レビュー
リアル系FPSファンにとって最後の砦か? 単品で遊べるARMA2拡張パック
ARMA2 オペレーション アローヘッド
日本語マニュアル付 英語版
リアル系FPSの王座に君臨するARMA2の追加パックが発売
唐突だが,「何かスゲーFPSを1本だけ挙げろ」と言われたら,筆者は迷わず「ARMA2」を挙げる。
「ARMA2」は,「Operation Flashpoint」「Armed Assault」の流れを汲む,現代戦をテーマとしたFPSである。その特徴は,どこまでも行ける広大なマップ,どのようにミッションを遂行してもいい自由度,そして徹底された“戦場のリアリズム”へのこだわりだ。
東西の銃器や携行火器,ハンヴィーや戦車,ヘリに戦闘機と,実在するさまざまな現代兵器が登場し,グラフィックスの表現も素晴らしい。強力なミッションエディタが搭載されているため,遊びきれないほどのミッションが有志達の手で生み出されており,アドオンの数もハンパない。
FPSと一言で言っても,実際にはさまざまなタイプのものがある。スポーツ系だったり,リアル系だったり,はたまたRPGやRTSといった他のジャンルの要素を取り入れてみたりといった具合だ。ARMA2はリアル系FPSの部類ではあるが,むしろ“戦場シミュレータ”と言ったほうがしっくりくる方向へ突き進んでいる。
こうしたリアル系FPSには,かつていくつかのフランチャイズが存在したのだが,チェコのBohemia Interactive(以下,Bohemia)が2001年に開発した,かの名作「Operation Flashpoint : Cold War Crisis」(以下,OFP)が世に出てからは,このシリーズの独壇場と言ってもよい。
のちにOFPの販売元のCodemastersと,開発元のBohemiaは袂を分かち,それぞれがOFPの続編を開発することになった……という話は,OFPシリーズやARMAシリーズの記事を書くたびにさんざん紹介してきたので,すでに読者もウンザリするほど有名な話かもしれない。
そんなわけで,発売元だったCodemastersが2009年に発表した「OPERATION FLASHPOINT: DRAGON RISING」(PC / PlayStation 3 / Xbox 360)(以下,OFP:DR)は,緊迫した戦場のリアルさを残しながらも,よりコンシューマ機向けの,ややカジュアルな方向に向かったのはご存じのとおり。プラットフォームの拡大と共に新しいファン層の獲得には成功したものの,昔からのOFPファンには,あまり受けが良くなかったようだ。
一方,元祖OFPの開発元Bohemiaが2007年に発表した「Armed Assault」(以下,ArmA)は,ややもすると愚かしいまでに戦場のリアルさ,シビアさを追求した作品だった。こちらはOFPと比較しても,さほど進化していないグラフィックス,さらにシビアさがゲームとしては度を越した感じもあって,OFPの続編として往年のファンに受け入れられながらも,これもチョット違うような……という微妙な作品になっていた。
その教訓を生かしたのか,Bohemiaが2008年にArmAの続編としてリリースしたのが「ARMA2」だ。BohemiaはOFPを「Game1.0」と位置づけ,正当なOFPの続編となるべき作品「Game2.0」を開発していた……その正体がARMA2であった。ちなみにArmAはGame2.0までの繋ぎとされ,「Game1.5」とも呼ばれている。
ARMA2は先代ArmAから大幅にグラフィックスの表現力をアップ。最新兵器を惜しみなく登場させ,兵士達の挙動,戦闘の適度なシビアさなど,OFPの後継としてファンを十分に納得させるものだったのである。
前置きが随分長くなったが,今回紹介する2010年発売のシリーズ最新作「ARMA2 オペレーション アローヘッド 日本語マニュアル付 英語版」(以下,ARMA2:OA)は,そのARMA2を強化した,スタンドアロン型の拡張パックだ。ARMA2本体を持っていなくても遊べるという,太っ腹な追加パックなのだ。この措置は,Bohemiaの拡張パックの伝統とも言える。
そんなわけで,ARMA2:OAはどのあたりが強化されたのか,そして注目の新キャンペーンの内容は? といったところを中心に見ていくとしよう。
戦術だけでのクリアは難しいキャンペーン。現代戦を戦い抜け!
