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[CEDEC 2011]日米両方でAAAゲーム開発をして分かったこととは? ライアン・ペイトン氏が語る「僕の海外ゲーム開発ストーリー++」
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印刷2011/09/08 17:03

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[CEDEC 2011]日米両方でAAAゲーム開発をして分かったこととは? ライアン・ペイトン氏が語る「僕の海外ゲーム開発ストーリー++」

ライアン・ペイトン氏
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 CEDEC 2011初日(9月6日),元Microsoftのライアン・ペイトン氏による「僕の海外ゲーム開発ストーリー++ 〜日米両方でAAAゲーム開発をして分かったこと〜」と題した講演が開催された。
 ライアン氏はアメリカから来日して,KONAMIで「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」の開発に携わったのち,Microsoft「Halo」シリーズのクリエイティブ・ディレクターを務めてきた人物だ。日米の双方で大規模プロジェクトに参画した経験を持つ氏の講演は,日米における開発プロセスの違いを踏まえた上で,これからのゲーム開発のあるべき姿を模索するものだ。
 この数か月,多くのことに行き詰りを感じていたという氏が,日本の友人との対話で得た知見を踏まえた講演は,とてもエネルギッシュなものだった。以下,簡単にその流れを紹介しよう。


ゲームを取り巻く環境の変化


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 ライアン氏は冒頭,「ゲームを作るという仕事をとりまく環境は,非常に良くなっている」と語る。ネットの発達によって世界の距離感は小さくなってきており,それはゲーム流通という面を見ても言えることだ。世界にメッセージを送ることは,かつてなく容易になっている。また,モバイル機器の発達により,ゲームはいつでもどこでも楽しめるものにもなった。
 一方,いったい自分たちが作っているゲームとは何なのか,という疑問が高まってきているのも事実だ。少なからぬゲームが似たような作品になっていき,例えばFPSにおいては「近代兵器が登場するゲーム」で一括りにされかねない。あるいは,「ゲームは単なる暇つぶしのためのもの」という考え方も強い。
 だが「それではいけない」と氏は言う。そして,もっと素晴らしいゲームを目指し,もっとゲームの内容を磨く努力をしていくべきなのだと語った。


ライアン氏とゲーム


 ライアン氏のゲームとの関わりは,氏が6歳の頃まで遡る。父親からプレゼントされたAtari 2600との出会いだ。氏はこれに深くのめり込み,そして幼いゲーマーにはよくあることだが,数年後には父親にビデオゲーム禁止令を申し渡されることになる。
 だがライアン氏は諦めなかった。「もっと外で遊べ」と言われた氏は自転車に乗って友人の家に向かい,そこで「スーパーマリオブラザーズ」を堪能する。だが,これまたよくある話だが,ゲームに夢中になるあまり帰宅時間が非常に遅くなったりしたため,今度は自転車禁止令が発布されてしまう。
 それでも,やはりライアン氏のゲームに対する情熱は冷めることはなく,父親はついに,ライアン氏の誕生日にファミリーコンピューターをプレゼントすることになった。

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Atari 2600のインディージョーンズ
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友達の家にスーパーマリオを遊びに行く日々。日本でもよくあった風景だ

FF6とMGSはライアン氏に深い感銘を与える
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 その後のスーパーファミコンの登場と,そこで出会った「ファイナルファンタジー6」は,ライアン氏にとって大きな衝撃となる。氏はFF6をプレイするなかで,ゲームはただ楽しいというだけではなく,複雑な人間の感情を表現することができるのだ,ということに驚きを感じたのだ。
 幸いというべきか,氏の父親は神戸製鋼のアメリカ支社に勤務していたため,ライアン氏と日本との距離は比較的近かった。1998年,氏は日本を訪れ,日本語も学ぶようになる。
 またその頃に出会った「メタルギアソリッド」も,氏に衝撃を与えたそうだ。「MGSには,メッセージがあった。そのメッセージに共感するかどうかは別として,ゲームはメッセージを伝えることができる」のである。
 大学を卒業後,ライアン氏は再び日本を訪れる。が,JET(「語学指導等を行う外国青年招致事業」の略)で来日した氏は,コンビニはおろかスーパーすらない田舎に赴任させられることになった(海の幸と温泉が売り物)。憧れのゲームとの直接遭遇を夢見た青年にとって,これはあまりに過酷な現実で,そのとき氏は「とんでもない失敗をやらかしたと思って泣いた」と言う。けれど氏は諦めず,ならば僻地でもゲームに関われる仕事ということで,ライターとしてゲーム雑誌に寄稿するようになる。

