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生き返ったら妹が最強魔術師で同級生に!? 「放課後ライトノベル」第81回は『デッドエンドラプソディ』で第2の人生に踏み出しちゃいます
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印刷2012/02/25 10:00

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生き返ったら妹が最強魔術師で同級生に!? 「放課後ライトノベル」第81回は『デッドエンドラプソディ』で第2の人生に踏み出しちゃいます



 毎週,個人やサークル単位で制作された個性的なゲームを紹介している,当サイトの連載コーナー「インディーズゲームの小部屋」。こちらで紹介しているのはPCゲームがメインだが,巷では電源不要のゲームも盛んに個人制作されている。毎年開催されているイベント「ゲームマーケット」では,企業と並んでそうした個人/サークルが新作ゲームをリリースして非常に活況を呈しており,中には企業制作のゲームと見まごうほどの完成度を誇るゲームも少なくない。

 こういった作品の中で筆者が最近とくに注目しているのが,BakaFire Party制作の「惨劇RoopeR」というゲーム。脚本家と呼ばれるプレイヤーが惨劇を起こそうとし,そのほかのプレイヤーは主人公役として,それを阻止するために行動する。
 一番の特徴は,主人公側に「時をさかのぼる能力」が設定されているという点。主人公たちはループを繰り返す中で惨劇のルールを看破し,阻止することが目的となる。そう,「あぅあぅ」のあの子とか,「もう誰にも頼らない」のあの人とかの気持ちを疑似体験できるのだ! いまだかつてない楽しさが味わえること間違いなしなので,少しでも興味を持った人はぜひプレイしていただきたい。

 ところで物語の中には,そんなふうにデッドエンドを繰り返しながらハッピーエンドを目指す者もいれば,図らずもデッドエンドから復活を遂げてしまった者もいる。今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのは,一度は命を落としながらも,妹の力によって蘇った兄の数奇な運命を描いた,第1回講談社ラノベ文庫新人賞佳作受賞作『デッドエンドラプソディ』だ。

画像集#001のサムネイル/生き返ったら妹が最強魔術師で同級生に!? 「放課後ライトノベル」第81回は『デッドエンドラプソディ』で第2の人生に踏み出しちゃいます
『デッドエンドラプソディ』

著者:草薙絡
イラストレーター:田中将賀
出版社/レーベル:講談社/講談社ラノベ文庫
価格:651円(税込)
ISBN:978-4-06-375217-5

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●兄は一度死んだ男,妹は最強魔術師


 16歳,高校生の已已巳己 幽(いえしき かすか)は死んだ。なんの前触れもなく,通り魔に刺されて。両親と妹に囲まれた,平凡だが平穏な彼の人生は,そこであっけなく終わった――はずだった。

 見慣れない場所で目覚めた彼が最初に出会ったのは,見たこともない長い黒髪の少女。彼女こそ,彼を蘇らせた張本人にして実の妹である,心穏(しおん)。妹だと分からなかったのは,彼が死んで10年の時間が経過していたから。兄の死を目の当たりにしてしまったシオンは,10年の歳月をかけて世界最強の魔術師へと成長,その力をもって,兄を現世に呼び戻したのだった。

 歳を取らなければ腹も減らない,眠気が来なければ汗もかかない。たとえ死んでもシオンの力があれば何度でも蘇る。見た目は10年前の姿そのままに,人間離れした特性を得て復活したカスカは,妹の同級生として高校に通うことに。両親を含め,かつての人間関係は断たれたものの,降って湧いた第2の人生(?)をそれなりに満喫するカスカ。だが魔術の存在を知る者たちが,死者の蘇生という不可能を可能にしたシオンと,その象徴であるカスカを見逃すはずもなく……。


●生死を超越した兄妹の,奇妙な日常


 死者の蘇生というと,『鋼の錬金術師』などに見られるように,不完全な蘇生しかできなかったり,実行に大きなリスクがあったりして,ファンタジー世界でも禁忌とされていることが多い。だが本作では,取り立ててリスクもなく,不完全どころかより完全な存在(シオン曰く「神様」)になって復活している。そんな,生とか死とかいうものを軽く超越してしまった兄と妹の,平穏なようでやはりちょっと変わった日々を描くのが,この『デッドエンドラプソディ』である。