1988年の王政崩壊後,社会主義派と王政主義派が国の支配権をめぐって対立する,架空の国“タキスタン”。この国は地下資源,とくに膨大な埋蔵量の原油と巨大な貴金属鉱床を有しており,アメリカやソビエトがこうした地下資源の戦略的統制権を獲得するため,それぞれ支援を行っていた。
やがてソビエト連邦の支援を受ける社会主義派が政治的優位に立ち,政権を手中に収めた。しかし王党派は残存し,革命のチャンスを窺っていたのである。このため,国家警察や軍備拡充に力が注がれ,原油はまたたく間に乱開発された。弾道ミサイルやミサイル航空母艦といった,小国には過剰な軍拡が進められ,大量破壊兵器の研究開発も行われていたらしい。
2012年4月にはCIAの暗躍もあり,王党派が原油生産拠点への大規模な襲撃を成功させた。これにより原油生産1年分の損失,油井全体の68%を破壊するという,社会主義派の政権に大打撃を与えることとなった。
このときより国家運営は窮地に立たされ,政局は不安定となった。社会主義成功執行局は,この状況を打破する苦肉の策として,隣国のカルゼギスタンに対し,石油資源の豊富なシャリグ高原の返還を要求した。これには「返還に応じなければ大量破壊兵器の使用も辞さない」という脅迫が含まれており,タキスタンの主導権を巡っての争いは,隣国を巻き込んで一気に緊張が高まることとなった。
そして連合国軍は,弾道ミサイルの無力化と,カルゼギスタンへの攻撃の完全回避を目標とする「オペレーション・アローヘッド」を展開させることとなった。
タキスタン軍を率いるAziz大佐の狙撃任務に赴くが……ターゲットが分からず,モタモタしているうちに気付かれるという大失態で,キャンペーンは幕を開ける |
キャンペーン開始時はリーダーではなく,隊員として作戦に参加するのも,お馴染みのパターンだ。輸送ヘリから展開していく兵士が勇ましい |
……と,ARMA2:OAの新キャンペーンは,このような物々しい展開で幕を開ける。小国での紛争に米ソ(またはロシア)の二大強国が介入するというのは,このシリーズではお馴染みのパターンであり,これまでと同じ感覚で,緊迫した現代戦が楽しめるものとなっている。
ちなみに新キャンペーンに伴って,3つのまったく新しいマップが追加されている(ARMA2のマップは地域全体を再現しており一つ一つが巨大)。新マップは,ユーザー制作ミッションの拡充に直結するので,非常にありがたい。
その3つのマップにより構成されるタキスタンは,砂漠や山岳地帯,油田,田園地帯,市街地といった変化に富んだロケーションが用意されている。中東〜南アジアあたりの国家を想定しているようで,まさにニュースなどで目にするアフガニスタンの風景に近いものがある。その戦場でアメリカ,NATO軍(ドイツとチェコ),タキスタン正規軍と社会主義政権を支持する民兵組織,国連軍,さらに王党派のゲリラ組織と非常に多くの勢力が戦うことになるのだ。
屋内では接近戦が発生しやすい。影のクオリティを下げてプレイしているのがバレバレ。筆者のPCにはきつい重さなのだ…… |
追加目標を終え,村に帰還するハンビー。ちなみに建物は破壊可能。ただし無意味にやると,村人のご機嫌を損ねる |
ARMA2:OAのキャンペーンは,いわゆるダイナミックキャンペーンとなっており,プレイヤーの行動次第でのちのちの展開が変化していく。ARMA2以降,キャンペーンでプレイヤーに何らかの選択肢を与えることが多くなったように感じるが,この作品でも同様に(明示的かどうかは別として)多数の選択肢が発生する。
ARMA2:OAでは序盤から,作戦の途中で出会った部族を助けるか,あるいは任務の遂行を優先するか,といった選択肢が提示され,選択に応じて反体制ゲリラとの関係が変わったり,あるいはのちに起こるイベントが発生しなかったりするのだ。
リトルバードに乗せられ,民兵の対空砲へ向かう。それで敵の攻撃機を撃ち落とせって……相変わらずのムチャ振りである |
民兵が使っていた古い対空砲で,敵の攻撃機を狙う。最新の目標追尾も自動照準もないため,なかなか命中は難しい |
