連載
【ヒャダイン】「ポケットモンスター」新作を途中までプレイして感じた2022年の「自由」
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第90回:「『ポケットモンスター』新作を途中までプレイして感じた2022年の『自由』」
ども。よ! 待ってました! やったー! てなわけで,ついに発売されました「ポケットモンスター」シリーズ完全新作「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」(以下,ポケモン S・V)。
2019年11月の「ポケットモンスター ソード・シールド」(以下,ポケモン ソード・シールド)の発売以降,途中に派生作品やリメイク作品もいろいろと出ていましたが,シリーズ完全新作がついに登場です。しかも今回の目玉は,オープンワールド。ポケモン ソード・シールドの一部エリアはオープンワールドっぽかったですし,「Pokémon LEGENDS アルセウス」もかなりオープンワールドに近かったのですが,ポケモン S・Vはフィールド内のどこにでも行ける。そしてどのストーリーからやってもいい。
これだけでもかなり自由度は高いのですが,まだ途中までしかプレイできていないものの,それでも感じたそのほかの「自由」について,つらつら書きたいと思います。
まず,昨今のはやり言葉にもなりつつある「タイパ」,すなわち「タイムパフォーマンス」がかなり向上した気がします。
TikTokブーム,YouTube動画の倍速再生,音楽のイントロ飛ばし,さらには著作権侵害による損害賠償5億円という判決が下ったファスト動画みたいなものまでが出てくる現在。みんな何を生き急いでいるんだろう? とも思いますが,要するに「無駄」がイヤなんですよね。こういうのって,ネットの検索癖の影響があると私は考えていて。今って分からないことでも10秒かからずに答えが出る。合ってるかどうかはともかく,デジタルネイティブじゃなくても効率がいい世界に慣れてきているのも,要因の一つかなと思うんですよね。
さて,ポケモン S・Vの話に戻りましょう。今回タイパがずいぶん向上していて,例えばレベル上げ。「レッツゴー」という新機能では,手持ちの先頭にいるポケモンを野に放って自ら戦闘させることができます。通常のバトルより圧倒的なスピードで野生のポケモンを倒して経験値とポケモンのおとしものを手に入れてくれます(やられて戻ってくることもあります)。
さらに,わざの思い出し,そして忘れ。ポケモンがわざを同時に四つまでしか覚えられないのは従来どおり。かつては忘れたわざをもう一回使いたいときなど,特定の街にいる特定の人物を訪ねて,しかもハートのウロコなどの対価を払って思い出す必要がありました。ですがポケモン S・Vでは,メニュー画面でポケモンの強さを開いたら,そこでわざの思い出しを無償でさせてくれます。タイパもコスパもいいわけですね。
あと,通常バトルもタイパが向上していて,従来ならエンカウントすると音楽が流れて野生のポケモンがズズっと出てきて,「やせいのピカチュウがあらわれた」といったメッセージのあと,ようやくコマンドが表示されていました。エンカウントするだけで一定の時間を取られていたわけです。しかし今回はシンボルエンカウントから,シームレスにバトルへと移行します。野生のポケモンにぶつかったら即バトル。勝利後に得られるポケモンのおとしものの確認も,歩きながらできる感じで時間を食いません。
道に落ちている物を拾うのもタイパ重視。従来なら効果音と共に「モンスターボールを拾った!」などと数秒は説明に費やされていたのですが、今回は0秒。拾ったらピロンとダイアログが出るだけです。
道に立っているトレーナーとのバトルもそうですね。今までは「目と目が合ったらポケモンバトル」ということで,前を通り過ぎると逃げようもなく戦闘に突入していました。急いでいるとき,ポケモンの体力が少ないときはつらかったのですが,今回からは申し込み制。こちらから話しかけないとバトルが始まりません。素通りもOKってことです。
このように,タイムパフォーマンスの向上,すなわち「時間の制約から解放される自由」が各所で見られます。
「ジェンダーに関する自由」もいろいろと見受けられました。そもそもポケモンの世界はオスとメスが明示されていて,タマゴをかえすにあたってはどうしてもこれを意識することになります。それに,ラッキーやガルーラのようなメスだけのポケモンもいたり(ケンタロスやバルキーのようにオスだけのポケモンもいたり),最初の3匹はオスが多かったり,あとメロメロというわざは「50%の確率で相手は攻撃できなくなる(オスならメスに,メスならオスにしか効果がない」というように,性別を意識させられる局面もそれなりにありました。
