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AMD,2012年の次期FX-Series「Komodo」でもAM3+プラットフォームを継続へ〜AMDのプラットフォームロードマップに変化あり
AMDが当初,次世代FX-Seriesで,開発コードネーム「Trinity」(トリニティ)こと次期AMD A-Series(以下,A-Series)と同じ「FMx」パッケージ(※xには数字が入る)を採用し,プラットフォームを統合する意向を示していたのは,2011年6月14日の記事でお伝えしたとおりだ。実際,7月末の時点でAMDは主要OEMに対し,「次期FX-Seriesでは,最大10コアを搭載。プラットフォームはFM2へ移行させる」と伝えていた。
しかし,同社はここにきて,第2世代のBulldozerコアとなる「Piledriver」(パイルドライバー,開発コードネーム)を搭載した次世代FX-Series「Komodo」(コモド,同)のプラットフォームを,現行のAM3+に留める決断を下したのだ。
そう遠くない将来に第1弾製品が登場するはずのFX-Seriesを購入するつもりという読者も少なくないと思うが,そういう人達にとっては,次世代FX-Seriesへのアップグレードパスが確保されることになるというニュースであり,朗報といっていいかもしれない。ただし,このプラットフォームロードマップ変更により,AMDのPCI Express Gen.3対応が2013年以降へとズレ込むことになったという事実は,押さえておく必要がありそうだ。
なぜAM3+プラットフォームは延命されるのか
AMDがプラットフォーム移行を延期した背景にはいくつかの理由があると言われているが,マザーボードベンダー関係者によれば,最大のものは「次世代メインメモリとして期待されているDDR4移行への目処が立たないこと」だそうだ。また,「AMDとNVIDIAがPCI Express Gen.3の規格に満足しておらず,電源の強化などを盛り込んだGen.4の策定を推進しようとしている」(グラフィックスカードベンダー関係者)という事情も少なからず関係していると見られている。
Komodoで採用されるPiledriverモジュールのデザインは,コアあたり2MBのL2キャッシュを内蔵するなど,基本的にはBulldozerモジュールと共用。ただし,AVX(Advanced Vector eXtension,IntelがSandy Bridgeで採用した拡張命令セット)との互換性向上のため,3オペランドの積和算(FMA,Fused Multiply Add)やビット操作命令(BMI,Bit Manipulation Instructions)などといった拡張命令の追加や,DDR3-1866のサポート,よりアグレッシブな「AMD Turbo CORE Technology 3.0」の採用などによって,約10%のパフォーマンス向上を果たすとされている。
ここで重要なのは,これらの拡張によって,KomodoのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が,最大150Wに達する見込みであることだ。現行のSocket AM3+マザーボードは(Phenom IIの)140W TDPを前提に設計されているため,マザーボードエンジニアのなかには,「Komodo世代でフラグシップモデルの性能を引き出せない可能性があるため,再設計することになった」とこぼす人もいるほどである。
また,別のマザーボード関係者は「次期FX-SeriesでAM3+プラットフォームを引き続きサポートすることにはなったが,新しいチップセットの予定はないため,このままいくと,2012年も,『AMD 990FX』と『SB950』の組み合わせがフラグシップ環境となる」と述べている。
先ほど,PCI Express Gen.3のサポートが見送られたと紹介したが,AMD 990FX+SB950が継続するということは,チップセット側でのUSB 3.0サポートが果たされる予定はないという意味でもある。その意味において,AM3+延命というAMDの決断が,今後のハイクラス〜ハイエンドデスクトッププラットフォーム戦略にどう影響していくかは,注視していく必要があるだろう。
ところで,“直近”のはずの,開発コードネーム「Zambezi」(ザンベジ)こと第1弾FX-Seriesだが,これらについても,OEM関係者は「当初の計画よりも遅れている」と筆者に対して述べている。
AMDのRick Bergman(リック・バーグマン)副社長は,6月1日に台北で開催したイベントで,「Zambeziを(6月1日から)向こう60〜90日で出荷する」と宣言していた。しかし,「AMDはFX-SeriesをB1ステッピングで出荷する計画だったが,8月末にB2ステッピングのサンプル出荷が開始され,これに伴って,製品発表のスケジュールも白紙に戻ってしまった」(同関係者)とのことだ。
