レビュー
ついに登場のBulldozerアーキテクチャ。“Zambezi”はゲーマーのためのCPUか
FX-8150/3.6GHz
4Gamerでは,正式発表に合わせて,最上位モデルとなるFX-8150を入手したので,「10月下旬以降,順次」とされる発売スケジュールからするとやや早すぎるタイミングではあるものの,前後編に分けて,その実力を検証してみたいと思う。
AMD,Bulldozerアーキテクチャ採用の新世代CPU「FX」を正式発表。発売は10月下旬以降に
4モジュール・8コア構成をとるFX-8150
Turbo COREでは最大4.2GHzの動作も可能に
また,全モデルで倍率ロックフリーとなる一方,従来の倍率ロックフリーモデルに冠されてきた「Black Edition」の表記がなくなった――製品ボックスには残るが,製品名からは外れた――のは,従来からの大きな変更点といえよう。
一方,CPUパッケージがAM3+で,Socket AM3+マザーボードとの互換性が確保されているのもトピックといえる。
定格の動作クロックは3.6GHzながら,TDP(Thermal Design Power)の余剰分を動作クロックの引き上げに割り振ることで自動クロックアップ動作を実現する「AMD Turbo CORE Technology」(以下,Turbo CORE)の第2世代版を搭載しており,最大4.2GHzの動作が可能となっている。「ターボ動作時」という条件付きながら,4GHzを超える動作クロックが公式に実現されたのは,大きなトピックと言っていいだろう。
まず,1モジュール1コアから2モジュール4コアまでに負荷がかかっているときだが,この場合は,負荷のかかっているコアを含んだモジュールだけが4.2GHzに達し,残りの2〜3モジュールは,アイドル時の最低動作クロックたる1.4GHzまでは落ちないものの,比較的低いクロックに落ち着くようになっている。
対し,3モジュール5コア以上に負荷がかかるようになると,負荷のかかっているモジュールだけが最大3.9GHz動作するようになる。たとえば4モジュールすべてに負荷がかかった場合は全モジュールが3.9GHz動作するが,3モジュールの5コアに負荷がかかっている場合だと,3モジュールだけ3.9GHzに引き上げられ,残る1モジュールは定格の3.6GHzに留まるといった具合だ。
要するに,Turbo COREではBulldozerモジュール単位での制御が行われるわけである。
ちなみにAMDは,前者を「Max Turbo」,後者を「All Core Turbo」と呼んで区別しているため,第2世代Turbo COREでは,Bulldozerモジュールの負荷状況に応じた2段階のターボ動作モードが用意されている,という理解をしておくのが正解と思われる。
メモリコントローラはDDR3-1866対応で,Ganged(≒デュアルチャネル)およびUnganged(≒シングルチャネル)両対応。メモリ周りは「AMD A-Series」と同じ水準にまで高められているわけである。Phenom II X6だとDDR3-1333までのサポートだったので,かなりの強化がなされたといえる。
そんなFX-8150のスペックを,「Phenom II X6 1100T Black Edition/3.3GHz」(以下,X6 1100T),「Phenom II X4 980 Black Edition/3.7GHz」(以下,X4 980),「Core i7-2600K/3.4GHz」(以下,i7-2600K),「Core i5-2500K/3.3GHz」(以下,i5-2500K)と比較したものが表1である。
AMD OverDrive 4.0.5.0529では,Turbo CORE周りの設定が豊富になったのが見どころで,動作クロックはもちろんのこと,Turbo CORE適用時の電圧なども変更できるようになった。
DDR3-1600でのテストを実施
テストには空冷クーラーを利用
テストのセットアップに入ろう。
今回のテスト環境は表2のとおり。今回,FX-8150は評価キットの形で入手しており,そこには「AMD 990FX」チップセット搭載のASUSTeK Computer(以下,ASUS)製マザーボード「Crosshair V Formula」が付属していたので,これをそのまま用いることとした。BIOSのバージョンは,ASUSから入手した「0813」正式版だ。
