連載
【西川善司】キャプチャデバイス「AVT-C281」を使った「実況プレイ動画」作成法
西川善司 / グラフィックス技術と大画面と赤い車を愛するジャーナリスト
(善)後不覚 |
筆者の執筆した,AVerMedia製ビデオキャプチャデバイス「AVT-C281」(GAME CAPTURE HD)のレビュー記事は,ご覧になっていただけたでしょうか。
製品の詳細や評価はレビュー記事を参照してもらえればと思いますが,その後,読者から「プレイ実況動画を録るのにはAVT-C281は使えないの?」という質問が寄せられました。
なるほど。噛み砕くならば,これは,「ゲーム映像を録画するだけでなく,そこに自分の『しゃべり』も同時に吹き込みたい」ということです。
AVT-C281の活用事例としても面白そうなネタなので,今回はこれを取りあげてみることにしましょう。
「プレイ実況動画」に必要な機材は?
さて,本稿は,「AVT-C281でプレイ実況動画は作成できるのか」というネタなのですが,結論からいえば「本体のみでは無理」です。しかし「最低限の機材を追加で用意すれば可能」でもあります。
ミキサーについては後ほど説明しますが,ミキサー側のマイク端子がプラグインパワー方式(接続先端子からの電源供給を前提とする方式)ならば,その適合タイプを選ぶ必要があります。通常,プラグインパワー方式かどうかは製品ボックスに書いてあります。
組み合わせるミキサーによっては,プラグインパワー方式のマイクが使えない場合もあります。そういうミキサーでプラグインパワー方式のマイクを使うときは,マイク自体に電源を供給する仕組みが必要です。
また,その仕様上,ダイナミックマイクは電源供給が不要(≠プラグインパワー方式)なので,ミキサー側がプラグインパワー方式ではないマイクをサポートしている場合は,ダイナミックマイクを搭載したPC用アナログ接続型ヘッドセットを使うというのもアリだと思います。いずれにせよ,PCとは異なり,ミキサー側の仕様にかなり左右されるので,この点は注意してください。
上で後述するとしたミキサーも必須です。
今回のケースだと,入力する音は,ゲーム機からのL/R(左右)2chステレオサウンドと,しゃべりの1chモノラルサウンドになるので,最低で3chのミキシングが行えればよいことになります。ただ,ミキサー製品は最低でも4chミキシングに対応した製品からラインナップされることが多いので,現実的には4ch以上のミキサーを探すことになるでしょう。
マイクが民生向けのφ3.5mmのミニピン仕様で,プラグインパワー方式ならば,オーディオテクニカの5chミキサー「AT-PMX5P」あたりがオススメでしょうか。実勢価格は9000円前後(※2012年6月2日現在)です。
もし,マイクとミキサーの両方を一式買い揃えるなら,より高品位なコンデンサマイクにも対応できるBehringer(ベリンガー)の「XENYX 802」がいいと思います。こちらだと実勢価格は4000円前後(※2012年6月2日現在)です。ただ,マイク入力端子はXLRという業務用のものなので,場合によっては変換ケーブル(※けっこう高い)が必要になります。この点は注意しておいてください。
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最後に必要なものはヘッドフォンです。これがなぜ必要なのかは後述しますが,ミキサーにつないで使います。マイクをヘッドセットで代用したのであれば,そのままヘッドセットを使えばいいでしょう。普段,ポータブルプレイヤーとつないでいるイヤフォンでもいいと思います。
今回,筆者はありものの会議用録音マイクを流用 |
ミキサーもありものを使用。DTM用なのでエフェクタ出力&リターンの機能が付いているが,今回はもちろん使わない |
右端に見える「audio-techinca」ロゴ入りのものがマイク用電源ユニット。筆者手持ちのミキサーにサウンドを入力するためにはこの電源が必要だった。根本付近にある「ON」と書いてある部分が,マイク用電源スイッチ |
ミキサーもありものを使用しました。