また,仕掛けられた爆弾を,暗証番号を入力して解除するなど,ARMA2以前ではあまり見られなかったようなイベントも発生するようにもなった。
このように,ただ銃を撃って進むだけではない,変化に富んだキャンペーン内容となっているが,このためほんの少し自由度が制限された印象を受けるし,展開をしっかり把握できるだけの英語力がより必要になったとも言える。
敵の掃討や,情報を持った人物の発見に手間取ってしまうと,時限爆破解除が間に合わず全滅という可能性も |
爆破解除のためのパスワードを入力する場面も。普通の日本人ならペルシア数字には馴染みが無いため,メモしておかないと覚えにくい |
夜間の作戦でレーザーサイトを使用。ただ光線が描かれるだけだが,たったこれだけで特殊作戦らしい臨場感が醸し出される |
ミッション完了のため,ヘリで回収される兵士。ナイトビジョンは視野が狭くなるため,あまり好きではないのだが……現実の戦闘ではもっとツラいことだろう |
キャンペーン以外のゲームモードについて
ARMA2:OAでは,キャンペーンはもちろんのこと,シングルミッション集であるScenarios,チュートリアルのBoot Camp,すべての兵器を試用できるThe Armory,そしてお馴染みの強力なミッションエディタが,この1本に収録されている。もちろんMultiplayerで世界中のプレイヤーとの対戦も可能だ。
Scenariosでは,キャンペーンとは独立した単体ミッションを楽しめる。ファンが制作したミッションもインターネット上のあちこちに転がっているが,やはり収録されたBohemia謹製のミッションは完成度が違うので,ぜひプレイしてもらいたい。中にはあらゆる兵器を使い放題というミッションもある。
Boot Campは,まんまチュートリアルなので,ARMA2:OAで初めてARMA2に触れるなら,ぜひ最初にプレイしてもらいたい。兵士の基本動作はもちろんのこと,戦車やヘリといった搭乗兵器の操作,分隊指揮,建設,UAVの操作といった,およそプレイに必要なすべての操作を学ぶことができる。
The Armoryは,ゲームに登場する多数の火器や搭乗兵器を試用できるもので,“プレイ可能な資料集”としてもミリタリーマニア垂涎のゲームモードだ。ただし,多くのアイテムはロックがかかった状態となっており,その時点で使用可能なアイテムを使用しながら,ときおり提示されるミニゲームを達成することでポイントを稼ぎ,それに応じてアンロックしていく仕組みとなっている。これだけでも,かなり遊べるのは確かだが,単に資料として使うには少々面倒くさいというのが本音。
分隊指揮こそがARMA2:OAの醍醐味!
AMRA2:OAはOFP後継作品の拡張パックであり,大まかなゲーム性は初代OFPからほとんど変わっていない。
敵を撃つにしても,距離に応じて重力を念頭に置いて弾道を計算し,着弾までの時間も考慮する必要がある。画面の一部をよーく凝視し,はるか遠方にいる豆粒のような敵を必死で撃ちながら,地道にミッションを遂行していくのだ。
いわゆるドットシューティングと呼ばれる類のものであり,出会い頭の撃ち合いを楽しむようなスポーツ系FPSの持つ爽快感とは無縁のゲームである。
たった一発の被弾でさえ致命傷となり,手を撃たれれば照準がブレまくり,足を撃たれれば立つことさえできなくなる。ピュンピュンと弾丸がかすめ飛んでいく音から,自分が狙われていることは知りつつも,どこから撃たれているのかは分からない……といったことさえ多々あるのだ。
戦場の過酷さ,ままならなさ,恐怖といったものを肌で感じ,まるで本物の兵士になった気分を味わえるゲームである(そんなもの味わいたくないという人には受け入れ難いゲームかもしれない)。
実際のところ,BohemiaはARMAシリーズで使われているReal Virtualityエンジンを流用した,実用的な軍事訓練シミュレータを各国軍に納入しており,その点から見ても,このARMA2シリーズを戦場シミュレータとして楽しむファンの心理は間違っていない。
むろんシューティング要素だけを見て,OFPから続くこのシリーズを語ることはできない。多数の部下を指揮して,一人では困難なミッションを達成するという「分隊指揮」こそが,ARMA2をOFPの後継たらしめる大きな特徴となっているからだ。
