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[CEDEC 2010]作りながら考える,走りながら変えていく。大ヒットソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」のできるまで
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印刷2010/09/04 00:00

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[CEDEC 2010]作りながら考える,走りながら変えていく。大ヒットソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」のできるまで

 CEDECの3日目に行われた講演,「怪盗ロワイヤルができるまで,できた後」は,今の日本を代表する(と言って問題ないだろう)ソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」の生みの親である大塚剛司氏(ディー・エヌ・エー)による講演ということもあって,会議室前には開場前から長蛇の列,開場後は立ち見が出るほどで,一種異様な熱気に包まれていた。ここではその講演を簡単に紹介したい。

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チーム解散から始まる物語


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大塚剛司氏
 大塚氏が怪盗ロワイヤルの制作に着手したのは2009年の6月頃。8月上旬に本格的に動き始め,社内でのテストが始まった。9月25日にテストリリースがなされ,10月7日には正式リリースとなった。そこから快進撃が始まり,10月〜11月は負荷対策で「会社から帰れない」修羅場を経験,12月1日にはmixi版をリリースし,合わせてテレビCMの放映が始まった。またサーバー関係が安定したということもあり,ゲーム内イベントが本格的に始動。

 2010年4月にはチーム戦を導入,5月には「戦国ロワイヤル」をリリースするとともに,3G携帯以外でのサービスも視野にいれて動き出し,10月には,Yahoo!モバゲー版怪盗ロワイヤルのサービスが開始予定となっている。
 なお大塚氏自身は2010年4月の段階で怪盗ロワイヤルから離れており,今ではプラットフォーム事業に参画しているとのことだ。

 トントン拍子にことが進んでいるわけだが,怪盗ロワイヤル開発のそもそものきっかけは,あまりポジティブな状況で生まれたわけではない。2008年4月から2009年9月頃,モバゲーの収益はほぼフラットな状態にあり,今後会社をどう成長させるのかが悩みのタネとなっていた時期にあった。というわけで,そのころの世界的な動きや業界動向を分析し,ソーシャルゲームに社のリソースを寄せて勝負に出るという決断がなされたのだ。
 この時点で,大塚氏は,ソーシャルメディアの仕事はしていなかったという。だが,ちょうど大塚氏が関わっていたプロジェクトが開始3か月付近で停滞してしまっており,社がソーシャルゲームへの全面的な舵取りを決定したため,大塚氏のチームは解散。やむなく氏は「エンジニアとして,とにかく作ってみよう」というところから怪盗ロワイヤルに手をつけることになったそうだ。


とにかく作ってみる


 さて,「とにかく作ってみることにした」といっても,なんと大塚氏は,小学生の頃にファミコンを触ってからこのかた,ゲームに触れていなかったそうだ。
 そこで,最初に行ったのが「とにかく遊んでみる」こと。自分でさまざまなゲームをプレイして,何が面白く,何が面白くないか,プレイヤーとしての感覚を大切にしながらゲームを遊んでいった。そうして,「モンスターハンター」など人気のゲームをプレイしては最新ゲームの進歩度合いと面白さに驚きつつ,自分の感情がゲームに対してどう反応するかを確かめていったのだ。

 具体的に企画を練り始めた段階では,一週間ほどソーシャルゲームを大量にプレイ,面白いと思うポイントをリサーチ。その感触をもとに,ラフな案を20〜30程度制作していく。これは企画書というレベルのものではなく,短いもので7〜8行,長くても30行程度の,言ってみれば「企画メモ」というべきものだった。
 こうして作られたメモの中から,2〜3個がピックアップされ,ゲーム制作は次の段階へと進む。

 設計段階では,ゲームの構造を詰めつつ,企画書を制作していくことになった。ここで重視されたのは,「シミュレーション」であったという。ゲームバランスはもとより,このゲームをプレイするユーザーがどのような動きをするか,ゲームの展開に触れてどんな喜怒哀楽を抱くかといったことを,予想していくのである。こういったユーザービヘイビアの想像を含めたゲーム全体のシミュレーションは,かなり気合を入れて行ったと大塚氏は語った。

 ……ところが,全力を投入して作った企画書を社内に見せると,「よくわからん」「端的に面白くなさそう」「うーん,どうかなあ……」というネガティブな意見が続出。大塚氏は否定的な声にヘコみながらも,次のステップを模索することになる。

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開発スタートから正式リリースまで,実に5か月
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「このゲームの面白さが分からないなんて!」と思うかもしれないが,のちほどその企画書を見せていただいたところ,正直「どうもこいつはめんどくさそう」としか思えませんでした……


