が流通) |
HD 4830を凌駕し,HD 4850に迫るHD 4770
高負荷での強さも光るが,ドライバの最適化は必須
ベンチマーク結果のチェックに入っていこう。
グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMakr06)のテスト結果をまとめたものだ。AMDは,HD 4770はHD 4850に迫るスコアを発揮するとしているが,それを確認できるのは,4xアンチエイリアシングと8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」の1920×1200ドット時。この条件では,9800 GTよりも高いスコアを示している。
一方,「高負荷設定」の低解像度や,アンチエイリアシング,テクスチャフィルタリングとも適用していない「標準設定」だと,HD 4770のスコアはHD 4830とほぼ同じレベルである。
標準設定の1280×1024ドットという,3DMark06のデフォルト設定における「Feature Test」の結果をいくつか見てみると,グラフ3のフィルレート(Fill Rate)で,ATI Radeon HD 4000シリーズの3製品が,Single-Texturingはメモリバス帯域幅,Multi-Texturingはシェーダプロセッサ数とコアクロックの両方が影響したスコアになっているのを確認できる。シェーダプロセッサ数とコアクロック,メモリバス帯域幅といった,HD 4770の強みがよく出ているともいえるだろう。
グラフ4,5は順に,Feature Testにおけるピクセルシェーダ(Pixel Shader),頂点シェーダ(Vertex Shader)の結果だが,テクスチャユニット性能とメモリ性能がスコアを左右しやすい前者で,HD 4770が,HD 4830に大差を付けている点は注目したい。また,シェーダプロセッサの数とコアクロックが効く後者でも,HD 4770は,HD 4830に有意な差を付けている。
以上の傾向を踏まえつつ,実際のゲームにおけるパフォーマンスをチェックしてみよう。
グラフ6,7は,「Crysis Warhead」の外部ベンチマークツール,「HardwareOC Crysis Warhead Benchmark」を使って取得した平均フレームレートだが,3DMark06で見せた,「高負荷環境に強い」というHD 4770の特徴は,グラフィックス負荷の高い本タイトルにおいて,遺憾なく発揮されている。HD 4850とほぼ互角のスコアを示し,HD 4830や9800 GTを安定的に上回っているのは特筆したい。
続いては,「Source Engine」採用の人気タイトル,「Left 4 Dead」。Source Engineは比較的描画負荷の低いエンジンということもあり,標準設定,高負荷設定とも低解像度ではCPUボトルネックが生じて,スコアの差が見えにくくなっているが,高解像度に目を移すと,ここでも3DMark06やCrysis Warheadとほぼ同じ傾向が見られる(グラフ8,9)。高負荷設定の1680×1050ドット以上でHD 4770がHD 4850に置いて行かれるという点では,より3DMark06に近い印象だ。
シェーダプロセッサ数の違いかドライバの最適化度合いの違い,もしくはその両方が影響している可能性を指摘できそうである。
今回のテストで,HD 4770が最も良好な結果を残したのが「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だ。ここで,HD 4770のスコアはグラフィックス設定,解像度を問わず,HD 4850と互角。残る2GPUには完勝といえる。
グラフ12は,レギュレーションに長らく入っていなかったRPGから,「ラスト レムナント」のオフィシャルベンチマークテスト実行結果をまとめたもの。本作が採用するゲームエンジン,「Unreal Engine 3」は,ゲーム側でアンチエイリアシングをサポートしていないため,スコアは標準設定のものだけとなる。
さて,グラフを見てみると,ATI Radeon HD 4000シリーズの3枚は3DMark06と似た傾向を示すが,9800 GTのスコアがHD 4850と互角のレベルに達しているため,HD 4770のスコアはどうしても低めに見えてしまう。
4Gamerのハードウェアレビューでおなじみの「Company of Heroes」。2009年春に新しい拡張パックが登場したロングヒット作はATI Radeonファミリーに不利なスコアが出がちなのだが,標準設定では9800 GTが圧倒(グラフ13,14)。高負荷設定の1920×1200ドットで,HD 4770はやっと追いついている。もっともそのスコアは85.5fpsで,プレイするに不足のないレベルではある。
パフォーマンスベンチマークの最後,グラフ15,16は,レースゲーム,「Race Driver: GRID」(以下GRID)だ。Company of Heroesと異なり,ATI Radeon有利なスコアが出やすい本作だけに,HD 4770のスコアは良好。CPUボトルネックの生じている1024×768ドットを除くと,安定的にHD 4830や9800 GTのスコアを上回っている。
アプリ実行時の消費電力はHD 4850から40W減
アイドル時の消費電力はリーク電流の大きさが影響?
