インタビュー
ライフスタイルの中にゲームセンターを取り戻したい――電撃発表されたAC「ダライアスバースト アナザークロニクル」,開発陣ロングインタビュー
7月30日に,全国の年配シューティングファンを震撼させるサプライズが発表となった。タイトーの名作「ダライアス」シリーズの最新作が,専用筐体をひっさげて,アーケードゲームとしてリリースされるというのだ。
ダライアスといえば,1986年からアーケードでシリーズがスタートし,とくに初代と「II」は,画面を横に連結させたボディソニック装備の専用筐体で,当時のゲーマーを虜にした,名作シューティングゲームだ。アーケードゲームとしては「Gダライアス」以来13年ぶり,専用筐体でのリリースは「II」から実に21年ぶりとなる。
「ダライアスバースト アナザークロニクル」公式サイト
今回発表されたシリーズ最新作のタイトルは,「ダライアスバースト アナザークロニクル」。PSPで昨年発売された「ダライアスバースト」を,アーケード向けに大幅にパワーアップ,最大4人まで同時プレイ可能な専用筐体を用意して,この冬に稼働がスタートする予定となっている。去る8月7日から8日に開催されたロケテストには,30才代を中心とした300人以上のファンが来店し,その注目度の高さを証明した。
今回4Gamerでは,ゲーマガ10月号のアーケードゲーム特集ページと連動し,「ダライアスバースト アナザークロニクル」の開発陣にインタビューを敢行。なぜ今ダライアスの新作がアーケードに登場するのか,そしてその詳しいゲーム内容について直撃した。
30代の元ゲーマーを,ゲームセンターに呼び戻すために
今回この「ダライアスバースト アナザークロニクル」(以下,ダライアスバーストAC)は,かなりセンセーショナルな発表となりましたが,開発の経緯はどういったところにあったんでしょうか?
針谷 真氏(以下,針谷氏):
今回の一番の目的は,昔ゲームセンターで遊んでいた,今の30〜40歳代のお客さんを呼び戻したいということにあります。それを踏まえたうえで,何を作ろうかと考えたときに,弊社タイトルの中でお客さんの心に一番刺さるのは「ダライアス」だろう,ということになりました。
ゲーマガ:
世代的なファン心理を突いたセレクトですね。
針谷氏:
そうなります。そこでただダライアスを作る,というだけでは弱いので,ゲームセンターならではの魅力を味わえて,家庭用ゲームとは差別化できる専用筐体を用意するところまでは,最初から決まっていたんです。そこで汎用筐体という選択肢もありましたが,やはりダライアスといえば大型筐体というイメージを持っている人は多いですから。ここは迷わず大型筐体を選びました。
ゲーマガ:
これだけの大がかりな筐体の開発となると,企画を進めるうえで支障などはなかったのでしょうか。
針谷氏:
プロジェクト自体は,比較的すんなりとゴーサインが出ました。それよりも懸念したのは,作るうえでの苦労よりも,現在のアーケードゲーム業界の冷え込みの方です。大きな筐体はどうしても高額になってしまいますからね。お客さんを喜ばせる仕様を詰め込むことはいくらでもできるんですが,店舗のオペレーターさん(ゲームセンター運営者)に筐体を買って置いてもらうことを考えると,すべてにOKを出すわけにはいきませんでした。
ご存じのとおり,アーケードゲーム市場が右肩下がりということもあって,オペレーターさんに負担をかけてしまうことはできれば避けたかったんです。そのための安価で作れる筐体デザインなども案としてはありましたが,今のお客さんにゲームセンターに足を運んでいただくためには,どうしてもこだわりが必要になってきます。
ダライアスだからこその筐体のデザインや色遣い,大音量のスピーカーやヘッドホン端子などの“お約束”を追加したおかげで,気がつけば当初の予算感とは,かなり違った規模になってしまったのは確かです。
発表時の想像以上の反応は,ここまで徹底したおかげだと思っています。Twitterでも「嫁を質に入れてでも秋葉原に行く」とか「旦那に報告しなきゃ!」とか,「なんというおっさんホイホイ!」なんて嬉しい反応もあって,思わずPCに保存してしまったぐらいです(笑)。
ゲーマガ:
ある意味,読みどおりの反応だったわけですね。そういった反応をされたお客さんの年齢層は,どのあたりだったのでしょうか?
