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ちょいとハッピーエンドまで。「放課後ライトノベル」第29回はついに完結を迎えた『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を世界で一番××する。嘘だけど
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印刷2011/02/05 10:00

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ちょいとハッピーエンドまで。「放課後ライトノベル」第29回はついに完結を迎えた『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を世界で一番××する。嘘だけど



 ゼロ年代が去ってから早くも一年と一か月が経った。「特筆すべきものは何もなかった」「空虚な時代だった」と悪く言われることも多いが,ゼロ年代は我々が現在の世界を生きるうえで,指針となる一つの重要な概念を生み出した。
 それが「ツンデレ」である。

 今ではあまりにも馴染みが深いこの言葉だが,世に登場したのは2000年以降であり,この言葉が誕生してから実はまだ10年も経っていないのだ。もちろん,ツンデレという言葉が使われ始める以前から,ツンデレ的キャラは存在した。しかし,ツンデレという単語が世に出て以来,ツンデレキャラは増加の一途をたどり,ありとあらゆる作品にツンデレが登場するようになった。今となってはツンデレが登場する作品よりも,登場しない作品のほうが珍しいかもしれない。

 だが,光というのは同時に影も生み出すものだ。輝かしいツンデレの誕生の,その裏では邪悪な暗い言葉が生まれていた。
 そう「ヤンデレ」だ。

 初めて耳にしたときは,「ヤンキーの女の子がデレる」というありがちな勘違いをした人も多いと思われる。しかし,その実態は「病んでる」と「デレ」を組み合わせたまったく新しいキャラクター性を表現する言葉であり,まさに病んでる発想から生まれた言葉であった。

 しかし,ヤンデレという言葉もツンデレ同様に徐々に認知を広げ,「ツンデレ」という言葉が生まれた結果として,多くのフィクションにツンデレキャラが登場したように,「ヤンデレ」という言葉が生み出されたことによって,「過剰すぎる愛情の持ち主」や「異様な愛情表現を行うキャラクター」が漫画やアニメ,ゲームなどで多く見受けられるようになった。もちろん,ライトノベルも例外ではない。

 というわけで,今回の「放課後ライトノベル」では,そんなヤンデレライトノベルの最先端であり,漫画化や実写映画化とメディアミックスも絶好調,そして今年1月に最終巻が発売された『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を紹介する。以前6巻が発売されたときには最終巻詐欺(?)も行った本シリーズだが,今回は嘘じゃない! 正真正銘の最終回だ!

画像集#001のサムネイル/ちょいとハッピーエンドまで。「放課後ライトノベル」第29回はついに完結を迎えた『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を世界で一番××する。嘘だけど
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん10 終わりの終わりは始まり』

著者:入間人間
イラストレーター:左
出版社/レーベル:アスキーメディアワークス/電撃文庫
価格:515円(税込)
ISBN:978-4-0487-0230-0

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●タイトルに偽りなし! タイトルどおりの二人が主役!


 本作でまず特筆すべきなのは,何と言ってもヒロインである“まーちゃん”こと御園(みその)マユについてだろう。まーちゃんは,タイトルどおりかなり重症な感じに壊れている。

 突然,教室でキスをするぐらいなら可愛いものだが,入院中のみーくんに毎日会うために,自分の頭を花瓶で殴って入院する。バレンタインデーに8年間作り置きしていたチョコレートを食べさせようとする。みーくんに太っていると言われれば,包丁で自分の体を削ぎ落としてやせようとする。みーくんが寝ている間に,自分たちの指に穴を開けて糸で結んだりする。などなど,かなり難度の高い愛情表現を仕掛けてくる。

 また,みーくんに対する愛情面だけでなく,突然小学生を誘拐,監禁したり,他人に対して平気で刃物を振るったりするなど,そのほかの部分でもいろいろ壊れている。「壊れたまーちゃん」というタイトルは伊達じゃないのだ!

 そんな危険人物なまーちゃんの彼氏であり,同棲相手が,本作品の主人公“みーくん”だ。「嘘つき」とタイトルに書かれるだけあって,普通の会話でも平気で嘘を重ねるし,口癖として「嘘だけど」という言葉を多用するみーくんだが,彼の嘘はそれだけではない。
 本作では,みーくんが主な語り手となり,饒舌な口調でべらべらと話を紡いでいくのだが,普通に語っているように見せかけて,読者に対してしれっと嘘を吹き込んでくる。不用意に読んでいると騙されること間違いなしだ。

 一応,二人がこのような性格になってしまったのには,二人が8年前に誘拐事件に巻き込まれ,心に深い傷を負ったためという理由があるのだが,それを差し引いてもどちらもなかなか厄介な性格をしている。

 また,そんな二人の周りには,みーくんの元カノでなぜか体育会系の口調で喋る長瀬透(ながせとおる)や,みーくんが所属するアマチュア無線部の部長でありながら,ほとんど言葉を喋ろうとせず,他人とのコミュニケーションをメモで行う伏見柚々(ふしみゆゆ),元精神科医で,今は家に引きこもって毎日ゲーム三昧の坂下恋日(さかしたこいび),通称「ニー日先生」など,これまた一癖も二癖もある人物が揃っている。みーくんの周囲にはなぜか女性が多く,一見すると女性運がよさそうに見えるが,それ以外の運は致命的に悪い。

 8年前の誘拐事件に始まり,街を騒がす殺人鬼に殺されそうになったり(1巻),入院先の病院で殺人事件が発生したり(2巻),妹に殺されそうになったり(3巻),久しぶりに昔暮らしていた家を訪れてみたらすでに人手に渡っており,そこに住んでいた家族に監禁されたり(4,5巻),普通に学校へ通えば猟銃を持った男が押しかけてきたり(6巻)……と,ごく日常的に事件に巻き込まれる。
 そして,8巻ではバカンス先のリゾートホテルで平穏無事に過ごせたと思ったら,帰った直後には,長瀬透が殺されたことを知らされる……。


