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[TGS 2010]国際会議アジア・ゲーム・ビジネス・サミットで行われた,オンラインゲームビジネスについての意見交換会をレポート
東京ゲームショウ2010の初日,9月16日に幕張メッセの国際会議場で行われたゲームビジネスに関する国際会議「アジア・ゲーム・ビジネス・サミット」の模様をお届けする。
サミットは3つのメインテーマに基づくパネルディスカッションという形式で,現在オンラインゲーム分野などで急速な発展を続けるアジアのゲーム市場をさらに拡大するため,アジアで活動するゲーム企業同士で建設的な意見を交わそうという目的で行われたものだ。アジア4か国から集まった総勢8社の登壇企業は以下のとおり。
■中国
盛大遊戯(シャンダ・ゲームズ)副総裁 銭 東海氏 オンラインゲームコミュニティ運営とCRM中心のゲーム事業。無料会員は9000万人,有料会員は1000万人を誇り,売上高は年率44%の成長率(※発表資料より。以下同) |
騰訊(テンセント)副総裁 王 波氏 もともとは無線ネットワーク,SNS展開,ポータルサイト運営をしていた企業で,その中の一つのゲーム事業が急速に伸びている。全体の事業規模は年率72%の成長だがゲーム事業は年率149%の成長。ユーザーアカウントの数は4億。同時接続数2000万人が楽しめるプラットホームを提供 |
■台湾
ガマニアデジタルエンターテイメント 代表取締役CEO 劉 柏園氏 オンラインゲームの運営及び開発課金プラットフォームサービスなどアジア/欧米7か国に拠点を持つ |
XPEC Entertainment Inc. 代表取締役会長 許 金龍氏 キャラクター,漫画とゲームの融合を積極的に手がけている。コンソール向けタイトルからブラウザベースのゲーム開発まで幅広く開発 |
■韓国
ネクソンコーポレーション 代表取締役社長 ソ・ミン氏 世界71カ国で30タイトルをサービス中。代表作「メイプルストーリー」は60か国で1億人のユーザーが登録。2002〜2008年の平均年間成長率40% |
NHN Corporation ハンゲーム代表 ジョン・ウク氏 検索ポータルサービス,ゲームポータルサービス運営。全世界約120万人の同時接続者に向け,約700のゲームを提供。インターネット事業の中のゲームビジネスが大きく成長している |
■日本
株式会社カプコン 代表取締役社長 辻本 春弘氏 過去2年間のパネルディスカッションにも参加。最新タイトルとしてモンスターハンターポータブル 3rd,デッドライジングなど。従業員は約2000人でグローバルに展開している |
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 代表取締役社長 和田 洋一氏 CECA会長。売上高1920億円,6年前の3倍規模。米,中国に開発拠点を複数もつ |
中国から参加の二社を招聘するため尽力したという,中国国家動漫遊戯産業振興基地 管理委員会秘書長の朱 建民氏の挨拶のあと,アジアゲーム市場の未来を占うサミットは幕を開けた。
モデレータを務めた日経BP社 電子機械局長 浅見 直樹氏 |
中国国家動漫遊戯産業振興基地 管理委員会秘書長の朱 建民氏 |
アジア圏各国のゲームマーケットの評価は全者ほぼ一致
中国に対する期待感は特に高いが,日本のモバイル市場にも期待が集まる
全体的には,NHNのジョン・ウク氏が中国1,日本/韓国3,台湾とその他アジアがなんと0という厳しい評価をつけたほかは,どの企業もすべての国に対して好評価をつけていた。
スライドの紹介後は,各国市場のどういった部分にそれぞれ期待しているのかが掘り下げられた。まず最初は,急速な発展と膨大な人口により,ゲーム分野のみならずあらゆる分野の企業が市場参入の機会を伺っている中国についてだ。
業界内を飛び交う「中国のゲーム市場は確かに大きいが,すでに成長しきっているのではないか?」という疑問があることに対しては,和田氏や銭氏,ソ・ミン氏がそんなことはないと否定し,まだまだ成長の余地があるとした。
根拠としては,中国にはまだブロードバンドが行きわたっているとは言い切れず,普及率が向上すればさらにオンラインゲーム市場が大きくなる可能性があると,今後の成長を期待する声があがった。
とはいえ,同時に参入の難しさにも言及はなされた。コンテンツに対するユーザーの要求レベルが厳しくなっているのに伴い,市場が細分化され競争が激化,ハードルはどんどん高くなってきていると,テンセントの王氏は説明する。
また,韓国NHNのジョン・ウク氏は,ここ5〜6年,自社でサービスノウハウのあるゲームを中国に直接持ち込んでサービスを行なおうとしたが,成功はしなかったという話を披露。中国は南北でネットワークも文化も異なるということを把握していなかった点を失敗の要因の一つとして挙げ,現在は直接サービスを継続することに否定的な考えを持っていると話していた。
また,台湾から参加のガマニアの劉氏は,中国とは文化や言語が似ているので,製品をそのまま成功すれば良いと思いがちだが,実際は違うと語った。ゲームに対する文化的な認識に違いがあるほか,市場の発展が非常に早く,顧客の趣味が多様化している点をその理由としていた。
ただ,同じく台湾XPECの許氏は,2010年6月29日に調印された中国と台湾の経済協力枠組み協定「ECFA」により,市場参入面での障害がなくなるというポジティブな要素も紹介された。