迷ったら,「盗む・盗まれる」に戻る


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すべての機能に明白な理由を与えるというのは,当然のようで意外と難しい。事実上意味をなしていない「ハイスコア」が置かれているゲームがいかに多いか
 さて,社内では否定の声が高かった大塚氏のゲームデザインは,どのようなものだったのだろうか。講演ではその点が丁寧に説明されていった。

 まずゲームの根本的な狙いとして,「あまりゲーマーゲーマーした,ヘビーなものにしたくない」「ライトなゲームで,2〜3時間に1度,1分くらい操作することで,継続的に楽しめるものにしたい」という方針が定められた。これはソーシャルゲームにおいては標準的な考え方と言ってもいいだろう。
 そして,最初に作った企画メモのなかから,「盗む・盗まれる」というアクションに注目することに。小学校のころ,イタズラでクラスメイトの消しゴムを隠したり,かくれんぼうで秘密の場所に隠れたりしたときのハラハラドキドキ感――これはプレイヤーの喜怒哀楽を刺激しやすいのではないかと考えたわけだ。ドキドキする感覚をゲームの世界に持っていくことが,企画の根底ともいえる要素となった。
 加えて,「盗む・盗まれる」というのは,つまり参加プレイヤーの間でアイテムが動くということでもある。プレイヤー間をアイテムが動けば,プレイヤー同士の関係が生まれやすく,これがソーシャル性と相性がよいのではないかという考察がなされた。

 また,ターゲットを非ゲーマーと定めたことで,ゲームを複雑にする要素を徹底して排除。ゲーマーの視点で考えれば,一つのゲームに独立したゲーム要素がたくさん詰め込まれていれば,それだけ飽きのこない多彩なゲーム体験ができる,という図式で理解しがちだが,「独立した多数の面白さ」は,非ゲーマーにとっては迷いの原因になってしまう。このゲームで何が一番大切なのか? 迷ったら「盗む・盗まれる」に戻ることで,複雑化を避けていったと大塚氏は語った。

 ターゲットとして女性を取り込むというのも,この段階でデザインに組み込まれていく。ゲームはどうしても男性が客層のメインになりがちだが,女性を取り込めば単純にパイが2倍になるし,雰囲気も変わる。
 そこで大塚氏は,世界観を工夫することにした。「盗む」と言うと,泥棒・こそ泥といったイメージに陥りがち(海外のソーシャルゲームでは,プレイヤーが冷酷で非道なマフィアになるゲームが,大きなシェアを占めている)だが,そこで「善良な市民には害をなさない・人を殺さない」スタイリッシュなキャラクターを設定したのである。
 このスタイリッシュさを重視するなかで,グラフィックス関係のデザイナーが注意深く選定されていった。実際に会ったのは数人だったそうだが,「絵や名前を見ただけであれば3桁にのぼる」と大塚氏は語る。


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Webサービスとしてのソーシャルゲーム


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ソーシャル環境がないのにソーシャルゲームを実際に作ってしまう,その勢いと自信にも注目したい
 「ゲームデザイン」を考えるならば,上で説明したようなことは誰もが考えることだろう。だがここで大塚氏が「ゲームに触ってこなかった」こと,また,それまでの業務としてWebデザインを行ってきたことが大きなプラスとして働いていく。

 大塚氏は,「すべてのアクションに明確な理由を持たせるように,各機能の関係性を整理する」ことを強く求めた。なぜなら,あらゆる機能は,「それがあるのがゲームとして当然だから」「このジャンルの作品には数多く存在するから」といった曖昧な理由ではなく,そのゲームのなかで機能する存在意義を持っていなくてはならないと考えたからだ。

 例えば,仲間になったらコメントを残せるという機能があるとして,「ソーシャルゲームなんだから,プレイヤーはこの機能を勝手に使うだろう」というだけでは不十分だ。そのような設計で機能を搭載しても,プレイヤーはその機能を利用しない。
 機能を使わせるには,「ボスに勝ちたいから,強い仲間を味方につけたい」など,明白な理由が必要不可欠だ。そうやって「仲間にしたい」「挨拶しておこう」という部分が,ゲームの中枢である「盗む・盗まれる」とリンクする。これで初めて,機能は利用されようになるのだ。そして同時に,そうやって設計された機能と,一つ一つのボタンがリンクしていくことになる。
 この「リンクを押すのには理由がある。制作者がなぜそこにリンクがあるのかを説明できないなら,そのリンクは押されない」というのは,大塚氏がWebサービスを設計してきた経験によるものだという。

 具体的かつシンプルな方針をもとに,さまざまなパラメータやゲーム構造をシミュレートによってテストし,問題点を洗い出していく――こうして「怪盗ロワイヤル」の設計は行われていった。



「つまらない」と言われてもヘコまない


 さて,そういった努力の上で作られた企画書ではあっても,社内の反応が鈍いままでは如何ともし難い。
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実はパッケージゲームでも「最初の30分」より先がプレイされないことは多いらしい
 大塚氏は,ここで,「企画書では埒があかない」「ならば,いいから作ってしまえ」という,氏がエンジニアであることを生かした作戦に打って出た。構想や設計を紙に書くのではなく,頭の中にあるものをソースとして形にしてしまえばいい,というわけだ(実は,このような「プロトタイピング」的な手法のありかたは,今回のCEDECでも討議されている。そしてまた,世界的にヒットしているソーシャルゲームは,しばしばそのような作られ方をしているのだ)。
 結果,1か月でなんとか形になり,今度は実際に動くゲームとして社内に評価を問うことになった。

 ……だが,それでもなお,社内意見の9割は「つまらない」であった。

 大塚氏の落胆が如何ほどだったかは想像するに難くないし,実際,氏は「ヘコみました」と語った。が,ここで氏は「いまから思うと,いちいちヘコんでも仕方ない」とも言っていた。
 というのも,「つまらない」という声のなかには,参考にする必要がないものがある。一例をあげるなら,ソーシャルな環境が存在していないところでテストして,「ソーシャルゲームとしてつまらない」のは,当たり前なのだ。
 一方,パラメータのチューニングが悪かったり,ゲームの根幹要素が崩れてしまっている――盗むゲームなのに,ゲームの中心がお金持ちになることになっていたりする――ようであれば,これは何としても修正しなくてはならない。
 つまり,「つまらない」には理由があって,「なぜつまらないか」の分析が肝心である。仕方ないというより,ヘコんでいる場合ではなかったというわけだ。

 一度こうやって作りはじめてしまえば,そこからはトライ&エラーの繰り返しとなる。
 例えば怪盗ロワイヤルのボス戦の場合,最初はミニアクションゲーム型として構想したが,ゲームの根幹が崩れる危険があるので撤回,HTML型で作り直したが,UIとしてあまりにも気持ち悪かったので撤回,ではということでFlash型と,作っては試して壊しの連続。「一度作ってしまうと愛着が出てしまうが,場合によってはバッサリ切ることが大切だ」というのが大塚氏の言葉だ。
 同様に,バトルロジックなどについても,各種の課題(レベル差のあるバトルをどう処理するか,ドキドキ感をどう演出するか,など)は,作りながら考えて行ったという。

 この段階で重要になるのは,ユーザーがどこの何に引っかかっているのかを見極めることと,「このゲームって何が楽しいの?」という問いに対して1行で答えられるようにすることだと大塚氏は強調した。
「あれもできる,これもできる」では,ユーザーに面白さは伝わらないのだ。


ソーシャルゲームは生き物


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 そしてついに,「怪盗ロワイヤル」はβリリースを迎える。
 ここで問題とされたのは,「ゲームの分かりにくさ」。「そんなバカな,ここまでシンプルなゲームの,どこが分かりにくいというのか」と思うのはすでにゲーマーの思考で,ここでいう「分かりやすさ・分かりにくさ」によって,そのゲームが開始5分以内で判定されてしまうということだ。

 パッケージゲームであれば,一定の金額を支払って購入したものであるから,多少の躓きに対してはユーザー自身の努力が期待できる。だがほとんどのソーシャルゲームは,無料で遊び始められる。「ちょっとこのゲーム,よく分からないな」「このゲーム,自分には合わないかな」と思われたら最後,そこでそのソーシャルゲームとそのプレイヤーの関係は終わってしまう。
 そういった意識のもとに,「怪盗ロワイヤル」のチュートリアルは徹底して作りこまれていった。最初の5分で,ゲームの面白さの片鱗をしっかりと見せること――大塚氏は「現状でも100%ではない」としながらも,この点についての問題意識は常に持って,改善を続けていると述べた。

 また,ゲームそのもののチューニングも随時行っているそうで,パラメータ,画面遷移,基本構造は徹底的な見直しが必要であると氏は語る。
 この段階で重要になるのは,データ分析だ。プレイヤーが詰まるポイントは,具体的にどこなのかを,各種記録から洗い出すのである。また,例えば「2−1のボスが強くないか?」「武器がなんだか壊れやすくないか?」という,ユーザー視点に立ってゲームに触れて感じる「感覚」を,データの上から検証することも欠かせない。「理論上は大丈夫」ではダメで,必ず実際の感覚からの検証が行われねばならない。
 もちろんこういったチェックは,ゲーム内部のパラメータの監視によっても行われる。「怪盗ロワイヤル」ではお宝の流通数がキモになるが,流通数がどれくらいになっているかを随時チェックし,何かの数値が跳ね上がっていたら抑えるといった対応を迅速に行うことが必要となる。

