連載
海賊と詐欺師と賞金稼ぎが白凰女学院に集結! 「放課後ライトノベル」第91回は『ミニスカ宇宙海賊』で海賊の時間です
現在「週刊プレイボーイ」のWebサイトで連載されている『キン肉マン』が大変面白い。20年以上前に完結した物語の続きを,21世紀の今になって再開するのも凄いが,当時の超人がそのまま登場するというのも凄い! みんなが知っているキン肉マンやテリーマン,ロビンマスクといったアイドル超人だけではなく,前作の敵役であった悪魔超人も登場しているのだ。
中でも特筆すべきは,ラジカセに頭と手足をくっつけたようにしか見えないステカセキング。iPod全盛のこの時代に今さら出てくるというのも驚きだが,こいつの活躍がまた無性に格好良いのだ。たとえ時代は移り変われど,良いものは決してなくならない。絶えず新作が発売されるライトノベルにおいては,ついつい斬新な設定のものや,新人の作品ばかりに目が行ってしまうが,新しさばかりが作品のすべてではない。
というわけで,今回の「放課後ライトノベル」では,ライトノベルがジャンルとして成立する以前からジュブナイルSFを手掛けてきた大ベテラン,笹本祐一によるスペースオペラ『ミニスカ宇宙海賊』を紹介しよう。現在放映中のTVアニメ「モーレツ宇宙海賊」の原作でもある本作。さあ,海賊の時間だ!
『ミニスカ宇宙海賊(パイレーツ)8 紫紺の戦魔女』 著者:笹本祐一 イラストレーター:松本規之 出版社/レーベル:朝日新聞出版/朝日ノベルズ 価格:1050円(税込) ISBN:978-4-02-273985-8 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●誕生! 女子高生船長!
人類が宇宙船による超光速航行を実現した未来。そんな時代になっても,学び,遊び,働くという人々の営みは変わらない。本作の主人公である加藤茉莉香(かとうまりか)も昼は白凰女学院に通う女子高生,放課後はヨット部の部員,部活のあとは喫茶店のウェイトレスと慌しい毎日を送っていた。その彼女のもとへ,2人の男女が現れる。茉莉香の母・梨理香(りりか)とは旧知の仲らしき2人の正体は,宇宙海賊船・弁天丸の乗組員だった。2人の口からは信じられないような言葉が次々と飛び出す。
茉莉香の父親が亡くなったこと。その父親の職業が宇宙海賊船の船長だったこと。そして,茉莉香に船長を継いでもらわなければ弁天丸は海賊業の資格を失い,廃業になってしまうこと。矢継ぎ早に明かされる真実に戸惑いながらも,ほかの宇宙海賊や警察組織にマークされたり,母親の意外な一面を見せられたり,ヨット部の部員達と宇宙船で練習航海をしたりなど,これまでになかったさまざまな経験を経て,茉莉香は海賊船の船長になることを決意する……ただし,学業との両立を条件にして。こうして,宇宙初の女子高生海賊船長が誕生した。
●見かけで判断できない,その意外な中身とは!?
とまあ,タイトルやあらすじ,いかにもコスプレっぽいヒロインの服装を見ると,「軟派だな」「やはり時代は萌えなのか」「笹本祐一,お前もか」などと思ってしまいそうだが,あにはからんや,見た目によらず中身はしっかりしたSF物になっている。
女子高生船長と,正統派のスペースオペラという,一見すると正反対の要素を見事に結びつけた秘訣は,茉莉香の暮らす海明星(うみのあけほし)が植民地星だった百数十年前に行われた独立戦争で,戦力不足を補うために当時の行政府から発行された“私掠船免状”という免許の存在にある。そして茉莉香たちが乗る弁天丸は,その海賊免許を現在まで脈々と受け継いでおり,“合法的”に海賊活動を行っているのだ。
旅行会社からの依頼で豪華客船を襲うパフォーマンスを行ったり,軍隊の演習相手になったりと,その活動内容は多岐にわたり,きちんと税金も納めている。もちろん,ヒャッハーと他人の船を無理やり襲ったり,敵船の海賊の生首をコレクションしたりするわけでもない。至極真っ当なお仕事をコツコツとこなしており,「この海で一番自由な奴が海賊王だ!」という某麦わら帽子の海賊とは大違い。これならば,女子高生が船長でも安心だ。
普段はこうした細々としたビジネスをこなしながらも,時には宇宙を彷徨う幽霊船を追いかけたり,超新星爆弾をめぐる陰謀劇に巻き込まれたりと,骨太のストーリーも展開される。また,ロケット好きの作者だけあって,ヨット部が所有する太陽光を推進力とした太陽帆船(ソーラーセーラー)の描写に力が入っていたり,戦艦同士の戦いでは,ただドンパチ撃ち合うのではなく,相手のコンピュータのクラックをメインとした電子戦を丁寧に描いていたり,実際の戦闘よりもそれ以前の戦略や交渉の場面にページを割いていたりと,要所要所のディテールにこだわっている点にも注目したい。
●舞台は地上? 白凰女学院に隠された秘密とは!?
