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初期のX79はPCIe 3.0対応保留,DIMMサポート4枚か。少数精鋭のマザーボード開発チームを立ち上げたSapphireにいろいろ聞いてきた
Sapphireの台湾支社であるTrimark Technology(トライマークテクノロジー,以下 Trimark)でこのチームを率いるAllen Lee(アレン・リー)氏は,オーバークロック性能を重視する個性的なマザーボード製品を展開していた某社でプロダクトマネージャーを務めてきた人物。その経験を活かし,Sapphireでは,ゲーマー向けなど,高性能マザーボードを中心に,種類を絞った展開で市場に打って出るという。
顔出しNGという条件ながら,今回4GamerではそのLee氏に,次期主力製品の開発状況を聞く機会が得られた。AMDとIntelの次世代プラットフォームについても興味深い話を聞けたので,まとめてみたい。
SapphireがAM3+マザーボードを投入していない理由
Radeon搭載グラフィックスカード市場のトップシェアを守り続けているSapphireが,AMD陣営のエースであることに異を唱える人はいないだろう。日本市場でこそ存在感はあまりないものの,AMD製チップセットを搭載したマザーボード製品も,Sapphireは定期的にリリースし続けている。
ただ,実のところ,Sapphireは未だにAM3+対応マザーボードを市場投入していない。それはなぜなのか。
この疑問をLee氏に投げかけてみると,返ってきた答えは「より優れたオーバークロック動作を実現するのはもちろんのこと,“将来のCPU”に対応するため,TDP 150WのCPUでの安定動作を図るべく設計変更を行っている段階だからだ」というものだった。
AMD 990FXを採用したSapphire製のSocket AM3+マザーボード。COMPUTEX TAIPEI 2011の会場で一度公開されたが,その後,基板デザインやVRMの変更が行われている |
マルチGPU性能を向上させるべく,PCI Express 2.0ブリッジとしてnForce 200を搭載。サウスブリッジと一緒に,Sapphireロゴ入りヒートシンクの下に置かれる |
一方,9月3日の記事でもお伝えしたとおり,AMDの次期FX-Seriesとなる「Komodo」(コモド,開発コードネーム)では,AM3+パッケージが継続することと,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が最大で150Wに達することが明らかになっている。Lee氏の回答は,これを受けてのものである。
「AM3+プラットフォーム用としてAMDがマザーボードベンダーに対して提供していた最初の設計ガイドに従ったまま,Socket AM3+マザーボードを作った場合,150WというTDP設定で動作させると,VRM周りが極めて高温になると分かった」と言うLee氏は,市販されている他社のSocket AM3+マザーボードも検証済みだそうで,「VRMの部品が90℃を超えることがあることも分かっている」とも語る。発売のタイミングが競合他社より遅れるのは覚悟のうえで,自作ユーザーが次世代CPUでも安心して使い続けられる製品を作ることこそが,チームの限りあるマザーボード開発リソースを有効に活用する手段であるという考えを示していた。
現在Lee氏のチームでは,Socket AM3+を搭載した「AMD 990FX」マザーボードの開発において,VRM設計を見直すだけでなく,放熱性を高めるべく基板設計や冷却機構も改良することで,“Komodo世代”に向けた安定性を確保しようとしているとのことだ。
初期のX79はPCIe 3.0対応保留,DIMMは1chあたり1枚に
いわく「X79マザーボードは当初,PCI Express 3.0に対応しない」「Intelは,デスクトップ向けSandy Bridge-Eにおいて,1スロットあたり1 DIMMのみのサポートに切り替えた」とのことである。
順に見ていこう。まずPCI Express 3.0対応は,初期のSandy Bridge-EにおけるCPU側の問題もあって保留されることになるようだ。そのため,PLX Technology製のPCI Express 3.0ブリッジチップを搭載する計画だったSapphireでは,いま,NVIDIAの「nForce 200」へ切り替える設計変更を行っているところだという。
Lee氏は,「PCI Express 3.0対応グラフィックスカードの検証は,9月にようやく始められるという状況だ。10月末〜11月の発売の製品でPCI Express 3.0対応を謳うのは現実的ではない」と,大手グラフィックスカードベンダーならではの見方も示す。Sapphireがこう見るなか,競合他社がX79マザーボードでPCI Express 3.0対応をどう謳ってくるかは,興味深いところだ。
ちなみに同様の情報はほかのマザーボードベンダーからも漏れ出しているが,最新の「Intel Z68 Express」マザーボード(の一部)のように,CPU側のPCI Express 3.0検証が終われば利用可能になるのか,初期のX79マザーボードではハードウェア的に非対応なのかはまだ分からない。