MIDI楽器を使ったDTM(デスクトップミュージック)をやっていたり,バンド活動をやっていたりする人からすると馴染みのある機材でしょうし,手持ちのものがあるかもしれません。筆者も昔は“そっち系”の人だったので,古いTASCAM製の8chミキサーやAlesisの16chミキサーを所有していますが,これらはコンソールタイプなので持ち運ぶのも大変。そこで,今回引っ張り出してきたのは,死蔵状態にあったBossの8chミキサー「BX-8」です。こちらもとっくに絶版製品ですが,アナログサウンドを簡単にミックスする目的では,今でも十分使えました。
ちなみに,今回使うマイクはプラグインパワー方式に対応していますが,ミキサーのほうがプラグインパワー方式に対応していなかったので,AT9750の製品ボックスに付属していた電源ユニットを接続しています。
各機器の接続方法
接続のイメージは下のとおりとなります。厳密には,使用するミキサー次第なのですが,大きくは変わらないはずです。
この図を基にして,各接続を細かく解説していくことにします。以下のカコミを参照してください。
1.ゲーム機のビデオ出力はAVT-C281と直結。サウンド出力だけをミキサーと接続
ゲーム機とAVT-C281との接続にあたって,コンポーネントビデオ出力系は,通常どおり,AVT-C281のコンポーネント入力端子と接続するだけでOKです。
入力されたゲームサウンドの定位(Pan-Pot)を正しく割り振る
一方,サウンドは,マイクによって採取したしゃべりとの合成をミキサー側で行う必要があるため,ミキサー側のライン入力端子と接続する必要があります。AVT-C281の付属ケーブルはRCA端子なので,場合によってはミニピンへの変換が必要かもしれません。
一般的なミキサーには,「入力されたサウンドを左右に割り振る機能」としてPan-Pot(パンポット)つまみがあるので,ゲーム機側からの左(白色)端子が接続されたチャンネルは左(L)へ,右(赤色)端子が接続された方は右(R)へ割り振ります。
2.マイクの接続
マイクもミキサーと接続します。しゃべりは中央に定位させたいので,Pan-Potつまみは中央にします。ミキサーの機種によってはマイクには専用線があって,パンポットは中央固定の場合もあるかもしれません。
マイクからのしゃべりを中央に定位させるため,Pan-Potつまみは中央に
3.AVT-C281とミキサーとの接続
ミキサーでミックスされたサウンドをラインケーブル経由でをAVT-C281のライン入力端子と接続します。この接続には,AVT-C281に付属するRCAラインケーブルが使えます。
4.AVT-C281とテレビの接続
AVT-C281とテレビとの間は,通常どおり直結します。サウンド線接続用のケーブルは,3.でAVT-C281とミキサーとの接続に使ってしまいましたが,慌てる必要はありません。ここは接続しなくて構わないからです。
実況プレイ動画の場合,しゃべりをマイクに吹き込みますが,このとき,テレビ側のスピーカーから出力された音がノイズとしてマイクに入力されてしまうのはよくないので,むしろ,テレビからのサウンド出力は不要なんですね。
5.ヘッドフォンをミキサーと接続
ゲームは効果音やBGMがないとプレイしにくいでしょう。しかし,前述の理由でテレビからは音声が出せません。
そこで,音声はミキサーに備わっているヘッドフォン端子を利用することになります。ヘッドフォンはこのために必要なのです。
実際にテスト録画を行いつつ,音声バランスを調整
ボクは,その前にAVT-C281のテストを行っていますが,レビュー後は返却してしまったので,品薄状態の落ち着きを待ってから,私物としてあらためて入手しています。
レビュー記事執筆時よりも新しいファームウェア「1.7.3」が上がっていたので,購入後はまずこれにアップデート。5月出荷分からはファームウェア1.7.3がプリインストール済みらしいですが,ボクが入手した個体のように,違う場合もあるようなので,本格的に使い始める前に,一度バージョンチェックをしてみることをオススメします。