ASUSに確認したところ,Crosshair V Formulaの場合,公式サポートはDDR3-1600までとなっており,(少なくとも現時点だと)それ以上は「オーバークロック設定」になるとの回答が得られた。また,AMDから世界中のレビュワーへ配布されたレビュワーズガイドでも,AMDはDDR3-1333設定でFX-8150のテストを行っていたりするので,ひょっとすると現時点では,DDR3-1866動作に向けた最適化……というか,AMDとマザーボードメーカー間のすり合わせが済んでいないのかしれない。もちろん,評価機としてやってきたマザーボードの個体不良という可能性もあるのだが。
つまり,初回出荷の500個にはすべて液冷クーラーが付属するわけだ。ただ,今回入手した評価機には付属せず,テスト開始後,遅れて到着したため,前編となる今回は,性能検証にあたって,Socket AMxに共通のAMDリファレンスクーラーを用いることとした。空冷か液冷かでTurbo COREの効果に違いが生じることも予想されるが,そのあたりは後編で検証する予定だ。
※「液冷クーラー付属の特別版500セットが完売したらどうなるのか? すぐ単品販売を開始するのか?」という質問を投げたところ,日本AMDから返ってきた回答は「500セットの販売が終了したのちは,単品販売したいという気持ちがございますが,年内は世界的に数に限りがございますので,未定でございます。単品販売をすることになりましたら,価格も含めてご案内させていただきます。」(原文ママ)だった。
比較対象として用意したのは表1でその名を挙げたCPUである。テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション11.0準拠だが,「Battlefield: Bad Company 2」は,ゲーム側のアップデートによってか,セーブデータが機能しなくなったため,今回は省略している。また,いいくつか基礎検証用にゲーム以外のテストも追加した。
FX-8150のテストにあたっては,第2世代Turbo COREの有効時,無効時それぞれでテストを行うこととし,それぞれ「FX-8150(TC ON)」「FX-8150(TC OFF)」と表記する。X6 1100Tは,第1世代Turbo COREを無効化したほうがゲームでは高い性能が得られることもあるのだが,Turbo COREを有効化した状態のほうがより一般的であることから,今回,Turbo COREは有効化している。
また,AMD製プロセッサに共通して,メモリアクセス設定はGangedに設定してあることもここで述べておきたい。
メモリバス帯域幅が向上し,レイテンシも増大
L2キャッシュは遅く,L3は速くなった
先ほど,ベンチマークレギュレーション11.0準拠のゲームタイトル以外に,いくつか基礎検証を行うと述べたが,今回はさっそく「Sandra 2011」(SP5 Version 17.80)を使ってみよう。これで,FX-8150の“素性”を見ていくわけである。
というわけででグラフ1は,「Inter-Core Bandwidth」の結果だ。
i7-2600Kでは,「Intel Hyper-Threading Technology」が有効になっていることもあって,同一コア内でデータのやり取りが行われるため,値が飛び抜けてしまっている。なので除外しつつ,そのほかを見ていくことになるが,FX-8150(TC ON)はX6 1100Tから約4倍にまでスコアが向上し,4コア4スレッド動作のi5-2500Kをも上回った。
もちろんこれは,2コアが1セットとなるBulldozerモジュールの設計自体がこのテストに向いているというのはあるだろうが,モジュール間でも,より大きな帯域幅を確保できるように調整した結果ではなかろうか。8コアCPUとして,これは順当な改良といえそうである。
ただ,「Inter-Core Latency」を見ると,レイテンシが大きくなってしまっているのも分かる(グラフ2)。FX-8150(TC ON)がX6 1100Tの約1.6倍,i5-2500Kの約4.4倍というのは,総じて帯域幅よりむしろレイテンシがスコアを左右しやすいゲーム用途を考えるに,少々気になるところだ。
続いてはメモリやキャッシュ周り。
グラフ3はメモリ関連の総合的な帯域幅を見る「Memory Bandwidth」で,FX-8150(TC ON)はi7-2600Kやi5-2500Kと同等のスコアを示しており,Phenomから大きく改善しているのが見て取れる。
