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その日,風が強く吹いていた。「放課後ライトノベル」第137回は『超粒子実験都市のフラウ』で空から降ってきた女の子と出会います
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印刷2013/04/13 10:00

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その日,風が強く吹いていた。「放課後ライトノベル」第137回は『超粒子実験都市のフラウ』で空から降ってきた女の子と出会います



 先日,「地球防衛軍4」PS3/Xbox 360)の初回封入特典や,店舗別特典の情報が公開された。「地球防衛軍4」は筆者の中ですでに購入を決めていたタイトル。当然,その内容は気になる。ただ,「地球防衛軍3 PORTABLE」のときは,あとで同じ系列のより強い装備がゲーム内で手に入り,特典はいわば,序盤のちょっとしたおまけみたいなものだった。まあ,今回も似たようなも――

 「ピュアデコイ・ランチャー〔魅杏〕」(レンジャー専用武器)
 「ピュアデコイ・ランチャー〔雪〕」(エアレイダー専用武器)

 ( д)゚ ゚

 いや,最初に見たときはマジでこんな↑感じでした。
 そのビジュアルもさることながら,「バルーンからは熱や微弱な音,粒子,そしてピュアな何かが放出され,敵の注意をひきつけるオトリとなる」という説明文がとにかく意味不明最高。「ピュアな何か」ってなんだ!? 未知の粒子なのか!? あ,でも粒子は別に書いてあるし……。これは実際に購入して確かめねばなるまい!
 1分後,そこにはいそいそと商品を予約する筆者の姿があった……。

 そんなわけで「ピュアな何か」の正体はまだつかめていないが,今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『超粒子実験都市(グロアポリス)のフラウ』にも「グロア粒子」という,いまだ全容不明の粒子が登場する。こちらはれっきとした粒子なので,そのうち正体がつかめることと思われるが,それはそれとしてフラウちゃん可愛いです。

画像集#001のサムネイル/その日,風が強く吹いていた。「放課後ライトノベル」第137回は『超粒子実験都市のフラウ』で空から降ってきた女の子と出会います
『超粒子実験都市(グロアポリス)のフラウ Code-1#百万の結晶少女』

著者:土屋つかさ
イラストレーター:植田亮
出版社/レーベル:角川書店/角川スニーカー文庫
価格:630円(税込)
ISBN:978-4-04-100761-7

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●空から降ってきた少女が,冒険の日々を運んできた


 ――その日,超粒子実験都市(グロアポリス)は風が強かった。空から女の子が飛んでくるくらいに――

 1980年代に発見され,実用化に成功すればそれまでのエネルギー問題が一気に解決すると目された第5の素粒子「グロア粒子」。その全容を解明し,実用化に向けた研究を行うべく建設されたのが,超粒子実験都市である。都市全体に絶えず粒子を散布し,そのコストを政府が持つことで,「一定時間で消滅する」「生産にコストがかかる」というグロア粒子の2大問題を一気に解決。結果,世界中から研究者たちが押し寄せ,30年間で人口100万人を超える大都市へと成長した。

 超粒子実験都市ではしばしば,生まれつきグロア粒子と感応し,「ものを変形させる」「液体を操作する」などの超常現象を引き起こす能力――PSY(サイ)能力を持った人間が誕生する。今年,高校生になったばかりの山王隼人(さんのうはやと)もその一人。彼はある日,幼なじみの海妃(うみさき)かなめとの待ち合わせ場所に向かう途中で,事故現場に遭遇する。

 次の瞬間,彼が見たのは,空から一人の女の子が風に乗って飛んでくる姿だった。その少女――フラウとの出会いが,自身の日常を決定的に変えていくことを,そのときの隼人はまだ,知るよしもなかった。

 ――その日,超粒子実験都市は風が強かった。空から女の子と,波乱に満ちた日々を運んでくるほどに――


●ド直球さが気持ちいい! 王道のボーイ・ミーツ・ガール


 フラウの正体は,超粒子実験都市にある研究機関の一つ,ビショップが開発したグロアロイド,すなわちロボットだった。彼女は自身の開発者から告げられた「外の世界を知りなさい」という言葉に従い,研究所を飛び出したのだった。隼人は戸惑いつつも,彼女をむりやり連れ帰ろうとするビショップの横暴さや,なによりフラウ自身の「助けて下さい」という願いに応じて,彼女をかくまうことにする。

 と,このような導入から分かるとおり,本作の筋書きは今どき珍しいほどストレートなボーイ・ミーツ・ガール。エア・スクーターが行き交い,電子看板があちこちに建ち並ぶという超粒子実験都市の光景も,ひと昔前の未来予想図のよう。ひねりすぎてニッチを極めてしまったような作品がしばしば見られる昨今,ド直球を極めた本作の物語は,1周回ってかえって新鮮さを覚えるレベルだ。