40nmプロセス技術を採用し,HD 4850やHD 4830から公称最大消費電力が30W下げられたHD 4770。実際のところはどうなのか,消費電力変化のログを取得できるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用して,システム全体の消費電力を測定してみたい。
テストに当たっては,OS起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を「(アプリケーションの)実行時」とし,各時点のスコアをまとめている。
その結果をまとめたのがグラフ17だ。注目したいのは,アプリケーション実行時の消費電力が,HD 4850と比べて圧倒的に低い点で,その差は平均40W前後。もちろん,HD 4830や9800 GTよりも低いスコアで,40nmプロセスを採用したメリットをはっきりと見て取れる。
一方,アイドル時の消費電力は,期待したほど下がっていないどころか,わずかだがHD 4830より高くなってしまった。4Gamerでは,グラフィックスカードベンダー筋から,「TSMCの40nmプロセスはリーク電流が大きい」という情報を入手しているが,ATI PowerPlayが正常に動作しているのを確認できている以上,確かにリーク電流の問題が生じている可能性はありそうだ。
なお,グラフには入れていないが,AMDによるHD 4770リファレンスカードのアイドル時,3DMark06時の消費電力は順に112W,184Wで,GV-R477D5-512H-Bと同じ水準だった。
GPUクーラーが異なるため,あくまで参考程度になることをお断りしつつ,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともどもGPU温度をまとめた結果がグラフ18になる。
これは,室温20℃の環境において,PCに組み込んでいないバラック状態にあるシステムに対し,「HWMonitor Pro」(Version 1.05)から計測した結果だが,HD 4770は,最近のATI Radeonらしいというか何というか,やや高めのところに収まっている。
とはいえ,冷却能力の低さで知られるHD 4850リファレンスクーラーほど悲惨な状況にはないので,大きな問題にはならないだろう。筆者の主観になることをお断りしつつ続けると,GV-R477D5-512H-Bが採用するクーラーの回転数はシステムの負荷状況にかかわらず一定のようで,急にうるさくなるような局面はなかった。
ちなみに,リファレンスクーラーのGPU温度はアイドル時に43℃,高負荷時に76℃で,GV-R477D5-512H-Bと変わらず。こちらは負荷状況によってファン回転数が変わる仕様だったが,回転数は2段階制御になっているようで,クルマのアクセルを急に踏んだときよろしく,突然ファンの回転数が上がったりしていた。全体的に,動作音はGV-R477D5-512H-Bの採用するクーラーのほうが好ましい印象だ。
性能と消費電力は大いに魅力だが,仕様にやや難
価格がこなれ,バリエーションが広がることを期待
ただ,HD 4850が安価なものなら1万5000円程度から購入できることも踏まえると,位置付けが微妙なことも否めない。これで,販売価格が99ドルライン――1万〜1万2000円程度――に落ち着いていて,しかも補助電源コネクタを必要としなければ,HD 4830はおろか,HD 4670や,低消費電力版9800 GTすら“喰う”インパクトを示せたはず。それほどまでのポテンシャルを感じさせるHD 4770が,価格やスペックの面で「HD 4830の正当後継」に収まってしまっているのは,なんとももったいないと言わざるを得ないのだ。
GIGABYTE TECHNOLOGYの日本支店である日本ギガバイトによると,早ければGV-R477D5-512H-Bの発売1か月後くらいから,同社オリジナルデザインのカードを市場投入できる見込みという。初夏以降,それこそ補助電源を必要としないモデルや,HD 4850の性能を完全に凌ぐモデル,低価格に振ったモデルなど,HD 4770の特徴を生かしたバリエーションが広がっていくことに期待したい。
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ATI Radeon HD 4700
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