CodemastersのOFP:DRが,この分隊指揮の機能を大きく絞ったのに対し,BohemiaのARMA2は操作性の変化こそあれ,非常に細かい動作まで下命できる点は初代OFPからしっかり継承されている。
とはいえ,指揮の内容が多岐にわたるため,分隊を思いのまま動かせるようになるには,かなりの習熟が必要となる。逆にいったん指揮系統を身につければ,かなり細かい動作まで指揮できるようになり,思いのままに分隊を指揮できるところがARMA2の優れた点と言えるだろう。
また,分隊を細かくチーム分けできる点も良い。分隊の1チームに制圧射撃をさせ,その隙に本隊が側方から突入するといった動作も可能だ。また応用を利かせれば,ミッションで提示されるさまざまな目標を,複数同時に進行させることも可能だ。
任務を遂行するうえで必要な火器や搭乗兵器などの,いわゆる武器類はより一層充実。キャンペーンで,そのすべてが登場するわけではないが,本作ではついに300種類を超えることとなった。目新しいものとして,UAV(無人航空機)や無人偵察ヘリの存在が挙げられる。これらは実際にARMA2:OAのキャンペーン中,偵察や捕虜の位置特定などで使用することになる。
また,夜間作戦で使用されるFLIR(前方監視赤外線装置)によるサーマルビューも,生体だけでなく発砲後に熱を帯びた銃身や,戦車のエンジンといったものまで再現されるという凝りようだ。このような,ゲーム性とさほど関係しない部分にまで凝ってしまうのが,Bohemiaのこだわりと言えるだろう。
UAVを使用できるのは,偵察における大きな進歩。通常画面とUAV画面を切り替えて使用できる |
FLIR(前方監視赤外線装置)はARMA2:OAで追加されたシステムで,熱源の描写が非常に凝っている。これもBohemiaならではのこだわり |
そんなリアルなARMA2だが,名物“跳ねる戦車”だけは相変わらずだ。以前ほどの酷さはない(実際かなり改善されている)にしても,障害物に乗り上げるなどしただけで,ぴょーんと飛び跳ねてしまう。これはもはやOFPからの伝統といってもよく,これはこれで楽しむのがファンの愛というものだろう。
奥の深さで右に出るものなし!
ARMA2本体との差異はキャンペーンだけ
ARMA2:OAは,ARMA2本体の機能を拡張してキャンペーンの内容を変更したものと考えて,おおむね間違いではない。非常にお買い得……と言いたいところだが,残念ながらARMA2本体と値段がほぼ同じなので,全部揃えている人には少々割高感があるかもしれない。
ただし前作ArmAやARMA2などのシリーズ作品(いずれもズー版)を持っている場合,イーフロストアで優待価格で購入できる点は見逃せない。
とかく言われることではあるが,初代OFPからARMA2:OAまで続くシリーズは,パッケージだけがその魅力のすべてではない。他に類を見ないほどに成長した,ファンコミュニティの力こそが,シリーズの人気を支えているといっても過言ではない。
超強力なミッションエディタで,ユーザーが作成したミッションシナリオはもちろんのこと,外部ツールを使用してのアドオンも豊富に揃っている。アドオンは効果音を変更させるものから,各国軍やその軍備,マップなどなど,およそ思いつくあらゆるものが揃っているといっていい。
とにもかくにも,どっぷりのめり込むと底なし沼のように奥が深いARMA2:OA。キャンペーンをクリアしたら,引き出しの肥やし……というタイプのゲームではなく,夏休みの残りをフルに使いきっても,そのすべてを遊び倒すことはできないはずだ。
ミリタリーファンはもちろんのこと,辛口のFPSをプレイしてみたいすべての人に,ぜひARMA2:OAで,戦場の緊迫感をこれでもかと味わってもらいたい。英語体験版もあるので,まだ躊躇しているという人はそちらをお試しあれ。
「ARMA2」公式サイト
- 関連タイトル:
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