 そして2005年のE3で,ライアン氏は小島秀夫氏の面接を受けた。ライアン氏が日本語を話せることを知った小島氏から「KONAMIに入社しろ」という言葉を受ける。ライアン氏は大喜びでKONAMIの面接を受けたが,合否の連絡は「悪いお知らせがあります」。
 「俺はこの仕事をするべき人間なのに!」くらいの勢いでショックを受けたライアン氏だったが,仕方ないのでアメリカに戻って仕事を探し,新車を購入して新生活を始め――そうして2週間ほどたったある日,KONAMIから電話がかかってきた。「すみません,以前のお知らせは間違いでした。日本に来てください」。ライアン氏は新車を売り,一路東京に戻った。

 その後,MGS4の開発でモロッコ取材に行くなど,さまざまな経験を積んだ氏だが,休暇でアメリカに戻ってみると,母親がガンに罹患していることが判明する(今では無事に治ったそうだ)。家族を優先するため,アメリカに戻って仕事を探した氏はMicrosoftに入社。「Halo」の新チームにおけるクリエイティブ・ディレクターとしての仕事を開始し,アメリカで3年その仕事を続けた。

 氏は,日本とアメリカの仕事を比較すると,人の管理に大きな差があると言う。Microsoftは,上司/経営陣と部下のあいだで,現状における不満から今後のキャリアに至るまで毎週のように話し合いが持たれるし,またバーベキューやボーリングなどのイベントも多い。このような交流活動を通じて,スタジオのカラーと,チームの団結を作っていくのがアメリカ式のようだ。


日本とアメリカの開発態勢


 さて,論題はここから,日本とアメリカの仕事の仕方の差に移る。

■仕事と生活のバランス

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 最初に取り上げられたのは,仕事と生活のバランスという問題だ。「アメリカ人は自分の生活優先」というのは,日本におけるひとつのアメリカ人ステレオタイプであろう。そして実際,それはある程度まで事実だと氏は語る。だがその一方で,ライアン氏は「アメリカ人も,徹夜で仕事を頑張ることはもちろんある」と述べた。「必要な限り頑張る。けれど,必要がないなら帰る。ほかの人が会社に残っているから自分も残る,といった慣習はアメリカにはない」とのこと。
 そしてまた,こうして「必要のないときはさっさと帰る」ことで獲得した自分の時間を使って,映画やテレビを見たり,読書をしたり,スポーツジムに通ったりする。その結果,優れた社員になることができるのだと氏は語る。「僕が日本でディレクションするときは,この方式をプッシュしたい」とは氏の弁であるが,会場に流れた強烈な同意の空気は非常に印象的だった。


■チームの団結

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 日本では,深夜のファミレスミーティングといった形で団結が図られることがあるが,アメリカでは前述のように「帰るときは帰って,家族と食事」が基本となる。
 だからといって,帰ったらそこでゲームとの関係,チームとの連携は終わり,ではない。ライアン氏のチームでは,だいたい夜の8時から9時くらいにかけて,Xbox LIVEやSteamといったプラットフォームに次々とメンバーがログインし,お酒を飲みながらのリラックスした環境で,さまざまなゲームをプレイしているそうだ(バーチャル居酒屋と呼ぶらしい)。
 これはチームの団結力強化に寄与するだけでなく,チームメンバーが最新のゲームを体験し続ける機会としても機能する。また個人的には,開発者視点ではなく,プレイヤー視点でゲームに接する時間が確保されるのも,意義が大きいように感じた。


■データの運用

 アメリカではアイデアを検証するにあたって,常にデータが参照される。こういう実装をしたい,ああいうアイデアを盛りこみたいという主張は,必ずデータで裏打ちされなくてはならない。
 データとしては,プロトタイプやプレイテストのデータはもちろん,マーケティングデータやデータマイニングからのデータも参照される。
 ただし,これには危険性もあると氏は指摘する。「アップルのジョブズ氏が指摘するように,『ユーザーは,それを見せてもらうまで,それを欲しいと思わない』のだ」。
 この典型的な例として,実績解除というギミックが挙げられる。実績というシステムは,かつてはその必要性が疑問視されていた。しかし,実際にこれを実装してみると大きな好評を呼び,今では実績なしのゲームというものは考えられないという状況になっている。

