レビュー
もう1つのエントリー市場向けGPU「Turks PRO」,その立ち位置を探る
Radeon HD 6570
(Radeon HD 6570リファレンスカード)
同日にレビュー記事を掲載したRadeon HD 6670(以下,HD 6670)の場合,価格面に課題こそ残るものの,置き換え対象となる「ATI Radeon HD 5670」(以下,HD 5670)から順当な性能向上を果たしている点は評価できたが,同じくエントリー市場向けとなるRadeon HD 6570(以下,HD 6570)はどうだろうか? 発表後となる22日,筆者のところへリファレンスカードが届いたので,その性能を検証し,立ち位置を考察してみたい。
HD 6670と同じTurksコア「Turks PRO」を採用
いわばHD 6670の低クロック版
HD 6670がAMD内部で「Turks XT」と呼ばれている気配であることは同GPUのレビューで述べたが,そのときに紹介した資料によれば,HD 6570は「Turks PRO」。そして,HD 6570は実のところ,HD 6670の動作クロックを抑えたモデルである。
リファレンス仕様のコアクロックは650MHzで,これはHD 6670の約81%という計算だ。組み合わされるグラフィックスメモリは,HD 6670だとGDDR5のみで,そのクロックが4GHz相当となるところ,HD 6570の場合はDDR3もサポートされ,GDDR5だと3.6〜4GHz相当,DDR3だと1.8GHz相当になっている。
そんなHD 6570のスペックを,HD 6670および従来製品,そして競合製品と比較したものが表1だ。
なお,HD 5570で組み合わせられるグラフィックメモリは発表当初だとDDR3のみだったのに対し,2011年4月時点ではGDDR5モデルも公式に存在が認められている。ただ,AMDはDDR3モデルの消費電力値しか公開していないので,その点は注意しておいてほしい。
リファレンスカードは
容量512MBのGDDR5メモリを搭載
ただ,搭載するGPUクーラーが「ATI Radeon」ロゴ入りの1スロットタイプになっているので,よりエントリーモデルらしい外観になったとはいえるだろう。ローエンド市場向けのカードと背の高さが同じになった,と表現できるかもしれない。
ただ,よく見ると写真でGPUの左側に見えるVRMが2フェーズから1フェーズに減っているのを確認できる。HD 5570リファレンスデザインと基板を共通化しているわけでもないようなので,コストを下げるべく,新規に起こしたのだろう。
なお,リファレンスカードのメモリクロックは4GHz相当(実クロック1GHz)だったので,リファレンス仕様の最上限が設定されていることになる。
Catalyst 11.4ベースのレビュワー向けドライバで
標準設定および低負荷設定のテストを実施
テストのセットアップに移ろう。
テスト環境は表2に示したとおりで,グラフィックスカード以外はHD 6670のレビュー時とまったく同じである。
比較対象としては,直接の上位モデルとなるHD 6670と,置き換え対象となるHD 5570から初期型となるDDR3メモリ搭載モデル(以下,HD 5770 DDR3),そしてHD 5570の上位モデルとなるHD 5670を用意した。また,競合製品から,同じくエントリー市場向けの位置づけとなっている「GeForce GT 440」(以下,GT 440)もピックアップしている。
テスト内容は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2準拠。ただし,なるべく早くテスト結果をお届けするため,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」と「バイオハザード5」のテストを省略し,さらに解像度は1280×1024&1680×1050ドットの2つにする点で,HD 6670のレビュー記事と条件を揃えている。同様にドライバも,HD 6670のレビュー記事と同じく,AMDから全世界のレビュワーに配布された「8.84.2-110322a-115844E」と,Release 270世代の公式β版ドライバ「GeForce Driver 270.51 Beta」を用いることとし,HD 6670とHD 5670,GT 440のスコアは先のレビューから流用している。
また,HD 6570の性能がHD 6670より下であることだけは間違いないため,「高負荷設定」のテストは省略した。
また,これはいつもどおりだが,テストに用いているCPU「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」は,パフォーマンスに影響し,かつBIOSから有効/無効を切り替えられる機能のうち,「Intel Hyper-Threading Technology」「Enhanced Intel SpeedStep」は有効にしたままとしつつ,テスト時の状況によって影響が異なるのを避けるため,「Intel Turbo Boost Technology」を無効化している。
HD 5570から順当にスコアが向上
場合によってはHD 5670に並ぶ場面も
以下,今回用いたHD 6570にGDDR5メモリが組み合わされていることを分かりやすくするため,グラフ中に限り「HD 6570 GDDR5」と表記するとお断りしつつ,テスト結果を順に見ていきたい。
というわけでグラフ1は「3DMark06」(Build 1.2.0)の総合スコアをまとめたものだ。HD 6570のスコアはHD 6670比で85〜88%。コアクロックが20%異なる一方でメモリクロックは同じことを考えれば,順当な結果といえるだろう。メモリ周りの違いが効いていると思われるが,HD 5570 DDR3に対して30〜31%高いスコアを示している点も注目しておきたいところである。
ちなみに,HD 5670とのスコア差は約5%。GT 440に対しては7〜9%高いスコアを示した。
続いてグラフ2〜6は,3DMark06のデフォルト設定である1280×1024ドットの「標準設定」で「Feature Test」を実行した結果となる。