 それを象徴するのが,自身の危険も顧みず,フラウを守り抜こうとする主人公の隼人。彼は実のところ,超粒子実験都市の中では(少なくとも1巻時点では)特別な存在ではない。「無能力と見せかけて実は唯一無二の特殊能力が!」というわけではなく,PSY能力持ちではあるもののチート級に強力というわけでもない。それにも関わらず,「フラウを守る」という決意をどこまでも貫き通そうとする。その意志はまさに鋼のごとく,見ていてまぶしく感じるほど。

 そうした中で隼人の協力者となってくれるのが双子の超人気アイドルユニット兼研究者だったり,クライマックスの窮地を救うのが意外なアイテムだったりと,要所要所の笑いやユーモアが印象に残るのも本作の特徴。そのおかげか,ベースは直球王道のアクションものながら,読後はどこかほんわかした気持ちにもなれるという,不思議な読み心地の作品になっている。


●ヒロインは天然無垢なグロアロイド! その魅力,マジきゃわわ


 だが,本作最大の魅力は,なんといってもヒロインのフラウだ。フラウというと,最近では人として終わってる系天才プログラマー兼ひきこもりの腐女子が有名だが,本作のフラウはそちらとはまったく違う性格の持ち主。というか,性格的にはどちらかというと,あちらでいうところの愛理に近い。
 世界を知るために研究所を飛び出した彼女は,見るもの聞くものすべてに興味津々。男と男が絡み合う薄い本を眺めて「デュフフ」と笑う代わりに,新しい体験をするたびに「きゃわわ!」と驚く。まさに「天真爛漫」を絵に描いたような少女なのだ。

 そんなフラウをひと言で表現するなら「かわいい」。二言で表現するなら「すごくかわいい」。研究所育ちのフラウは当然,社会常識にも疎く,「『キス』ってなんですか?」などと無邪気に訊いてくるのだが,そんな質問をしてくる姿もすごく可愛いので,思わず「じゃあボクが教えてあげよう。実践で」と答えたくなるのも無理からぬことだと言えよう。「フラウに経験(エクスペリエンス)を挿入(インサート)してください!」などと言われた日には,フオオオオオオオ!(編注:落ち着きましょう

 とまあ,大人のピュア(?)な妄想をして,あとで罪悪感に苛まれるくらい,フラウは無邪気で可愛い。重ねて言うと,すごく可愛い。筆者はそんなフラウちゃんと早く次の物語で再会したいので,今これを読んでいる皆さんも本を買って応援してくれるといいな。以上。

■ほかにもある,特殊な都市を舞台にしたライトノベル

『学戦都市アスタリスク 01.姫焔邂逅』(著者:三屋咲ゆう,イラスト:okiura/MF文庫J)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/その日,風が強く吹いていた。「放課後ライトノベル」第137回は『超粒子実験都市のフラウ』で空から降ってきた女の子と出会います
 ライトノベルをひも解いてみると,『超粒子実験都市のフラウ』の超粒子実験都市のように,一般的な都市とは異なる,特殊な環境が整えられた都市を舞台とする作品がしばしば見られる。たとえば本連載の第127回で紹介した『再生のパラダイムシフト』の舞台は,海中を自由に移動する潜水都市。『とある魔術の禁書目録』の学園都市や,『鋼殻のレギオス』の移動都市「レギオス」など,人気作もその例外ではない。
 MF文庫Jでシリーズ展開中の『学戦都市アスタリスク』もまた,そうした特殊な都市を舞台にした作品の一つ。《星武祭(フェスタ)》――6つの学園の代表が,武器を手に覇を競い合う世界最大の総合バトルエンターテイメント。その舞台となるのが,北関東多重クレーター湖上に作られた,人口の水上学園都市・六花(通称「アスタリスク」)なのである。都市以外の設定もみっしりと書き込まれており,それでいて物語は読みやすい王道ものと,いい意味で「ライトノベルらしい」1作だ。
 物語が展開する「場所」というのは,作品の世界観や物語の方向性などを左右する非常に重要な要素になる。たとえば『とある魔術の禁書目録』では学園都市が「科学と魔術」という作中の2大勢力の片方の象徴だし,『鋼殻のレギオス』のレギオスはそれ自体が世界の成り立ちに大きく関わっている。作品の魅力や特徴を挙げようとすると,どうしてもキャラクターやストーリーに偏りがちだが,時には作品の「舞台」に注目して読んでみるのも面白いかもしれない。

■■宇佐見尚也(ピュアデコイ・ライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。最近,無性に新しいゲームをやりたい欲が高まっているものの,欲望に屈したが最後,あれやこれやがことごとく滞るのが目に見えているので必死に我慢しているという宇佐見氏。「ただゲーム自体はやりたいので,過去にやったゲームのレベル上げとかでごまかしてます。……大丈夫,空しくなんかないです」と,健気に語っておりました。ほら,これで涙拭けよ……。
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