使ってみた感じだと,新ファームウェアでは,USB接続型ドライブを抜き差しするところが安定しており,USBフラッシュメモリに保存した内容が“化ける”ようなことはなくなりました。一安心ですね。ただ,「本体時刻と書き出したファイルの時刻の不一致」は直っていませんでした。ここは現状,本体側に設定する時刻を,「日本時刻−9時間」にずらして合わせることで対応するしかありません。
そこで,バッファロー製のフラッシュメモリ「RUF2-YUF16GS-WH」(容量16GB,USB 2.0)を差してみたところ,ちゃんと動作しました。
筆者の環境ではマイク音量が相対的に小さかったので,マイク音量を最大に設定。ゲームサウンド側は相当に絞っている |
ミキシングのバランスはいいのに,最終の音量が大きい/小さいというときは,マスターボリュームを調整する |
こうした事態には,ミキサー上のレベルスライダーを上下させることで調整して対処します。
ゲームプレイ実況動画は,自分のしゃべりが主体となるので,まず,しゃべりが音割れしない程度を最大レベルとし,それを基準として,ゲームサウンド側をやや抑えめに合わせるのがコツです。
ゲームサウンドとしゃべりのバランスは悪くないが,絶対的な音量が大きすぎるとか小さすぎるとかいった場合には,ミキサー側のマスターボリュームのスライダーを上げ下げして調整します。
実際の実況ムービーを掲載してみる
せっかくなので,AVT-C281と,筆者の古いありもの機材で構築した接続システムで作ったプレイ実況動画をYouTubeにアップロードしてみました。
台本なしの一発録りなので,大した内容はしゃべっていません。また,プレイ実況ということもあって,多少なりともネタバレ的なものが含まれています。そのあたりは大目に見てもらえると助かります。
AVT-C281の録画画質については,レビュー記事で細かく述べているので,ここでは触れません。その代わりに,掲載した動画がどういったステップで作成された,どんな仕様のムービーなのかを,簡単に紹介しておきます。
「Dragon’s Dogma」は,Xbox 360から720p出力したものを,AVT-C281から720pの最高画質で録画しています。録画後,このビデオファイルをPC側にUSBフラッシュメモリ経由でコピーし,「TMPGEnc Video Mastering Works5」で冒頭と最後だけをカットして,856×480ドット,4MbpsのH.264にトランスコードして,ファイルの容量を小さくしています(※YouTubeにアップした時点で最終的なビットレートは変わってしまっていますが)。「Halo: Combat Evolved Anniversary」も同様。「アンチャーテッド -砂漠に眠るアトランティス-」も,出力元がPlayStation 3に変わるだけで,同様です。
この手軽さは,カジュアルな趣味としてゲームプレイ実況動画を始めようとする人には大きな魅力になるかと思います。
今回,ボクも初めてこういうことをやってみたわけですが,実際に作業を終えて動画を見直してみて,いくつか気づいた点があったので,最後にそれを記しておきます。
今回使用したマイクは,テーブルに置いて使うタイプの指向性マイクだったので,マイクの設置位置が,筆者の口元から遠くなってしまいました。そのため筆者のしゃべり音声以外に,ゲームパッドを操作している「カチャカチャ」音までが録れてしまっています。ここは反省すべき点ですね。ここは,前述のとおり,ピンマイクやインカムマイクを使うことで改善できるはずです。
また,サウンドにヒスノイズが多いのも気になりました。これの直接の原因は,マイク入力レベルを上げすぎたためです。こうした部分は経験を積んで,最適なバランスを自分なりに見つけていくしかないのかもしれません。
■■西川善司■■ テクニカルジャーナリスト。4Gamerの連載「3Dゲームエクスタシー」をはじめ,オンライン/オフラインのさまざまなメディアに寄稿したり,バカゲーを好んでプレイしたり,大画面にときめいたり,観切れないほどBlu-rayビデオを買ったり,オヤジギャグを炸裂させたりして毎日を過ごしている。 |
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