國澤氏:
ロケテストでのアンケートなどを見ると,30歳代中盤ぐらいまでの方が多かったです。それ以上の年齢の方となると,なかなかロケテストまで足を運べないのかもしれません。逆に20代シューターの方なども多く見られました。
ゲーマガ:
確かに30代前後のダライアス世代には,グッとくる仕様です。
國澤氏:
ワクワクして期待してもらうには,ある程度のサプライズ感もあったほうがいいですからね。ただ我々もこれで高額な収益を得ようという意図はなくて,純粋にもう一度ゲームセンターを盛り上げようという思いを込めて設計しています。期待してくれているオペレーターさんのためにも,筐体の生産面/価格なども,できる限り抑えようと動いている最中です。
針谷氏:
私自身もダライアスのプレイヤーでしたので,どこを期待されてるかはなんとなく想像できるんです。そこをうまくすくい上げつつ,今時のご時世に合ったバランスを考え,開発を進めています。
シート後方の柱や,画面の上にあるLEDランプなど,筐体デザインはコクピットをイメージしていると針谷氏は解説する |
4人が座るとこのようになる。決して広くはないが,プレイする手元は十分な余裕があった。スピーカーからのサウンドも大迫力だ |
プレイ時間の長さより,満足できる内容の充実を追求
ここからはゲームの内容について伺ってきたいのですが,先ほどの“今の時代に合わせたバランス”とは,具体的にどのような意味になるのでしょうか。
針谷氏:
やはりゲームセンターのゲームですので,プレイ時間というのはゲームデザインと切り離せない要素です。なんとかそこをお客さんにも店舗の側にも受け入れられる形で作るというのが,今回の一つのテーマでした。今回,従来型のプレイモードである“オリジナルモード”では,分岐するゾーンの中から,1プレイで3ゾーンをプレイできるんですが,プレイ時間がある程度短くても満足できる内容を目指しました。
ゲーマガ:
お客さんの回転率なども考えた設計というわけですね。
國澤氏:
昔のゲーム内容をそのまま現在に持ってくる手法もあるとは思うんですが,とくに今回に関しては,皆で楽しくワイワイ遊べるコミュニケーションツールとしてのシューティング,という面をより重視しています。専用筐体でこれだったら,誰かと一緒に遊んだら面白いだろうな,と直感的に思えるような,ライフスタイルに入り込んでくるようなゲームを目指したつもりです。ただプレイ時間に関しては,やっぱり気にされるお客さんも多いので,そこはできる限り気を遣って調整しています。
針谷氏:
4人同時プレイや,全員でパワーアップや残機を共有するシステムも,なんとか新しい時代のシューティングの形を作りたいと考えた結果ですね。
國澤氏:
シューティングというのは,とかく今の時代のビジネスとしては厳しいジャンルです。歴戦のシューターさんがアッという間にクリアして終わりでは,オペレーターさんもどうしても導入しづらい事情がある。でもそんなシューターさんだって,まだまだいろいろなシューティングを遊びたがっている。そんな負のスパイラルを打開する流れを作りたいんですよね。
ゲーマガ:
ちなみにロケテストでは,1人で遊ぶ方と複数人で遊ぶ方と,どちらが多かったんですか?
針谷氏:
やはり古くからシューティングを遊ばれているようなお客さんは,1人プレイを選択していましたね。でも4人同時のプレイ感覚を試してみよう,という方も多かったです。ただ前回のロケテストはとても多くの方が来てくれたこともあって,できる限り4人同時プレイをお願いしていた経緯もあります。具体的な数値は,まだこれからという状況ですね。
ゲーマガ:
ちなみにシューティングといえば,最近はいわゆる“弾幕系”がトレンドですが,本作はそうではありませんね。
針谷氏:
そこは意識的に差別化していますね。横長の画面で割としっかり狙って撃たないと当たらないですし,バーストの使い方などの戦略性も含め,弾を“避ける”ことよりも,“撃つ”ことを主体としてデザインしています。
「クロニクルモード」が,ゲームセンター内の空気を変える
ゲーマガ:
一方,前回のロケテストでプレイできなかった“クロニクルモード”という新要素があるそうですね。
オリジナルモードは,昔から伝統のルート分岐で進んでいく形になりますが,クロニクルモードは,簡単にいうと宇宙全体の占領された戦域を取り戻していくというモードになります。ゾーンをクリアすると,マップ上のヘックスが開放され,新しいゾーンがプレイできるようになるという。
ゲーマガ:
コンシューマゲーム風のモードですね。
針谷氏:
これはゲームセンターの店舗ごとのコミュニティ促進を目的として考えたモードなんです。これまでのアーケードタイトルでも,ICカードでゲームデータを保存する形式が普及していますが,本作ではあえてこれを採用しませんでした。個人単位でなく筐体単位でデータを持っているので,店舗に来るお客さんは全員で進行状況を共有することになります。
例えば,自分ではどうしてもクリアできなかったゾーンが,翌日来たら開放されていたとか,あるいはほかの人に声をかけて,協力プレイで攻略するとか,これまでと違った遊び方が生まれてくると考えたんです。
ゲーマガ:
なるほど。それは確かに新しいプレイスタイルという気がします。しかしそうとなると,ゲームがあまり上手くない人は,どんどん置いていかれることになるのでは?
