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AMDがサーバー向けの最新ロードマップを解説。Steamroller世代のサーバー向けAPUは512基のRadeon Coreを統合へ
……というのも,AMDのニュースリリースに掲載されていたロードマップ――先の記事で参照したものだ――はやや誤解を招くものになっており,よりすっきりしたロードマップが,下のとおり示されたからだ。
先の記事をおさらいしておくと,今回のロードマップ改定で存在が明らかとなったのは,「HSA」(Heterogeneous System Architecture)に対応したAPUベースの「Berlin」(ベルリン,開発コードネーム)と,AMDとして初のARMv8アーキテクチャ採用製品となる「Seattle」(シアトル,同),そして2P(2-way,2ソケット)および4P(4-way,4ソケット)サーバー向けCPU「Warsaw」(ワルシャワもしくはウォーソウ,同)の3製品である。
あらためて上のロードマップを見てみると,1P(1-way,1ソケット)向けCPUであるOpteron 3300シリーズと,同じく1P向けのAPUおよびAPUベースのCPUであるOpteron Xシリーズの後継がBerlinになっている。1PはBerlinに集約されるイメージだ。
そして,ニュースリリース時にはOpteron Xシリーズの後継であるかのように書かれていたSeattleは,新たな市場を創造するチャレンジングな製品となる。
一方,2P&4P市場向けは,現行のOpteron 4300&6300シリーズをWarsawが混乱なく引き継いでいく。
なぜAMDがこのようなロードマップを描いているかを知るためには,AMDがいま何を考え,サーバー市場をどう位置づけているかを把握する必要がある。実際,林氏が時間をかけて説明したのはこの部分で,その内容を総合すると,「今後は高密度サーバーの市場が成長する」ということになるだろう。
ここでいう高密度サーバーというのは,低消費電力のプロセッサを搭載する小型のサーバー――サーバーボードだったりブレードサーバーだったりするが,本稿では小型サーバーとする――を大量に詰め込んだタイプのマシンのことだ。
こうした見方に立てば,AMDのロードマップにおいて1P向け製品のラインナップをx86とARMの2アーキテクチャで充実させつつ,従来型の2P&4P向けラインを現状維持に近い形で留めている事情も比較的すんなりと飲み込める。要するにAMDは,1Pサーバー市場に向け,高密度サーバーに適した低消費電力の新しいプロセッサを投入し,市場を牽引しようとしているわけである。
実のところAMDは,今回のロードマップ改訂以前から,この「高密度サーバー路線」に舵を切っている。2013年2月には,高密度サーバーに向けた技術「Freedom Fabric」(フリーダムファブリック)を持つ新興企業SeaMicro(シーマイクロ)を2012年3月に買収し,子会社としたのが記憶に新しいところだ。
Fabricというのは,エンクロージャ(=筐体)やラックの内部でサーバーやストレージ,ネットワークなどを接続する,一種の高速インタフェースのこと。一般的には高速イーサネット技術を用いたスイッチドファブリックが広く用いられているが,SeaMicroのFreedom Fabricは,高速イーサネットよりも高いパフォーマンスを持つとされている。
Freedom Fabricは,Berlinにおいてチップセットによるサポートがなされ,さらにSeattleでは「Freedom FabricのIPが集積される」(林氏)予定だ。極端に言えば,Freedom Fabricが1Pサーバー向けCPUの外部インタフェースに位置づけられるわけで,そう聞けば,SeaMicroがAMDのサーバー戦略にとって極めて重要な存在になっているというのも想像してもらえると思う。
BerlinはSteamrollerモジュール×2+Radeon Core×512で演算性能700 GFLOPSを実現
以上,AMDがサーバー市場をどう捉え,何をもってサーバー市場を奪還しようと考えているかという話をまとめてみたが,ここからは,説明会で明らかになった情報を中心に,ロードマップ上で挙げられた個々の製品を取り上げてみたい。
■Berlin
先の記事でも紹介したとおり,Berlinは,現行の「Piledriver」アーキテクチャの後継となる「Steamroller」アーキテクチャを採用する製品だ。林氏は「非常に尖った製品になる」と強調し,2014年のAMDが最も力の入れるサーバー向け製品になることを示唆していた。