もう少し細かく,グラフ4の「Cache and Memory」で,データブロックサイズごとの帯域幅を見てみると,FX-8150(TC ON)は,128kBから1MBあたり,つまりL2キャッシュに収まる範囲で,i5-2500KやX6 1100Tにかなりの差を付けられている一方,L3キャッシュに収まる4MBブロックでは最も高いスコアを示した。L2はPhenom IIより遅いが,L3はむしろ速い,という結果になっているわけだ。
また,ブロックサイズごとのメモリレイテンシを見る「Memory Latency」で,1MB付近のスコアを見る限り,L2キャッシュ周りのレイテンシはX6 1100TやX4 980よりも小さいようである。
つまり,ここまでのテスト結果からFX-8150の特徴をまとめると,
- コア間の帯域幅は向上したが,レイテンシも増大した
- L2キャッシュの帯域幅は低下したが,レイテンシは小さくなった
- L3キャッシュは高速化した
ということになる。
Turbo COREの恩恵は大きいものの
i5-2500Kに置いて行かれる場面が多い
さて,ここからが本番だ。ゲームにおける性能を見ていこう。
グラフ6は,「3DMark11」(Version 1.0.2)における「Entry」「Performance」「Extreme」各プリセットのスコアをまとめたものだ。GPU性能への依存が大きくなるExtremeプリセットでは数値がほぼ完全に揃ったが,CPU性能の重み付けが大きいEntryプリセットだと,FX-8150(TC ON)はX6 1100Tより約11%,X4 980よりも約15%高いスコアを示した。ただ,i5-2500Kに対しては約4%低いことも,指摘しておく必要はあるだろう。
第2世代Turbo COREの有効/無効を比べると,Entryプリセットでは,約1%ではあるものの,有効時のほうがスコアは高かった。
続いてグラフ7,8は「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の「Day」と「SunShafts」シークエンスにおける結果である。
まず,最も描画負荷の低いDayだが,ここではFX-8150(TC ON)がX4 980とほぼ同じスコアにまとまり,揃ってX6 1100Tに対して3〜6%程度の差を付けている。ここではコア数よりも動作クロックがスコアを左右している印象だ。また,FX-8150(TC ON)とFX-8150(TC ON)では6〜8%と,クロックが“効く”分,スコアの違いはかなり大きくなっている。
気になるのはi5-2500Kとのギャップで,FX-8150(TC ON)は,1280×720ドットで約23%,描画負荷が高まりスコアが低下する1920×1080ドットでも約13%置いて行かれている。
なお,STALKER CoPの公式ベンチマークテスト中で最も描画負荷の大きいSunShaftsでは,ご覧のとおり,CPUによる有意なスコア差がほとんど見られなかった。
DirectX 9世代のFPS「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)は,今回のテスト環境からすると“軽すぎる”タイトルだが,解像度が上がっていくとスコアは並んでいく(グラフ9)。そこで,1280×720ドット時に着目すると,FX-8150(TC ON)のスコアはX6 1100Tとほぼ同じで,X4 980にすら若干ながら置いて行かれてしまっている。
Call of Duty 4のような,マルチスレッド処理にそれほど最適化されておらず,かつ描画負荷の低いようなタイトルでは,先述したL2キャッシュの性能が足を引っ張っているのではなかろうか。
グラフ10の「Just Cause 2」は,STALKER CoPのDayシークエンスと似た傾向を示した。FX-8150(TC ON)のスコアはX4 980Tとほぼ同じで,FX-8150(TC OFF)よりは4〜7%高いスコアだ。しかし,i5-2500Kには14〜27%の差を付けられている。
グラフ11の「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)もSTALKER CoPと同傾向だ。FX-8150(TC ON)のスコアはX4 980とほぼ同じで,FX-8150(TC OFF)に対しては4〜8%高いフレームレートを示している。