いまでは当たり前になった「実績解除」
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■情報共有

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 アメリカでは,とにかくチーム内での情報共有が重視される。メンバーは常に「今何が起こっているのか」を知りたがる,と言う。これは,アメリカにおいては,自分の成功はプロジェクトの成功にかかっており,自分自身をプロジェクトに投資していると理解されているためだ。
 このため,毎週なんらかの話し合いが行われ,問題共有がなされる。これはチームとして非常に重要なことだが,一方で時間がかかるという側面もある。


■自分のアイデアをチームに売り込むプロセス

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 ライアン氏が新しいHaloチームのクリエイティブ・ディレクターとして就任したとき,氏はHaloをより良くするためのアイデアを無数に抱いていた。そしてそれをドキュメントにまとめ,チームに配布した――が,そのアイデアはチームの評価を得られなかったという。
 ここには,アメリカのゲーム開発における特色が存在している。
 アメリカでは,チームメンバーはアイデアを作るパートナーになりたい,一緒にアイデアを作っていきたいと思っている。だからディレクターが自分のアイデアを一方的に押し付けても,それは受容されないのだ。ディレクターとチームメンバーが一緒になってアイデアを作っていかなくてはならない。
 こうして共同で作られたアイデアは,「チームのアイデア」となる。「開発の途中で苦しいことがあっても,自分のアイデアであるから,頑張れる」と氏は語った。
 この,共同で作られたアイデアを共有するという方式は,アメリカ独自のスタイルとしてではなく,グローバルに通じる方式であると氏は考えている。


■意思決定の分散

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 一般に,ゲーム開発においては(あるいはそれ以外についても)トップダウン式で行われるのが日本式で,アメリカではカウボーイでワイルドウエストな方式が採用される――というイメージがあるが,これは必ずしも真実ではない。
 アメリカにおけるゲーム開発は,分散化が進んでいる。またチーム全体が草の根キャンペーン式で開発にコミットメントしていくため,チームは強いモチベーションを持つ。これは,例えば小島プロダクションにおけるMGSの開発において,小島氏のアイデアがトップダウン式で伝えられるのとは対照的といえる。
 アメリカでは,権限の抑制と均衡が重視される。クリエイティブ・ディレクターの権限は削がれる傾向にあり,また逆にアート・ディレクターの職分にクリエイティブ・ディレクターが意見を述べることもあるという。
 このようにチーム全体が互いに話しをしながら,チーム全体で意思決定をしていく。そしてこの意思決定において,データが重視されることになるというのは,合理的な帰結であろう。「もっとゲームの表現をブラッディにしたい」と思うなら,そのアイデアを裏付けるデータを持って来い,という構図である。


■ビジョンとチーム権限のバランス

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 アイデアをチームに押し付けるのでは駄目で,チーム全体に任せるべきだというのは前述のとおりだが,ではそれで必ずうまく行くかと言えば,そうではない。
 だからこそクリエイティブ・ディレクターは,チームに自分のアイデアを伝える方法を確立しなくてはならない。チームに任せすぎになるのはマズいし,かといって指示を与えすぎるのもよろしくない。このバランスは的確に把握されなくてはならない。


■ビジョンの共有

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 ゲームの持つ物語性がどうであるとか,マーチャンダイズの方針がどうであるとかといった話とは違うレベルで,ゲームのビジョンが共有されている必要がある。
 とはいえ,クリエイティブ・ディレクターが最初に抱いたビジョンをそのまま実現できると考えてはいけない。