そして最新巻の『紫紺の戦魔女』でも,そうした細かなこだわりは健在だ。いつもの“お仕事”中に救難信号を受け取り,現場に急行する弁天丸。ところが,そこで茉莉香たちを待っていたのは,外部からの通信が完全に遮断された宇宙船だった。回線が繋がらなければコンタクトの取りようがない。一体どうするべきかと悩んでいたところ,宇宙船のブリッジでハンドライトが小刻みに点滅する。その光の正体は,乗組員が人力で発したモールス信号だった。
救難信号は発信できるのに,通常の通信は遮断されている。この矛盾した状況を生み出したのは,かつて弁天丸を始め,多くの海賊や銀河帝国を敵に回したスゴ腕のクラッカーにして詐欺師,ジャッキー・ファーレンハイトだった。救難信号を発したその宇宙船に乗り合わせていた彼は,船内で遭遇した賞金稼ぎから逃げるために,あえて状況を攪乱しようとしたのだ。
ジャッキーを追っていた賞金稼ぎ,ノエル・ブルーの説明によれば,彼の目的地は海明星であり,茉莉香の通う白凰女学院に隠されている何かを探しているらしい。果たして,ジャッキーの狙いは何なのか? 白凰女学院に隠されている秘密とは? 空港のコックなのに「元締め」と呼ばれる,いかついオッサンの正体は? 教育実習生として学院に潜りこんだノエル・ブルーも交え,学院を舞台に詐欺師と賞金稼ぎと海賊の追いかけっこが幕を開ける。
スペースオペラというジャンルは,その長い歴史のために先人たちの手垢がつきまくりで,これまでになかったものを書くのは至難の業だ。だが,それでも現在までスペースオペラというジャンルが廃れることなく続いてきたのは,果てなく広がる宇宙があまりにも魅力的なテーマだからだろう。そして,その魅力を今も多くの読者に伝えようとする作者には,ただただ敬服するばかり。
現在放映中のTVアニメ「モーレツ宇宙海賊」は,宇宙戦艦が動いているのを見るだけで心がワクワクし,「SFはやっぱり絵だねえ」という名言を思い出させてくれる良作なのだが,元の情報量が多いぶん,アニメでは拾い切れていない部分も多々ある。というわけで,アニメを鑑賞中の人はぜひ,原作のほうも合わせてご一読を。
■宇宙海賊じゃなくても分かる,笹本祐一作品
本作の作者,笹本祐一は朝日ソノラマから1984年にデビュー。そのデビュー作である『妖精作戦』には,映画オタクの高校生という身近な主人公の設定,彼らが織りなす軽妙な会話,ところどころに挟まれる細かい小ネタ,超能力を持ったヒロインをめぐる大冒険と,現在のライトノベルの原型とも言うべき要素も数多い。発売から28年経った現在でも読まれ続け,昨年,東京創元社から復刊されたバージョンも順調に版を重ねている。
『妖精作戦』(著者:笹本祐一,イラスト:D.K/創元SF文庫)
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ほかにも,1986年に連載がスタートし,2006年に完結を果たした人気シリーズ『ARIEL』や,星雲賞を受賞した『星のパイロット』シリーズなどの著作がある。宇宙作家クラブの一員としても知られており,ロケット打ち上げの現場にも数多く居合わせ,その一連の日々を描いた,『宇宙へのパスポート』でも星雲賞のノンフィクション部門を受賞している。
また,1980年代に流行した,女性2人組を主人公としたスペースオペラ『ダーティペア』(著:高千穂遥)のOVA版でもシナリオを務めており,何かと宇宙と縁の深い作家である。
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