ゲーム性能検証の最後はグラフ12に示した「DiRT 3」だが,ここでは1600×900ドット以上でスコアが揃い気味。ただ,1280×720ドットではFX-8150(TC ON)がFX-8150(TC OFF)に対して約9%,X4 980に対しても約6%高いスコアを示し,気を吐いている。
i5-2500Kに対して93%にまで迫っていると見るか,それでもi5-2500Kに置いて行かれると見るかは,人それぞれだろう。
8コア&高クロックで消費電力は増加も
アイドル時の消費電力は非常に低い
その結果はグラフ13のとおりで,ここでの見どころは2つだ。
1つは,アイドル時の消費電力で,FX-8150がi5-2500Kを20Wも下回った点。(「R.O.G.」ブランドの上位モデルという形でマザーボードの方向性は揃えたものの)マザーボードが異なる以上,この20WがそのままCPUの違いとは言いがたい。ただそれでも,アイドル時におけるAMD FXプロセッサの消費電力が低そうというのは言ってもよさそうである。
そしてもう1つは,高負荷時の消費電力が非常に高いこと。今回のテスト結果は全コアフルロードという,最も厳しい条件を想定したものだが,そこでFX-8150(TC ON)の消費電力は,同じTDP 125WのX6 1100Tと比べて60W以上高い。8コアを搭載したことの代償はそれなりに大きい印象だ。
アイドル時と高負荷時におけるCPU温度を,ハードウェアモニタリングツール「HWmonitor PRO」(Version 1.12)で取得した結果がグラフ14だ。テスト環境はPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態のまま,室温26℃の環境に置いている。
CPU温度テストに限っては,FX-8150(TC ON)に対して付属の簡易液冷クーラー(に,標準添付の120mm角ファンを2基取り付けたもの)を用いたスコアも,参考までに「FX-8150(TC ON,LC)」として掲載することにした。
で,そのスコアだが,FX-8150のスコアはアイドル時に室温より10℃も低く,これをそのままCPUのコア温度として捉えるのは難しい。HWmonitor PROがAMD FXに対応しきれておらず,温度データの補正がうまく行えていないのだろう。
そのため,高負荷時のスコアがどこまで信頼に足るのかというと,やや怪しいのだが,少なくとも,付属の簡易液冷クーラーがかなり優秀だということは,FX-8150(TC ON,LC)のスコアからは言えそうだ。
ちなみに,毎度毎度筆者の主観で申し訳ないのだが,ラジエータ部に取り付けたファンの動作音はさほど大きくない。PCケース内に組み込んでも,ラジエータ部から吸気するようなレイアウトにすれば,静かに運用できるものと思われる。
1から環境を構築させるだけの魅力は欠くが
アップグレードパスとしては有用か
最後に,システム全体が持つ総合性能の目安として,グラフ15および表5に,「PCMark Vantage」(Build 1.0.2)のスコアをまとめてみた。FX-8150(TC ON)の総合スコアは,X6 1100T比で約6%,X4 980比で約9%高いが,i5-2500Kにはまったく届かない。
ただ,前述のとおり,既存のSocket AM3+プラットフォームとの互換性が確保されているため,すでにSocket AM3+環境を用意してある人からすれば,有力な選択肢となることもあるだろう。
……ここ数年,AMDのCPUは,どれもコストパフォーマンスに秀でており,それがAMD FXでも踏襲されたことは,大いに歓迎できそうだ。しかし,FX-8150の場合は,国内限定で付属する簡易液冷クーラーが,北米市場で単体価格245ドルのCPUを,国内のメーカー想定売価3万3800円(税込)にまで引き上げてしまっており,これは物議を醸しそうである。
また,国内限定500セットしかなく,その後の単体販売スケジュールが未定であるうえ,そもそも発表時点で発売日が分からないというのも問題。現状では,「興味があるなら,発売スケジュールを追い,発売されたら即座に購入すべし」としか言いようがない。おそらく,少しでも躊躇したら,いつになるか分からない二次出荷を待つことになるはずだ。
ともあれ,近日掲載予定の後編では,そんな簡易液冷クーラーを本格的に使ってみたいと考えている。
AMD,Bulldozerアーキテクチャ採用の新世代CPU「FX」を正式発表。発売は10月下旬以降に
FX-8150レビュー記事(後編)
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