 不老不死の肉体に加え,人間離れした身体能力を身につけて蘇ったカスカも大概だが,それを実現させたシオンも尋常ではない。兄を蘇らせるという,ただそのためだけに研鑽を重ね,10年をかけて最強魔術師に成長した努力と才能には感服しきりだが,裏を返せばそれだけ兄に執着しているということ。倫理そっちのけで兄のために尽くそうとする様には,そこはかとなくヤンデレの気配が。一方で極端な人見知りだったりして,可愛いと怖いが絶妙なバランスで同居するキャラとなっている。

 2人以外の登場人物も見逃せない。中でも最初はカスカとシオンを処分しにやってきたものの,その後は2人のクラスメイトとなり,一緒にカラオケに行っちゃったりするようになるエクソシスト,エリシアの言動は実に味わい深い。こうした何とも言えないキャラ造形が,本作を既存のゾンビものなどとは一線を画す作品に仕立て上げている。


●死なない人間は果たして,何を糧に生きるのか


 エリシアや,やはり自分たちを狙うゴーストバスターに襲われたりしながらも,クラスメイトの男の娘と戯れたり,大量のラブレターを受け取ったりと,一度死んだとは思えないほど充実した日常を送るカスカ。ゾンビでも幽霊でもなく,死んだ時の姿かたちを永久に保つことができる彼は,その気になれば普通の人間と同じように生きていくことができる。カスカに限っては,死という概念はほとんどないに等しいのだ。

 では,そんなカスカは果たして,なんのために生きていけばいいのだろうか。にぎやかな日常の合間に,その問いは陽炎のようにたびたび立ち現れてくる。もっとも,答など見つからなくてもカスカは生き続け,ゆえにその問いさえもさほど切実ではない。生と死が完全に等価になった,人とはかけ離れた存在の目を通して描かれた物語は,一瞬,まったく関係のない話が始まったのかと思えるエピローグの存在もあって,一言で言い表せない読後感を残してくれる。

 日常あり,バトルありと,要素だけ見れば昨今のライトノベルの主流に従いながらも,それらとはまったく異なる肌触りを持つ『デッドエンドラプソディ』。このような作品が新人賞受賞作の中から出てきたということに,ライトノベルの可能性の広さを再認識しつつ,著者が次に世に送り出す作品に大いに注目したい。

■同時刊行されたもう一本の佳作受賞作は定番のラブコメもの

『この素晴らしく不幸で幸せな世界と僕と!』(著者:水樹尋,イラスト:2C=がろあ/講談社ラノベ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/生き返ったら妹が最強魔術師で同級生に!? 「放課後ライトノベル」第81回は『デッドエンドラプソディ』で第2の人生に踏み出しちゃいます
 昨年,栄えある第1回の受賞作が発表された講談社ラノベ文庫新人賞からは,これまでに4つの作品が刊行されている。本連載の第71回で紹介した大賞『魔法使いなら味噌を喰え!』に続いて,2012年1月には優秀賞を受賞した『神童機操DT-O phase01』(著:幾谷正)が刊行。そしてこの2月には,今回紹介した『デッドエンドラプソディ』に加え,同じく佳作の『この素晴らしく不幸で幸せな世界と僕と!』が刊行されている。
 『デッドエンド〜』が独自の感性で勝負する問題作なら,『このすば』は定番のラブコメに果敢に挑んだ意欲作。不幸な逸話には事欠かない高校生,神楽坂一樹のもとに,天使と悪魔がやってくる。「恐怖の大王」を復活させようとする悪魔と,それを阻止しようとする天使との間に挟まれて,一樹の日常はにわかに騒がしくなり……。斬新さには乏しいものの,能天気な天使セラフ,生真面目な悪魔ベリアルを始めとするキャラクターの生き生きとした描写や,その2人による軽妙な掛け合いは実に巧み。いい意味で新人らしからぬ筆力で丁寧に描かれた,ウェルメイドな作品に仕上がっている。
 なお,3月にはもう1本の佳作受賞作『まお×にん!』(著:やますゆきたか)の刊行が予定されている。

■■宇佐見尚也(ライター/ゾンビ)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。タイムループもののライトノベルで思い出すのは,なんといっても『All You Need Is Kill』(著:桜坂洋/スーパーダッシュ文庫)だという宇佐見氏。「7年以上前の作品ですが,現在進行形でハリウッド映画化も進んでいるという名作。おすすめです!」と,いつにも増してしっかり太鼓判を押してくれました。興味を持った人は,こちらもどうぞ。
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