針谷氏:
確かに上手いプレイヤーの方が,先に進んで行きやすいのは確かです。でも,ゾーンはとにかく数を用意しているので,すべてを1人で進めていくのは難しいと思います。
新たなゾーンを開いていく楽しみは,もちろんあるのですが,店舗を結んだネットワークで,店舗ごとのゾーン別スコアランキング――今のところ全国3位くらいまでが分かる仕組みになっています。つまり誰かが開放したゾーンを,さらに遊び込むこともできるわけです。ゲームが上手い人達と,そうでもない人達が情報を共有することで,結果としてプレイヤーコミュニティが促進される。そんな状況が理想と考えています。
針谷氏:
オリジナルモードは,序盤はザコから始まって,徐々に攻撃が苛烈になり,最後にボスがひかえている,と流れが大体決まっていますが,クロニクルモードのゾーン構成には,そんなお約束はありません。ボスが連続して出てくるものなど,いろいろと仕掛けは用意していますよ。
國澤氏:
課題に則ってクリアすると,その戦域を取り返せるんですが,ややネタ的なゾーンも用意されています。そういうゾーンでもハイスコアは常に記録されるわけで,例えば死ぬ思いでクリアしたけど,スコアを見てみると別の店舗では信じられないような差がついている,なんてもことあるわけです。これをどう捉えていくかというのを,店舗ごとのプレイヤーにゆだねたい。ICカードによるデータ管理だと,店舗やプレイヤー同士が,どうしても接近しづらくなっちゃうんですよね。
針谷氏:
あと若干演出的な話になるんですが,本作には“プレイヤーが歴史を刻む”というコンセプトがあるんです。ランキングの更新やエリアの開放の状況が,ネットを介して歴史として刻まれるという仕様を考えています。「何月何日にこのエリアが開放されました」「何月何日ランキングが更新されました」という戦歴が残るので,そちらも意識してプレイしていただければ,さらにモチベーションが上がると思います。
ゲーマガ:
そういう意味では,各店舗さんとも一緒に盛り上げていくのがベストというわけですね。
國澤氏:
それはこのダライアスバーストACに限ったことではありませんけどね。筐体を置いていただくだけで儲かるという時代では,とうにないので。我々からもできる限り盛り上げていただけるよう,サポートしていきたいと思っています。ただシューティングというジャンルの性質上,一概に同じサポートでいいとは限らないのが難しいところです。マルチプレイ推奨だけど,1人でやりたいというお客さんもいるでしょうから,その辺は今後検討しなければならないですね。
ゲーマガ:
格闘ゲームみたいに「協力者求む!」なんてメッセージが出せるといいですよね。
針谷氏:
ソフト上での仕様ではないのですが,筐体にボードを出して「協力プレイ募集中」とか書いておくとか,凄くアナログな案は考えています(笑)。残機が共有制なので,実際にクレジットを入れればその場で参加できますからね。
國澤氏:
ダライアスバーストACで乱入しようと思うと,隣同士でのプレイになりますから,ちょっと入りづらいかもしれません(笑)。むしろソフト側でやるよりも,店舗ごとにアナログにやっていただいたほうが,ローカルコミュニティの促進になると思うんですよね。
- 関連タイトル:
ダライアスバースト アナザークロニクルEX
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