もう1つのメモリサポートだが,Lee氏は「サーバー向けのSandy Bridge-EPでは1chあたり2 DIMM構成をサポートする」と断言。あくまでもデスクトップPC向けSandy Bridge-Eのみのスペックダウンだと示唆していた。
Intelに近いOEM関係者は,「Sandy Bridge-Eのフル機能をサポートするため,Intelは市場投入時期を2012年初頭にまで遅らせることも考えていたが,AMDのBulldozer世代へ対抗すべく,10月下旬〜11月上旬という,当初の予定での市場投入を優先することになった」と述べていたりもするので,AMDへの対抗戦略が,当初計画されていた“フル機能実装”を後退させた可能性は高い。
なお,現時点で分かっているデスクトップ向けSandy Bridge-Eのサインナップは下記のとおりである。
- Core i7 3960X/3.3GHz:6コア/12スレッド,LLC 15MB
- Core i7 3930K/3.2GHz:6コア/12スレッド,LLC 12MB
- Core i7 3820/3.6GHz:4コア/8スレッド,LLC 10MB
また,ここにきて,OEM関係者から「サーバー向けには,Socket B2対応のSandy Bridge-ENも用意される」という情報が入ってきたことも押さえておきたい。
サーバー向けのCPUは,メインストリーム2-way用がSandy Bridge-EP,エントリー2-way用がSandy Bridge-ENとされてきた。当初,前者はLGA2011のSocket R,後者はLGA1356のSocket B2向けとされてきたが,その後,後者は計画が見直され,LGA2011で一本化される予定になっていたのだ。そんな“消えたLGA1356版Sandy Bridge-EN”が,ここに来て復活したというのである。
面白いのは,LGA2011版Sandy Bridge-EPをプライマリCPU,LGA1356版Sandy Bridge-ENをセカンダリCPUとして搭載可能なデュアルCPUマザーボードのリファレンスデザインを,Intelがマザーボードメーカーへ供給しているということ。「LGA2011+LGA1356(もしくはLGA1366)」プラットフォームといえば,ASUSTeK ComputerがCOMPUTEX TAIPEI 2011で公開した「Danshui Bay」が思い出されるところだが,果たしてこのあたり,どういった製品が出てくるのかは気になるところである。
……話が大幅に脱線してしまったが,もう一度Sapphireのマザーボード開発に話題を戻そう。
Lee氏は,20人足らずというTrimarkのマザーボード開発チームを,「おそらく,業界最小の開発チーム」と位置づけていたが,「小さなチームだけに,ラインナップ全体を見渡せるメリットはある」とも胸を張る。Sapphireで展開するマザーボードは,チップセットごとに複数の製品を用意していくのではなく,「チップセットやCPUの特性を活かした製品作りに注力している」(Lee氏)とのことだ。
その方向性は実にシンプルで,AMD 990FXやX79といったハイエンドチップセット搭載製品では,マルチグラフィックスカード構成やオーバークロック耐性を追求しつつも,「ピーク性能だけでなく,長期間使い続けてもらえるだけの安定性を提供したい」(Lee氏)。この考え方が,序盤で紹介した,「電源強化のためのAMD 990FXマザーボード再設計」や「PCI Express 3.0への固執を止めてnForce 200へ切り替え」といった決断をもたらしたようだ。
H67搭載のMini-ITXマザーボード「PURE Platinum H67」。グラフィックス性能を最大限に引き出すべく,Virtuをサポートしているが,Virtu Universalへの対応も検討されている |
AMD A75を搭載する,開発中のMini-ITXマザーボード。こちらもVirtu Universalのサポートが検討されている |
同社はすでにLucidLogix Technologiesの「Virtu」に対応した「Intel H67 Express」(以下,H67)搭載のMini-ITXマザーボード「PURE Platinum H67」を市場投入済みだが,さらに「AMD A75」搭載のMini-ITXマザーボードも計画中だ。
Lee氏は,これらの製品において,LucidLogix Technologiesの「Virtu Universal」対応も検討しており,「老舗グラフィックスカードベンダーのマザーボードらしく,メインストリーム製品でも最大限のグラフィックスパフォーマンスを提供できる製品展開をしていきたい」と,意気込みを語っていた。
また氏は「マザーボードの品質を向上させるために,一部製品については台湾国内で生産することも検討している」と,アグレッシブな製品戦略を持っていることも明かす。かつて所属していた某社における実績も踏まえるに,面白いマザーボード開発チームが戦線に戻ってきたといえそうだ。
→Sapphire Technology