ちなみに,現在AMDが計画しているFX-Seriesの第1弾ラインナップは下記のとおり。1基のBulldozerモジュールをAMDは2コアと数えているので,4 Bulldozerモジュールの場合,AMD式では8コアということになる。
- FX-8150
4 Bulldozerモジュール,8MB L2,8MB L3,3.6GHz(最大4.2GHz),125W TDP,DDR3-1866 - FX-8120
4 Bulldozerモジュール,8MB L2,8MB L3,3.1GHz(最大4GHz),125W TDP,DDR3-1866 - FX-6100
3 Bulldozerモジュール,6MB L2,8MB L3,3.3GHz(最大3.9GHz),95W TDP,DDR3-1866
Socket FM2は904ピンに
序盤でも述べたとおり,A-SeriesとなるTrinityはFM2プラットフォームへ移行する。Socket FM2は904ピンで,905ピンのSocket FM1に対応した現行A-Seriesとの下位互換性が確保される予定だ。
AMDはOEMベンダーに対し,「TrinityのCPU性能は,同じ価格帯で比較したとき,現行のLlanoと比べて最大20%高くなる」と伝えているようだ。また,統合型GPUも,VLIW4アーキテクチャへの移行によって同条件で約30%の性能向上を果たしているとのこと。とくに浮動小数点演算性能は70%前後向上すると,AMDは説明して回っているという。
FM2プラットフォームには「Virgo」(ヴァーゴ,ただしAMD内部では「ヴィラーゴ」と呼ぶ人が多い)という開発コードネームが与えられており,現行のAMD A75,同A55チップセットに加え,「Hudson D4」(開発コードネーム)と呼ばれる上位製品もリリースされる。
Trinityが最大4画面出力に対応し,Eyefinityもサポートすることを受け,Hudson D4ではディスプレイ出力周りの拡張が加わる予定。また,Serial ATA 6Gbpsポートは従来の最大4ポートから最大8ポートへと対応強化が図られる一方,USB 3.0のサポートは4ポートのままに据え置かれる見込みだ。
AMDは,Hudson D4をベースとしたFM2(Virgo)プラットフォームの設計ガイドを9月中に主要OEMベンダーやマザーボードベンダーへ供給する計画である。実際の搭載製品は,2012年第2四半期に市場投入される予定になっている。
また,直近だとAMDは,FM1プラットフォームの選択肢を拡充すべく,「Athlon II X4」や「Athlon II X2」の名を冠したFM1パッケージのCPU(※APUではない)を市場投入する。
OEM関係者の間では,これらは「主に中国市場をターゲットとしたもの」と言われるが,興味深いのは「一部はTSMCで製造され,GLOBALFOUNDRIESの持つ生産能力を,より高性能なAPUやCPUに振り分けられるようにしている」と,マザーボードベンダー関係者が口を揃えていることだ。
この戦略によりAMDは,150〜200万ユニットとなる第3四半期のFM1パッケージプロセッサ出荷予定量を,第4四半期には450〜500万ユニットへと,一気に増やせる見込みである。
Wichitaは,28nmプロセスを採用し,最大4つのBobcatコアを内蔵しつつ,USB 3.0にも対応したFCH「Yuba」(ユーバ,開発コードネーム)を統合。FCHを統合するため,TDPはZacateコアの18WからWichitaで20Wへと若干引き上げられたり,「AMD Turbo CORE Technology 3.0」のサポートによってピーク時におけるシングルスレッド性能の大幅な向上を実現したりすると言われている。パッケージは現行のFT1からFT2へと変更になる見込みである。
AMDに近い大手OEM関係者からは,「AMDはWichitaのSoC化を機に,より高性能なAPUでもSoCを展開していくことで,Intelの『Ultrabook』計画に対抗するつもり」というコメントも得られている。「より高性能なAPU」というのは,おそらくTrinityの次の世代を指すのではないかと思われるが,いずれにせよ,2012年前半に市場投入が計画されているWichitaを皮切りに,AMDもまたSoCの開発を推し進めていくことになりそうだ。
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Komodo(開発コードネーム)
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AMD FX(Zambezi)
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AMD A-Series(Trinity,Richland)
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Wichita(開発コードネーム)
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