続く台湾市場についての意見交換では,日本と韓国からの「自国でヒットしたタイトルを台湾でサービスすると,ヒットしやすい」という意見があったのに加え,ソーシャルゲームやカジュアルゲームにすでに700万人のユーザーが存在するなど,急激に人気が集まっているという許氏の説明が述べられた。台湾ユーザーは物事をよく受け入れ,流行にも敏感であるようだ。
オンラインゲーム大国である韓国に対しては,競争が激しいためサービスレベルが高く,世界全体のゲーム業界の方向づけをしてくれる国であるなど,良い評価をする声が相次いだ。
競争が激しい=新規参入しづらいという考え方もあるが,ソ・ミン氏は競争が激しい中で,それに勝ち抜いたタイトルなら,世界進出がしやすくなるという前向きな見方を示した。
国内からは和田氏が,日本のゲーム市場の成長は続いていると,最近の「ゲーム市場衰退説」をきっぱりと否定。日本はコンシューマ機向けのゲームが最も早く育ったため,その売上を市場規模の指標としているが,現在は,それ以外にも携帯端末の種類が増えたり,ゲーム「っぽい」エンターテイメントが増えてきた。それらは統計外にはじき出されていると,実情を説明した。
具体的には携帯電話でのオンラインゲームの急速な普及を例に挙げ,環境が整い新しいサービスが出たら容易にユーザーになってくれるが,しかし束になってきてはくれないと日本市場の難しさを語った。
同じく辻本氏は,中国,韓国,台湾に驚異を感じていると胸中を語る。彼らは一つのゲームを開発し続け,プレイヤーの満足度を上げながらどれだけ長く遊んでもらうかを考えるのに長けているが,これは今の日本のユーザーが携帯のゲームで慣れ親しんでいる売り方と同じ。自分達がこの先「売り切り型」のパッケージビジネスから抜け出せなかったら,これらの国々の後塵を拝するのは間違いないという考え方のようだった。
手遅れになる前に,アジア諸国のメーカーからビジネス手法を学び導入することが,これからの国際競争力を得るために必要なのかもしれない。
グローバル展開で最重要なのはパートナーシップ
結婚に例えた話でパートナーの選び方を説明
この問いには,現地に信頼できるパートナーを持つこと,と答える企業がほとんどで,ジョン・ウク氏の体験談のように,パートナーを持たずに自国の人間のみで他国へ展開をしようとしても,流通,テスト,コミュニティ管理などがうまく行かないという。
また,自国でヒットしたタイトルが他国では鳴かず飛ばずだったり,あるいはその逆だったりした場合,パートナーが現地の文化やマーケットをどれだけ熟知していたか,またこちらがパートナーの提案を信頼して進めていけたかという点がポイントだったそうだ。
オンラインゲームをグローバル展開する際のパートナー選びのポイントとしては,王氏による夫婦関係のたとえが分かりやすいだろう。王氏は結婚する前には眼を大きくして相手を見極める必要があるが,結婚後は悪いところが見えても眼をつぶるものだと説明し,ゲームに対して熱心でいいものを開発できるか,同じ考え方を持って仕事にあたれるかを,パートナー選びの前にはっきりさせるようアドバイスしていた。
王氏のたとえを受けて,銭氏は自社の製品だけでなく市場の独自性をよく理解してほしいということを強調。ちゃんと同じ目線で物事を見て,話し合い理解しあえるか大事だと話していた。
いま注目の技術はやはりモバイル
国内メーカーは変化する「売り方」に対応できるか
やはり参加者の注目度が高いのはモバイル関係のようで,多様化。高性能化するモバイル端末にゲームプラットフォームとして期待する声が聞かれたほか,端末の所有率が上昇していることで,PCよりもモバイル端末の使用時間が長くなるといった市場の変化についても参加者から語られた。
辻本氏からは「今はユーザーが,いつでもどこでもゲームのできる環境を保持している」との意見に続き,「カプコンでも,従来のパッケージビジネスにはなかったサービスを考えながらゲーム作り/ゲームビジネスを進めなければ取り残される」としていたのが印象的だった。
移り変わるトレンドに対して,和田氏はゲームの歴史を「おもちゃ屋さんが始め,ソフトウェア屋,家電メーカー,携帯キャリア,ネット屋が参入してきた」と歴史をなぞり,「参入のたびにそれぞれの商習慣と文化,考え方がゲーム業界を変えてきた。今のスマートフォンやSNSもその一環であり,今後も同じようなことは起こる」と現状を冷静に俯瞰していた。ただし,パッケージからオンラインでのサービスへと,製品の売り方そのものが変わる点については,「オンラインではどうサービスを継続して喜んでもらうかというふうに,価値のポイントが変わってきている,それは,我々に取って非常に大きなチャンスでありチャレンジでもある」と意欲的な発言を行った。
今後の意見交換にも意欲を見せた和田氏
参加者も意義深い時間が過ごせ,満足した様子
2時間に及ぶサミットもいよいよ終わりに近づき,各参加者から短いコメントのあと,無事閉会となった。
和田氏のコメントにもあったように,これまでのアジア各国のメーカーと欧米との交流はあったが,日本とアジアでのやりとりは少ないという状況を打破できるよう,今後もこのような国際的な意見交換が頻繁に行われることを期待したい。
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