Berlinには,現行Opteron Xシリーズ比で4倍の規模となる,512基ものRadeon Coreが集積される。統合されるGPUの世代は明言されなかったが,現行製品で512基のシェーダプロセッサを搭載したGPUというと,「Radeon HD 7750」(以下,HD 7750)が当てはまるので,GPUコアの規模として,2013年6月時点のエントリーミドルクラス程度は期待できそうだ。
「あくまでプロジェクション(=計画)。計った数字ではない」とも林氏は付け加えていたので,最終製品がこのとおりの性能を出せるかはまだ何とも言えないが,なかなか期待が持てそうなのも,また確かである。
ちなみにBerlinの出荷は2014年上半期の予定。一般ユーザー向けの次世代APU「Kaveri」(カヴェリ)とBerlinの関係を問われた林氏は「まだ何も言えない」と答えるに留めていたが,Berlinの「2 Steamroller+512 Radeon Core」という構成が,Kaveriでも踏襲される可能性は十分にあるだろう。
Kaveriの場合,チップセットレベルのFreedom Fabricサポートが削られる一方,メモリコントローラの強化などによって,GPU性能のさらなる引き上げが図られるといったシナリオは,大いにあり得ると思われる。
■Seattle
SeattleはAMD初の64bit ARMアーキテクチャ採用プロセッサとして大いに注目に値するが,Berlinとは異なり,一般ユーザーとの接点はあまりなさそうだ。
Seattleには16基の「Cortex-A57」CPUコア,そして前述のとおり,Freedom FabricのIPが集積される。林氏によれば,Cortex-A57コアを8基無効化した低価格版も用意されるとのことだった。
一方で氏は「GPUコアは統合されてないのではないか」という見通しも示していたので,Seattleの入出力はFreedom Fabricもしくは10Gbitイーサネットに集約され,高密度サーバー専用プロセッサとして訴求されることになるのだろう。
将来的には“ARM+Radeon”といった,ゲーマー的にも楽しそうな展開が予想されるが,少なくともSeattleは,純粋に新たなサーバー市場を取りに行くための,正統派プロセッサになると見ていいようだ。
出荷は2014年下半期が予定されている。
■Warsaw
2P&4Pサーバー市場を狙うWarsawは,現行製品と同じく,32nmプロセス技術を用いて製造され,またCPUアーキテクチャもPiledriverに留まる。そのため先の記事では「Intelと戦うのを諦めたのかも」的な推測を行ったが,林氏によると,そういうわけでもないようである。
Open Compute Projectというのは,オープンソースのモデルに基づいたオープンなハードウェア仕様を策定するグループで,AMDはすでに「AMD Open 3.0」というハードウェアを発表している。そして,2014年も引き続きWarsawをリリースし,Open Compute Projectに注力するそうだ。
既存製品と変化がないように見えるWarsawでも「新たな命令セットを追加することで,消費電力あたりの性能を引き上げられる」(林氏)とのことで,新命令の追加によって性能向上を図る方向性が示唆されている。
また,ロードマップだとWarsawには12コア版と16コア版しかないように書かれているが「いままさにSKU(≒ラインナップ)などを検討中で,4コアや8コアといった製品が出ることもあり得る」とのことだった。
さらに,「Warsawから先の製品がないわけではない。たとえば,2014年にもロードマップを改定してSteamrollerコアを採用する2Pや4P対応製品が予定に加わることもあり得る」とも林氏は述べていた。要は,ロードマップは現時点で明かせる範囲しか描かれておらず,その先の製品も当然あるということだろう。これはWarsaw以外についても言えることではないかと思う。
というわけで,AMDのサーバー製品ロードマップについて,とくに4Gamer読者にも興味を引きそうな部分を中心にまとめてみた。AMDが力を入れているらしいBerlinは,構成がコンシューマー向けのAPUに近いと思われるだけに,来たるべきKaveriの姿が,Berlin越しにぼんやり見えてきたともいえるかもしれない。
一方,AMD初のARMv8アーキテクチャ採用プロセッサとなるSeattleは,林氏の話を聞く限り,我々ゲーマーにはほとんど無関係な製品になりそうだ。「AMDは『ARM+Radeon』の計画を持っている」といった話も,噂レベルでは聞こえてきているが,それが本当だったとしても,実現するのはまだ先のことになりそうである。
AMD日本語公式Webサイト
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