 かくして,エンジニアの立場は非常に重要になってくる。複数人で考えることはメリットもあるが,脳みそが2人分あると時間的ロスが発生する。エンジニアが仮説を立て,その人自身がデータを調べるという,この速度こそがソーシャルゲームの速度なのだ。
 大塚氏は,「ソーシャルゲームは生き物。リリースして問題があったらいち早く修正しなくてはならない」と語る。そのスピードを確保するためには,エンジニア主導でなくてはならないのだ。

 ともあれ,「怪盗ロワイヤル」は3週間で3億円の売上と,45億PVを叩き出した。そしてこの想像以上の大反響は,次のステージの問題を惹起する。


インフラの試練


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Webサービスであると考えると,カスタマーサポートの重要性も明らかになる
 45億PVという数字は,それだけサーバーに巨大な負荷がかかっていることを意味する。
 かくして「インフラの試練」がはじまった。この試練の過酷さは,大塚氏をして「嬉しい悲鳴ではあるし,滅多にできない経験だとはいえ,正直いって,あの頃には戻りたくない」と言わしめるレベルだったようだ。
 さまざまなネットワーク技術やサーバーの増設といった物理的な対応,いったいPVがどこまで伸びていくのかという雲をつかむような予想など,戦いは3か月近くにわたって行われた。
 だがその結果,2009年9月には170億PV,12月に380億PV,翌7月に740億PVと,「ここまでくると,痺れます」と言う大成功へとつながっていく。ここにおいても,素早く動けることの大切さは変わらない。

 一方,サーバー負荷とは別の問題が発生する。ユーザー数が激増することで,ユーザー対応の工数が増加したのだ。
 カスタマーサポートの負荷は,人数を増強する意外に解決法がない。またヒットを維持していくために必要となるイベントなどを行うにも,人員の補強は欠かせない。作ってリリースするまでの間は少人数で機動的に動くことが要求される反面,ヒットしたあとは人員増強なしには,勢いが失速してしまうのだ。

 だがしかし,「怪盗ロワイヤル」はそこで失速することなく,モバゲー全体の売り上げを急激に押し上げた。2009年中頃までの停滞はどこへやら,四半期を2つ越えた2010年第一四半期には売り上げが倍以上に伸びている。まさに「怪盗ロワイヤル効果」だ。


お金を払って,長く遊んでもらうために


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 さて,ソーシャルゲームでは一般に,1か月後もそのゲームを遊んでいるプレイヤーの数は,プレイ登録をした数の20〜30%程度,課金率は5〜10%,課金単価は1500〜3000円と言われている。
 だが,これはいわば「ただの数字」であり,実情をどれくらい反映しているかとなると,ゲームごとに考える必要があると大塚氏は語る。プレイを継続している人数のパーセンテージが高いから,即そのゲームが盛り上がっていると判断するのは難しいというわけだ。また数値に出てこない部分もあるので,適切な監視や試行錯誤は,欠かせない。
 とはいえ,ユーザーに長くプレイしてもらう,より多く課金してもらうのが重要であることに,変わりはない。

 ではまず,「長く遊んでもらう」ためには何が必要なのか。
 ここでもやはり,大塚氏は「Webサービスの基本」を重視する。ユーザーがゲームを止める,その止めた場所がどこかを調査し,それに基づいて修正を行う。
 これで解決できない場合,今度はソーシャルゲームとしての特性から検討を行う必要が発生する。まず,ソーシャル性がちゃんと機能しているかどうか。これもまた「理論上機能している」ではなく,ソーシャル性を生かす機能がきちんと活用されているかどうかチェックすることになる。
 また,ソーシャルゲームは長期にわたってプレイされるため,繰り返す行為が快適かどうかがポイントになる。何かの目標に対し,自分が前に進んでいる,上達しているという感覚はここにおいて必須となるが,それがあまりにも頻繁にありすぎてもいけないし,1か月やっても何も得られないというのも困る。

