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[SIGGRAPH]「4原色」の次は「5原色」。シャープがRGB+黄+シアンの5原色パネルを公開
吉永小百合さんが「すみません。今までのテレビでは……」と申し訳なさそうに謝りながら,4原色パネルの優位性を伝えるTVCFは,競合メーカーに対してかなり挑発的であり,同時に一般ユーザーへのアピール度も高く,店頭では早くも注目の的になっているようだ。
そんなシャープが,SIGGRAPH 2010の「Emerging Technologies」展示セクションで展示していたのは,クアトロンの次に来るはずの,“5原色”液晶パネル「QuintPixel」(クイントピクセル)だった。
「自然界で視覚できる物体色の
ほぼすべてをカバーする」
クアトロンも,製品発表前は「Quad Pixel」と呼ばれていたので,最終的な製品では別の名前が与えられると思われるが,ともあれ,QuintPixelはRGBYの4色に,シアン(水色)が加わり,これでRGBYCの5原色ということなる。
そもそも,sRGBに代表される一般的なディスプレイ色域だと,自然界に存在する材質が太陽光に照らされて発色する色のすべてをカバーできない。
下に示した図で,▲でプロットされているのは「自然界において人間が目にする可能性のある色の分布」になるのだが,sRGBがカバーできるのは,黒い三角形で囲まれた領域のみ。デジタルシネマの標準色域規格であるDCI(Digital Cinema Initiative)規格だとsRGBよりも広域をカバーできるが,それでも黄色方向や水色方向にある物体色の多くをカバーできていないわけだ。
シャープの4原色パネルでは,黄色が追加されたことで,自然界の物体色を,RGBYの4点で囲んだ四角形の色域でカバーできるようになっており,実際,黄色方向のカバー率を上げることに成功している。このことを説明している下の図は,クアトロンの発表時にシャープが用いていたものだ。
ただ,この図を見ると分かるように,4原色パネルでも,水色方向にある物体色の多くはカバーできていない。
そこで,「水色原色点を設定して五角形の色域を実現し,物体色のカバー率をさらに上げよう」としたのが,今回のQuintPixelになる。ちなみに,Quintは「五つ子」「5枚札」の意がある英単語だ。クアトロンの「Quattron」も,イタリア語で4を指す「Quattro」から来ていて,音韻や字面が似ているためややこしい。
閑話休題。5原色パネルを拡大して撮影したものが以下の写真だ。左から赤,水,緑,赤,青,黄という配列になっている。
この配列になったのにはいくつかの理由があったとされており,1つは「白画素を描いたときに不自然な周期パターンが見えないようにする」というもの。この配列だと,白を表現するのには以下のパターンが考えられる。
- 赤+水
- 緑+赤+青
- 青+黄
そう,QuintPixelの配列だと,隣接する色同士で白を作り出せるようになっているのだ。つまり,白を出すのに一原色を飛ばさないで済む。白を表現するに間に無点灯の原色があると模様が見えてしまうかもしれないが,この並びならばその心配はないというわけである。
続いては,「暗い原色と明るい原色とを隣り合わせに配置することで,輝度斑を出にくいようにしたかったから」というもの。黄色の隣に青を置くあたりからも,その意図が垣間見える。
もう1つ,「6サブピクセルを,3原色パネルのRGBを細かく分解したイメージにしたかった」という理由もあるという。具体的に解説しよう。
3原色パネルのピクセルは,
RGB
として表現されるが,この5原色パネルではこれが,
RCGRBY
となるのは,先ほど紹介したとおりだ。
これを注意深く見ると,RCGの3色,あるいはRBYの3色だけで,かなりの割合のフルカラーピクセルを表現できることに気がつく。
CにはB成分があるため,RCGはサブRGB画素としての振る舞いも十分可能なのだ。同様にRBYも,YにG成分があるので,サブRGB画素として活躍できるのである。
つまり,5原色パネルでは理論上,3原色パネルの2倍近いフルカラー解像度表現が可能になる。もちろん,だからといって2倍の解像度――例えば3840×1080ドット――の映像を入力できるわけではないが,より滑らかなグラデーション表現は可能で,よりジャギーの少ない線分の描き出しも行えるという。
RCGRBYの配列に,そんな“ウラ思想”までが込められていたとは驚かされる。
ゲーム映像やCG映像にこそ
5原色パネルが活躍できる?
「色を扱うプロフェッショナル用途」で筆頭に挙げられるのは,衣服や絵画などのデザイン/アート業務などだ。また,フィルムを取り扱う映画産業,写真産業においても,この圧倒的な広色域再現力は重宝されるに違いない。
一方,テレビ向けやAV用途向けの映像パネルとしては,放送局や映像製作現場がRGBの3原色に縛られているため,1原色拡張の4原色パネルはともかく,5原色パネルとなると,やや過剰なスペックであるという見方がされるようだ。今回量産製品化されたクアトロン(=4原色パネル)も実際のところ,ベースの研究は5原色パネルのほうが先に始まっており,民生向けで展開するにあたって,費用対効果に配慮し,5原色から水色原色を落として黄色を残したのだという。
なおブースでは,RGBの3原色パネルとRGBYCの5原色パネルの表示比較デモが行われていた。5原色パネル用の映像は,x.v.Color(=xvYCC,現在使用されているビデオ信号との互換性を保持したまま広色域を扱えるようにした色空間)で撮影された映像で,人為的に広色域演出がなされた映像ではないこともあって,見応えあり。ブースには,水色と黄色が鮮烈なアンディ・ウォーホルのマリリンモンローが展示されており,これを取り込んだ静止画の表示比較も行われていた。
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