もちろん今回も,タマゴの件もそうですし,ポケモン自体にオス,メスの違いはあります。しかし,こと登場人物に関してのジェンダーレス化は随所に見受けられました。まず主人公のベースモデルは男の子っぽかったり女の子っぽかったりするものから選べますが,両方とも服はパンツルック。
さらに男の子っぽいベースモデルからフェミニンなキャラも作れますし,女の子っぽいベースモデルからボーイッシュなキャラも作れます。いろんな街で買えるおしゃれ用品もジェンダーレスです。さらに,ジムリーダーやスター団のメンバーも見た目はガーリーだけど一人称が「俺」だったり,ビジュアルだけは長髪美少女だけど男の子だったり,しかもその点をことさら粒立てるわけでもなく,当たり前のこととして描いている印象があります。
さらに言うと,街にいるモブの女性がボディビルダーなみにマッチョだったり,道の途中で戦うトレーナーがさらっとおねえ言葉だったりと,世の多様性を反映しているように思えます。プレイヤー自身の生まれた性別がなんであろうと,ポケモンの世界では自由にしていいし,実際,登場人物達もその垣根を超えている世界線なわけですね。
もう少しゲーム寄りの話をすると,「視点の自由」も感じました。今までは決められた道を行き来して冒険していたわけですが,オープンワールドなのでどんな道を歩いてもいい。これは一番最初に書いたオープンワールドならではの利点ですが,それに伴って視点も自由になったと感じています。
顕著なのがバトル時におけるカメラの自由化。これまでのシリーズ作品の多くはバトルになると相手トレーナーと相手ポケモンが目の前にバーンといて,自分のポケモンは後ろ姿しか見ることができませんでした。バトル中の演出で,パパッとライブのサービス映像のようにカメラが切り替わって表情が映ることはありましたが,基本は後ろ姿。これがもったいないな,とずっと思っていました。
だって手持ちのポケモンって,私達が愛している仲間でしょ? そんな愛するポケモンがバトルに立ち向かっているときにどんな表情をしているのか,凝視したいんですよ。なんで相手の顔ばっか見なきゃいけないのよ。推しの表情くれよ!
しかし今回は,カメラを自由に動かして,手持ちのポケモンのバトル中の顔をいくらでも見ることができます。私はギャラドスが好きで今回も旅パにギャラドスを入れていますが,バトルが始まるたびにカメラをぐいんと回してギャラドスの雄姿をほれぼれと見ています。まあ今回,ポケモンの大小もほぼ正確に描かれているので画面に収まりきらないほどデカいですが,ギャラドス。
さらにバトル中,対決しているわけではない周囲にいる野生のポケモンも,興味本位なのかなんだか知りませんが,見物しに近付いてきたりするんですね。あと,まだ捕獲してないポケモンが歩いているのが見えたり。こうなると現在のバトルをとっとと終わらせて,そっちのポケモンを捕獲するぞ! という気持ちになってきます。
さて。私まだ,プレイを開始してちょうど真ん中くらい。まだエンディングを迎えていないですし,やりこみ要素にも手を付けていません。その状況でもこれだけの「自由」を感じるのですから,この先に待っているものを考えると,まだまだワクワクできます。
とはいえ,自由よりも制約があったほうがいいと考える人がいるのも事実。それに関しても気持ちが分かる部分はあります。あの制約の中で工夫するのが楽しかったなーとか。しかし時代は2022。そして間もなく2023。もっと自由が重んじられる時代になろうとしているのは,各エンターテイメントを見ていても感じられるところです。「加齢とともに凝り固まりがちな思考を柔らかくしようぜ」と,そんな風にポケットモンスター最新作が提案してくれているような気もいたしました。
あ,まったくの余談ですがスター団あく組のピーニャがビジュアル,スペック込みで他人の気がしません。嬉しい。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ 先日,気ままな一人旅でフィリピンのマニラに行ってきたというヒャダイン氏。ちょっとしたトラブルもあったそうですが,英語で対処ができて達成感を得られたようです。「やはり海外は刺激的で良かった」と語っていました。 |
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