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 課金については,鉄則があると大塚氏は語る。ポイントは3点だ。
 まず,「ユーザーがシンプルに効果を実感できる」ことで,効果が直接的でないものはダメだそうだ。
 例えば何か獲得したいアイテムがあるとして,そのアイテムを手に入れるには一定のパラメータが必要だとする。ここで,ゲーム的にはエナジーがたくさんあればパラメータを伸ばすことができるというシステムなので,エナジーを回復させるアイテムを販売しよう……というのでは,売り上げは伸びない。この例の場合,よく売れるのは「パラメータを上げるアイテム」なのだ。

 次に,「目標感が適切」。
 特定の課金アイテムを買うことで達成可能となる目標が,あまりにも遠くに設定されていると,「そんな遠大な目標なんて目指しても仕方ない」と無視されてしまうし,逆にアイテム一発ですぐに達成できる目標では呆れられてしまう。いわばユーザーに対する「ニンジン」とも言える目標は,「まったりプレイ」と「がっつりプレイ」の間の,適切な位置にあるべきなのだという。

 最後に,「あせらし要素」。
 イベントなどで時期を限定し,「今でなくてはダメだ」と煽ることは,非常に効果的だ。今でなくては達成できない目標を提示すると,5〜10%の人はお金にものをいわせて達成するようになる。

 長く遊んでもらうにしても,課金してもらうにしても,このように鉄則的な部分は存在するが,ではそれらによって1%単位で結果を左右できるかとなると,そんなことはあり得ない。鉄則を守ったうえでの監視が欠かせない。



クロスデバイスに向けて


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しばしばゲームは「何か取り返しのつかない喪失・失敗・敗北」で脱落が起こると思われがちだが,それはただの思い込みであるケーは多い
 最後に大塚氏は,今後の展開としてクロスデバイス,クロスボーダー展開の推進を掲げた。実のところ「怪盗ロワイヤル」はFacebookで一度リリースされているが,展開を中止している。大塚氏はこの理由を,「スマートフォンへの対応を重視したため」と語った。
 また「3G携帯のインタフェースをそのままほかのデバイスに持ち込んだら,とんでもなく不便だった」というのも理由の一つだ。こと「怪盗ロワイヤル」は,3G携帯の表示に最適化されたWebサービスとして設計されチューニングされてきた以上,スマートフォンやPCに展開する際にはそれぞれの特性にあわせた調整が不可欠となる。大塚氏は「デバイスの特性は勉強が必要」とし,「それぞれのデバイスの特性を見極めた展開が必要になる」と語った。


走りながら変えていく


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期間限定アイテムの強さは,さまざまなソーシャルゲームの開発/運営者がそろって口にするところ。日本特有の現象だという
 さて,この先には少しおまけがついていたので,それもレポートしておきたい。なんと「怪盗ロワイヤル」の企画書の抜粋が公開されたのだ。撮影は禁止とのことなので写真はなく,また細かな仕様を書き出してもあまり意味がないと思われるので,ざっと概要だけお伝えしたい。

 まず,タイトルは「God Hand」として長らく動いていたようだ。
 ゲームの目的は「泥棒になって財宝やお金を盗み出し,窃盗団組織を拡大するゲーム」で「ほかのプレイヤーからも盗んだり奪ったりできる」とある。この「窃盗団を拡大する」という部分は,消えていった要素と言えるだろう。一方で,「スタイリッシュな世界観」という概念は初期の企画段階からあったようだ。

 身も蓋もない言い方で説明すると,この段階での「怪盗ロワイヤル」もとい「God Hand」は,Facebookの「Mafia Wars」に,秘密結社もののブラウザゲームにみられる「手下のマネジメント」を加えたような雰囲気を模索していたようだ。「定期的に収入を発生させるリソース」や「お金を安全に保管しておける銀行」といった要素は「Mafia Wars」のひとつのキモ(非同期性をある程度まで担保にする部分)だし,手下(グル)を街に出して働かせたり,場合によっては手下が病院に入ったりするというのは,秘密結社管理系のブラウザゲームに見られるギミックだ。
 またマネタイズの項目では「平等な条件で戦っている感覚が大切なので,武器などのアイテム販売はしない!」と謳われていた。いろいろな意味で,現実は非情である。

 大塚氏は,現在の「怪盗ロワイヤル」とは似ても似つかないこの企画書を示しつつ,「企画書にとらわれないもの作り」が重要なのであり,「作りながら考えるのがソーシャルゲームなのだ」と語った。
 ソーシャルゲームは,「こうでなくてはならない」という方向で作るのは,とても厳しい。企画書がどうであれ,実際に試しておもしろくなさそうなら切り捨てる。「作りながら考える,走りながら変えていく,それがソーシャルゲームを作る醍醐味なのではないか」という大塚氏の言葉には,「怪盗ロワイヤル」が世に出た過程が,そのまま詰まっている。

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