グラフ2はFill Rate(フィルレート)のスコアで,ここだとHD 6570のスコアはHD 6670比77%。テクスチャユニットやROPユニットの数が同じなので,動作クロックにほぼ準じたスコアになっているというわけだ。置き換え対象となるHD 5570 DDR3に対しては,メモリ周りの違いで大きなスコア差を付けている。
グラフ3,4は順に,Pixel Shader(ピクセルシェーダ)とVertex Shader(頂点シェーダ)のスコアだが,コアクロックがスコアを左右しやすい後者の「Simple」を除くと,HD 6570はHD 5670とほぼ同程度のスコアを示している。ATI Radeon HD 5600&5500シリーズと比べてSIMD Engineが1基(=80 SP)増え,いきおいテクスチャユニットも2基増えた効果,といったところか。
DirectX 9世代における汎用演算性能を見るShader Particle(シェーダパーティクル)と,長いシェーダプログラムの実行性能を見るPerlin Noise(パーリンノイズ)の結果がグラフ5,6だが,ここでもHD 6570のスコアはHD 5670とほぼ同じ。総じて,DirectX 9アプリケーションにおいては,HD 6570は,HD 5670と同程度か,若干落ちる程度の性能を発揮できそうな印象である。
実際のゲームタイトルから,グラフ7は「低負荷設定」で実行した「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)のテスト結果だ。
HD 6570のスコアはHD 6670比82〜88%で,動作クロックなり。HD 5670に4〜5%程度置いて行かれる点も含め,3DMark06の総合スコアを踏襲している。ちなみに,GT 440と比べるとスコアは29〜33%高い。
続いてはDirectX 9世代のテストとなる「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果だが,傾向は3DMark06やBFBC2とあまり変わらない(グラフ8)。HD 6570はHD 6670から19〜20%,HD 5670から8%程度低く,GT 440やHD 5570 DDR3に対しては2割程度高いスコアに落ち着いている。
グラフ9に示したの「Just Cause 2」も同じ傾向。HD 6570のスコアはHD 6670の80〜82%で,見事に動作クロックどおりの結果となった。
一方,「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)では若干話が違ってくる。グラフ10で示したとおり,HD 6570がHD 5670とほぼ同じスコアを示しているのだ。DirectX 11が補助的に使われているBFBC2と異なり,DiRT 2ではRadeon HD 6000シリーズにおけるテッセレーション強化の影響が出やすいため,こういう結果になったのだろう。
なお,HD 6570とHD 6670との差は14〜16%で,両製品だけを比較するなら,ほかのタイトルとスコアに傾向に違いは生じていない。
消費電力も順当な結果に落ち着く
リファレンスクーラーは力不足か
テストにあたっては,OSの起動後,30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果をまとめたのがグラフ11だ。アプリケーションによってバラつきはあるものの,HD 6570の消費電力はHD 6670より4〜17W低く,おおむね仕様どおりの結果が出たといってよさそうである。また,GT 440と比べた場合,アプリケーション実行時の消費電力は確実に低い。
最後に,室温20℃の環境にテストシステムをバラックで置いた状態のGPU温度をチェックしてみたい。ここでは,3DMark06の30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともどもTechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU- Z」(Version 0.5.3)からGPU温度を計測し,グラフ12にまとめている。
搭載するGPUクーラーが異なるため,横並びの比較には意味がないのだが,それでも,アイドル時に40℃,高負荷時に78℃というHD 6570のコア温度が,GPUの位置づけを考えるとかなり高いことは分かる。
ファン回転数をCatalyst Control Centerから確認すると,アイドル時に15%,高負荷時に37%といった具合に低く,筆者の主観であることを断ってから述べると,動作音もHD 6670と比べて静かに感じられるのだが,省スペースのPCに組み込む場合などは,筐体全体のエアフローに気を配る必要がありそうだ。あるいは,カードメーカー各社から登場すると思われる,オリジナルクーラー搭載モデルの選択を考慮すべきだろう。
GDDR5モデルはHD 5570の後継として申し分ない
価格的にもアンダー10kの有力な選択肢に
GDDR5版HD 6570の実勢価格は9000円前後(※2011年4月25日現在)。DDR3モデルだと8000円を切るモデルも存在するので,そこと間違えないようにしたいところだが,いずれにせよ,実勢価格で1万円を超えてしまい,今ひとつはっきりした立ち位置を確保できていないHD 6670に対して,HD 6570なら4桁円台で手に入るというのは,エントリークラスのGPUを狙っている人にとって明らかな魅力となるだろう。
もちろん,ミドルクラス以上のGPUとはまったく勝負にならないわけで,予算に余裕があるならもっと上を狙うべきなのは確かだが,オンラインタイトルを中心に,3Dゲームがそこそこ動くGPUを安価に手に入れたいという場合なら,GDDR5版のHD 6570は面白い選択肢となるはずである。
AMDのRadeon HD 6000シリーズ製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
Radeon HD 6600&6500
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