連載
ここは宇宙人が見守る町。「放課後ライトノベル」第40回は『電波女と青春男』でもっふもっふもふー
先月発売されたウルトラジャンプで,「ジョジョの奇妙な冒険」第7部である『STEEL BALL RUN』がとうとう最終回を迎えてしまい,さらに「魔法少女まどか☆マギカ」も地上波で一挙三話連続放映で完結。
こうやって好きなものが連続して終わってしまうと,「き……切れた。ぼくの体の中で何かが切れた……決定的な何かが……」という気分になってしまい,このGW中は謎の白い液体を放出するばかりの毎日でした。あ,もちろん,謎の白い液体というのはテキーラの先祖とされる聖なる飲み物のことです。メキシコ万歳。
しかし,終わりがあれば始まりもある。
今月号のウルトラジャンプでは,ジョジョの第8部である『ジョジョリオン』が始まるし,「まどか☆マギカ」を作っていたシャフトは『電波女と青春男』をアニメ化。
そう,たとえ物語が終わりを迎えても,その次にはまた新しい物語が幕を開くのだ。なんてことをしみじみ思っていたら,このタイミングで『電波女と青春男』が完結したと知ってびっくり。この前,『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』が完結したばっかりじゃないか。しかも一緒に『電波女と青春男 SF(すこしふしぎ)版』という謎の新刊まで発売されている。
そういうわけで,アニメ化とシリーズ完結を祝って,今回の「放課後ライトノベル」では『電波女と青春男(8)』をご紹介。
『電波女と青春男(8)』 著者:入間人間 イラストレーター:ブリキ 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫 価格:515円(税込) ISBN:978-4-04-870430-4 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●ボーイ・ミーツ・スマキ!
青春ポイント――それは友人達とのイベントや甘酸っぱい経験をこなすことで溜まっていく,不思議なポイント。別に就職や進学に役立つわけではないが,たくさん溜まれば,死ぬ間際の満足感が段違いだとか。
そんなことを考えていた丹羽真(にわまこと)は両親の海外赴任によって,叔母である藤和女々(とうわめめ)の家に居候することになった。田舎から都会へ転校するということもあって,新生活への期待は膨らむばかり。
転校先での新しい出会い,都会での高校生活,しかも叔母さんは独り暮らしで,日中は仕事に出ていることもある。つまりは普段は家に誰もいない,実質独り暮らし状態。
そのような状況をお膳立てされて,青春ポイントも一挙に急上昇していくかに思われたが,真が叔母さんの家に足を踏み入れて最初に見たものは,布団にくるまった簀巻き状態の何か。玄関先に転がっていたその何かの正体は,親戚たちには存在が隠されていた,叔母さんの娘の藤和エリオだった。
一見すると,ただの簀巻きにしか見えないエリオだが,布団をはいでみると実は美少女。髪の色は水色で何だか粒子を発しているし,引きこもりだから色白と地球人離れした容姿なのだが,外見だけでなく性格も地球人離れしていた。
外出する時でも食事の時でも布団にくるまっているし,まともにコミュニケーションを取ろうとしないし,それでも会話をしてみれば自分は宇宙人であると主張する。タイトルどおりに電波なエリオと生活することで,真の青春ポイントは日々削られることに。
●リア充,オバ充,宇宙人充
それでも,真の青春ポイントは減少する一方ではない。
学校では,転校直後にクラスメイトの天然系少女のリュウシさんこと,御船流子(みふねりゅうこ)とすぐに仲良くなってしまい,一緒に弁当を食べたり下校したりとかなりのリア充っぷりを発揮する。
さらにもう一人のクラスメイトである,着ぐるみコスプレが趣味の180センチ近い長身の前川さん(下の名前は不明)とも悪くない関係になるし,見た目は大人,中身は子供の“大供”こと叔母の藤和女々(39+1歳)とはなぜか初ハグや初キスをしたりも。
とまあ,さまざまなタイプの女性たちとそれなりに羨ましいような羨ましくないような生活を送っているわけである。
そして,青春ポイントを下げる最大の要因であったエリオも,自転車の籠に載って「E.T.」ごっこ(?)をしたり,駄菓子屋でバイトをしたり,ペットボトルのロケットを打ち上げたり,天体観測をしたりと,真と一緒にさまざまな経験をすることで,徐々に社会性を取り戻していった。
しかし,物語の舞台となっているのは,UFOの目撃情報が多いことでも有名な「宇宙人の見守る町」。エリオがまともになっても,宇宙人を名乗る変人が続々やって来る。
最新巻の8巻では,またまた全身布団にくるまった簀巻き状態の謎の生き物が登場。大きさはエリオより小さい小学生サイズ。布団に包まれて顔は分からないし,会話は画用紙などに書いたメッセージで行うので,声も性別もわからないが,本人曰く宇宙人だという。
リトルスマキンと名付けられたこの生き物が,宇宙に帰るために宇宙飛行士になりたいという遠大な帰還計画をのたまうと,その発言に触発されて,エリオも宇宙飛行士を目指すと言い始めた。
果たしてこのリトルスマキンの正体は?
そしてリトルスマキンによってエリオに関する衝撃の事実が明かされる!?
●ヤンデレ→電波→?
今回が最終巻となる『電波女と青春男』だが,シリーズを振り返ってみると,ヒロインであるエリオの成長が心に残る。最初はろくに他人と話そうとしなかったエリオも,最後には自分の思っていることをはっきりと口に出せるようになった。
中でも文化祭という青春イベントの定番が書かれた6巻で,ステージに立ったエリオが,在校生にメッセージを送った場面はシリーズ屈指の名シーン。
誤解されることや,傷つけることがあっても,自分の思っていることは言葉にしなければ他人には伝わらない。それは伝える相手が宇宙人でも,隣に暮らす人々でも変わらないのだ。
かくして,孤立していた少女がより広い世界へと一歩を踏み出して,ちょっぴり風変りな青春物語もこれにて完結。ライトノベルの人気シリーズはなかなか終わらなかったりもするのだが,『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』に続いて『電波女と青春男』もあっさりと完結させてしまった入間人間。
次はいったいどのような作品を見せてくれるのか。そして,ヤンデレ,電波と来て,今度はどんなヒロインを持って来るのか。ぜひ新シリーズにも期待したい。
■もう一つの,“少し不思議”な『電波女と青春男』
冒頭でも触れたが,最終巻の8巻と同時に『電波女と青春男 SF(すこしふしぎ)版』というものが発売された。表紙は1巻とよく似ているし,パラパラめくってみれば,カラー挿絵を始め,どこかで見かけたようなイラストが多数あるうえ,転校した真が叔母さんの家に向かうという物語の始まりも一緒。では,一体本編とは何が違っているのか。
『電波女と青春男 SF(すこしふしぎ)版』(著者:入間人間,イラスト:ブリキ/電撃文庫)
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まず大きく違うのは,語り手の存在だ。本来の1巻では,主人公である真が,比喩や言葉遊びを交えてまるで友達と喋っているかのように長々と語り続けていたが,SF版では真を観察する何者かの視点を通して,話が進められている。そして,章扉で毎回換算されていた青春ポイントが,別のポイントにすりかわっている。
ほかにも,真がエリオの存在を最初から知っていたり,エリオが布団を脱いで自転車で外出したり,女々さんの性格がよりアグレッシブになっていたりと,キャラクターの性格や設定が一部で変わっているなど,細かな違いがところどころ目につく。
では,これは何なのか? 作者のあとがきによれば,「いわゆるエ○○○○リヲ○の新劇場版みたいなもの」だとか。つまり,一種のリメイク版である。一応,単体でも楽しめることは楽しめるが,1巻では登場しなかったはずのキャラクターが意外なところで出てきたり,8巻のあるシーンともリンクしていたりするので,やはりシリーズを読んでから読むのをお勧めする。一度シリーズを読み通したあとに,1巻との違いを比べながら読んだりすると,より楽しく読めるかもしれない。
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