●世界が徐々に壊されていく,みーくん最後の事件


 バカンスから帰ってきたその日の晩,みーくんの元に一本の電話がかかってきた。電話の内容は「長瀬は自分が殺害した。これからお前の知り合いを殺していく」という犯行声明とも犯行予告ともいうべきものだった。
 そして,その言葉どおり,みーくんの知り合いが次々と殺されていき,長瀬の死も相まって,みーくんの精神状態は均衡を崩していく。

 どれくらい均衡を崩したかというと,突然「ぼくたちの世界は今,未曾有の小説化現象を迎えている」などとメタフィクションみたいなことを言い始め,「長瀬は生き返った」と繰り返したり,小説における描写について熱く語ったりするなど,語り部ならぬ「騙り部」としてガンガンドライブをきかせていたら,あっさり犯人に襲われて,マユをさらわれてしまう。
 精神的にも肉体的にもボロボロの状態でありながら,みーくんが事件の解決と「ハッピーエンド」を目指し,犯人に立ち向かおうと決意したのが2010年1月に発売された9巻のラストだ。

 それから1年が経ち,2011年1月にその続きである10巻がとうとう発売。過去に主人公死亡に見せかけた嘘の最終回を演出して多くの読者を騙した本作だが,今回は正真正銘の最終巻。
 具体的な内容はネタバレになってしまうので控えるが,これまでの登場人物で生き残っている人は,ほぼ登場のオールスター勢揃い。中には「あれ? こいつ誰だっけ?」というキャラもいたりするので,記憶力にあまり自信のない人は,これまでの復習と映画版への予習を兼ねて,まとめて1巻から読み返すといいだろう。


●嘘つき少年とヤンデレ少女が掴むハッピーエンドとは?


「まずは何処へ行くつもり?」
「ちょいとハッピーエンドまで」


 9巻のラストはそのような会話で締められていたが,みーくんがハッピーエンドを共に迎える相手はもちろんヤンデレ少女の御園マユである。
 ヤンデレとのハッピーエンドというものはなかなか困難であり,ヤンデレさんがメインヒロインになってしまうと,ノコギリで首を斬られたり,目の前で飛び降り自殺されたり,中に誰もいなかったり……あれ? 全部同じキャラだ。

 とにかく,行き過ぎた愛情が暴走しがちなヤンデレさんとハッピーエンドを迎えるというのは一筋縄ではいかない。だって,二人の間の数々の困難を乗り越えたとしても,最終的に一番の困難となるのが,ヤンデレのヒロイン自身なのだから。

 これがゲームであれば,ヤンデレキャラのルートは,数多いルートの内のバッドエンドとして済ませて,ほかのキャラクターとハッピーエンドを迎えたりもできるが,強制一本道ルートである漫画や小説だと,そうやってごまかすわけにもいかず,正面からヤンデレさんと向き合わなくてはならないのだ。

 『みーまー』では1巻のサブタイトルが「幸せの背景は不幸」であったように,「幸せ」というのが大きなテーマとなっている。そういった点を踏まえて,本作では,みーくんがどのような選択をするのか。そしてその選択に対して,まーちゃんがどのように反応するのか。二人が向かう先に「幸せ」はあるのか。
 その結末は,ぜひその目で確かめてほしい。

■嘘つきでもヤンデレでも電波でも分かる,入間人間作品

『電波女と青春男』(著者:入間人間,イラスト:ブリキ/電撃文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/ちょいとハッピーエンドまで。「放課後ライトノベル」第29回はついに完結を迎えた『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を世界で一番××する。嘘だけど
 第13回電撃小説大賞で,受賞は逃したものの,最終選考会で物議を醸した問題作。それが2007年に発売された入間人間のデビュー作である『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』だ。ちなみに5巻のあとがきによれば,投稿時はみーくんとまーちゃんの性別が逆だったとか。その後,『みーまー』が順調に続刊を重ねる一方で,2009年には新シリーズ『電波女と青春男』を立ち上げる。ヤンデレの次は電波! と尖りきった姿勢を見せるが,こちらもヒットし2010年4月からアニメ化が決定。
 また,入間人間は2009年の9月から,“月刊入間人間”として,毎月一冊小説を発表するという異様なハイペースを発揮している。上に挙げたシリーズ以外にも電撃文庫からは『多摩湖さんと黄鶏くん』,メディアワークス文庫からは「探偵・花咲太郎」シリーズ,『六百六十円の事情』『バカが全裸でやってくる』,さらに単行本では『僕の小規模な奇跡』『ぼっちーズ』など多数の作品を発表し,その記録は現在も継続中。またその一方で,複数作家によるプロジェクト,「魔界探偵冥王星O」にも参加している。
 このペースがどこまで続くのか,そして『みーまー』が終わり,今度はどんな新しい作品で,どうやって読者を驚かせてくれるのか。これからも注目の作家だ。

■■柿崎憲(ライター/ヤンデレ御用達)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。最近のヤンデレヒロインといえば,「School Days」や『未来日記』あたりが代表的だが,個人的には「君が望む永遠」のマナマナが真っ先に思い浮かぶという柿崎氏。「あれってもう10年前のゲームなんですよね……10年ひと昔って言いますが……」と,三点リーダを駆使して感慨を述べてくれました。「君望」といえば,「猫のうんこ踏め!」の名言を残したあゆあゆもツンデレの先駆け的なキャラでしたよね。ああ,懐かしい。
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