■ビジョン・ステートメントとエックス・ステートメント

 頭の中にあるビジョンをまとめるのは難しい仕事だ。このため,このビジョンを数行でまとめた文章を作るというのは,クリエイティブ・ディレクターにとって,とても大きな仕事となる。
 ビジョン・ステートメントは,いわば「ゲームの売り文句」だ。例えば「ラブプラス」のビジョン・ステートメントを作るなら「高校時代を再現し,理想の女の子といちゃいちゃする(ただし女の子はDSの中にいる)」。「BAYONETTA」PS3 / X360)なら「セクシーな悪魔狩人(サラ・ペイリン似)が主人公の,より派手なDevil May Cry」,といった具合だ。このビジョン・ステートメントは,チームメンバー全員が必ず覚えていなくてはならない,と氏は語る。

ゲームの売り文句を短い言葉でまとめてみる
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 また,エックス・ステートメントというものもある。これはゲームをどう売り込むかというコピーで,「マーセナリーズ2」PS3 / X360)であれば「紛争地域でGTA」ということになるし,「Dead Space」PS3 / X360)では「宇宙のバイオハザード」ということになる(実話だそうだ)。

企画を売り込むためには「これなら売れる!」と思わせる言葉が必要
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 ピラー(柱)という要素もある。これは4〜5つの短い言葉でゲームの主要な要素をカバーしたもので,「それぞれポスターにして開発現場に貼りたい」くらいに重要だという。
 実例としては,「Infinity Blade」においては

・指1本でゲームすべてが楽しめる
・ゲームの中心は短時間で遊べる
・デバイスの特性を活かしたデザイン
・簡単にプレイできるが,上達は難しい


この4つが挙げられた。

 また「HEAVY RAIN」であれば

・情緒的
・物語中心
・大人向け
・物語を遊ぶ


この4本がピラーとなる。

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Infinity Bladeにおける4つの「柱」
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HEAVY RAINの4つの「柱」


■リスク回避という強迫観念との戦い

 大規模ゲーム開発は予算規模も大きいため,経営陣としては回避できるリスクはすべて回避したい,というのが本音となる。結果として,素晴らしいアイデアでも,なかなかそれが経営陣判断を通らないということが起こる。
 例えば「バイオショック」では,2を作るにあたって「ビッグダディは出ない,リトルシスターも出ない」といった形で前作要素の不在を経営陣に提案すると,「絶対にありえない」的な勢いで否定されることになる。しかしながら,実際にその「ありえない」アイデアに沿って作品を作って現物を見ると,彼らは「これこそが欲しかったものだ!」と言う。リスク回避という強迫観念との戦いは,避けて通れないものなのだ。

バイオショック2にビッグダディは出てこない
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60ドルゲームの王国


アメリカで大いに売れているゲームの数々
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 さて,アメリカと日本の開発環境の比較から離れ,ライアン氏が見るゲームの現状に論題は移る。
 氏がアメリカに戻って3年のあいだに,ゲーム業界には多くの変化があった。App StoreやKinectが登場し,「Call of Duty」の新タイトルは「失敗する」と連呼されながら成功し続けた。それなのに,ゲームデザイン論はいまだに「ゲームをどう作るか」を議論し続けている,と氏は指摘する。そうではなく,「もっとクリエイティブなところを議論すべきだ」と氏は語った。

 ゲームの現状としては,「60ドルゲームの王国」がある,とした。CoDの「Black Ops」や「Modern Warfare2」「Halo Reach」「Red Dead Redemption」「アサシンクリード ブラザーフッド」,そしてWii Fit Plusといった,アメリカの売上チャート上位を突っ走る,1本60ドルクラスの作品群のことだ。
 これらの作品には常に新しい技術が投入され,アニメーションやモーションもどんどん良くなっている。けれどこれら上位組をよく見ると,いずれも開発元が基礎技術を確立しており,またRDRを除けば,すべて続編ものという特徴も有している。これら60ドルの巨人たちは良好なセールスを維持しているが,一方で新IPは苦戦し続けているのだ。この状況を,氏は「ダビデとゴリアテの戦い」と評した。
 そしてまた,60ドルゲームの王国が本当にうまくいっているのかと言えば,レイオフやスタジオ閉鎖が相次いでいるというのも実情なのだ。

閉鎖されたスタジオや,レイオフが行われた著名なスタジオの数々
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日本のゲームの問題


