テストレポート
Radeon HD 6900の新しい電力制御機構「PowerTune」検証。これはいったい何なのか
ゲームでパフォーマンスの向上は期待薄
一方,消費電力低減は可能
PowerTuneがユニークなのは,その「消費電力のリミット」を,「Catalyst Control Center」(以下,CCC)に用意された「Power Control settings」スライダーから−20%〜+20%の範囲に設定できること。プラス方向に設定すれば,0%時に置かれているところよりも最大20%高いところにリミットが設けられるため,高負荷状況でも高いパフォーマンスの維持を期待できる。
ただ,これには注意が必要で,消費電力のリミットを高めたからといって,自動的にオーバークロック動作するわけではない。当初からリミット内で動作している場合は,リミットを高めたところで何の影響も受けないのだ。PowerTuneのリミット引き上げ設定が意図するところは,「FurMark」などのストレスツールや,ベンチマークアプリケーションの高負荷プリセットなどを実行するときに,消費電力のリミットを引き上げ,スコアを向上させるところにあるのだろう。
そのあたりを確認すべく,用いるグラフィックスカード以外はレビュー記事と同じ表のテスト環境を用意して,Power Control settingsのスライダーを0%,+10%,+20%に切り替えながら,FurMark(Version 1.8.2)を実行してみることにした。
その結果はグラフ1のとおり。FurMarkのフレームレートは定期的に上下を繰り返すのだが,それでも,Power Control settingsが0%のときに比べて,+10%や+20%に設定するとフレームレートが伸びていることが分かる。つまり,デフォルト設定となる0%設定では消費電力のリミットにより,FurMark実行時のパフォーマンスは制限を受けている(≒消費電力の上限を超えないよう,GPUクロックが落とされている)のに対し,+10%や+20%設定だとその制限が緩くなり,こういった結果を生んでいるというわけだ。
ちなみに,Power Control settingsのスライダーを変更すると,消費電力も当然のことながら変化する。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」で,グラフ1におけるシステム全体の消費電力を計測し,最も高いスコアを抽出してみたところ,結果は下記のとおりだった。
- 0%:399W
- +10%:427W
- +20%:451W
上昇率は順に約7%,約13%。確実に,そして大きく消費電力は上がっている。
では,FurMarkのような超高負荷がかかったりすることがまずないゲーム用途でPowerTuneにどんな使い道があるのかというと,Power Control settingsスライダーをマイナス方向に振ることで,ゲームプレイ中の消費電力を下げられるようになる点が挙げられるだろう。
ただ「消費電力の許容上限を下げる」以上,GPUのコアクロックは下がるので,もちろん,パフォーマンスも低下する。そのため,PowerTuneのマイナス方向設定は,「性能と消費電力のバランスをどこで妥協するか」を,ユーザーが選択することになるわけだ。
実際のところ,フレームレートはどの程度落ちるのか。4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2準拠で実施したHD 6970のレビュー時に最も高い消費電力を示した「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)と,逆に最も低かった「バイオハザード5」で,0%,−10%,−15%,−20%を設定してみよう(参考までに,+20%でもテストを行う)。
まずBFBC2のテスト結果をグラフ2で見てみると,−10%でスコアに大きな変化がない一方,−15%と−20%ではスコアの低下を確認できた。0%設定時と比べると,落ち込み率は最大で順に13%,15%だ。その一方,前述したとおり,ゲームアプリケーションは基本的に規定の消費電力リミット内で動作しているため,+20%でもフレームレートに変化がないのも見て取れる。
グラフ3は,2560×1600ドットの標準設定で実行したBFBC2のテスト1回分――レギュレーション10.2では,1テスト設定あたり2回繰り返すことになっている――におけるGPUコアクロックの変化を,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.4.9)から追ったもの。クロック確認のペースが1秒に1回なので,これをもって中間クロックの段数を明言することまではできないが,それでも,−15%や−20%設定時は,500〜880MHzの範囲でめまぐるしく動作クロックが変化していると分かる。
グラフ4,5はバイオハザードでも同じテストを行った結果で,やはり,−10%だとスコアに大きな差は生じないのだが,−15%と−20%ではスコアが下がり気味。+20%設定時にフレームレートの向上が見られないのも同様だ。
「ベンチマークテストB」の実行時間が長いため,折れ線はやや窮屈だが,−15%&−20%設定時はかなりの頻度でGPUコアクロックが変わっているのも,やはり確認できよう。
もともと消費電力が低かったバイオハザード5ではPowerTuneの恩恵がそれほどでもないが,BFBC2の場合,−10%設定時に,フレームレートを維持したまま7%,28Wの消費電力低減を実現できているのは注目すべき結果といえるだろう。
−20%設定だとバイオハザード5でも消費電力の低減を確認できるものの,フレームレートも下がってしまうというのは,上で述べたとおり。面白いのは−20%設定時にBFBC2とバイオハザード5のスコアが並んだことで,リミッタがかかっていることがよく分かる。
要するにPowerTuneは,ことゲームプレイという観点からすると,パフォーマンスの向上を期待するような機能ではない。消費電力とパフォーマンスのバランスを調整し,少しでも消費電力を下げたい人向けの機能だと考えたほうがよさそうだ。
Radeon HD 6900シリーズ解説記事
Radeon HD 6900シリーズレビュー記事
- 関連タイトル:
Radeon HD 6900
- この記事のURL: