インタビュー
ヴァニラウェアは命がけでゲームを作る会社――クリエイター神谷盛治氏・ロングインタビュー
奇跡的に通った「プリンセスクラウン2」の企画案
4Gamer:
神谷さんがファンタジーアースのプロジェクトから離れるタイミングで,いよいよヴァニラウェアが設立されるわけですが,結局,その時のメンバーってどんな感じだったんですか?
神谷氏:
僕とプログラマーの大西くん,シガタケくん,元プリンセスクラウンのチームメンバーで戻ってきた西井くん,今は辞めちゃったけど,ファンタジーアースからついてきてくれた新人君を加えた5人でしたね。
4Gamer:
プリンセスクラウンの開発メンバーは神谷さんと西井さんだけなんですね。
旧プリクラメンバーは,後にもう一人合流しますが,この時は2人だけですね。このメンバーで,長年暖めていた「プリンセスクラウン2」の企画(後のオーディンスフィア)を進めるんですけど。
4Gamer:
5人? あの規模のゲームを?
神谷氏:
はい。シガタケくんなんかは,ずっと「5人で本当に作れるんですか?」と心配してましたね。僕は,実質3,4人で全てのグラフィックスを作ったファンタジーアースに比べればどうってことないと,あまり深く考えていなかった(苦笑)。
4Gamer:
メンバーを追加で募集したりはしなかったんですか?
神谷氏:
常に募集はしていたんですが,なかなか集まらなくて。最終的に10人ちょっとのチームにはなりましたけど,あの時点のヴァニラウェアというか,僕の実績というのは,表に出てるものがプリンセスクラウンただ一つでしたからね。そんなよくわからない,怪しい会社に入ろうなんて人はそうそう見つからないでしょう。
4Gamer:
確かに厳しそうですね。
神谷氏:
これは後で聞いた話ですけど,「プリンセスクラウン2(企画を通す為にそう呼んでいた)」の企画をアトラスさんにプレゼンした時,「こんな話は危ないよ」って意見が,アトラス社内でも強かったそうなんです。そりゃそうですよね。だって客観的に見たら,僕は赤字だったプリンセスクラウン以降7〜8年間,一本もタイトルを出していないディレクターだったんですから。信用なんてあるわけがない。
4Gamer:
ふーむ。
神谷氏:
でも当時,アトラスの開発部長だった横山秀幸さん(※)が「いいじゃない,やろうよ!」って推してくれて。奇跡的に企画が通った。横山さんに助けていただいたのは,プリンセスクラウンに続いて2回目で,本当に頭が上がりません。
そんなわけで,めでたく開発費も出ることになったので,これを機に関西に戻ってヴァニラウェアに名を改め,一からやり直すことにしたわけです。
※現ガンホー・オンライン・エンターテイメント執行役員。ゲームアーツの取締役も務めている
4Gamer:
プリンセスクラウン2――もとい,オーディンスフィアの開発は順調だったんですか?
神谷氏:
納期の遅れ以外は順調でした(笑)。でも,遅れのせいで,アトラス側のヴァニラウェアの信用度はゴリゴリ下がっていたんですよ。オーディンスフィアを完成させてすぐに,「次の話なんですが……」と切り出したところ,「発売してから判断する」とアトラス側からピシャリと言われてしまった。
ヴァニラウェアは零細企業だから,仕事をうまくつながないと生きて行けない。だから僕も焦っていて,いつ売るのか?と聞いたら,「ほかのタイトルラインナップの状況をみて発売時期を決めたいので、今はちょっと寝かせる」みたいな返事で。こりゃマズイ!と。
4Gamer:
こう言ってはなんですけど,神谷さんって結構いきあたりばったりですね……。
神谷氏:
よく言われます(笑)。まぁいずれにせよ,仕事がないと食べていけないので,あわてて他社さんに赴くのですが,その流れが日本一ソフトウェアさんとの「グリムグリモア」,マーベラスAQLさんとの「朧村正」などといった,新しいプロジェクトへとつながっていきます。
お金を使い切るまで開発してしまう
神谷氏:
グリムグリモアの開発が終わろうかという頃,会社の資金が尽きてかなりピンチになりました。個人的に2000万円ほどお金を借りて融通したりしてて。あの頃は,横になると天井がグニャグニャ動いて見えるぐらい,精神的にツライ時期でしたね。
4Gamer:
でも,オーディンスフィアとかは結構売れたんですよね? 開発委託費やロイヤリティの収入が結構あったのではないですか?
神谷氏:
確かにアトラスさんはロイヤリティを高く設定してくれていたので,ありがたいことに借金も返せたし,会社に留保も残れば,皆にボーナスも出せた。でも,次の朧村正の開発が終わる頃には、やっぱり会社は危ない状態なんです。きっとお金があるだけ,納期を気にせず開発を続けるからでしょうね(苦笑)。
そのせいで,いつもヴァニラウェアはプロジェクトの終わり目=会社の死に目(資金が尽きるタイミング)で,それは今も同じです。自分で言うのもなんですけど,よくこんな会社が10年も存続できたもんだと驚いてますから。
4Gamer:
普通は委託開発って,実費に利益分を乗っけてコストを請求するものだと思うんですが。それで成り立つものなんですか?
神谷氏:
成り立たないんじゃないでしょうか。でも僕は,プリンセスクラウン以降,ゲームを作れない時期が長かったので,「ゲームが作れるだけで幸せだ」っていう思いが強くなってしまっていて(苦笑)。
4Gamer:
ヴァニラウェアって,なんかポジティブ方向にヤバイ会社ですね……。
神谷氏:
企業としてはダメだと思います(苦笑)。会社の目的が好きにゲームを作ることであって,利益を追求することじゃないので。
4Gamer:
でも,制作集団の考え方としては,ある意味で理想的なのかなって気もしますけど。
神谷氏:
ただ,それで潰れちゃダメなわけですからね。次の作品を作れなくなるのは困ります。ヴァニラウェアは,おかげさまでなんとか存続していますが,これが理想的か?と言われると,会社としてちょっと疑問ですよね。
「真面目に儲けることを考えるべき」という意見もあるんですが,儲けて会社に留保が出来たとして,僕がそのお金を何に使うかと言えば,やっぱりゲーム制作なんですよ。それなら作ってる今,使い切っても同じかと考えてしまう。とはいえ,ヴァニラウェアも今は人数が増えてきているので,今後のあり方については,いろいろ考える必要がありますね。
死ぬまでクリエティブな仕事をやるには
4Gamer:
最近,いろいろなクリエイターさんにお話を聞く機会があるんですけれど,「どうすれば死ぬまでクリエティブな仕事をやり続けられるのか」というのを,皆さん,本当に真剣に考えていますよね。
神谷氏:
命題ですよね。ただ,僕も会社の経営をやってみてわかったんですけど,会社組織って“常に成長し続けることが求められる”じゃないですか。正確に言うと“成長のない会社は生きていけない”ように社会は出来ている。だから,個人としてクリエイティブな仕事をやっていくというのと,組織としてクリエイティブな仕事をやっていくというのは方法としては違いますよね。
4Gamer:
ああ,社員はみんな歳をとるし,ずっと同じことをやれないですからね。
神谷氏:
そうなんです。ヴァニラウェアでも,「会社を大きくしなくてもいいから,僕らだけで,少人数でずっとやっていければいい」といった議論があるんですが,それは自分達が歳をとっていくことが計算に入ってないと思うんですよ。個人と違って会社を維持するには,大きなランニングコストがかかりますからね。
4Gamer:
平均年齢が20代と30代では,自ずと会社に求める環境も変わってきますし……。
神谷氏:
いつまでも今と同じように働けて,給料も立場もずっと同じでいいなら,それでやっていけるかも。でも,実際はそういうわけにはいきません。組織のためには次々に新しい才能が必要ですし,彼らにチャンスを与えるためにも増員は必要なわけです。 組織に変化がなければ,新人のポジションのまま年をとる事になりますからね。でも,人を増やせば,増大した人件費を賄うために,仕事を選んでいられなくなったり,人数が多くなった分,実作業以外の仕事が増えるデメリットもあるわけです。
4Gamer:
人を管理することが“やりたいこと”じゃない人間も多いですからね。とくに,クリエイティブな人ほどその傾向は強いですよね。
神谷氏:
まったくです! 毎回ヒヤヒヤする事務業務なんて,僕もできるならやめたい(笑)。一時期は,ヴァニラウェアに,なんでも請け負う下請け部門を作って会社を安定させて,僕自身はオリジナルゲーム制作の部門で好きなようにゲームを作るというのも考えたんですけど,自分がやりたくない仕事を人にやらせるのはどうだろう? と思い直してやめました。
4Gamer:
会社なり,そこに所属する人なりが,何を積み上げていけば未来につながるのかって話なんですかねぇ。
神谷氏:
ヴァニラウェアとしては,オリジナルゲームの制作のみで大きくなるのが理想ですが,そうなれないで拡大してしまった結果,もしも,会社の延命が一番の目的になってしまったら,皆が困らないリセットと,お互い幸せになれる分裂の方法が必要になるかもしれませんね。……まぁ,どちらにせよ大きくなれたらの話ですが。
4Gamer:
うーむ(笑)。ときに一人のクリエイターというか,例えば「イラストレーターとしての神谷盛治」を,ご自身ではどう評価されているんですか。
神谷氏:
イラストレーターという仕事でいうなら,僕なんか即死で生きていけないんじゃないですかね? Pixivを見ていても,明らかに僕よりうまい人はゴロゴロいますし。DeviantARTなんて見たら,くやし涙しか出ませんよ。それに僕は,カプコン時代に「絵では勝てない」と思い知らされましたからね。今は開発チームが生み出す作品力で,評価してもらおうとしているわけです。
4Gamer:
カプコン時代に影響を受けた人物というと,やっぱりあきまんさん(※)とかになるんですか?
※あきまん:ゲームクリエイター・イラストレーター。本名は安田 朗(やすだ あきら)。「ストリートファイターII」のキャラクターデザイナーとして有名。春麗やガイルといったキャラクターを生み出した。
神谷氏:
そうですね。安田さんは,カプコンのすごい人たちの頂点にいた人で,実際に仕事で接してすごく衝撃を受けましたね。
4Gamer:
具体的にどういった部分に衝撃を受けたんですか?
神谷氏:
僕はカプコンで,ある格闘ゲームで技のアイデア出しを手伝ったことがあるんですが,たまたまその技が採用になって,それが安田さんの手によって実際のアニメーションになったんです。僕の描いた技の絵からは,想像も付かないほど格好良くなったアニメーションに愕然としました。こんなにも違うのかと。絵がうまいのは当然ですが,安田さんが凄いのは,その「センス」だと思いました。
4Gamer:
センス,ですか。
神谷氏:
当時,カプコンには他にも西村キヌさんみたいな,すごい先輩たちがいて,同期にも「ヴァンパイア」のメインイラストを手がけた剛田チーズ(BENGUS)くんのような,恐ろしい男がいました。僕も,ゲーム業界で長い間仕事をさせて頂いていますが,僕にとっては,未だにあの頃のカプコンが頂点で,一度でいいから勝とうともがき続けているんです。
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