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 60ドルゲームの巨人たちと比較して日本のゲームはどうかということになると,雲行きが怪しい――これはゲーム業界における一般的な見解と言えるだろう。実際,アメリカにおいてもかつては「日本でゲームの仕事をしていた」と言えば「それはすごい」と評価されていたのが,今では「日本から来たんじゃあ,もう古いんじゃないかな」と言われるようになっている。明らかに,日本のゲームに対する興味は低下しているのだ。
 ライアン氏は,アメリカの開発者視点から見た現状の日本のゲームの問題を,以下のようにまとめた。


■ゲーム体験が荒い

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 プレイの印象が雑だったり,物理エンジンの挙動がイマイチだったり,ゲームバランスに問題があったりと,「本当にこれはテストされているのか?」という疑問を抱かれるタイトルが多い。
 昨今では数百万ドルをプレイテストに投じるケースも増えているし,テスト専門の会社も存在するが,ライアン氏はKONAMI時代,週末に外国人をプレイテスターとして会社に呼び,テストしてもらったと言う。これによって,ゲームが抱える問題はすぐに明らかになっていったそうだ。


■ゲームの操作がグローバルスタンダードと異なる

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 ◯と×ボタンの機能が逆転しているのが代表的。日本では伝統的に◯で進行,×でキャンセルだが,アメリカでは×で進行する。
 筆者個人的には,かといって×で進行するUIを日本市場に提供するのも問題だと思うが,こういったゲームUIの根幹における差異を解消してこそのローカライゼーションであるようにも思う。


■ローカライズの問題

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 「ボイス部分を英語でアフレコするなら,日本国内では絶対に,決して,断じて,収録してはならない」,というのがライアン氏の言葉。


■文化的背景を持たない世界に偏りすぎ

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 かつてアメリカでは,「パラサイト・イヴ」のように,現実世界を背景としてプレイできるゲームが大いにヒットした。MGSではモロッコを背景に使うといったことも行われている。
 しかし,こういった手法は法的権利の問題から,日本の法務部が通さないことが多い。結果として日本のゲームにはファンタジー世界を扱ったものが増え,どんどん現実世界から遊離している。
 法的な問題の解決にはさまざまな障害はあるが,現実の世界からゲームが離れていくというのは,世界的な潮流から見れば「取り残されている」と言わざるを得ない。


■「お前の作った物語になんか,誰も興味を持たない」

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 これは「バイオショック」のディレクターの言葉。プレイヤーはゲームを遊びたいからゲームを買うのであって,ストーリーを聞かされるために買うのではない。


■物語を伝える方法が偏っている

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 カットシーンやフルボイスでの語りなどがなくても,物語を伝えることはできる。例えば「Left 4 Dead」であれば,絵が1枚あれば,登場人物の個性や背景をだいたい想像できるし,この4人が協力しなくてはならないことも理解できる。


■プレイヤーとキャラクターのモチベーションが一致しない

 これは必ずしも今の日本のゲームだけの問題ではなく,また非常に難しい課題でもある。アメリカで大ヒットしたRPGでも,目の前にボスが現れたとき,理由はともあれ「この憎きボスを,なんとしても倒さなくてはならない」とプレイヤーに感じさせることに失敗しているゲームは,ままある。
 ただ,これは日本のRPGによくあることだが,30時間も40時間もひたすらモンスターを殺すことに費やさねばならないゲームであるなら,それはもうモンスターを中心とした物語であるべきだ。

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■インタラクションはシンプルなもので十分

 MGS4では,タイミングよく△ボタンを押すだけのシーンが,非常に高く評価されている。このように,インタラクションは簡単なもので良い。複雑で深いインタラクションは,プレイヤーの集中力を失わせるだけのことが多い。

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■ゲームは技能検定ではない

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 かつてゲームは,プレイヤーのスキルを競うものという側面が強かった。しかしCoDとHaloの比較において,そのパラダイムはもはや必ずしも通用しないことが明らかになっている。
 CoDでは,最悪の腕前のプレイヤーであっても,それなりにゲームを楽しむことができる(デス・ストリークなど)。一方Haloはスキル勝負の部分が強く,負けた方はなんとも嫌な気分を味わうことになる。
 HEAVY RAINのディレクターは,「ゲームは続くようになった。ゲームオーバーの時代は終わった」と言う。新時代のゲームは,プレイヤーが気持ちよくなるためのゲームなのだ。ゲームには「プレイヤーが見たことのない世界に連れて行く」だけではなく,「勝敗のない世界に連れて行く」必要が生じている。


■プレイヤーがゲームに投じる時間を尊重しない

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 日本のゲームは映画のように長大なストーリーを有し,クリアまでとにかく時間がかかる。アメリカのとあるレビューサイトは,「ドラゴンクエストIX」を評価するにあたって,「このゲームのすべての要素をクリアするには773時間が必要」と算出した。平均的なアメリカ人プレイヤーは,そんなに時間のかかるゲームを遊びたいとは思わない。
 また,プレイ時間と報酬の関係にも問題がある。モンスターハンターシリーズでは,どんなに長くても45分程度で1ゲームが終わるが,タイムアップでゲームが終わると,その45分に対して事実上まったく報酬が発生しない。アメリカ人プレイヤーはそんな状況に面したらPSPを壁に投げつけるし,実際投げつけた。


■ガラパゴス化

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 ゲームに限らないが,視線があまりに内向すぎる傾向がある。


■過去のIP/プラットフォームが活かされない

 日本には素晴らしいゲームがいくつもあるが,いま世に出ている新作は比較的最近作られた作品の続編ということが多い。またそういった新作は,プラットフォームを1つに絞っていることもままある。
 世界的に見ると,「ICO」や「クロノトリガー」など,日本の古いゲームには熱狂的なファンがいる。そういった古いIPを活かせていない。

クロノトリガーは,海外で「RPGオールタイムベスト企画」をすると必ず名前が挙がる。FPSの生みの親であるロメロも大ファン
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コンソールゲームの未来


 ライアン氏は,スマートフォンやタブレットの成長,そしてApp Storeの発展という状況についても危機感を抱いている。「明日にはすべてが壊れるかもしれない。Appleがすべてを変えてしまうかもしれない」。
 しかしその一方で,その「明日」が来る日をコンソールゲームは見守るしかないのかと言えば,すでに明るい兆しはある,と氏は語る。

 世界的に見て,ゲーム開発は大規模化する一方で,小さくて先鋭的なチームが独創的なゲームを作るというケースも増えている。先の「60ドルゲームの王国」で言えば,コンソールゲームの世界にはゴリアテだけが徘徊しているわけではない。
 ライアン氏はさまざまな独立開発系ゲーム(いわゆるインディーズゲーム)を示しつつ,GDC 2011における任天堂の岩田氏の講演に(岩田氏のことを尊敬していると留保しつつも)疑問符を投げかけた。この講演で,岩田氏は「次世代のマスターゲームはどこから生まれてくるのか」と述べたが,ライアン氏は「次世代のマスターゲームは,もうインディーズゲームとして目の前にある」と語った。ファミコン時代,あるいはPlayStation時代のように,少人数の若き才能と情熱が結集して作ったゲームは,確実に次世代を作ろうとしているのだ,と。

ライアン氏が言及した革新的なインディーズゲームの数々。日本でも「Steam」などでダウンロード購入できる
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ライアン氏が立ち上げた新会社,カモフラージュ。現在新作を制作中とのこと
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 そしてライアン氏は,「こういった若く情熱のある世代の挑戦を,かつて若くて情熱があった世代が,リスクとみなして阻止しようとする」「だが,新進気鋭のインディーゲームを,かつて若かった世代はちゃんとプレイしているのか?」と問いかけた。
 新しい革新の道は必要であり,そしてそれはすでに開かれている。3D表現についてもハードルがどんどん低くなっている。
 今や,インディーズゲームが3Dを取り入れるのも一般的になってきた。いずれ,CoDではない,インディーズならではの革新的なFPSが生まれるだろうし,インディーズならではのリスクを取ってそれが世界に放たれるだろう――これがライアン氏の観測だ。

 だが,ライアン氏の見解に対し,Microsoftはもっとグローバルな会社と交渉したいと考えていて,インディーズのようなリスクを取らない方針をとっている。このため氏はMicrosoftを退社,新しい会社を立ち上げてゲーム開発に挑んでいる。
 「いまや流通のチャンネルは,世界に対して開かれている」。ライアン氏はそう語る。「だから世界に向けて,日本のクリエイターの声をもっと発信していかなくてはならない」。

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